仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World 作:吉野家
「見つけた」
その言葉が。
盗品蔵の空気を変えた。
スバルの心臓が大きく跳ねる。
呼吸が止まる。
血の気が引く。
逃げろ。
頭の中で警鐘が鳴る。
だが。
身体は動かない。
紫色の瞳が自分を見ている。
ただそれだけで。
過去の死が蘇る。
腹を裂かれた感触。
流れ出る血。
遠ざかる意識。
全部。
全部。
昨日のことみたいに思い出せた。
「スバル!」
あの娘の声が聞こえる。
だが返事はできない。
喉が張り付いたように動かなかった。
エルザは笑う。
楽しそうに。
本当に楽しそうに。
ようやく見つけた。
そんな顔だった。
その時だった。
「リア」
小さな声。
けれど。
銀髪の少女はすぐに振り返った。
パック。
肩の上にいたはずの精霊は。
どこか苦しそうだった。
「パック?」
銀髪の少女の顔色が変わる。
理解してしまったからだ。
別れの時間が近いことを。
パックは小さく笑う。
いつもと同じように。
何でもないことみたいに。
「ごめんね」
その言葉に。
銀髪の少女の表情が曇る。
「もう時間なの?」
「うん」
短い返事。
けれど。
それだけで十分だった。
パックは限界だった。
本来ならもっと早く消えていてもおかしくない。
それでも無理をしていた。
この娘を守るために。
ここに残っていた。
「そんな……」
銀髪の少女の声が震える。
戦況は良くない。
ロム爺は押され始めている。
エルザはまだ余裕がある。
その状況で。
パックまでいなくなる。
不安にならないはずがなかった。
「リア」
パックが呼ぶ。
銀髪の少女が顔を上げる。
「君に何かあれば」
いつもの軽い声だった。
けれど。
その奥には隠し切れない心配が滲んでいる。
「ボクは契約に従う」
少女の肩が小さく震えた。
パックは笑う。
安心させるように。
いつも通りに。
「だから無茶はしないこと」
「パック……」
「それでも」
パックは少しだけ真面目な顔になる。
「本当に危なくなったら遠慮しなくていい」
小さな精霊は優しく言った。
「いざとなったらオドを絞り出してでもボクを呼ぶんだよ」
銀髪の少女が目を見開く。
それがどれだけ無茶なことなのか。
彼女は知っていた。
だからこそ。
胸が苦しくなる。
パックはそんな彼女を見て。
少し困ったように笑った。
「だから」
「ちゃんと生き残るんだ」
銀髪の少女は何も言えなかった。
ただ小さく頷く。
その姿を見て。
パックは満足そうに微笑んだ。
そして。
視線を動かす。
茶髪の少年へ。
ソウゴ。
正体は分からない。
何者なのかも分からない。
最初は警戒していた。
当然だった。
突然現れた。
妙に落ち着いている。
得体が知れない。
信用する理由なんてなかった。
だが。
見てきた。
ずっと。
この戦いの間。
この娘を庇った。
金髪の少女を庇った。
震える少年も見捨てなかった。
自分が傷付くことを恐れず。
ただ前に立ち続けた。
その背中を。
ずっと見ていた。
「君なら」
パックが呟く。
「任せてもいいのかな」
ソウゴは静かにパックを見る。
迷いはなかった。
「うん」
短い返事。
それだけだった。
けれど。
不思議と安心できた。
根拠なんてない。
保証もない。
それでも。
この少年なら。
そう思えた。
「リアをお願いね」
パックが言う。
ソウゴは頷く。
「任された」
たった一言。
だが。
十分だった。
パックは満足そうに笑う。
そして。
小さな身体が光に包まれた。
粒子となって。
夜空へ溶けるように。
静かに消えていく。
「パック……」
銀髪の少女の声が震える。
消えていく光を見つめながら。
唇を噛む。
泣きそうになる。
けれど。
泣かなかった。
泣けば。
本当に最後になってしまう気がしたから。
盗品蔵の空気が重くなる。
誰もが理解していた。
戦力が減った。
しかも大きく。
ロム爺は息を吐く。
スバルは青ざめる。
エルザは笑う。
そして。
ソウゴだけが変わらない。
静かに前を見ていた。
その姿を。
エルザは見ている。
だが。
今の興味はそこではない。
紫色の瞳が向く。
黒髪の少年へ。
震えている。
怯えている。
それなのに。
逃げない。
いや。
逃げられないのか。
エルザはゆっくり一歩踏み出した。
スバルの肩が跳ねる。
反応。
その反応が。
答えだった。
エルザは笑う。
心の底から。
楽しそうに。
「あら」
紫色の瞳が細められる。
「本当に面白い子」
スバルの呼吸が止まる。
終わる。
そう思った。
エルザが動く。
黒と紫の刃が煌めいた。