仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World   作:吉野家

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第20話 それ以上は

 

エルザが動いた。

 

速い。

 

あまりにも速い。

 

黒と紫の刃が閃く。

 

狙いはただ一人。

 

ナツキ・スバル。

 

ロム爺が叫ぶ。

 

「スバル!!」

 

拳を振るう。

 

だが届かない。

 

間に合わない。

 

銀髪の少女も手を伸ばす。

 

魔力を練る。

 

それでも遅い。

 

誰の目にも分かった。

 

届く。

 

今度こそ。

 

黒と紫の刃が。

 

スバルへ届く。

 

スバルは理解していた。

 

終わった。

 

そう思った。

 

何度目だろう。

 

この感覚は。

 

何度味わっても慣れない。

 

死ぬ。

 

自分は死ぬ。

 

また。

 

ここで。

 

腹を裂かれる。

 

血を流す。

 

意識を失う。

 

そして。

 

気が付けば。

 

また始まりに戻る。

 

嫌だった。

 

怖かった。

 

本当に。

 

本当に怖かった。

 

死にたい訳じゃない。

 

慣れた訳でもない。

 

毎回怖い。

 

毎回苦しい。

 

毎回吐きそうになる。

 

それでも。

 

誰にも言えない。

 

言えるはずがない。

 

自分が何度も死んだことを。

 

自分だけが覚えていることを。

 

そんなこと。

 

言えるはずがない。

 

胸の奥が軋む。

 

息が苦しい。

 

逃げたい。

 

逃げ出したい。

 

だが。

 

足が動かない。

 

エルザが怖い。

 

死ぬのが怖い。

 

またやり直すのが怖い。

 

全部怖かった。

 

だから。

 

ほんの少しだけ思ってしまう。

 

もういいんじゃないかと。

 

疲れた。

 

何度も失敗した。

 

何度も足掻いた。

 

その結果がこれだ。

 

だったら。

 

もう。

 

諦めてもいいんじゃないか。

 

その瞬間。

 

視界の端に映った。

 

名前を聞きたかったあの娘。

 

フェルト。

 

ロム爺。

 

そして。

 

ソウゴ。

 

彼女は必死だった。

 

今にも魔法を放とうとしている。

 

フェルトは唇を噛み締めている。

 

ロム爺は間に合わないと分かっていても拳を振るおうとしている。

 

皆が必死だった。

 

皆が諦めていなかった。

 

それでも。

 

間に合わない。

 

スバルにはそう見えた。

 

だからこそ。

 

ソウゴの姿が異様だった。

 

茶髪の少年だけが。

 

静かだった。

 

焦りもない。

 

絶望もない。

 

諦めもない。

 

ただ。

 

真っ直ぐ前を見ていた。

 

まるで。

 

まだ終わっていないと知っているみたいに。

 

スバルは息を呑む。

 

理解できない。

 

もう駄目だ。

 

誰が見てもそうとしか思えない。

 

自分だってそう思っている。

 

なのに。

 

どうして。

 

どうしてソウゴだけは。

 

そんな顔で立っていられるんだ。

 

その背中を見た瞬間。

 

胸の奥で何かが揺れた。

 

諦めかけていた何かが。

 

消えかけていた何かが。

 

もう少しだけ。

 

信じてみたいと思った。

 

カチリ。

 

時計の音が鳴る。

 

今までとは違う。

 

鮮明だった。

 

血。

 

悲鳴。

 

倒れるスバル。

 

黒と紫の刃。

 

絶望。

 

そして。

 

死。

 

今まで見たどの未来よりも鮮明だった。

 

今まで見たどの未来よりも近かった。

 

疑う余地はない。

 

このままでは。

 

スバルが死ぬ。

 

ソウゴは静かに息を吐く。

 

未来を見ることは目的じゃない。

 

守るための手段。

 

それだけだ。

 

だから。

 

迷わない。

 

迷う理由がない。

 

エルザが迫る。

 

あと一歩。

 

あと一瞬。

 

それだけで終わる距離。

 

その時。

 

ソウゴが前へ出た。

 

一歩。

 

ただそれだけ。

 

それだけなのに。

 

エルザの瞳が見開かれる。

 

いつの間に。

 

どうやって。

 

そこへ入った。

 

理解できない。

 

だが。

 

そこにいる。

 

自分とスバルの間に。

 

茶髪の少年が立っていた。

 

スバルが目を見開く。

 

エミリアが息を呑む。

 

ロム爺が動きを止める。

 

エルザだけが笑った。

 

嬉しそうに。

 

本当に楽しそうに。

 

面白い。

 

そう言いたげに。

 

ソウゴは振り返らない。

 

ただ前を見る。

 

静かに。

 

真っ直ぐ。

 

そして。

 

少しだけ困ったように。

 

少しだけ残念そうに。

 

口を開いた。

 

「それ以上は」

 

穏やかな声だった。

 

怒りもない。

 

威圧もない。

 

けれど。

 

何故か。

 

その場にいた全員が息を呑んだ。

 

「駄目かな」

 

 

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