仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World   作:吉野家

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書き直し


第21話 時は来た

 

「駄目かな」

 

その言葉が落ちた瞬間。

 

盗品蔵から音が消えた気がした。

 

ほんの一瞬。

 

本当に一瞬だけ。

 

誰もが動きを止める。

 

スバルは目を見開く。

 

銀髪の少女も。

 

フェルトも。

 

ロム爺ですら。

 

理解できなかった。

 

どうして。

 

間に合った。

 

エルザの刃は目の前だった。

 

あと一歩。

 

あと一瞬。

 

それだけで届いていたはずなのに。

 

気付けば。

 

ソウゴがそこに立っていた。

 

スバルを庇うように。

 

当たり前みたいに。

 

まるで。

 

最初からそこが自分の場所だったみたいに。

 

エルザは笑う。

 

楽しそうに。

 

本当に楽しそうに。

 

「あなた」

 

紫色の瞳が細められる。

 

「本当に不思議な子ね」

 

ソウゴは答えない。

 

ただ前を見る。

 

目の前の殺人鬼を。

 

静かに見つめる。

 

怖くない訳じゃない。

 

そんなことはない。

 

死は怖い。

 

痛みも怖い。

 

失うことも怖い。

 

それは昔も今も変わらない。

 

けれど。

 

怖いから立ち止まる。

 

怖いから見捨てる。

 

それは違う。

 

そう教えてくれた人達がいた。

 

弱くても。

 

運が悪くても。

 

何も知らなくても。

 

それは何もしない理由にはならない。

 

そんな背中を見てきた。

 

だから。

 

ソウゴは前に立つ。

 

ただそれだけだった。

 

「ねぇ」

 

エルザが首を傾げる。

 

獲物を見る目だった。

 

「もし私がその子を殺すって言ったら?」

 

スバルの肩が震える。

 

心臓が嫌な音を立てる。

 

だが。

 

ソウゴは変わらない。

 

「止めるよ」

 

即答だった。

 

迷いもない。

 

躊躇もない。

 

エルザは目を細める。

 

面白い。

 

本当に面白い。

 

この少年は。

 

強者の理屈で動いていない。

 

正義感とも少し違う。

 

もっと自然だ。

 

もっと当たり前だ。

 

呼吸をするように。

 

そう答えている。

 

だから理解できない。

 

だから知りたくなる。

 

「どうして?」

 

純粋な疑問。

 

エルザは聞いた。

 

ソウゴは少しだけ首を傾げる。

 

質問の意味が分からないみたいに。

 

「助けられるなら助けるでしょ」

 

静かな返事だった。

 

大きな言葉じゃない。

 

立派な理想でもない。

 

ただ。

 

当たり前のことを言っただけ。

 

そのはずだった。

 

なのに。

 

スバルは息を呑む。

 

胸の奥が熱くなる。

 

どうしてだろう。

 

そんな簡単な言葉なのに。

 

ずっと聞きたかった気がした。

 

エルザが笑う。

 

楽しそうに。

 

本当に楽しそうに。

 

「あはは」

 

美しい声だった。

 

けれど。

 

どこか獣の笑い声にも聞こえた。

 

「駄目ね」

 

エルザは呟く。

 

「ますます欲しくなっちゃった」

 

次の瞬間。

 

消えた。

 

そう見えた。

 

今までで一番速い。

 

空気が裂ける。

 

黒と紫の刃が迫る。

 

ロム爺が動く。

 

間に合わない。

 

銀髪の少女も。

 

フェルトも。

 

誰も届かない。

 

だが。

 

ソウゴは動かない。

 

カチリ。

 

時計の音が鳴る。

 

刃。

 

軌道。

 

着弾点。

 

未来。

 

全てが見える。

 

スバルが斬られる未来。

 

銀髪の少女が傷付く未来。

 

ロム爺が倒れる未来。

 

幾つもの未来。

 

幾つもの可能性。

 

その全てが目の前を流れていく。

 

そして。

 

その先も。

 

見えている。

 

だから。

 

迷わない。

 

もう十分だった。

 

ソウゴは静かに右手を上げる。

 

スバルが目を瞬く。

 

銀髪の少女が眉をひそめる。

 

ロム爺も目を細める。

 

いつの間にか。

 

その手には奇妙な時計が握られていた。

 

パールホワイトの外装。

 

黒いフレーム。

 

時計の文字盤を思わせる意匠。

 

中央には桃色の仮面を思わせる紋様。

 

誰も知らない。

 

誰も理解できない。

 

けれど。

 

ただの時計ではないことだけは分かった。

 

ソウゴはそれを見つめる。

 

懐かしむように。

 

確かめるように。

 

その手の中には。

 

数え切れない時間があった。

 

出会い。

 

別れ。

 

戦い。

 

後悔。

 

希望。

 

積み重ねてきた時間。

 

未来を変えるために歩いてきた時間。

 

ソウゴは小さく息を吐く。

 

そして。

 

顔を上げた。

 

迫る刃を見る。

 

怯えるスバルを見る。

 

傷付きながら立つ銀髪の少女を見る。

 

皆を見て。

 

静かに。

 

本当に静かに。

 

小さく微笑んだ。

 

その表情を見た瞬間。

 

エルザの背筋に冷たいものが走る。

 

初めてだった。

 

この戦いで初めて。

 

理解できない何かを前にしたのは。

 

それでも。

 

目を離せない。

 

もっと見たい。

 

もっと知りたい。

 

その先を。

 

その力を。

 

その正体を。

 

エルザは笑う。

 

今までで一番。

 

楽しそうに。

 

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