仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World   作:吉野家

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お待たせしすぎました。


第22話 変身

 

エルザは笑っていた。

 

今までで一番。

 

心の底から。

 

楽しかった。

 

理解できないものがいる。

 

知らないものがいる。

 

だから知りたい。

 

だから見たい。

 

だから壊してみたい。

 

紫色の瞳は。

 

茶髪の少年から離れない。

 

スバルは息を呑む。

 

銀髪の少女は魔力を練る。

 

ロム爺は拳を握る。

 

フェルトは固唾を呑む。

 

誰も動けない。

 

何かが起きる。

 

そんな予感だけがあった。

 

ソウゴは静かだった。

 

迫る殺意も。

 

向けられる視線も。

 

張り詰めた空気も。

 

全てを受けながら。

 

不思議なほど落ち着いていた。

 

右手にはライドウォッチ。

 

白い外装に覆われた時計。

 

長い時間を共に歩いてきた力。

 

何度も握った。

 

何度も起動した。

 

何度も未来を変えた。

 

何度も誰かを守った。

 

その全てが。

 

今もこの手の中にある。

 

ソウゴは親指を掛ける。

 

ライドウォッチ前面のカバー。

 

ゆっくりと。

 

確かめるように。

 

回転させた。

 

カチリ。

 

小さな音。

 

閉じられていた文字盤が姿を現す。

 

桃色の複眼。

 

仮面を思わせる意匠。

 

スバルは目を見開く。

 

時計のはずだった。

 

だが。

 

時計には見えなかった。

 

何か別の存在。

 

そう思わせる不思議な威圧感があった。

 

ソウゴの人差し指が頂部へ伸びる。

 

迷いなく。

 

スイッチを押し込む。

 

『ジオウ!』

 

電子音が響いた。

 

盗品蔵の空気が震える。

 

知らない音。

 

聞いたことのない声。

 

魔法でもない。

 

この世界のどこにも存在しない力。

 

それなのに。

 

妙な威厳があった。

 

エルザが目を細める。

 

本能だった。

 

危険。

 

その感覚だけが胸に残る。

 

ソウゴはライドウォッチを下ろす。

 

その腰には。

 

いつの間にかベルトがあった。

 

巨大な時計を思わせる中央機構。

 

パールホワイト。

 

銀。

 

ガンメタ。

 

時間そのものを形にしたような装置。

 

ジクウドライバー。

 

誰も知らない。

 

誰も理解できない。

 

だが。

 

誰も目を離せなかった。

 

ソウゴはライドウォッチを右側のスロットへ収める。

 

カチリ。

 

乾いた音。

 

その瞬間。

 

チク。

 

静かな音が鳴った。

 

スバルが息を止める。

 

チク。

 

タク。

 

チク。

 

タク。

 

時計の音だった。

 

止まっていた時間が。

 

再び動き出したような音。

 

盗品蔵へ広がっていく。

 

チク。

 

タク。

 

チク。

 

タク。

 

規則正しく。

 

絶対に狂わず。

 

誰にも止められない流れのように。

 

銀髪の少女は息を呑む。

 

フェルトは言葉を失う。

 

ロム爺は眉をひそめる。

 

音だけなのに。

 

妙な圧迫感があった。

 

まるで。

 

世界そのものが脈打っているようだった。

 

エルザの笑みが消える。

 

理解できない。

 

理解できないのに。

 

危険だと分かる。

 

目の前の少年は。

 

今から何かになる。

 

そんな確信だけがあった。

 

ソウゴはドライバー上部へ手を伸ばす。

 

ロック解除機構。

 

指先で押し込む。

 

カチッ。

 

時計の音が止まる。

 

静寂。

 

ほんの一瞬。

 

誰も息をしない。

 

ソウゴは静かに息を吐く。

 

そして。

 

両腕を動かした。

 

左腕が前へ伸びる。

 

右腕は腰元へ引かれる。

 

奇妙な構えだった。

 

剣術ではない。

 

格闘術でもない。

 

魔法の詠唱でもない。

 

だが。

 

完成されていた。

 

一切の無駄がない。

 

何百回。

 

何千回。

 

いや。

 

それ以上に繰り返してきた動作のようだった。

 

身体そのものへ刻み込まれている。

 

スバルは息を呑む。

 

何の意味があるのか分からない。

 

だが。

 

目を離せない。

 

ただ立っているだけなのに。

 

不思議な威圧感があった。

 

銀髪の少女も同じだった。

 

ソウゴの周囲だけ。

 

世界の理が違うように見える。

 

エルザですら踏み込めない。

 

そこには。

 

見えない境界線があった。

 

ソウゴは静かに口を開く。

 

「変身」

 

大きな声ではない。

 

叫びでもない。

 

ただ。

 

当たり前の事実を告げるように。

 

その瞬間。

 

顔の横まで掲げられていた左手首が鋭く返る。

 

まるで。

 

止まっていた時計の針が。

 

再び動き出す瞬間のように。

 

その動きを起点に。

 

左腕が動く。

 

大きく。

 

本当に大きく。

 

空気を切り裂きながら。

 

弧を描く。

 

スバルの目には。

 

それが儀式に見えた。

 

長い時間をかけて完成された。

 

王だけに許された所作。

 

左腕は迷わない。

 

一直線に。

 

ジクウドライバーへ向かう。

 

何百回も。

 

何千回も。

 

繰り返してきたように。

 

慣れた動作で。

 

自然に。

 

当然のように。

 

左手が中央機構を掴む。

 

そして。

 

大きく。

 

力強く。

 

ジクウドライバーを回転させた。

 

『ライダータイム!』

 

重厚な音声が響く。

 

世界が変わる。

 

時計。

 

時計。

 

時計。

 

無数の時計が宙へ現れる。

 

一つ。

 

二つ。

 

十。

 

百。

 

千。

 

無数。

 

積み重なった時間。

 

流れ続けた歴史。

 

選び続けた未来。

 

その全てが。

 

ソウゴの周囲を巡り始める。

 

スバルは言葉を失う。

 

理解できない。

 

なのに。

 

目を離せない。

 

『仮面ライダー!』

 

音声が響く。

 

時計が重なる。

 

歴史が重なる。

 

未来が重なる。

 

その全てが。

 

一人の存在へ収束していく。

 

黒。

 

銀。

 

そして。

 

鮮烈な桃色。

 

光が装甲となる。

 

時間が力となる。

 

歴史がその身を包む。

 

顔。

 

胸。

 

肩。

 

全てが組み上がっていく。

 

エルザは見ていた。

 

笑うことすら忘れて。

 

ただ。

 

目の前で生まれる存在を。

 

『ジオウ!!』

 

轟音。

 

光が弾ける。

 

風が吹き荒れる。

 

盗品蔵が揺れる。

 

埃が舞う。

 

そして。

 

静寂。

 

そこに立っていた。

 

黒き装甲。

 

銀の輪郭。

 

鮮烈な桃色の複眼。

 

胸に刻まれた時計。

 

時の王。

 

仮面ライダージオウ。

 

誰も言葉を発せない。

 

ただ。

 

圧倒されていた。

 

本来なら。

 

ここで聞こえるはずだった。

 

誰よりも大袈裟で。

 

誰よりも誇らしげな声が。

 

王の誕生を祝う言葉が。

 

積み重ねた歴史を語る声が。

 

だが。

 

静寂だった。

 

祝福はない。

 

語り部もいない。

 

観測者もいない。

 

この世界には。

 

彼を知る者が誰もいない。

 

ソウゴは小さく目を伏せる。

 

ほんの一瞬だけ。

 

懐かしい顔が脳裏を過った。

 

少しだけ。

 

本当に少しだけ。

 

寂しいと思った。

 

だが。

 

それだけだった。

 

皆と歩いた時間は消えない。

 

継いだ歴史も。

 

出会った人達も。

 

何一つ失われてはいない。

 

だから。

 

それでいい。

 

ジオウはゆっくりと顔を上げる。

 

桃色の複眼がエルザを映す。

 

そして。

 

静かに一歩前へ出た。

 

守るべき者達の前へ。

 

当たり前のように。

 

自然に。

 

エルザはようやく笑う。

 

歓喜。

 

興味。

 

警戒。

 

全てを混ぜながら。

 

今までで一番。

 

嬉しそうに。

 

「あら――」

 

紫色の瞳が細められる。

 

「最高じゃない」

 

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