仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World   作:吉野家

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第23話 王と腸狩り

 

静寂は長く続かなかった。

 

エルザが笑う。

 

今までで一番。

 

楽しそうに。

 

嬉しそうに。

 

獲物を見つけた肉食獣のように。

 

「あら――」

 

紫色の瞳が細められる。

 

「最高じゃない」

 

次の瞬間。

 

エルザが消えた。

 

床板が砕ける。

 

黒と紫の残像だけが盗品蔵を駆け抜ける。

 

速い。

 

スバルは見失った。

 

銀髪の少女も。

 

フェルトも。

 

誰も追えない。

 

だが。

 

ジオウだけは違った。

 

見えていた。

 

未来が。

 

エルザがどこから来るのか。

 

どこを狙うのか。

 

その全てが。

 

一瞬先の可能性として流れ込んでくる。

 

首。

 

心臓。

 

脇腹。

 

腸。

 

幾つもの未来。

 

幾つもの殺意。

 

ジオウは半歩動く。

 

それだけだった。

 

紫色の刃が空を切る。

 

エルザの瞳が見開かれる。

 

避けられた。

 

確実に捉えたはずなのに。

 

そこにはもういない。

 

「へぇ……?」

 

笑みが深くなる。

 

楽しい。

 

本当に楽しい。

 

ジオウは何も言わない。

 

ただ立っている。

 

ただ見ている。

 

それだけだった。

 

だが。

 

その姿が妙に恐ろしかった。

 

慌てない。

 

焦らない。

 

怒らない。

 

まるで。

 

最初から結果を知っているみたいだった。

 

エルザが踏み込む。

 

二撃。

 

三撃。

 

四撃。

 

刃が嵐のように襲い掛かる。

 

首。

 

胸。

 

腹。

 

急所だけを狙う殺人術。

 

だが。

 

当たらない。

 

半歩。

 

半歩。

 

最小限の移動だけで。

 

ジオウは全てを躱していく。

 

スバルは息を呑む。

 

理解できなかった。

 

エルザの速さを知っている。

 

何度も殺された。

 

何度も絶望した。

 

その怪物を。

 

目の前の戦士は冷静に見切っている。

 

「面白いじゃない」

 

エルザが笑う。

 

その笑みには興奮が混じっていた。

 

獲物を見る目ではない。

 

未知を見る目だ。

 

再び刃が閃く。

 

フェイント。

 

胸を狙うと見せて。

 

足。

 

そこから首。

 

必殺の連鎖。

 

だが。

 

ジオウは動く。

 

未来を知る者の動き。

 

最短。

 

最小。

 

刃は掠りもしない。

 

エルザの笑みが僅かに揺らぐ。

 

当たらない。

 

どうして。

 

見えている。

 

そうとしか思えない。

 

その時だった。

 

初めて。

 

ジオウが攻勢へ転じる。

 

右拳が握られる。

 

エルザの本能が叫んだ。

 

危険。

 

即座に短剣を構える。

 

次の瞬間。

 

拳が放たれた。

 

速い。

 

だが。

 

エルザも怪物だった。

 

咄嗟に腕と短剣で受け流す。

 

衝撃。

 

轟音。

 

身体が後ろへ弾かれる。

 

木箱を二つ砕きながら着地。

 

床を滑る。

 

盗品蔵へ静寂が落ちる。

 

スバルは目を見開く。

 

たった一撃。

 

それだけで。

 

エルザを押し返した。

 

だが。

 

決定打ではない。

 

エルザは立っていた。

 

脇腹を押さえながら。

 

少しだけ痛そうに。

 

けれど。

 

笑っていた。

 

「あはっ……!」

 

肩が震える。

 

歓喜だった。

 

恐怖ですらあった。

 

それなのに。

 

やめられない。

 

「本当に最高ね……あなた」

 

ゆっくりと立ち上がる。

 

その時。

 

ジオウは僅かに空気の変化を感じた。

 

何かが違う。

 

説明できない。

 

力でもない。

 

魔力でもない。

 

もっと大きな何か。

 

この世界そのものが。

 

こちらを見ているような感覚。

 

拒絶は無い。

 

重圧も無い。

 

ただ。

 

静かだった。

 

ジオウは小さく目を細める。

 

そして。

 

誰にも聞こえないほど小さく呟いた。

 

「そうか」

 

懐かしい感覚だった。

 

力が増えた訳ではない。

 

新しい何かを得た訳でもない。

 

ただ。

 

今なら。

 

少しだけ先へ進んでも大丈夫そうだった。

 

「ありがとう」

 

誰へ向けた言葉なのか。

 

スバル達には分からない。

 

エルザにも分からない。

 

だが。

 

ジオウだけは理解していた。

 

この世界は自分を拒絶していない気がした。

 

エルザが短剣を構える。

 

先程までとは違う。

 

遊びは終わりだ。

 

そう告げる構えだった。

 

ジオウは静かに拳を下ろす。

 

桃色の複眼がエルザを映す。

 

そして。

 

初めて口を開いた。

 

「終わりにしよう」

 

静かな声だった。

 

怒りもない。

 

憎しみもない。

 

ただ。

 

守るべきものを守る者の声。

 

その言葉を聞いて。

 

エルザは笑った。

 

獰猛に。

 

楽しそうに。

 

まるで。

 

死の舞踏会へ招待されたみたいに。

 

「ええ――」

 

短剣が構えられる。

 

「もっと楽しみましょう?」

 

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