仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World   作:吉野家

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3話でエミリアの名乗りでサテラと名乗らせたのにその後もエミリア、エミリアと書いてたことにさっき気づいて修正しました。もしほかに違和感とかありましたら教えていただけると幸いです。


第24話 その先へ

 

静寂は長く続かなかった。

 

エルザが笑う。

 

今までで一番。

 

楽しそうに。

 

嬉しそうに。

 

獲物を見つけた肉食獣のように。

 

「あら――」

 

紫色の瞳が細められる。

 

「最高じゃない」

 

次の瞬間。

 

エルザが消えた。

 

床板が砕ける。

 

黒と紫の残像だけが盗品蔵を駆け抜ける。

 

速い。

 

スバルは見失った。

 

エミリアも。

 

フェルトも。

 

誰も追えない。

 

だが。

 

ジオウだけは違った。

 

見えていた。

 

未来が。

 

エルザがどこから来るのか。

 

どこを狙うのか。

 

その全てが。

 

一瞬先の可能性として流れ込んでくる。

 

首。

 

心臓。

 

脇腹。

 

腸。

 

幾つもの未来。

 

幾つもの殺意。

 

ジオウは半歩動く。

 

それだけだった。

 

紫色の刃が空を切る。

 

エルザの瞳が見開かれる。

 

避けられた。

 

確実に捉えたはずなのに。

 

そこにはもういない。

 

「へぇ……?」

 

笑みが深くなる。

 

楽しい。

 

本当に楽しい。

 

ジオウは何も言わない。

 

ただ立っている。

 

ただ見ている。

 

それだけだった。

 

だが。

 

その姿が妙に恐ろしかった。

 

慌てない。

 

焦らない。

 

怒らない。

 

まるで。

 

最初から結果を知っているみたいだった。

 

エルザが踏み込む。

 

二撃。

 

三撃。

 

四撃。

 

刃が嵐のように襲い掛かる。

 

首。

 

胸。

 

腹。

 

急所だけを狙う殺人術。

 

だが。

 

当たらない。

 

半歩。

 

半歩。

 

最小限の移動だけで。

 

ジオウは全てを躱していく。

 

スバルは息を呑む。

 

理解できなかった。

 

エルザの速さを知っている。

 

何度も殺された。

 

何度も絶望した。

 

その怪物を。

 

目の前の戦士は冷静に見切っている。

 

「面白いじゃない」

 

エルザが笑う。

 

その笑みには興奮が混じっていた。

 

獲物を見る目ではない。

 

未知を見る目だ。

 

再び刃が閃く。

 

フェイント。

 

胸を狙うと見せて。

 

足。

 

そこから首。

 

必殺の連鎖。

 

だが。

 

ジオウは動く。

 

未来を知る者の動き。

 

最短。

 

最小。

 

刃は掠りもしない。

 

エルザの笑みが僅かに揺らぐ。

 

当たらない。

 

どうして。

 

見えている。

 

そうとしか思えない。

 

その時だった。

 

初めて。

 

ジオウが攻勢へ転じる。

 

右拳が握られる。

 

エルザの本能が叫んだ。

 

危険。

 

即座に短剣を構える。

 

次の瞬間。

 

拳が放たれた。

 

衝撃。

 

轟音。

 

エルザの身体が後方へ弾かれる。

 

木箱を二つ砕きながら着地。

 

床を滑る。

 

盗品蔵へ静寂が落ちる。

 

スバルは目を見開く。

 

たった一撃。

 

それだけで。

 

エルザを押し返した。

 

だが。

 

決定打ではない。

 

エルザは立っていた。

 

少しだけ痛そうに。

 

けれど。

 

笑っていた。

 

「あはっ……!」

 

肩が震える。

 

歓喜だった。

 

「本当に最高ね……あなた」

 

ジオウは静かに視線を落とした。

 

腕に装着されたライダーウォッチ。

 

受け継いできた歴史。

 

積み重ねてきた力。

 

十分強い。

 

本来なら。

 

それだけで足りるはずだった。

 

だが。

 

違和感があった。

 

世界から感じていた重圧。

 

異物を見るような視線。

 

力を使うたび感じていた拒絶。

 

それが。

 

先程よりも少しだけ軽くなっている。

 

まるで。

 

世界そのものが許容し始めたみたいに。

 

ジオウは僅かに目を細める。

 

一瞬だけ。

 

歴代ライダーのウォッチへ視線を向けた。

 

十分だ。

 

先輩達の力だけでも戦える。

 

けれど。

 

直感が告げていた。

 

今なら。

 

もう少し先へ進めると。

 

「……なるほど」

 

小さく呟く。

 

そして。

 

いつの間にか。

 

その手には新たなウォッチがあった。

 

黒い本体。

 

銀色の顔。

 

その周囲を彩る金色の装飾。

 

今のウォッチより一回り大きい。

 

盗品蔵の空気が変わる。

 

銀髪の少女が息を呑む。

 

フェルトが言葉を失う。

 

ロム爺の表情が険しくなる。

 

スバルの背筋に寒気が走った。

 

エルザもまた。

 

初めて笑みを薄める。

 

本能が告げていた。

 

あれは危険だと。

 

その時だった。

 

 

 

「――そこまでだ」

 

 

 

凛とした声が響いた。

 

全員の視線が壊れた出入口へ向く。

 

夜の闇の中。

 

赤髪の青年が立っていた。

 

自然に。

 

当たり前のように。

 

そこにいる。

 

だが。

 

圧倒的だった。

 

空気が変わる。

 

エルザの表情が変わった。

 

初めて。

 

明確な警戒が浮かぶ。

 

スバルは目を見開く。

 

そして。

 

思わず口にしていた。

 

「……ラインハルト」

 

赤髪の青年が僅かに目を瞬かせる。

 

「ん?」

 

不思議そうな顔。

 

そして小さく首を傾げた。

 

「失礼。以前どこかでお会いしたかな?」

 

穏やかな声。

 

純粋な疑問。

 

スバルは固まった。

 

しまった。

 

そう思った時には遅い。

 

だが。

 

エルザは小さく肩を竦める。

 

「なるほど」

 

紫色の瞳が細められる。

 

状況を整理するように。

 

そして。

 

静かに笑った。

 

「今日はここまでみたいね」

 

フェルトが目を丸くする。

 

ロム爺も眉を上げた。

 

エルザが自分から引く。

 

理由は誰の目にも明らかだった。

 

ラインハルト・ヴァン・アストレア。

 

王国最強。

 

剣聖。

 

今ここで戦う意味はない。

 

エルザはそう判断した。

 

「残念」

 

紫色の瞳がジオウへ向く。

 

正確には。

 

その手に握られたウォッチへ。

 

「それも見てみたかったのだけれど」

 

名残惜しそうに。

 

本当に残念そうに。

 

そう呟く。

 

そして。

 

妖しく微笑んだ。

 

「次に殺し合う時は」

 

瞳が細められる。

 

「それを使ってくださる?」

 

ジオウは静かにウォッチを見る。

 

そして。

 

エルザへ視線を向けた。

 

「必要なら使うよ」

 

穏やかな声。

 

「影響を考えると」

 

手の中のウォッチへ目を落とす。

 

「使わないに越したことはないけどね」

 

エルザは一瞬だけ目を細めた。

 

そして。

 

楽しそうに笑う。

 

「ふふ」

 

次の瞬間。

 

黒い影が夜闇へ溶けた。

 

気配が消える。

 

完全に。

 

静寂。

 

誰もすぐには動けなかった。

 

壊れた木箱。

 

刻まれた傷跡。

 

砕けた氷。

 

戦いの痕だけが残っている。

 

終わった。

 

ようやく。

 

本当に。

 

スバルは大きく息を吐く。

 

力が抜けそうになる。

 

生きている。

 

今回は。

 

誰も死ななかった。

 

その事実だけで。

 

胸の奥が熱くなった。

 

ふと視線を向ける。

 

そこには。

 

異形の姿のまま立つジオウがいた。

 

その手には。

 

結局使われることのなかったウォッチ。

 

ジオウは静かにそれを見つめる。

 

そして。

 

小さく握り直した。

 

スバルには分からない。

 

あれが何なのか。

 

ソウゴが何者なのか。

 

どうして未来を知っているみたいに戦えるのか。

 

何一つ分からない。

 

けれど。

 

一つだけ確かなことがあった。

 

もし。

 

ソウゴがいなければ。

 

ラインハルトが来る前に。

 

全て終わっていたかもしれない。

 

夜風が吹く。

 

長い長い一日が。

 

ようやく終わろうとしていた。

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