仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World   作:吉野家

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第25話 本当の名前

 

エルザが去った後。

 

盗品蔵には静寂が残っていた。

 

壊れた木箱。

 

刻まれた傷跡。

 

砕けた氷。

 

戦いの痕だけがそこにある。

 

それでも。

 

誰も死ななかった。

 

それだけで十分だった。

 

「はぁ……」

 

スバルが大きく息を吐く。

 

全身から力が抜けそうになる。

 

生きている。

 

今回は。

 

本当に生きている。

 

その事実だけで胸がいっぱいだった。

 

ロム爺も拳を下ろす。

 

大きな肩がゆっくり上下する。

 

フェルトはそんな背中を見て。

 

小さく安堵の息を吐いた。

 

「……無事かよ」

 

「誰に言っとる」

 

ロム爺が鼻を鳴らす。

 

「この程度でくたばるか」

 

強がりだった。

 

だが。

 

フェルトは少しだけ笑った。

 

その時だった。

 

フェルトは少しだけ気まずそうに頭を掻く。

 

そして。

 

懐へ手を入れた。

 

取り出されたのは。

 

青く輝く徽章だった。

 

精巧な装飾。

 

中央には赤い宝石。

 

月明かりを受けて静かに輝いている。

 

銀髪の少女の目が見開かれた。

 

探していたもの。

 

失くしてはいけないもの。

 

大切なもの。

 

フェルトは鼻を鳴らす。

 

「ほら」

 

ぶっきらぼうに差し出した。

 

「返す」

 

少女が固まる。

 

「……いいの?」

 

「命助けられたしな」

 

フェルトは視線を逸らした。

 

照れ隠しだった。

 

「それに」

 

少しだけ口元を歪める。

 

「もう売る相手もいなくなったしな」

 

ロム爺が苦笑する。

 

少女はそっと徽章を受け取った。

 

まるで壊れ物を扱うように。

 

胸元へ抱き寄せる。

 

ようやく戻ってきた。

 

失くしてはいけないものが。

 

「ありがとう」

 

心からの言葉だった。

 

フェルトはむず痒そうに頭を掻く。

 

「礼はいいって」

 

その様子を見ていたラインハルトの視線が。

 

ふと徽章へ向く。

 

そして。

 

目を見開いた。

 

「――まさか」

 

小さな呟き。

 

誰にも聞こえないほど小さい。

 

だが。

 

剣聖の瞳は確かに捉えていた。

 

先程まで。

 

フェルトの手の中にあった時だけ。

 

中央の赤い宝石が。

 

淡く輝いていたことを。

 

見間違えるはずがない。

 

王選候補者を示す徽章。

 

そして。

 

未だ見つかっていない最後の一人。

 

ラインハルトの胸に確信が走る。

 

まさか。

 

こんな場所に。

 

最後の候補者がいたなんて――。

 

だが。

 

今はそれを口にしない。

 

まずは。

 

こちらだ。

 

「失礼ですが」

 

ラインハルトが口を開く。

 

銀髪の少女が顔を上げた。

 

「エミリア様」

 

盗品蔵が静まり返った。

 

少女が固まる。

 

フェルトが目を丸くする。

 

スバルも瞬きをした。

 

「……エミリア?」

 

銀髪の少女は気まずそうに視線を逸らした。

 

その反応だけで十分だった。

 

スバルは大きくため息を吐く。

 

「やっぱり偽名だったんか……」

 

思わず漏れた言葉。

 

少女の肩がぴくりと震える。

 

「ごめんなさい」

 

小さな声だった。

 

「色々事情があって……」

 

申し訳なさそうに眉を下げる。

 

スバルは頭を掻いた。

 

「まあ」

 

「なんとなくそんな気はしてた」

 

むしろ。

 

本当にサテラだったらそっちの方が驚く。

 

そう思った。

 

少しだけ沈黙が流れる。

 

その空気を破ったのはソウゴだった。

 

「エミリアって言うんだ」

 

静かな声。

 

少女がそちらを見る。

 

「そういえばパックもリアって呼んでたね」

 

「あ……」

 

少女が少しだけ照れたように笑う。

 

スバルも納得する。

 

なるほど。

 

だからリアだったのか。

 

そして。

 

スバルは改めて少女を見る。

 

今度は。

 

偽名でも。

 

嫉妬の魔女の名前でもなく。

 

本当の彼女として。

 

「じゃあ改めて聞かせてくれよ」

 

少女が顔を上げる。

 

スバルは笑った。

 

「君の名前を」

 

ほんの少しだけ。

 

少女は迷う。

 

けれど。

 

もう隠す必要はない。

 

そう思った。

 

だから。

 

静かに答える。

 

「……エミリア」

 

スバルがその名を繰り返す。

 

「エミリアか」

 

エミリアは少しだけ照れたように笑った。

 

そして。

 

「私の名前はエミリア」

 

月明かりの下。

 

銀髪が揺れる。

 

「ただのエミリアよ」

 

その言葉に。

 

スバルは少しだけ目を細めた。

 

そして笑う。

 

「そっか」

 

短く頷く。

 

「よろしくな、エミリア」

 

エミリアは一瞬だけ目を丸くした。

 

それから。

 

少しだけ嬉しそうに笑った。

 

「ええ」

 

その笑顔は。

 

今まで見たどの笑顔よりも。

 

少しだけ柔らかく見えた。

 

長い一日だった。

 

本当に。

 

長い一日だった。

 

けれど。

 

まだ。

 

終わってはいない。

 

ラインハルトは静かにフェルトを見る。

 

誰にも気付かれないように。

 

その瞳に。

 

確かな確信を宿しながら。

 

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