仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World   作:吉野家

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第26話 フェルト()

 

盗品蔵に穏やかな空気が戻り始めていた。

 

エルザは去った。

 

誰も死ななかった。

 

それだけで十分だった。

 

そう思い始めていた時だった。

 

「失礼を承知でお願いがあります」

 

ラインハルトが口を開く。

 

全員の視線が集まる。

 

彼はエミリアを見る。

 

正確には。

 

その手の中にある徽章を。

 

「その徽章を少しだけお借りしてもよろしいでしょうか」

 

エミリアは少し不思議そうな顔をした。

 

だが。

 

特に断る理由もない。

 

「ええ」

 

そう言って徽章を差し出す。

 

ラインハルトは丁寧に受け取った。

 

青い徽章。

 

中央には赤い宝石。

 

月明かりを受けて静かに輝いている。

 

彼はそれを一度見つめる。

 

そして。

 

ゆっくりとフェルトへ視線を向けた。

 

「改めてお伺いします」

 

フェルトが露骨に嫌そうな顔をする。

 

「……なんだよ」

 

「君の名前は?」

 

「フェルト」

 

即答だった。

 

ラインハルトは小さく頷く。

 

「家名は?」

 

「知らねぇ」

 

フェルトは肩を竦めた。

 

「物心ついた頃には一人だったしな」

 

盗品蔵が少し静かになる。

 

ラインハルトは表情を変えない。

 

そして。

 

最後の質問を口にした。

 

「年齢は?」

 

フェルトは少し考える。

 

「……十五くらい?」

 

「くらい?」

 

スバルが思わず聞き返した。

 

「誕生日なんか知らねーし」

 

フェルトは面倒そうに答える。

 

「多分それくらいだ」

 

ラインハルトは静かに息を吐いた。

 

家名はない。

 

年齢は十五前後。

 

そして。

 

金色の髪。

 

赤い瞳。

 

あり得ない。

 

そう思う。

 

だが。

 

王選の徽章は嘘を吐かない。

 

「……?」

 

フェルトが怪訝そうに眉をひそめる。

 

ラインハルトは一歩前へ出た。

 

「少し失礼します」

 

「は?」

 

次の瞬間だった。

 

フェルトの手首が掴まれる。

 

「なっ!?」

 

速かった。

 

スバルの目には見えなかった。

 

ロム爺が目を見開く。

 

エミリアも息を呑む。

 

敵意はない。

 

それは分かる。

 

だが。

 

あまりにも突然だった。

 

ラインハルトはフェルトの掌を開く。

 

そして。

 

その上へ徽章を乗せた。

 

静寂。

 

数秒。

 

何も起きないように見えた。

 

だが。

 

ラインハルトだけは見ていた。

 

中央の赤い宝石。

 

その奥で。

 

まるで鼓動するように。

 

淡い赤色が揺れている。

 

先程よりも。

 

確かに。

 

「やはり」

 

小さな呟き。

 

フェルトが顔をしかめる。

 

「だから何なんだよ」

 

ラインハルトはゆっくりとフェルトを見る。

 

その瞳には。

 

先程までとは違う敬意が宿っていた。

 

「失礼しました」

 

静かな声。

 

そして。

 

真っ直ぐ告げる。

 

「フェルト()

 

盗品蔵が静まり返った。

 

フェルトが固まる。

 

「……は?」

 

スバルも眉をひそめる。

 

今。

 

確かに呼び方が変わった。

 

さっきまでのフェルトではない。

 

敬意を払う相手への呼び方。

 

ロム爺の表情も険しくなる。

 

だが。

 

ラインハルトは続けた。

 

「フェルト様の身柄は」

 

静かな声だった。

 

それでも。

 

有無を言わせぬ重みがある。

 

「このラインハルト・ヴァン・アストレアがお預かりします」

 

数秒。

 

誰も言葉を失った。

 

そして。

 

「はぁぁぁぁぁ!?」

 

フェルトの絶叫が盗品蔵に響き渡る。

 

「なんでだよ!?」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

今度はエミリアだった。

 

一歩前へ出る。

 

「もし徽章を盗んだことを言っているなら……」

 

少しだけ迷う。

 

けれど。

 

真っ直ぐラインハルトを見る。

 

「許してあげて」

 

フェルトが目を丸くした。

 

エミリアは続ける。

 

「確かに悪いことだったわ」

 

「でもちゃんと返してくれたもの」

 

「だから――」

 

ラインハルトは静かに首を横へ振る。

 

「いいえ」

 

穏やかな声だった。

 

怒っている訳でもない。

 

責めている訳でもない。

 

「もちろん徽章を盗んだことは罪です」

 

フェルトが顔をしかめる。

 

「小さくはない罪でしょう」

 

だが。

 

ラインハルトは続けた。

 

「しかし」

 

盗品蔵を見渡す。

 

そして。

 

再びフェルトへ視線を戻した。

 

「今この場を見過ごすことの罪深さと比べれば」

 

一拍。

 

静寂。

 

「些細なことに過ぎません」

 

誰も意味が分からなかった。

 

フェルトも。

 

ロム爺も。

 

スバルも。

 

エミリアも。

 

ただ一人。

 

ラインハルトだけが知っている。

 

目の前の少女が。

 

この国の未来を左右する存在かもしれないことを。

 

そして。

 

フェルト本人は。

 

ますます意味が分からなくなっていた。

 

「だから何なんだよ!!」

 

その叫びが。

 

静まり返った盗品蔵に響いた。

 

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