仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World 作:吉野家
「だから何なんだよ!!」
フェルトの叫びが盗品蔵に響く。
ラインハルトは静かだった。
その態度が余計に腹立たしい。
「フェルト様の身柄はお預かりします」
「だからその理由を聞いてんだよ!」
フェルトが怒鳴る。
ラインハルトは小さく息を吐いた。
そして。
静かに答える。
「詳しい事情については」
一拍。
「アストレア家でお話しします」
その瞬間だった。
ドンッ!!
重い音が盗品蔵に響く。
木箱が砕け散る。
誰もが息を呑んだ。
ロム爺だった。
巨大な拳が木箱を叩き潰している。
その顔から笑みは消えていた。
血の繋がりはない。
本当の孫でもない。
だが。
孫娘のように接してきた事実は変わらない。
腹を空かせて帰ってきた日も。
怪我だらけで飛び込んできた日も。
泣きながら眠った夜も。
全部見てきた。
だから。
譲れない。
「待て」
低い声だった。
空気が張り詰める。
ロム爺は一歩前へ出た。
フェルトを庇うように。
守るように。
ラインハルトの前へ。
「ワシの孫娘を」
さらに一歩。
「どこぞの貴族の屋敷へ連れていくと言うたか」
ラインハルトは真っ直ぐ見返す。
「はい」
短い返答。
ロム爺の眉間に皺が寄る。
「断る」
即答だった。
フェルトが目を見開く。
スバルも息を呑む。
だが。
ロム爺は止まらない。
「事情も話さん」
「理由も言わん」
「それで連れていけると思うなよ若造」
怒りだった。
だが。
それ以上に。
守ろうとしていた。
フェルトを。
ずっと育ててきた少女を。
ラインハルトも理解している。
だから怒らない。
ただ。
静かに答えた。
「お気持ちは理解できます」
「なら帰れ」
ロム爺が吐き捨てる。
だが。
ラインハルトは首を横に振った。
「できません」
「ほう」
ロム爺の目が細まる。
盗品蔵の空気がさらに重くなる。
スバルが思わず身構える。
まずい。
そう思った。
目の前にいるのは剣聖だ。
相手が悪すぎる。
だが。
ロム爺は引かない。
フェルトのことだから。
それだけで十分だった。
「今回は引けません」
ラインハルトの声も少しだけ強くなる。
「フェルト様には知るべきことがあります」
「だから何だ」
「それは今ここで話せる内容ではありません」
「なら尚更じゃ」
ロム爺が睨む。
「訳も分からんまま連れていけると思うな」
正論だった。
誰だってそう思う。
フェルト自身もそうだった。
「ロム爺……」
小さく呟く。
胸の奥が少し熱かった。
守られている。
そう実感したから。
盗品蔵に重い沈黙が落ちる。
誰も譲らない。
ラインハルトも。
ロム爺も。
その時だった。
「フェルト様」
ラインハルトが静かに口を開く。
「お話は必ずします」
真っ直ぐ告げる。
「ですが」
「今は私を信じていただきたい」
数秒。
静寂。
そして。
フェルトが睨み返した。
「信じろ?」
低い声だった。
怒りと困惑が混じっている。
「いきなり現れて」
一歩前へ出る。
「剣聖様だか何だか知らねぇけど」
「訳の分かんねぇことばっか言いやがって」
握った拳が震える。
怖い訳じゃない。
納得できないのだ。
「そんなあんたの」
一拍。
「何を信じろって言うんだよ」
盗品蔵が静まり返る。
誰も口を挟めない。
フェルトの言うことは正しい。
ラインハルトは今日初めて会った相手だ。
事情も話さない。
理由も話さない。
それで信じろという方が無理だった。
ラインハルトは少しだけ目を伏せる。
その言葉を否定できない。
正しいからだ。
だから。
彼は誤魔化さなかった。
「……その通りです」
静かな声だった。
フェルトが眉をひそめる。
ラインハルトは続ける。
「私が逆の立場なら」
「同じことを言うでしょう」
盗品蔵が静まり返る。
「ですが」
ゆっくり顔を上げる。
青い瞳は真っ直ぐだった。
「それでも私はあなたをお守りします」
ロム爺が眉をひそめる。
フェルトも言葉を失う。
「理由は必ずお話しします」
「全て説明します」
「ですが」
一拍。
「今はお連れしなければなりません」
その声には。
迷いがなかった。
剣聖としてではない。
一人の騎士としての覚悟があった。
盗品蔵に再び沈黙が落ちる。
夜は深い。
だが。
誰もまだ知らない。
この夜の選択が。
ルグニカ王国の未来を大きく変えることになることを。