仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World   作:吉野家

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第9話 値段と時間

古びた扉が。

ゆっくり開いた。

薄暗い室内が姿を現す。

積み上げられた木箱。

壁際の棚。

古びた家具。

装飾品。

武器。

価値があるのか無いのか分からない品々。

雑然としているのに、不思議と整理されている。

盗品蔵。

その名前に相応しい光景だった。

「入れ」

奥から低い声が響く。

フェルトが肩を竦めた。

「ほらよ」

先に中へ入る。

エミリアが続く。

スバル。

ソウゴ。

最後にパック。

全員が入ったところで。

ガタン。

重い音を立てて扉が閉じた。

盗品蔵の中は思ったより静かだった。

奥には大柄な老人がいる。

腕を組み。

こちらを見ていた。

近くで見るとさらに大きい。

スバルが小声で呟く。

「でけぇ……」

「聞こえとるぞ坊主」

「すいません」

即座に謝った。

ロム爺は鼻を鳴らす。

そして。

視線をエミリアへ向けた。

「それで?」

「何の用じゃ」

エミリアは一歩前へ出る。

真っ直ぐに。

フェルトを見る。

「返してほしいものがあるの」

フェルトが盛大にため息を吐いた。

「またそれかよ」

「お願い」

「嫌だ」

即答だった。

スバルが呆れる。

「即答かよ」

「当たり前だろ」

フェルトは腕を組む。

「タダで返す理由がねぇ」

ロム爺も頷いた。

「当然じゃな」

盗品蔵らしい意見だった。

エミリアは小さく息を吐く。

「じゃあ買い戻すわ」

フェルトの眉が上がった。

「へぇ」

「話が早いな」

懐から取り出された。

紫色の宝石が埋め込まれた徽章。

エミリアの表情が変わる。

探していた物。

間違いない。

「それよ」

フェルトは徽章を指先で回す。

「返してほしいなら金だ」

「いくら?」

「そうだな」

フェルトが笑った。

嫌な予感しかしない笑顔だった。

スバルも同じことを思ったらしい。

露骨に顔をしかめている。

交渉が始まった。

フェルトは譲らない。

エミリアも譲れない。

ロム爺は見守るだけ。

パックも口を挟まない。

そして。

スバルは落ち着かなかった。

何度も入口を見る。

閉じられた扉。

窓の外。

沈みかけた夕日。

気付けばそればかり見ている。

前も。

確か。

これくらいの時間だった。

喉が渇く。

嫌な汗が流れる。

「スバル」

ソウゴが呼んだ。

「なんだよ」

「さっきから入口ばっか見てる」

スバルが固まる。

見られていた。

「何かあるの?」

言えない。

言えるはずがない。

だから。

「……別に」

誤魔化した。

だが。

誤魔化しきれていない。

フェルトも怪訝そうな顔をしている。

「変な奴」

「お前にだけは言われたくねぇ」

即答だった。

フェルトが鼻を鳴らす。

交渉は続く。

時間だけが過ぎていく。

「だからその金額は無理よ」

エミリアが言う。

「こっちだって命懸けだったんだ」

フェルトも引かない。

「相場じゃな」

ロム爺も頷く。

平行線だった。

スバルはまた入口を見る。

夕日はさらに沈んでいた。

嫌な予感が膨らむ。

「なぁ」

思わず口を開く。

全員が見る。

「急がねぇ?」

フェルトが眉をひそめた。

「なんでだよ」

「なんか嫌な予感がする」

沈黙。

フェルトが頭を抱えた。

「またかよ」

ロム爺も呆れている。

「根拠は?」

パックが聞く。

スバルは黙る。

根拠はある。

あるのだ。

だが言えない。

絶対に。

「……勘」

弱かった。

自分でもそう思う。

「アホか」

フェルトが切り捨てる。

その時だった。

「俺も」

ソウゴが口を開いた。

スバルが勢いよく振り向く。

「だろ!?」

「うん」

「だよな!?」

少し元気になった。

パックが顔を覆う。

「ソウゴまで」

「根拠は?」

「なんとなく」

即答だった。

フェルトが天井を仰ぐ。

ロム爺はため息を吐いた。

だが。

ソウゴは真面目だった。

カチリ。

胸の奥で時計が鳴る。

血。

悲鳴。

黒い影。

女。

断片的な光景。

今までで一番鮮明だった。

近付いている。

確実に。

「良くないと思う」

ソウゴは静かに言った。

「このままだと」

エミリアは少しだけ黙った。

スバルも。

ソウゴも。

冗談を言っているようには見えない。

だからこそ。

少しだけ胸騒ぎがした。

その時だった。

コン。

小さな音が響く。

盗品蔵の中が静まり返る。

全員が扉を見る。

誰かが叩いた。

一度だけ。

静かに。

まるで来客を告げるように。

スバルの顔から血の気が引いた。

知っている。

この音を。

忘れられるはずがない。

コン。

もう一度。

静かに扉が叩かれた。

誰も動かない。

誰も喋らない。

カチリ。

ソウゴの胸の奥で時計が鳴る。

今までで一番大きく。

嫌な予感が。

扉の向こうまで辿り着いていた。

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