天使様は女たらしクズ野郎に救われる 作:お隣の芋女
読みにくいとは思いますが、よろしくお願いいたします。
生まれて初めて、もう全てがどうでもいいと思った。
もともと何も期待されていない事はわかっていた。
学力も、身体能力も、容姿も、性格も、何もかも最初から望まれていない。
私がこの世に生まれてくることさえも。
『要らない子』
頭に思い出したくもない言葉が、無慈悲に響く。
どれだけ耳を塞いでも、見ないふりをしていても、あの時の光景が鮮明に蘇り、あの人の声で何度でも再生される。
気付きたくなかった。目を背けていたかった。もしかしたらって希望を抱いていたかった。
気付かなければ、見なければ、答えを聞かなければ、それは真実にはならないから。
でも、その願いももうおしまい。
『要らない子』
面と向かって言われれば、嫌でも納得してしまう。納得させられてしまう。
『要らない子』
本当に私の存在は望まれていなかったんだなって。二人のこれからの人生においてただただ邪魔なだけなんだって。
あの二人に私を見てほしくて、どれだけ努力して綺麗になっても、頭が良くても、運動が出来ても、家事が出来てもあの人たちにとっては関係ないのです。どうでもいいのだから。
『要らない子』
じゃあ私は一体何のために生まれてきたのでしょう。
誰に求められるのでしょう。
私という存在の意味は一体何なのでしょう。
何のために努力をすればいいのでしょう。
何のために生きれば…。
『要らない子』
言葉は猛毒となって、ゆっくりと私の心を犯していく。
雨が服に染み込んでいく様に、じわじわと確実に心の奥底へと染み込んでいく。
そういえば雨が降っているのに傘を差すのを忘れていた。
このままじゃ風邪をひいてしまう…。
『要らない子』
あぁ、いらないか。私が風邪を引いても、誰の迷惑にもならない。
いつもみたいに、部屋で独りで寝ていればあとは勝手に治る。
『要らない子』
もうなにもかもどうでもいい、心の底からそう思う。
このまま雨に濡れて、私という存在ごと溶けて消えてしまいたい。
だって誰にも、実の両親からですら必要とされない私を、私は…私自身ですら必要と思えない。
『要らない子』
そうですね。私は要らない子。
『要らない子』
私は、要らない子
『要らない子』
…はい。
『要らない子』
わたしは…「おい」
……え。
今、誰かの声が……。
「聞こえてんだろ、ガキ」
「は……い……」
再びかけられた声に思わず返事をしてしまいました。
私に向けられたものとは限らないのに。
「はぁ、傘差してんのにしゃがませんなよ」
心底めんどくさそうな声と共に、俯く私の視界に移ったのはまるで夜空を纏ったかのように綺麗な人だった。
うなじまで伸びた濡羽色の髪、全身黒色のフォーマルな恰好。そして夜空を照らす月のような白い肌。
一瞬、息をするのも忘れてしまうようなほど、今まで見た誰よりも綺麗で、目を離すとぱったりと消えてしまいそうな印象を覚えた。
そして何より私が目を惹いたのは、夜空を連想させる髪から覗く、青空のように蒼い瞳だった。
「んで、こんなところで何してんだ?」
きらきらと輝く蒼い瞳がまっすぐ私を見ていた。私に話しかけているんだってわかるように、わざわざ目線を合わせてくれている。
「わたし…は……」
一度も逸らされる事のない強い視線に、私はなぜか緊張していた。
なんと言えばいいのか、真実を言って、この人が何を思うか。
いつの間にか冷静になった私は、今の自分の状況に気付きました。先ほどまで傘を差さずただ雨に打たれていた私の頭上には、目の前の人が差し伸べてくれている傘があった。そのせいで目の前でしゃがんでいる彼の背中が雨で濡れていく。
他の事に気付けるぐらいには冷静になったからか、先ほどまで雨に打たれて体温が下がったせいで身体が寒さで震える。
上手く…喋れない。
「……めんどくせぇな。おい、お前甘いの得意か」
「……はい?」
「甘いのは食えるかどうか聞いてんだ。さっさと答えろ」
「た、食べれます…」
質問の意味が分かるはずもなく、戸惑いながら答える。すると彼は片手に持つ袋をこっちに見える様に持ち上げた。
「アホからもらった。消費に手伝え」
ぶっきらぼうにそう言い放った彼は、傘をこちらへ投げ渡しそのまま背をこちらに向けた。
「あの……」
「お前の歩幅に合わせたら日が暮れる。俺は雨に濡れるの嫌いなんだよ」
だからさっさと乗れという圧力を背中越しに感じる。彼は雨に濡れるのが嫌いだと言っていたけど、現在こちらに傘を渡したせいで雨に濡れてしまっていた。
このままだともっと彼は雨で濡れてしまう。でも私の身体もずっと雨に打たれていたせいで…。
そう考えながらも、いつのまにか身体が勝手に彼の背中へと向かっていた。
「傘と菓子だけ持ってろ。お前の荷物は俺が持つ」
「はい……ありがとうございます」
濡れた衣服が肌に吸い付く。それは相手も同じで、私が密着したことで、背中の体温が直接感じる。
濡れて下がった体温が一気に熱を覚えた。
心臓の音がうるさい。
「…わっ!高い」
彼の背中に乗っかり、しっかりと首に手を回して傘が落ちない様に気を配っていると、一気に視界が高くなる。
初めて見る視点の景色に僅かながら感動していると、彼がおもむろに顔を避けた。
「耳元で喋んな。息がこそばゆい」
「す、すみません」
盛大な舌打ちをしながら、スタスタと歩き始めた。
……一歩が大きい。
「近くだからうち行くぞ。誰かに連絡するなら後でしとけ」
「…1人暮らしなので大丈夫ですよ。それに、あなたのご自宅は知っています」
「……え、ストーカ「違います」あ、そう」
「あなたのご自宅、私と同じなんです。しかも一部屋またいで隣です」
「住んでたのか、隣の二部屋」
知らんかったと呟く彼。会話をしたことはなかったけど、私は彼を一方的に知っていた。
生活圏が同じなら自然と見かける機会はある。ただ彼は基本行動するのが夕方からというのもあって、見かける頻度はそう多くなかった。
ただ、あの容姿だからというのもあるけど、何より見かける度に隣にいる女性が代わっていたから悪い意味で印象深かった。
漏れなく全員綺麗な人だったから毎回お似合いだと思って気付いたら覚えていた。
「佐伯さん、ですよね」
「
「絢奈…さん」
教えてもらった名前を小さく呟く。瞬間、不思議と安心する感覚に包まれる。
なぜだろうと考えてもすぐに答えは出て来なかった。
「ほら、ついたから傘閉じろ」
「…聞いてもいいですか」
「あ?何を」
「どうして声をかけてくれたんですか」
「言ったろ。菓子を消費する奴が欲しかったんだよ」
「こんな雨の中ずぶ濡れでブランコにいる女の子なんて誰も関わりたくないでしょう」
「自分がやべえ奴って自覚があったようで何よりだな。ほら、ボタン押せ」
「もうここからは自分で歩けますよ」
「なら皺になるほど強く俺の服掴んでる手を放せ。主張と行動が一致してねえんだよ」
絢奈さんに指摘されて気付いた。自分の手が、自分でも信じられないほど強く握っていることに。
私は恥ずかしくなってその手を離す。すると降りるのかと言葉にはせず、私を支えてくれていた彼の手の力が弱まる。
そのまま下りればよかったのに、なぜか私は無意識に彼の服をまた掴んでしまった。
瞬間、絢奈さんはまた私を背負い直してくれた。
「まずお前はうち入ったら風呂いけ。身体が冷てぇ」
「で、でしたら自分の家で入ります!そこまでご迷惑をかけるわけにはいかないので」
「ならそうしろ。俺はどっちでもいい」
エレベーターから降りてマンションの外廊下を歩く。
絢奈さんの号室を通り過ぎて2つ目の部屋の前。私の号室に着いたため、絢奈さんが私を下ろそうとする。
「…」
「…」
「……」
「……おい」
「……はい」
「さっきも言ったが、お前は言動が合ってねえんだよ」
「……すみません」
「……はぁ、もううちのに入るでいいな」
先ほどと同じように無意識に彼の服を掴んでしまった。
なぜだか、今感じるこの温もりを手放したくないとそう思ってしまった。
その理由は多分、絢奈さんがあの時、自暴自棄になっていく私に声をかけてくれたから。
消えたいとおもっていた私を、見つけてくれたから。
あの時、私は確かに救われた。
だから思わず離れたくなかったのだろう。
「開いたぞ。間取りは一緒だろ、靴脱いでそのまんま風呂入れ。帰る時にタイマー入れてるから浴槽も溜まってんだろ」
私を下ろした絢奈さんは一通り説明してから、リビングへスタスタと行ったしまった。
降ろした際にお互い立って並んだが、やっぱり背が高い。
足なんて長すぎてコンパスみたいだった。……これは失礼ですね。
初めて異性のお部屋に入って、しかもお風呂までいただくのは緊張する。
けど、早く入らないと絢奈さんも雨に濡れていたから風邪を引いてしまう。
私は覚悟を決めて制服を脱いだ。