──そう、アタシは半端者なのだ。
まず、隠形という異能。
味方の姿を消したとしても、奇襲の役に立つ程度。多数は無理だから、大掛かりなものは出来ない。だから、斥候に随伴していたることが多かった。
けれど、次元のレイヤーをずらすことで無敵化するのは、自分自身しか対象に出来ない。それに隠形という能力そのものが、契約している
父と契約していた蜘蛛は、祖父、曽祖父も契約していた古くからの存在。故に、戦闘能力も高かった。単騎で行動し、狙撃手かのように遠方から糸を射出して殺す。
対して、自身は透明で無敵化だ。接近戦になってもレイヤーがずれているから攻撃が聞かず、蜘蛛だけではなく本人も異能を持っていたために一騎当千の活躍をしたという。
しかし、父は大妖に殺された。契約していた蜘蛛も同時に死んだ。
そして、アタシはその蜘蛛の娘である若い個体──
糸の射出、という能力はもちろん有している。厚さ二十センチほどの鉄板であれば容易に撃ち抜ける。
ただし、それが通用するのは下の下の中妖程度まで。それに、
攻撃力も継戦能力にも欠けており、肝心の
しかし、もともと姿が見えない。よって、発見されづらい。レイヤーをずらす。攻撃は当たらない。そうなると、異能が役に立つ場面がほとんどない。
いたら便利ではあるが、いなくても問題ない。それが、アタシという存在。
いくら自衛に長けていても、狩人にはなれない。そして、妖の数が減った今、必要なのは狩りを出来る異能。
妖と契約し、実質二つの能力を持つ蝶野家。しかし、術者側の異能が貧弱、あるいは防御系のものであれば、「妖と契約しているのに」と失望される。
──ほとんどの異能者が殺された今はどうか。
アタシの役割は斥候で、前線にはいなかったから、
そんな折、任務が与えられた。
それは
危険分子だからではない。
アレを殺そうとしていて、極度のブラコンのアレは彼を殺せなくて、まだ異能に目覚めていない、そんな不確定要素。もしかしたらアレを殺し得る可能性を持つ存在。
退屈な仕事だな、と思った。
けれど、アタシに出来るのはこれくらいだとも思った。
むしろ、アタシにしか出来ないことだと思った。
けれど、自己肯定感が上がることはなかった。
──退屈な人間。
それが彼に抱いた第一印象だった。
確かに殺意はあるのかもしれない。部屋にいる時は、殺意をぶつぶつと呟いているし、寝言では家族への謝罪と繰り返して途中で飛び起きることも多かった。
ネットで殺し方やら殺す道具なんかを調べていたが、その程度。
その癖、殺意の対象である
殺したいと思っている相手を、無視するだけで、後は日常を謳歌……とまではいかないとしても、普通に過ごしている。アタシは観察の任務で学校に通えてないし、食事は専らエナジーバーで済ませているというのに。
アタシは、サボるようになった。どうせ見ていても何も変わらない、最早彼の殺意なんて名ばかりのものなのだと思ったからだ。殺したいと思うだけで、その為に何かをしようとすることなく、ただアレが笑顔で何を話しかけても無視しているだけ。なのに、出された食事は食べる。普通に学校へ通う。
こんなの、見ているのが馬鹿馬鹿しくなる。
別に、アタシはアレを殺すことに拘っていない。過激派の使いっ走りをしているが、それは単に命じられたから。他にやることもなく、命じられたからするだけ。
もしかしたら、『半端者』の自分に何かしらの意味を見出したかったのかも知れない。
けれど、他にやれる人がいなくて当て嵌められたのだと思う。きっと、
過激派は、アレに対して実力行使を複数回行っていた。恐らく、そっちが本命。僅かな生き残りの異能者と、秘密裏に過激派に協力している自衛隊の混成部隊。だが、回数を重ねる毎に人員は消失していく。送り出した精鋭たち──尤も、異能者の精鋭などとっくにあの時殺されているが──は、誰一人として帰ってこなかった。
そんな先の見えない状況で過激派たちが焦り出し、アタシはそんな様子を欠伸混じりで見ていたが、そんな時に変化が訪れた。
▼
その日は久々に彼の様子を観察していた。結局何も変わっていないだろうと思いながら。
朝七時。目覚ましが鳴る。昨晩は
何度も見たことのある光景。
だが、その日は違った。目覚ましを止めて、そのまま彼は立ち上がった。変わらず澱んだ目ではあったが、その奥に、微かな光があった。
そして、部屋の隅に立て掛けてあった新品と思われる金属バットを手に取り、何度か握り加減を確認してから部屋を出る。慌ててその後を追う。
そして、目に入ったのは、無防備なアレの背中に向けて、何の躊躇なくバットを振り下ろす彼の姿だった。
バットはアレに当たる前に見えない壁に阻まれ、あっという間に潰されて鉄屑と化した。アレの強力な異能を目の当たりにして若干引いたが、それ以上に彼の変化に驚いた。
内に秘めた殺意を、バットで殴るという行動に移し、そして、目の前の存在に言葉として言い放ったのだ。
それは、初めて彼が自分の殻から外に出た瞬間だった。
その後は、結局その繰り返し。毎日何処かで金属バットを買ってきては、ルーティンのように毎朝殴り掛かる。正直、決して安くはない金属バットを毎日仕入れてくるお金の出元は、と考えると何とも言えない気持ちにはなるが、そこからアタシは毎日彼を観察していた。同じことの繰り返しなのは変わらないのに、退屈しなかった。気付いたからだ。
──彼もまた半端者なのだ、と。
同族嫌悪ではなく、愛しさを抱いた。なんて健気なのだろうと。なんと愚かで美しいのだろうと。
そして、若い男女がひとつ屋根の下、どころか同じ部屋で過ごして何もないはずがなく──。
──アタシは、恋をしていた。
あの時抱いた愛おしさが、好き、という陳腐な気持ちに変わったのだろうか。それが自分にとって良い変化だったのか、悪い変化だったのか、分からない。
ってゆーか、どーでもいいっしょ、そんなん。好きなもんは好きでヨシ。
んで、それからはシャーペンやら使用済み歯ブラシやらをせっせとコレクションした。下着も手を出したかったけど、絶対アレにバレるから泣く泣く諦めた。
あと、べんきょー頑張って、ユータと同じ高校になった。二年間とも同じクラス。日頃の行い、ってやつ?
ってことで、学校で堂々とユータのことを見ることができた。しあわせ。ユータは友達作ってないみたいだったけど、アタシも作らなかったから、おんなじ。おそろ、って
そんでそんで、
で、その日の内に、私な異能を発動しないようにして
ほんとはちゃんと段階踏んでから登場しようと思ったけど、ユータにバレた。まぁ、愛する二人だから通じ合うのはしゃーなし。むしろ嬉しい。興奮したよね、
そのあと、色々あって、
まぁ、ユータは自分がなんで『半端者』なのか分かってないけど。そーゆーとこも可愛いよね。知ってる、『あばたもえくぼ』でしょ?
いやもう全部しゅきだから。好きピの全部が愛おしいに決まってるっしょ。
なんか恋してからバカになった気がするけど、それも別にいーや。好きピには全力投球しなきゃ。
──さて、ユータは『半端者』から『一人前』になれるかなー?
蝶野ちゃんは頭の中ハッピーですが、ハッピーハッピーではありません。
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