ウマ娘プリティーダービー -LEGEND OF TRIZEL- 作:カズノリ
平日は彼女にとっての拷問––学校生活を耐え抜き、金曜日の学校終わりと土日祝日は意気揚々と探し者を探しに行く。(昼食がある土日祝日は弁当を買うルーティンがある。弁当屋の息子に会いに行っているわけではないので注意)
食事代、交通費の軍資金が残り少なくなれば非公式レース(距離、バ場関係なし)に出走し、賞金をゲットし軍資金とする。
そんな生活を繰り返し続けると、いつの間にか1年、3年、5年と年月が経っていた。
そして、リンクノエポナは軍資金が少なくなった事でいつもの様に近くの非公式レースへの参加を決めて、会場へ足を運んでいた。
受付には顔なじみになった女性スタッフ達が参加者と観客を忙しそうに捌いているのを見ながら「元気そうだなぁ〜」と他人事のように考えていた。
「ふふふ、久しぶりね、エポナ」
後ろから声をかけられた。
しかもものすっごく聞き覚えがあり、非公式レースでは勝手にライバル扱いされている程の顔馴染みだ。
振り向けば、茶髪のセミロングとポニーテールをして、目がパッチリと、開かれている。少し意地悪そうな表情でコチラを見つめており、自分の母親と同じ年齢とは思えないほど活発で生き生きとしており、ウマ娘である為、そのスタイルは素晴らしい。
やはり、彼女、「アグネスアヌビス」であった。
彼女とは昔、非公式レースで激突した相手だ。しかも、そのときは彼女が油断していた所を差し切っただけだ。
しかし、そこから彼女とは年の離れた悪友ともいうべき存在になったが。
「根に持ちすぎだろ」と心のなかでつぶやく。
「アヌビスか、アンタも参加するんだな」
「えぇ、そろそろエポナが参加すると思ってね?」
「おいおい、だからってこのレースに参加って、アンタも物好きすぎるだろ?」
「あら?そうかしら?と言うか、この会話も何度目かしら?」
「そりゃあ、そうだろ?周りを見てみろよ。クラシック三冠の称号を手にしたウマ娘が、非公式レースとはいえ、短距離レースに出るんだぜ?」
クラシック三冠。
皐月賞、日本ダービー、菊花賞という三つの大レースをすべて制した者だけが手にできる称号である。
そして、この3つのレースは中距離と長距離であり、菊花賞に至っては距離が3000mもある程だ。
つまりはアグネスアヌビスは中距離から長距離レースが得意なウマ娘とも言える。
そんなウマ娘がまさかの短距離レースへの参加である。
「良いのよ。私はアナタを倒すことだけが今は一番の楽しみになっちゃったのよ?
だからエポナ?今日も私に倒されなさい?」
「はん、嫌だね。それに22戦12勝8敗2引き分けでアタイの方が勝ち越ししてるんだからな」
「ふふふ、生意気ね。だからこそ潰しがいがある!」
アグネスアヌビスほどの強者から放たれる威圧はまるで電車の線路の上に立たされて、目の前に猛スピードで電車が突っ込んで来る恐怖を受けるほどだ。
しかし、エポナはそんな威圧に動じない。アグネスアヌビスの威圧はエポナにとっては蚊に皮膚を刺された程度のもの。
正直、アグネスアヌビスの威圧は前世の頃を思い出せば、馬の下半身を持つケンタウロスの様な強力な怪物––ライネルと同じくらいだ。
つまり––ライネル程度の威圧ならば慣れたものだ。なにせそれよりも恐ろしい怪物達と幾度となく渡り合ったことがあるのだから。
「ならアタイは逆にアンタを潰すだけさ」
「子供のくせに生意気ね」
「そんな子供にレースで負け越しているのは何処の誰だろうな?」
「ふふふふふ」
「くくくくく」
何故か受付スタッフ以外が引いている。
受付スタッフは「またか、いい加減にしろ」と思いながら、二人の威圧に飲まれた人を、揺さぶって正気に戻す作業を開始した。
二人が会えば毎回この様に二人の威圧に飲まれる人がいるので受付の仕事に支障が出るので、何度も「場所を考えろ!」と言っても聞かないので、諦めてしまった。
あ、新人の受付スタッフが威圧に飲まれちゃった。
一人のベテランが新人を休憩室へ連れていき、受付が再起動する。
二人もじゃれ合いをほどほどにして、それぞれ控室へ向かった。
さて、控室へ行く前にリンクノエポナがまず、行う事は一つ。近くにいるスタッフへ声をかけることだ。
「あ、すんませーん。段ボールって貰えね?」
「あ、ハリボテエレジーさん!大丈夫ですよ!いつもの様に、控室に段ボール箱を置いておきましたから!」
「お?まじ? サンキューな」
「いえいえ! 今日も頑張ってくださいね!」
「おうよ」
そう––段ボール箱を貰うことである。
受付を超えればすでに名前から捜索されない様にリングネームならぬレースネームで呼ばれる。
本当なら、受付を超えたらすぐに顔を隠したほうが良いのだが、リンクノエポナは別に気にしていない。
ちなみに、アグネスアヌビスは受付を超えるとすぐにお面を被っている。
控室に着いたリンクノエポナはまず、バックからジャージ(緑色)を取り出して着替え始める。いくら非公式レースとはいえ、私服での出走は許されない。最低限、動きやすい服装で出走する事が参加条件なのだ。
他のウマ娘が昔着ていた勝負服の場合が多いが、リンクノエポナはジャージである。
ちなみになぜリンクノエポナはジャージなのか。それは単純明快、だって楽だもん。以上である。
さて今度は先程受付スタッフが控室内に置いてくれた段ボール箱に近づき、バッグからガムテープとカッターを取り出し作業を開始する。
5分後、耳と目用の穴が開いた段ボール箱の完成である。
お面とかを買えば良いのだろうが、買って無くせば、その分お金が勿体ない。
なら、適当に段ボール箱で作れば安上がりであり、終われば分解してゴミ箱に捨てれば邪魔にもならない。カッターやガムテープも最悪は借りれば良いので、少しの手間を考えなければ最も効率が良いのだ。
後はこれを被れば、リンクノエポナはハリボテエレジーへと名前が変わる。
そして、これから始まるのは、公式レースという表の世界では禁止行為となる、進路の妨害は勿論の事、ぶつかり合いも泥飛ばしすらも許される、プロだろうがアマチュアだろうが関係ない。むしろ体格差や年齢差すらも有効な裏の世界における超危険な真剣勝負の舞台。
ハリボテエレジーは立ち上がり、控室を後にする。
向かう先にあるのは、ウマ娘達の戦場にして大舞台。
さぁ、レースを始めるとしよう。