ウチ、ただの行商人やで? 〜異世界転移した関西弁女子はチートスキルに物申したい〜   作:霧島 高

1 / 6
第1章 女神はん、裏メニューとかないやろか?

「ここ、どこやねん」

 思わず呟いてもたけど、そりゃそうなるわな。

 気付いたら、なんやとてつもなく白い空間にウチはおったねん。まるで漂白剤のコマーシャルに出てくる真っ白うなったシーツみたいな場所や。けどな、実際にはあんなに白くはならん。しつこい黄ばみも落ちるとか、自信満々に言うてるくせにな。

 それにしたってな、これはめっちゃ困ってもたで。バスはいったいどこいってもたんやろなあ。

 ともかく順番に思い出すで。まずは今朝あったことからや。せかやてな、なんぼ思い返しても、今この場所には繋がらん思うけど、まあ一応な。

 ウチは今日から高校生、ほんで新しいガッコの入学式に向かっとる途中、確かに路線バスに乗っとったはずや――。

 

 ※

 

「ほな、いってくんで~。っていうても、誰もおらんけどなっ!」

 そんなん言いながら、ウチは住みはじめたばかりの部屋から勢いよう飛び出した。そんでからアパートの外廊下に出たらちゃーんと鍵かけて、そっから見える街並みを眺めてみてみると、入学式やいうのに遠くの河川敷に生えとるサクラはもうほぼ緑やんか。

 まあしゃあないで。最近は入学式いうたかてな、だいたいサクラは散ってしもとる。もうあんなんはラブコメマンガの理想的なシーンぐらいにしかあらへんなあ。ん? ありゃ、どっちかいうたら卒業式のシーンやったか?

「しかしなあ、友達おらんのは、やっぱり寂しいなあ」

 そんなことを愚痴りながら、近くのバス停に向かってウチのあんよは知らんうちに進みよるで。昔からなんでも思たことはすぐに口に出てまいよる。気い付けんと変人に思われてまうな。あかん、あかん。

 よし、口に出さんと心で考えるで、感じるんや。

「でもなあ、なんでいきなり関東やねん。しかもばっちり敵地やし」

 うん、無理やった。

 しかしな、ほんま、ここはどこやねん、って感じや。いや、もちろん知っとるで。東京とかいうウチらの宿敵が根城にしている悪の巣や。言うとっけどな、セ・リーグ首位の座は渡さへんで。お前んとには絶対な。いくらウチが住むことになったかいうてもな、心の地元は向こうのままや。

 しかしなあ、おとん、いつのまに転勤しとったんや。ほら、おかんと離婚しよってからな、たまにしか連絡しとらんかったウチが悪いかもしれん。それでもな、おとんも虎ファンやろがい。おんどら裏切りよってからに。

「それにしてもなあ、おかん。なんで死んでしもたんや」

 あれはついこの前、ああ、いうてもう2か月もたったんかいな。

 おかんが死んでしもた。

 あっけなく交通事故でな。自転車漕いどったら、信号無視した車が突っ込んできよった、らしいわ。ウチが直接見たわけやないけど、ドライブレコーダーにそう映ってたんやと。

 そんでそっからはな、もうわけわからん間に色々進んでしもた。葬式や示談やなんやと、ウチ一人ではとても対応できんぐらいのことばかりや。悲しむ暇もあらへんかった。しかもおかんは天涯孤独でな、親類なんておらんかった。しゃあなしに、おとんにいろいろ頼んだんや。まあそもそも円満離婚やったしすぐに来てくれてな、おとんにはほんま世話になったし、そのままこれからも世話になることにもなったねん。

 つまりは、ウチはおとんに引き取られてここで暮らすことになったっちゅうわけやな。はい、まる。

 せやからな、向こうでぎりぎり受かった高校には入学できずじまいや。で、こっちでおとんに言われるまま受けた高校にな、何とか滑り込みで合格して、それでなんとか通えることになったってわけやな。

 あ、バス停ついたら、バスちょうどきよったわ。

 定期券はスマホをかざしてピッとやればええだけや。まあこんなん地元でもいっしょやけどな。せやけどウチはカモノハシの絵、お気に入りやったんやけどなあ。

 ん、誰やあれ? なんや小綺麗なべべ着とるチビっ子が座っとって、こっちをじっと見よるな。小学生でも路線バスつこて通うとか、そんなんもあるねんな~。

 ……なんて悲しいだけやし、やめよやめよ。窓ガラスに映り込んどる、完全に服に着られとる子どもにしか見えへんあれが、ウチやねん。

 そこらの小学生より背ぇ低し、よう言うて標準的な童顔やし、何の変哲もない黒髪やで。ほんま、なにもかもがちっこいで。

 胸もな!

 髪ぐらい染めたらどうやろか。絶対、似合わんやろなあ。

「どう考えてもな、もう大きいならんやろなあ」

 背が。背が!

 やっぱ知らんうちに呟いてもたけど、バスはそれほど混んでおらんし誰も聞こえてへんやろ。混んどったら地獄やけどな。ウチは押し潰されてもて窒息状態や。せやから早めのバスに乗ったんや。いらん苦労をさせられとるでホンマ。まあ、おとんはウチより早く出よったけどな。おかんのことでだいぶ仕事が溜まってしもて忙しいらしい。

 ほんまおおきに、ご苦労さん。

 バスの乗客は10人もおらんな。そのうち1人は、ウチと同じ制服着とる可愛い女子や。ウチと比べたら天と地ほど差があるな。言わんでもわかる思うけど、もちろんウチが地や。

 ほんで隣におるんは彼氏か? 男女統一デザインのブレザー制服っちゅうのは、まあ、当然やな。で、男子はネクタイ、女子はリボン。

 それにしてもええなあ、あの女子、可愛ゆうて。胸元のリボンにすら大負けかましとるどっかのガキンチョとはえらい違いや。

 そんなこと考えとるうちに、バスはいくつかの停留所を跳ばしたり止まったりしながら進んでいきよった。

 ほんで、遠くにこれから通うガッコが見えてきた。

 そこまでは覚えとる。けど、そこまでや。

 

 ※

 

 さて、思い出すのもそこまでや。戻って来たで、真っ白空間に。

 ぐるりと見回してみて、ウチ含めて10人おる。バスには途中で乗ってきた客のほうが多かったはずやし、途中で増えた分含めて全員ここに飛ばされたんやろか? せやけど運転手はおらんな。全員とちゃうかもしれん。

 ひいふうみい……男性5人に、女性5人やな。そんで、そのうちちっこい子どもが1人だけおる。いったい誰のことやろなあ? なあ、そこの君、どう思う?

「あずくん、ここどこ?」

 ん? あのウチと同じ制服を着てるはずやのに、ウチとは全く別種の存在のきらりん美少女のことはよう覚えとる。ああ、すまんな、そもそも比べることすら失礼やったわ。これぞレベチってやつやな。ウチが心で叫んだ「ここ、どこやねん!」と比べて、言い方からしてまず高次元や。

 別に悔しいわけやないで?

「もしかして、これって!」

 ほんで隣の男の子は、うーん、なんやえらいキラキラなおめんめしとるな。ん? あの目、よう見たらウチ知っとるわ。こうやんが好きなマンガの発売日にしとる目と全く同じやな。

 あ、こうやんってのはウチの幼馴染の紛うことなきオタク男子や。せやから、こうやんの選ぶマンガにハズレはないねん。いつも勝手に部屋入ってな、そのままベッドでごろごろしながらたいへんお行儀よく何度も読まさせてもろたで。

 けどな、こうやんはウチには絶対に手ぇ出さへん。決してヘタレやないで。なんでかいうたら、やつはボインボインのおねーさん好きなんや。せやからウチのことはアウトオブ眼中って大きな声で宣言しとる。

 もちろんウチも願い下げやしな。せやけど幼馴染や。ものすっごう理想の関係やろ? ちなみに見た目はええで。中身はほんま残念やけどな。大好きや。

 しかしな、引っ越して遠なったなあおもてたら、こりゃもう完全に会えへんなってもたみたいやなあ。めっちゃ寂しいなあ。

 そんなことしみじみ思うとったときや。

「うおっ!」

 出てきよった。やっぱ出よったで! なんやキラキラした、こうやんの好きそうな巨乳美人さんがな、出てきよったんや。あいつ、これ知ったら泣いて悔しがるやろうなあ。

 もしかして、いまからでもここに呼ばれへんかな? 召喚! いでよ、航大(こうだい)、なんてな。そんなもん無理に決まってるやろ?

「皆さん、女神の間へようこそ」

 キラキラ~、キラキラ~。いくらなんでもキラキラしすぎや! 眩しいわっ!

 あれやな、こりゃ見せてはいかん代物が口からぶちまけられるときにかかるエフェクトみたいなもんやな。知らんうちに目ぇ背けてもうてたわ。

 せやけど、みんな呆気にとられて見惚れとるな。普段から美しいもん見慣れとかんとああなるねんで。気ぃつけや。

「女神! もしかして、これ転生? いや、異世界転移だっ!」

 ん、あの美少女の横にいた平均よりちょい上男子(失礼)が言うたんかと思たらちゃうやん。スーツ着たおっさんが、こっちもえらい目ぇキラキラしながら言うとる。おとんと同い歳ぐらいか? いつまでたっても男ってやつはよぉ、まったく、つける薬どこにあるんや?

「はい、女神ですよ。そして、そのとおり、皆さんにはこれから異世界に行ってもらうことになります。はあ、それにしても、どうして最近の方々はみなさんそんなにお詳しいんでしょうか」

 ん、最近? そりゃつまり、異世界転移って割と起きとるいうことかいな?

 あ~、せや、異世界転移な。もちろんウチもちゃんと知っとるで。こうやんがもっとったマンガでぎょうさん読んだからな。せやし転生と転移の違いもわかっとるで。転移ってのはあれやろ、つまりこの姿のまま異世界にいくってことやろ。

 このちっこいままでな。

 ……チッ。

「もしかして、チートとかあるんですか!?」

 今度はあの男の子や。隣で女の子がびっくりしとるな。はしゃぎすぎて愛想つかされんように注意や。取り返しがつかんことになってもしらんで。異世界にはきっと君よりかっちょいい男子がお腹空かせて待っとるで。

「はい、それでは、これから順番に説明しますね」

 ここでキラキラ女神はんの一言。そして嬉しそうにする男性諸君と、不安そうになる女性一同。あ、ようみたらそんなことなかったわ。女性1名はえらいつやつやしとるし、男性1名はこの世の終わりみたいな顔しとる。

 まあ異世界転移いうてもな、平和でハッピーな世界ばかりやのうて、役立たず判定受けた転移者がいきなりやばいダンジョンに廃棄されるような行き先もあるでな。

「さて、皆さんがこれから向かうのは、剣と魔法の世界。ダンジョンがあり、モンスターがいて、冒険者たちがそれを狩り、王侯貴族が国を治めるそんな世界です。想像できますか?」

「やったぜ!」

 だからそこの男子、あまりそういうことをするとやな、見限られても知らんで?

「あずくん……」

 ほら、ほらあ。はよ気づかなっ!

「つまり皆さんが過ごされた世界とは全く異なります。まさしく異世界! そこでですね、皆さんには特典として、特別なスキルを持って行ってもらいます」

「あ、あの!」

 そこで話をぶった切って、美少女が声を上げたで。いいぞ、もっとやったれ。ここで逆転の一打や!

「元の世界には、戻れないんですか?」

 せやな、そりゃ聞きたいわな。でもな、ウチその答え知ってんで。

「はい、もう戻れません」

 だってそれが出来たらな、そもそもこんな話しとらんやろ。

「どうしてですかっ!」

 ちょっとだけヒステリックになってしもた美少女はん。さあ彼氏君、彼女のフォローをするんや! 挽回のチャンスや! 逃したらあかんで!

「大丈夫だよ、サヤ。チートもらえるんなら問題なしさ」

 ちゃう、そうやない。何かこう、ちゃうでそれは。もっとこう、漢らしい台詞言えんかったんか? 君、ちん〇、ついてるんか?

「だって、だって、あずくん。もうお母さんにも、お父さんにも会えないってことでしょ? そんなのって、ないよ、あんまりだよ……」

 はい、お涙頂戴シーンの始まりや。言うても、実際にあの子泣いとるわけやし、あれがいたって普通の乙女の反応やと思うで。あれこそがな。ウチにはどう転んでも真似でけん。まあウチがやってもな、ミノムシ噛み潰したような顔で半笑いしかしてもらえへんけど。

「とりあえず進めますね」

 キラキラはん、あれを放置して話を進めるらしいわ。なんやろ、次が詰まっとって忙しいんやろか。それか、はよ終わらせて定時で帰りたいんやろか。その姿勢は大事やで。

「皆さんにお持ちいただく転移者特典ですが、はい! どどーん! この中から選んでください!」

 女神はんが両手を掲げながらなんやカッコつけて宣言しよると、はるか上空からハラハラと紙が舞い降りてきよった。けど空っちゅうよりは天井かもしれん。なんせおひさまがあらへん。きらきらに輝いとるんは目の前の謎存在と、男性4名、女性1名の瞳だけや。

 ……なかなか降りてこーへんな。そりゃ紙やしな。えらい天井高いしな。紙吹雪がいつまでもおわらんくてお客さんが拍手終わらせるタイミング失ってそうな感じや。このままどっか流されて太平洋のど真ん中に落ちたりせえへんかな。

 しょーもないこと考えながらしばらくぼーっと待っとったら、そん中の1枚がようやくウチの手元あたりでひらひらと舞ってきよったで。んでウチは綺麗なちょうちょつかまえるハナカマキリみたいに、目にも留まらん素早い手つきでそれを掴もうとしてみたんや。

 ……残念、失敗や。するりと抜けていきおった。ふらふらしとる紙を捕まえるんは意外と難しいんやなあ、これが。その昔、箱の中に手ぇ突っ込んで風で舞い上がる何枚もの紙幣を掴み取るっちゅうテレビ番組があったらしいで。てっきり万札いっぱい掴んだおもたら千円札ばっかで損した気分になるねん。

 しゃあないし、「よっこいせ」言いながらしゃがんで床に落ちたそれを拾う。背が低いとこういうのは楽なんやで。負け惜しみや。あ、金やと勘違いして拾ってもたけど、勝手に触ってよかったんやろか。

 うん、みんな同じことしとるし、大丈夫そうやな。

 とりあえずこのチートスキルはなんやろかいな、っと。

「聖剣? なになに、なんやて……?」

 

『かつて世界を救った英雄、その魂を職人が丹念に込めた伝説の剣があなた専用に!? この剣に切れぬものなし! 本当に何でも切れちゃいます! あの難しいトマトだって、潰さずに薄く綺麗にスライスできちゃうんです! 食卓にはリコピンが欠かせませんね! これが手に入るのは今だけ、このチャンスをお見逃しなく!』

 

 ……なんやいつのまにかサブリミナルな感じのコマーシャルが始まっとったな。

 おい、誰や、これ書いたんは。いますぐ責任者出てこいや。

 ん? もしかして目の前におるアレかな?

 

 

「いってらっしゃいませ。良い異世界生活を!」

 たぶんこれからウチの同級生になる予定やった男子と女子が女神はんに見送られて消えよった。

 ちなみに男子は例の「聖剣」を選んだみたいや。ようあの文言で聖剣選びよったな。ちゃんと説明読んだんやろな? チュートリアル読み飛ばして序盤のモンスターにやられてしもて、「なんやこのクソゲー」いうて放り出すタイプちゃうやろな?

 そうこうしとる間にみんな次々消えていきよる。

 せやけどウチはものすごう悩んどった。

 なんせな、ここにポイ捨てされとるチートスキル、どれもいまいちなんや。

 説明しとったしょーもない場面は割愛したけど、女神はんがいうには誰かが選んだチートスキルいうたかて、それを他の人が選べんようになるわけやないんやと。せやから聖剣持ちが複数誕生することだってあるっちゅうことやな。

 もし聖剣対聖剣でサムライごっこしたらどうなるんやろうな。何でも切れるって書いてあったよな。覚えとるで「これ矛盾という」ってやつや。中学でなろたからな。ちょっとちゃう気もするな。けど持ってるとなんや動きがおそなりそうな気ぃしてくる「聖盾」ゆうチートスキルはたぶんなかったで。

 つまり「聖剣」はありえへん。こんな物騒なもん、いらんで。

 普通男子君の彼女らしき美少女ちゃんが選んどったモン、ちゅうより男子に選ばされとったんは「魔法の素養」や。なんとな、現地の人とちごうて転移者はこれがないと魔法が使えへんらしいわ。

 え? なにそれ? 剣と魔法の世界はどこいったん。魔法の部分だけ小さい文字で書いてるんやろか?

 まあ、どのみちこれもパスやな。素養、ってあたりがうさんくさいやん。素養とか素質ってな、勉強せんとしばらくつかえへんいうことやろ。聖剣君がいつもお傍に控えて夜のお世話でもなんでもお嬢様のワガママ聞いてくれるんやったらええけど、そんなもんおらん下賤のモンには時間かかるいうんはつらいで。

 そういやあの子らペアになること前提やったけど、同じ場所に転移させてもらえるんやろか。まあ、ウチにはそんなんおらんし、他人のことはどうでもええか。末なごうお幸せにな。くれぐれも男子は言動に気ぃつけるんやで。見てたらハラハラワクワクするからな。ワクワクが9割程や。

 しかし改めて見てもなあ、他のも似たり寄ったりでパッとせんなあ。

 それにな、巨乳マニアのこうやんが言うとった。おっパッシブ最強ってな。つまりなにもせんでも、おっぱいみたいに常時そこにあるんがええんやって。ほんでな、実はそれらしいもんがひとつあるにはあったんや。

 なかなかガタイのええにーちゃんがな、それっぽいの選んどったで。正解やな。けどまことに残念やけど、ウチにはまったく意味のないやつやねん。

 それはな、「頑強」ってやつや。あのふざけた説明によると筋肉もりもりになるらしいわ。

 な? ウチには関係ないやろ。こんなんな、元々がしょんぼり体格なウチやとな、持ち腐れ待ったなしや。ちゃーんといらんおせっかいが説明に書いとったで。もりもりんになるんは筋肉だけで、おっぱいどころか背すらでっかくはならへんねんて。ウチをバカにしとるとしか思えへんな。

「あのう、まだ決まりませんか?」

 ウチがそろそろお花にお小水かけしに行こうか迷っとったら、女神はんがそう声を掛けてきよった。ん~? よう見たらなんやさっきよりキラキラがちょっとばかし陰ってきたような。もしかして制限時間とかあるんかな。それやったらちょっと見てみたいし、もうちょっと粘ってみよっかな。お漏らし寸前まで我慢や。

 ともかくや、キラキラはんに言われてな、周りを見てみたんや。そしたらミステリーみたいに誰もおらんくなっとった。悩んでたらウチがこの密室の最後のひとりになってしもたらしい。

 しゃあないなあ。こうゆうときの必勝法があるねん。いまこそ試してみるときやな。ウチがラーメン屋でようやるやつや。

「なあなあ、女神はん」

「はい、なんでしょう」

「あんな、ここにあるの、どれもいまいちぱっとせえへんねん」

「は、はあ……」

「そこでやな、べっぴん女神はん。ものは相談なんやけどな。ここに出とらへん、まかない的な裏メニューみたいなん、なんぞあらへんか?」

 それはな、もちろん冗談やった。

 覚えとき、場を和ませて話しやすくするっちゅうんはな、めっちゃ大事やで。

 そうやねん。ウチはほんま冗談のつもりやったねん。

「ありますよ」

「あるんかいっ!」

 なんやと。思わずいつもの癖で、被せ気味にツッコミしてもたがな。

「あんな、なんでちゃんと最初からだしとかんのや。詐欺やでそれは」

「嘘は言ってません! それにですね、その、こ、これにはいろいろと事情が」

「つべこべいわんと、今すぐ耳揃えてだすんや。わかったか、ああ?」

「うう、わかりました。わかりましたから。ひどいことしないで」

 なんや? キラキラがえらい収まってきよったで。時間制限とちごて、もしかしてこの女神はんの気分次第でころころ変わるんやろか?

「でもでも、でもですね」

「デモもストもあるかいな。はようだしな」

「は、はいぃ」

 懇切丁寧にお願いして女神はんに気持ちよう快諾してもろた結果、また遥か上空から追加で5枚ほどの紙がひらひらとたっぷり時間をかけて舞い降りてきよった。しかしな、この演出はいったいなんなんや。時間がかかってしゃあない。早急に見直した方がええで。

「これは初心者にはちょっとおすすめできないんです~」

「初心者て、あのな。ほなもう1回、とかありえへんやろ?」

 さすがに異世界転移なんて1度だけで充分ちゃうんか? ん? 待ってや? こうやんがいうとった。「いやいや、最近は何回も転移してからな、最終的にスーパー無双大戦や! っちゅう話もあるで」って。

 なんやねんそれは。古今東西の武将がロボットに搭乗して百人斬り繰り返しながら戦略兵器で敵を一掃するんか?

 

 

「どうしたもんやろなあ」

 ウチは新たに配布された2枚の紙を手に取って、交互に見ながら悩んどった。

 おパッシブや。追加の内この2枚が紛れもあらへんパッシブやった。パッシブは最強や。

 そんで左手に持った1枚は――。

「……『美形』」

 なんや? 文句あるんなら、はよ言うてみい。知らんやろけど、ウチにもコンプレックスちゅうもんがな、あるんや。

 まあええ、肝心の内容や。

 

『クラスで1番目に可愛い金髪のあの子のように、みんなに好かれたい? ほんとに2番目のままでいいの? そんなあなたにご紹介! もう安心です。これがあれば、誰もが振り向く美人顔に! みんなの目がハートマークになっちゃうこと間違いなしです! ついでに髪の毛まで、色も変わってさっらさらになるなんておまけつき。あ、ちなみに体型はいっさい変わりません、悪しからず』

 

「お前もかいな」

 さっきの「頑強」とおんなじやないかい。

「いらんな」

 ウチはそれをくしゃくしゃに丸めたい気持ちをなんとか抑えつけて、裏向けにしてそーっと地面に置いたんや。ウチは何も見なかったんや。ええな?

「となると、これしか残らんやん」

 ウチの右手に残ったそれをウチはじっと見つめた。パッシブや。これも間違いのうパッシブや。よう見たら、わかりやすいように「(P)」って大きく最初に書いてあったわ。パッシブの綴りはわからんけど、たぶんPで始まるんやろ。

 そしてこいつはな、ウチの信条にも合致しとる。これしかないで。まさにウチのためにあるようなもんや。

 せやけどな、こういう契約っちゅうのは、怖いんや。不思議な生き物のうるうるお目んめ信じてもたら、口に出すんを禁止されてしまうぐらいえぐいことされてまうからな。あの脚本家の古参ファンやったら最初から知っとったで。せやから説明はちいこい文字も含めて隅々までちゃんと読まんと――。

「はい、それですね。それではいってらっしゃいませ。大きな街の冒険者ギルド前に着きますので、まずはギルドに登録するのをお勧めします」

「あ、こら、何勝手にすすめとんねん!」

 や、やばいんちゃうか、これ。ああ、もうっ!

「それじゃあ、良い異世界生活を! ……あっ」

 は? 「あっ」てなんや。ちょっと待てや。こいつ今度会ったら絶対しばき倒したる。

 ……手ぇ届かんけどなっ!

 そしてウチは気付いたらそこに立っとった。

 

「あの、くそあほんだらがーっ‼」

 がーっ、がーっ、がーっ……。

 あんまりにも腹立つし、心の中でエコーを響かせたったわ。

「なんもないやんけ、ほんまにくそがっ」

 周囲は、緑、緑、緑や。これを写生せえ言われたらめっちゃ楽やな。絵具も緑と黄緑、空色とオレンジ色ぐらいあればそんだけでええで。美術やて? そんなもん苦手に決まってるやろ。

 それにしてもなんや青汁みたいな臭いがすんな。緑の清々しいええ匂いってのはこういうやつなんか? そんなもん自分の気持ち次第っちゅうこっちゃな。

 ほんでなんやのこれは。冒険者ギルドどころか、街そのものがどこにもあらへんやん。あの嘘つきクソ女神め。最後の「あっ」の結果がこれかいな。

 それにしても見渡す限りの大草原やなあ。なんとかネイチャーっていう番組みたいやで。日本やと北海道ぐらいでしか見られへんのちゃうか? ところどころに背の高い草が集まって飛び出とるんが、これまたムダ毛みたいやな。

「ほんで、どないしたらええねん」

 どっちに行ったらいいかもわからん。道があらへん。見えとらんだけかもしれんけどな。中途半端に生えた草のせいで何もかも隠れとる。決してうちの背が低いせいやないで。なんぼなんでも、これぐらいの草にはギリギリ負けへん。

 で、どっかに高い場所でもあらへんか?

「あっこにいくか」

 小さな丘みたいな場所を目ぇ細めてなんとか見つけ出して、ウチはそっちに進みだしたで。草をかき分けながらや。なんで制服っちゅうんはスカートなんやろな。ちくちくして痛うとてたまらん。そういうプレイは必要ないで。

 制服いうたらカバンがあらへんな。ちゃんと家から持ってきたはずやのにな。ポケットにティッシュとハンカチぐらいは入っとるけども、それだけしかあらへんな。

 心配せんでも、それぐらいはちゃんと持っとるで。けどスマホも鞄の中に入れたままやったな。あったところで意味ないやろけどな。ストーキング機能付き異世界地図データなんて便利なもん、勝手に無断でインストールとかしてくれへんやろし。

 しかしウチの大事なカバンちゃん、どこに置いてきたんかいな。そういや、そもそもあの不思議空間の時点で持ってなかった気がしてきたで。あの時点ですでに持ち込み禁止の禁制品なんかな。

 まあ、ないもんはしゃあない。ないものねだりはしたらあかん。しかしほんまになんも持ってない、これぞ丸腰や――。

「ぐえっ」

 痛い、痛いでぇ。なんやこれは、めっちゃ痛いやんか。急に腹がいとうなってきた。今朝のご飯、なんやったかな。なまものは食べてへんかったはずや。賞味期限切れは何の問題もあらへん。

 ともかくウチは、しょーもない冗談だけが詰まってる大きなイマジナリー胸のさらに下へと視線を向けてみたんや。

「な、なんじゃこりゃあ!」

 そこにはな、白いケツがあったんや。

 モフモフや、みんなとっても大好きモフモフや。ウチももちろん好きや。いや、ちゃうな。どっちかっていうたらこれはゴワゴワやな。こやつ、毛が多すぎるわ。

 こいつはたぶん、ウサギやろ。えらいでかい野ウサギや。汚れちまってる白や。漂白剤、漂白剤はおりませんやろか。

「おっふ。これ、刺さってるやん。そりゃ痛いはずやで……」

 ウチはそのままへたりこんで崩れ落ちてもた。ヤンキーみたいに座り込んだで。なんせ腹にどでかい穴をあけられてもうたんや。もちろん血もたらりと牛乳みたいに出とる。

 ウチ、このまま死んでしまうんやろか。ようわからん角の生えたウサギにお腹ぶち抜かれて、失血死かなんやわからんけど、緑色したベッドの上に赤いもんとかいろいろぶちまけて死んでまうんやろか。

 そんでようわからん化け物に食い散らからされて、もしかしたらその後強制的に復活させられてアンデッドになってもて、そこらへん彷徨っとったらそこにたまたまやってきた美味しそうなかわいこちゃんを踊り食いして犠牲者を増やしてしまうかもしれん。

 あかん、あかんで、ウチを食べたらあかんがな。食べるところありえんほど少ないし、やめときやめとき。それに絶対、お腹壊すで。

 ああ、おかんの顔が浮かんできよる。ごめんな、おかん、先に逝ってるで。

 あ、ちゃうわ、おかんもう死んどったわ。

「ええい……せやけどな! ウチは、こんなもんで、終わらへんでっ! せめて、せめて、12回まで延長で引き分けやあっ!」

 座り込んだ先に、ちょうどええ石があった。うちの小さなお手てでも両手使えばしっかり握れるサイズや。ええ感じの角まどあんで。

「こなくそ!」

 何度もその石で、デカウサギの尻を打ちつけたった。数えきれん程や。しまいにはウサギの血が制服の上に飛び散るほど悲惨なことなったけどな、そんなもん気にしたら負けや。どうせ自分の血ですでにあほほど汚れとる。

 もちろんウサギかて必死になってウチの腹ん上でモガモガしとるけどな。けど残念やったな。自分から刺さっといて抜けへんなっとるいうんは、これぞ自業自得やで。

「おんどりゃあ、死にさらせ、やっ!」

 最後に思いっきり振りかぶって打ち下ろしたった。原始の武器、それはただの石ころや。最強の武器や。聖剣よりも強いで。嘘や。けど、このウサギぶっ殺せるんやったらなんでもええわ。

「ふーっ、ふーっ……」

 激しい戦いやった。

 ちょいと引っ張ったら、ずるりとウチの腹からウサギが抜け落ちよった。ウチの勝利やな。初勝利や。初球先頭打者ホームランでいきなり失点してもて完封とまではいかんかったけど、その後は粘って見事完投したったで。

「うおっ、なんや。グロ画像注意か!?」

 なんやなんや、ウサギまでキラキラしてきよったで。この映像はお食事中にはお見せでけまへん、ってやつか?

「……戦利品やな」

 そうや、こうやんの持ってたマンガで見たな。ゲームの世界に閉じ込められるって話や。敵を倒したらキラキラ光って、コインやらアイテムやらを落とすってやつやな。それとたぶんおんなじや。

 白いモフモフの……いやちゃうで、ゴワゴワや。柔軟剤入れ忘れてもた毛玉が落ちとる。気色悪いな。でも、念のためもらっとくで。ポケットに突っ込んだらぽっこりぱんぱんやな。けど、たぶん金になるやろ。

 さすがにコインみたいなんはどこにも落ちてへんな。そりゃモンスターが金なんて持っとったところで、どこで使うねんってなるしな。

「それにしてもや、せっかく新品の制服が台無しになってもた。でっかい穴に泥だらけで血だらけや。洗っても絶対落ちひんやん、これ。けど着替えもあらへんしな。こりゃ早いとこ人里見つけんとまずいで」

 ウチは自分の土手っぱらを見たで。い、いや太ってるわけやないで。幼児体型なだけや。ぽ、ぽっちゃりや、そうや、ぽっちゃりや。

 シャツのど真ん中に丸い穴があいとる。たこ焼きぐらいのサイズやな。割とでかいやつな。

「……すっかり塞がってもてるな。痛いんもなくなったし、ホンマ、助かったで」

 ウチは感謝したで。ちゃう、女神にやない。あのアホのことはどうでもええ。こうやんや。ウチの幼馴染のこうやん。もう会えへんようになってしもうた、あの憎めないイケメンオタクの航大のことや。おおきに、ありがとう、パッシブはやっぱり最強やったで。

 お空にこうやんが綺麗に磨いた歯をキラリとさせた映像が見えるわ。いや、あいつはまだ死んでへんで。

「せやな。生きてるだけで丸儲け、や。誰かの言葉やけどな、これがうちの座右の銘やで!」

 そうや。ウチの選んだ転移者特典(チートスキル)はな、この金言に見事にマッチしとる。なんでこんなええもんを上級者向け激辛裏メニュー扱いしとったんや、あのキラキラもどきは。

 ほんでな、それはな、これや。

 

『不死』

 

 あのクソのせいで時間がのうてちゃんと説明読まれへんかったけど、読んで字のごとくやろ。不死、死なず、死なへん、それはつまり生きとるっちゅうことや。

 死なんかったらなんとかなるで。間違いないやろ。たぶんな。

「そんじゃ、ぼちぼち行くでえ」

 ……ええと、ウチ、どこ行ったらええんやっけ?

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。