ウチ、ただの行商人やで? 〜異世界転移した関西弁女子はチートスキルに物申したい〜   作:霧島 高

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第10章 なんちゅうことや。1と1を足したら2になったで。

「……羊が1匹、羊が2……ぐ~」

 ……。

 はっ!

 あかん、羊見てたらねむーなってもたで。

 そういや、羊言うたら、こんな数え歌があったな。

 村で飼われている羊が順番にな、お肉にされる歌や。

 まずは1年目は1匹。2年目も1匹。せやけど3年目は村に人が増えてもてしゃあないから2匹や。人っちゅうのは男女がおるだけで鼠みたいに増えてくからな。せやから4年目は3匹必要やし、5年目は5匹必要になる。6年目は8匹やな。

 人は鼠みたいに増えるのに、必要な羊は、それとは違う法則で増えるんやて。ええとたしか、ふ、ふぇ……あ、ちょっとさすがにこれは言うたらあかんかもしれんからやめとくな。

 フ〇ラボ〇キ吸うやつ、とかいう名前やったはずやねんけど、絶対まちごうとるんはわかっとる。そんなん大人の教科書っちゅうエロ本にしか載せられへんもんな。

 いや、別に言うんが恥ずかしいわけやないで。せやけどな、ハジメテのチュウとかいうのは保障されとるねんけど、なんでかしらんけどえっちいやつだけは制限してもかまへんやろ、っちゅう謎の圧が働くねんな。

 ほんまな、ウチから生きていくための糧を奪うんやめてくれへんかな。不死チートあるやろいうたかて、せっしょうやで。

 みんなも同意してくれるやんな?

 ありゃ? どうしたん?

 あっ。その変な顔、みたらわかるで。どうせ、羊の数の法則わからんかったんやろ?

 せやったらな。ウチと同じで喋るのが下手であがり症なせいで魔法がうまくつかえんくて、しゃーなしに数字で妄想しまくってたらなんでか魔法が勝手に発動してもた、ウチとちごてめっちゃかわゆい女の子のマンガを読んだらええで。なんとな、喋らんでも魔法使えるようになってしもたせいで、国を代表する7人の侍の1人に選ばれてしまうねん。

 ほんであれにな、ハンサムイケオジの歌っていう羊やのうて豚さんを延々と数える平和な歌が出てくるねん。強制的に聞かされた人が、心地よい眠りに落ちてそのまま帰ってこーへんって言う噂やで。

 ん~、なんちゅうタイトルやったかなあ。沈黙の羊たち、ちゅうのに似た名前やったと思うけど、そうではなかった気もするで。そういうサイコーでスリル満点なやつはウチの守備範囲とちゃうからな。

 実は、そのな、みんなには黙ってたんやけどな。ウチな……お化け屋敷とかよういかんねん。

 でも、夏休みにな。近所の子らに頼まれてもてどうしょうものうてな、行かざるを得んようになったことがあったんや。せやから、幼馴染のこうやんに「後生やし、頼む。1回、1回だけでええ。ちょっとだけ、先っちょ進むだけでええから、一緒しよーな」って頼んでついて来てもろた、小学生低学年用のそんなにびっくりせえへんって噂の超怖いところに行ったんや。

 もちろんお化け屋敷んなかではな、ウチは子羊のようにブルブル震えるしかできひんかったわけや。せやから、こうやんによじ登って服ん中に閉じこもって、まるでこうやんが巨乳さんになってブルンブルンしてるみたいになってもてたで。

 しかも、ほんまに漏らしてしまうところやったねん。こうやんが珍しく慌てとったし、ウチも大パニックや。連れてきてた小学生はみんな大笑いしとったで。

 ちなみにウチはそんとき、もう中学生やったけどな。

 それはともかくや。そんなウチの前で、羊が一匹追い回されとる。いや、妄想やなくて、現実におるやつな。ウチの恥ずかしい話は忘れてや。替えのパンツをこうやんにこうてもらう羽目になったとか、ほんま忘れるんやで。

 あ、待ってや。こうてもろたパンツって、こっちに履いてきて転移初日に宿でごしごし洗ってた、あの可愛い水色リボンのついたショーツやん。ウサギポーチの奥底に眠っとるあれって、よう考えたらあれやん。入学式やからって、気合入れて履いてきたんやけど、恥ずかしエピソード付きのこうやんからの贈り物のことなんて、すっかり忘れて普段使いしとったがな。

 よっし、それはさておき、や。たしかこいつのルビは、わからんわこの宿題、ってやつや。あれ? あかんわ休憩しよ、やったっけ? なんかそんな感じや。

 問題はな、ここがどこかや。ほんで、なんでこうなってもたんやろなあ、とウチはしみじみ思い出してみるで。

 パンツついでに思い出したけど、今回はボケカス女神像の前でやったようなウルトラクイズはせーへんで。たぶんタンスの中の景品の新品パンツがそろそろ品切れやから、中古パンツしかなくなっとるからな。

 もしかして君ら、まちごうて中古パンツもって帰ってへんやろな? 別にそのことはええんやけど、ほんま絶対に臭いは嗅いだらあかんで。

 有名な探偵の孫で最近子どももできた人に、「10チャンネルは永遠に不滅です!」とか言いながら、「犯人は異世界にいる!」とか言われたらかなわんからな。

 ちなみに関西圏では、虎の宿敵の親会社のテレビ局は、4チャンネルやなくて10チャンネルやねんで。関西圏の4チャンネルはお星さまの球団の元の親会社の系列や。ややこいやろ? せやから東京のお人とは話が噛み合わへんねん。

 ……。

 さて、ちょいと前のことを思い出してみんで。

 あ、余計な一言かもしれんけど、いまからリモコンの巻き戻しボタン押すしな。こういうん言ってまうと「説明的で不要です」ってアイちゃん(AI)に怒られるんやけど、そう言われたらどうしても言いとうなるやん。

 ちゅうわけで、や。

 押すなよ、押すなよ……。

 ほな、ポチっとな!

 

 ※

 

「はぁ、はぁ。つ、つかれた……っておもたけど、案外疲れてへんな。ほんで、エミリちゃん、どないしたん?」

 南門のバザールにおったところ、「ヘンタイさんがヘンタイさんなの!」ってエミリちゃんに呼び止められたんや。ほんで、全速力で走る8歳年下の本物の幼女に置いて行かれそうになりながら帰って来たんは、エミリちゃんのおうちや。ウチの居候先でもあるで。

 いや、エミリちゃんは全く疲れてへんで。もしかして、全速力やなかったんか?

 す、末恐ろしい子やで。爆乳で爆速ときたら、次はなんや? 爆れつか? 眼鏡をはずすと女王様になってまうんか? ちなみに「れつ」が平仮名なんはウチが思い出せへんかったからとちゃうで。

「あのね、あのね! おとうさんが大変なの!」

 ついに、糸目商人がその本性を現したんか!? いやまって、関西弁なんはウチやし、エドガーはんは普通に喋っとるで。

 いや、問題はそこやない。よう聞いたら、変態やのうて大変やっていうてるな。なんぞあったんやろか。

「ともかく、こっちきて!」

 エミリちゃんに腕を引っ張られてしもて、それにまったく抵抗できんと、ウチはエドガーはんのお部屋に強制的にお邪魔することなったで。

 いや、エドガーはんちはそんな大きくないからな。ここはエミリママとの共同作業が毎晩のように行われとる部屋や。せやから男子の一人部屋にお邪魔するんとちごてそんなドキドキはせーへんで。

 ん? お邪魔するいうたかて、いつもデカパイ好きの健全男子こうやんの部屋で暮らしとったやろって? 何でそんなことまで知ってるん? まさか思うけど、昔のウチの部屋が、足の踏み場がのうて寝る場所もなかったことまで知ってたりするんか?

 まったく、パンツ持って帰るついでに乙女の部屋をつぶさに観察しようなんて、ほんまえっちやな。まさかベッドの下になんぞあらへんやろかとか探ったりしてへんやろな。言うとくけど、そんなところに秘蔵のエロ本はあらへんで。

 なんせいつでも取り出せるように、ベッドの上のそこらじゅうに、ちゃんと片づけといたはずやからな。

 けど、さすがに引っ越したばっかりやったし、ウチの大きさぐらいの寝る隙間はまだあったはずや。まだな。

「ゲホッ、ゴホッ」

「……おっちゃん、風邪、悪化してもてるやん」

 で、現実には、エドガーはんがベッドで横になって苦しそうにしとった。

「あら、おかえりなさい、ミリンちゃん。そうなのよ。この大事な時期なのに。はぁ、困ったわ」

 そこにおったエミリママが、おっちゃんの額に乗せられたおしぼりみたいなんを交換しながら、なんかこう、えろい溜息ついたで。

 うーん? 大事な時期? どういうこっちゃ? 共同作業の営みのことかいな?

 いや、待ってや、確か聞いたことあんで。

「あ~、あれか。おっちゃんが南の村に回らなかん、ってやつか?」

「そう、なんだよ。ゴホッ」

 おっちゃんが苦しそうにしながら体を起こそうとしたで。

「あなた、無理しないで。私からお話しますからね」

 けどな、エミリママがそれを押し留めはった。

「すまないねえ、ゲホン」

「いいんですよ。ほら、ちゃんと横になって」

 ふーむ。知ってはおったけど、ふたりはなかよしさんやな。こりゃあ、そのうちエミリちゃんに弟か妹ができる日も近いかもしれん。

 つまりウチは、もっとエミリちゃんと一緒に長時間のお出かけをせよ、ちゅうことやな。そういうことやったらな、いくらでもまかしとき。

「それでね、ミリンちゃん。あのね、お願いがあってね――」

 

 

「ぶぅん」

「そうやねん。そこでウチはこうやんに聞いたんや。なんでいっつも合体ロボットは奇数なんや? って。しかもなんかそのうちおなごが1人しかおらんわけやろ? 3人ならともかく、5人ってのはなかなかきつい思うわけや」

「ぶぅん、ぶぅん」

「ほんならな、乙女ゲームかてそうやろ? って言い返されたわけや。ウチはそれもそうやなって言うたねん。要するに紅一点がすべてを握ってるわけやな。そういや、コンビーフVとかいう美味そうな合体ロボットかて、おなごはロボット開発者のお孫さんやったもんな。するとやで、もし逆ハーレムエンドとかなってたら、カルピスVっていう次作に繋がらへんかったかもしれへんねんな」

「ぶぅん、ぶぅん、ぶぅん」

「そうか、そうか。さっすがラマねーさん、わかってはんなあ」

 ウチはエッサの街の南門から、街道をずっと南下してるで。

 城門のとこにおったいつものにーちゃんに「おでかけかい? ちゃんとお姉さんの言うことを聞くんだよ?」って言われたで。

 つまりな、ラマねーさんとしっぽり二人旅や。やっぱりなあ、誰かと一緒に旅するんは楽しいなあ。こうやって会話しながらやし、妄想を口に出してまうんを我慢せんでもええからなあ。

 ん? なんでやって?

 ほら、独り言ぶつぶつ呟いてたらな。さっきすれ違った人みたいに、ぎょっとした顔で見られたりしてまうやろ?

「おっと、あそこの十字路を西やな。こっから先は、ねーさん、道案内頼んだで」

「ぶぅん」

 ラマねーさんは「任せとけ!」って漢らしい返答をしてきたで。まあ実際にはウチが引き綱持っとるけどな。せやから一応、ウチが前を歩いとる。

 主街道に比べたら、だいぶキツキツやな。けど、荷馬車が通れる程度の幅はあるな。

 ほんで、このまま行ったら、大きめの村があるはずや。エドガーはんが行商に通っとる村の一つやで。言うても他にも通っとる人はおるやろけどな。けどそんなにはおらんって聞いとる。せやから前にも、後ろにも誰もおらんで。

 さて、もうみんな気付いとる思うけどな。

 ウチは風邪でしばらく寝込んでしもたエドガーはんのな、代打をすることになったんや。英語で言うたらピンチヒッターってやつやな。ちなみにチャンスの場面でもピンチヒッターっていうで。なんでかはわからん。ごめんな、英語はわからんねん。ウチが知っとるんは野球用語だけや。

 代打いうたら、セ・リーグの場合はな。投手が打席に立つ順番が回って来た時に、そろそろ球数が100球越えて限界やしってことで代打が起用されたりするで。せやけど、パ・リーグとかメジャーリーグで採用されてるDH制ってのが今後導入されるかもしれんっちゅう噂やし、そういう機会も減るかもしれん。

 まあウチがこっち来てからまだそんな経ってへんし、まだ導入はされてへんやろ。もしかしたらマンガでようあるこっちと向こうで時間経過がちゃうっていうのが起きてるかもしれんけど、さすがにこっちで200年経ってんのに向こうで20分しか経ってへんとか、やりすぎなことは起こってへんやろ。

 せやけど逆のパターンはあんまあらへんよな。異世界やのうてロボットとか出てくるやつにはたまにあるけどな。なんやったっけ、ブラジャーを盗め、とかそういう名前のにでてきた、ヨコシマ思考とかいうやつや。

 ええとなんやっけ。ああ、そうや、DHな。一応説明しとくとDHっちゅうんは、青魚にぎょうさん含まれてる、アンタガタドコサ酸とは関係あらへんで。漢方と科学を変形合体して出来上がった美容化粧品でお馴染みのマイドドーモ君でもあらへん。今やと、メジャーリーグで一番有名な日本人選手が話題やし、詳しいことは説明せんでええかもしれんけど、ピッチャーがピッチャーだけに専念できて打席にたたんでもええっちゅう制度やで。

 ちなみに猛虎には、たいてい代打の神様っちゅうんがいるはずなんやけど、近年はあんま見掛けへん。たぶん最近のな、マンガの転生やら転移やらに登場しがちな非道な神様のせいで評判落としてるからやろ。

 例えばどんなんやったかな。確か「君、ブサイクだから、やばい蜘蛛とかドラゴンとかいるあたりに送っとくね。私の国にはイケメンと美人しかいちゃいけないの。キャハ☆」って感じなやつとかな。

 ふーむ、それって角ウサギ草原に送られたウチの超豪華版みたいやな。もしかして、ウチが汚れやからあっこに送られたんやろか。せやったらあのクソ女神、ぜったい許さへんからな。

 そのうちお供を2人ほど連れて成敗しにいったるで。ほんで、こーもん見せつけたるわ。ん? 見せつけるんってそれやったかな? 薬を入れたりする場所やし間違ってへん気はするけど。

「そういや、ウサギ草原この近くやった気がするな」

 ってな感じで、ウチはラマねーさんを庇いながら、前を進むで。ウチには不死チートあるからな。安心してウチの後ろにいるんやで、ラマねーさん。

 せやからな、ウチをおいて逃げるんはやめてや。引き綱は死んでも離さへんからな。ちゃんとウチのこと連れてくんやで。

 頼んだで。

「ぶぅん」

 

 

 で、そのまま楽しく珍道中をしとったら、日が暮れてきてしもた。

 あ、ちゃんとこれは想定内やで。せやからモンスター除けの設置されたセーフティゾーンを見つけて、ウチはこれから初体験の準備中や。

 初めての野外での、あれな。

 野宿な。しょーもないことは言わへんで。

 それにしても、初体験が屋外でしたっていう人の割合は、現代日本やとどれぐらいなんやろか。まあマンガの世界だけやからな、ああいうんはな。そういう泥仕合は洗濯とかが大変やからな。

 ん? けど、後始末は実は楽かもしれん。いろいろその場に埋蔵したらいいだけやもんな。ん~? これは悩ましいな。

 そういやなんか、実家の家族にばれへんようにっていうて、農業用の軽トラの上が初体験になってもたっていう、おもろいマンガがあったな。他にええ場所思いつかんかったんか? どのマンガかは言わへんで。ネタバレ厳禁やからな。これ聞いただけでそれ読んでみようとはさすがに思わへんやろ?

 どうしても知りたいいうんやったら、SNSとかで聞いてみることやな。たぶん秒で答えが返ってくるで。世の中暇人ばっかりやからな。そんな暇なんやったら、外出してアラスカにでも行った方がええで。世界情勢の問題があってな、マンガ版以外では行き先がシベリアやのうてアラスカに変更されたんや。

「おっと、いらんこと考えてる場合やない。暗ぁなってまうまでに準備せんとあかんな」

 さて野営いうたら、みんなは何から準備する思う?

 明かり?

 そんなもんいらんで。

 セーフティゾーンの石碑ちゃんが煌々と自分をアピっとるからな。

 焚火?

 危ないやろ。燃え移ったらどうすんねん。ウチが寝てる間にごろんごろん転がって、ほんで、上手に焼けました~! ってなったらどうすんねん。

 そんなんなったら、死にはせんけど、着るもんがなくなってまうやろ。

 テント?

 ウチにそんなもん設置できる思ったら大間違いやで。この立派な細腕を見てみい。

 ほんま君ら、なかなか正解でけへんなあ。

 夜の屋外っていうたらな、必需品があるやろ?

 正解はな、これや。

 ウチはうさぎさんポーチをごそごそしてな、ピンク色しとって丸い台座の上に鉄砲玉のさきっちょみたいなんが付いてる、てのひらサイズのモンを取り出したで。

 ぱっぱらぱっぱぱ~。

「ぴんくろ~た~」

 乙女の秘密道具や!

「ぶぅ~ん」

「おおきに。ツッコミ助かったで、ラマねーさん。さすがにな、こんなふっといもんが入るなんぞ思われたら、心外やしな」

 ……あ、いろいろ伏せ字にすんの忘れてるやん。

 まあええか、これぐらいは勘弁してもらおう。いままでにもっと伏せ字にすべきとこがあったはずやからな。たぶんな。

 冗談はここまでにしとくで。

 こいつはな、寝てる間に、全身キスマークだらけになってまうんを防止するための魔道具や。あっ、すうの、まってや! ってやつな。

 要するに、蚊取り線香のもくもく煙がでーへんやつやで。

 なんでそんなんいるんかやて? モンスター除けはどうしたって?

 確かにな、モンスターはここには入ってこれへんで。でもな、モンスターやない普通の虫は入ってきよるねん。どうやって区別しとるかはしらんけどな。たぶん網目のサイズが違うとかそんなんやろ。

 せやから、これが必要になるんやって。おっちゃんに借りてきたで。一応魔道具やからな、それなりの値段するらしいねん。

 それにしてもなあ、誰がこの現実にもありそうな形状にしたんやろな。もしかしたら、1日1回だけお小遣いがもらえるっていう超便利なチートスキル選んでスローライフを願望しとる、おっきなお姉さんからちっちゃな子までなんでも大好きな錬金術師さんかな。せやったら、きっと本物のマッサージ器についても取り扱ってるはずやで。

 ん? なんや、気になることでもあるんか? そんな心配そうな顔してどうしたんや? お腹でも痛いんか?

 え? 幼女1人でおって盗賊とかに襲われへんのか心配やて? おかしなこというなあ。1人だけとちゃうで。ラマねーさんがおるやろ。ほんま変なもんでも食ったんか?

 それにな、盗賊ってのはな、襲ってくるもんちゃうで。ふらふらやってきた超強い女の子の魔法使いにな、ねぐらに最強魔法ぶっ放されて、大切に抱え込んでる宝を奪われる可哀想な人らのことやで。その宝の出どころはいったいどこやねん、っていうツッコミはしたらあかんねんで。

 まあ冗談はおいとくけどな。

 今から夜になるわけやんか。夜っちゅうんはな、人間たちだけやのうてな、モンスターさんたちかて、ハッスルする時間やねん。

 そんな中をな、盗賊さんたちはどうやって移動するねんな?

 ウサギの角で脅されて身ぐるみ剥がされてまうだけやで。

 せやからな、ラマねーさんの貞操を心配する必要はないで。

 これで安心したやろ?

「んじゃ、寝床を作って、服脱いで。はい、おやすみ」

 よっし、これで前回の予告は回収したで。

 あ、おやつのかったいせんべい食べるん忘れてた。まあええか。腹減ったらそん時にたぶん起きるし、夜食にしたらええやろ。

 あっ! あかん! もっと大切なこと忘れとった。

「寝る前にションベンしとかな」

 これを省略してまうと、他の異世界マンガみたくご都合のええことになってまうからな。ほな、ちょっと失礼して――。

 

 ※

 

 とまあ、こんな感じで次の日に村について、ウチは羊を眺めとるわけやな。

 言うても、いつまでも羊の数を数えてるわけにもいかん。

 ウチは村入ってすぐんとこにあるお宅を訪問や。玄関先で、なにやら作業しとるおばちゃんを見つけたで。

 おばちゃんは自転車の車輪みたいなんの前に座っとる。

 その車輪の手前にはな、なんかこう、細長くてちょうどよくて気持ちよくなりそうなサイズのくびれのあるうまい棒みたいなんがついとってな。おばちゃんが足を動かすと車輪が回って、ほんで一緒にその棒までくるくる回っとる。

 そんでな、ウチが目ぇ回してると、おばちゃんが手に持ってる白いふわふわがどんどん棒に巻き取られていくで。

 これはあれや。

「イトウのチョコチップ」

「糸車だよ」

 そうや、それや。

「見ない顔だねえ、どちらさんかね?」

「あ、ウチ怪しいもんちゃいます。エッサの街のほうからきたんですけど――」

「おや、そのラマはエドガーさんとこのだね。ということはあれかい、お嬢ちゃんはエドガーさんの娘さんかい? 確か7歳の娘っこがいるって聞いてたけど、えらい小さいじゃないかい。ちゃんと食べてるのかい? あたしの5歳の姪っ子のほうが大きいじゃないかいね」

 ……。

 うん、ウチはもう慣れてるから、なんも悔しいことはあらへん。

 説明が面倒なだけや。

「ぶぅん」

 なんや、ねーさん、慰めてくれるんか。ありがとうな。

 ともかく、その後、ラマねーさんのおかげもあって、誤解も解けたで。ウチがあの天使のエミリちゃんやと勘違いされてもたら、エミリちゃんの将来に影を落としてまうからな。

 そんでエドガーはんに頼まれた通り、おばちゃんから羊毛の糸を買いとったで。500マゲカ分や。これがラマねーさんに積み込める限界やな。

 ほんでウチはおばちゃんちに今晩はご一泊や。村には宿屋なんてあらへんからな。エドガーはんもいつもそうしてるんやて。

 せやけど、今日はまだ昼過ぎやな。せっかくやし村でも周ってみよか。ラマねーさんはおばちゃんちでご休憩やな。

「お~、やっとるなあ」

 ぶーらぶーらと村を周ってると、羊の毛刈りの真っ最中やった。おばちゃんに聞いたところ、暑うなるまえに刈ってしまわなあかんのやって。

 ちなみにさっきおばちゃんが紡いどったんは、去年刈った毛らしいわ。今年の毛を入れとく納屋を空にするためにも、大急ぎでやっとるんやと。せやからこの時期、行商人が糸を買いとってくれんと困るわけやな。ほんでないと、溜まっていく一方やからな。

 で、羊牧場の一画で毛刈りが行われとるんやけど、牧場では羊を追いかけとる人がおった。村の人やのうて、雇われた冒険者らしいで。若いにーちゃんやな。

 ん? 誰に聞いたんかやて?

「ほら、タッチ! 次はミリンちゃんがゴブリンだよ!」

「あ、しもた。ええい、まってくれ~」

 ぶーらぶらしとったら、村の子どもたちに捕まってもて、ウチは遊ばれてしもてるわけや。さっきおばちゃんがいうとった5歳の姪っ子も含めてな。その姪っ子ちゃんに冒険者がきとるって教えてもろたで。

「わるいこは、おらへんか~~~?」

「あはは~」

 やっとるんは、ゴブリンごっこ。言われんでもわかるやろけど、おにごっこやな。

 まあ、ウチはとてもやないけど、冒険者さんの手伝いはでけへんで。

 力もあらへん、脚も遅い。たとえモンスターでもあらへん羊やとしても、吹き飛ばされるんがオチやってのはわかっとるねん。

 ま、ウチがこの村にきたんは冒険者としてとちゃうしな。

 村の子どもたちと遊ぶためやしな。

 ……あれ?

 で、その日は何事もなく村にご一泊や。

 問題が起きたんは、次の日やった。

 

 

「よーし、ラマねーさん、今日はエッサの街へ帰んで。荷物はちゃんと固定されとるし、これで万全……」

「た、たいへんだー!」

 なんや。騒がしいな。これは見に行かなあかんで。

「ぶぅん」

「ん、わかっとるで。ラマねーさんはここにおってや。ウチが見てくるわ」

「ぶぅん、ぶぅん」

 ちゅうわけで泊まらしてもうたおうちの裏手にラマねーさんを待たせといて、ウチは表の方にやってきたで。

「あれ? 誰もおらんやん。騒いどった人はどこにいったんやろ?」

 ウチはあたりをキョロキョロしてみたで。

「別に何事もあらへんな。いったいなん……」

 ……。

 …………。

 ………………。

 すちゃっ。

 ウチは無言でウサギ角を取り出したで。

 それを前に構え、ガクガク脚を震えさせながら、立派にその場に立って見せた。下着の替えはないから漏らすことはできひん。

「なんでや。なんであいつがここにおんねん」

 言い忘れてたけどな、村って言うんはな、街ほどの高さやないけど石壁でちゃんと囲われとる。当たり前やわな。モンスター入ってきたらあかんもんな。

 ほんで街と一緒でな。一応、入り口には、村の自警団みたいなおっちゃんがそこでなんぞ異常がないかいつも見張っとる。

 たぶんさっき騒いでたんはそのおっちゃんや。

 今はここにおらんけどな。

 なんでおらんのか。

「ふ、ふん! お前みたいなやつ、また角にしてやんでっ!」

 そらな、逃げたからや。

 ほんまやったら村の入り口にはモンスター除けが仕込まれとって、モンスターが入ってくるはずないねん。それがなんやしらんけど、入ってきとるやん。

「赤ウサギなんぞ、もう、こ、こわなんてあらへん!」

 いや、怖いで。あいつ、赤いもん。

 別に3倍速いわけとちゃうで。角が3倍長いだけや。

 角の長さ合わせたら、体長がウチの背丈ほどになるで。

 怖ないわけないやろ?

 かつて、ウチがこの世界にやって来たとき、あいつにはな、ほんま殺されかけたねん。

 あのぶっとくて長い角に、完全に背中まで貫かれてえらい目におおたんや。

 ええと、あんときはどうやって、倒したんやっけ。

 ええと、ええと。

 ドドドドドドドドド!

「ひぃぃぃぃ!」

 訂正や。あいつ速いわ。ウチに恨みでもあんのか完全ロックオンしとるやん。

 あ、もしかして。

 この角持ってるからか? 仲間の恨み、晴らさずにおくべきか、ってやつか。曇ったままではあかんのか? 最近流行やろ? 曇らせってやつや。

 ん? でも待ってや。あんときと違って、ウチ角持ってるんやから、どもないんとちゃうか?

 よっし!

 信じてるで、不死チート!

「女は度胸や! ばっちこいやーっ!」

 男なんてシャボン玉や!

 ドゴンッ!

 ……あれ?

 いつまでたっても腕が折れたりせえへんな? 衝撃がこうへんで? やっぱりウチ、痛みとか感じひんのやろか?

 それになんやしらんけど、いつの間にか目の前にでっかい壁ができて、お先真っ暗や。

「お、おじょうちゃん、だいじょうぶ……かい?」

 いや、ちごたわ。なんかしらんけど、目の前に人の背中があったわ。その人の肩のあたりからウサギの角が飛び出とるで。

 これはあれかな。ウチのこと庇ってくれたんかな。この人、羊を追っかけてた冒険者のにーちゃんやな。

「はやく、にげるんだ……」

 そしたらその冒険者は、ウサギに振り払われて、ちょいと離れたところにどさっと倒れたで。

「せやかて、逃げろいわれてもなあ。目の前におるもんなあ」

 庇うんやなくて倒してくれんと無理やで。

 ドゴンッ!

「ぐえ」

 そんでウチはもちろんぶっ刺されたで。

 でもな今回はな、この前みたいに石を連打する必要はないねん。

 キラキラ~。

 なんせ向こうが勝手に刺さりよったからな。

 ちゅうわけで、一瞬の相討ちにより、みりんちゃんは2本目の角を手に入れたで! ちゃっちゃら~ん。

「ほんで、にーちゃん、どもないか?」

 ウチはウサギ角のさきっちょで、ばっちいもん触れるみたいにして、倒れとるにーちゃんをちょびっとばかしつついてみたで。

「……う~ん……」

「こりゃ、たぶん気絶しとるだけやな。まあ急所は避けてるみたいやからな。……寝たら治るんやし、問題ないやろ」

 ちゅうわけで、ウチはそっと2本の角をポーチにしまったで。証拠は隠滅しとかんとな。まさかウチが赤ウサギ倒したとか思われたらかなんしな。

 ええと、あいつって正式な名前何やっけ? きらりん☆ラビテーションやったかな。

「ぶぅん」

「あれ? ラマねーさん、出てきてしもたんか。まあええか、このまま帰ろっか」

「ぶぅん、ぶぅん」

「あとは村の人に任せといたらええやろ。なんや遠くからだんじり祭りのだんじりみたいなんもってきとるし、あれたぶん予備のモンスター除けやからな」

 にーちゃんには悪いことしたなあ。

 ヒールポーション1個ぐらい残しておいたらよかったかもな。今度からそうしよ。にーちゃんの犠牲は忘れへんで。

「ほな、さいなら~」

 そしてウチは、誰にも気づかれんうちに村を去ったで。

 みんな知っとるか?

 こういうんをな、立つ鳥しょんべんで濁さずっていうんやで。

 なんせ臭いでばれてまうからな。

 ウチはひっそりこっそり生きていかなあかんねんで。

 

 

「そういえば」

 これはその後、ウチがエッサに帰ってからしばらくしてからな、ギルドマスターのヴィンセントはんとのお昼ちょうどの定例ウキウキおっ茶会でほっこりしてたときのことや。

「南の村に行ってた冒険者の1人が言うにはね。モンスター除けが壊れたせいで、村の中にキラーラビットがやってきたんだってさ」

「ふ~ん」

「で、そこで襲われてた女の子を庇ったらしいんだよ。それで怪我をしてね。でも、気絶している間に、キラーラビットがいなくなってたらしいんだよね」

「へ~ん」

「しかも、いつの間にかその女の子までいなくなってたんだって」

「ほ~ん」

「ねえ、ミリンさん。何か知らないかな?」

「知らんなあ」

「……なら、そういうことにしとくね」

「だから、知らんで~」

「そうだね。冒険者はきっと夢でも見たんだよね」

 ああ、今日もハンサムギルマスのニコニコ笑顔が眩しいなあ。笑ってイケオジってやつやな。あっ、せっかくやしエドガーはん夫婦のためにも、今度はエミリちゃんも連れてこようかな。

 ほらな。

 ウチはちゃんと最後まで隠し通したで!

 みんな褒めてや~!

 

 しっかし、この2本の角なあ。

 売るわけにもいかんし、どうしたもんかなあ。

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