ウチ、ただの行商人やで? 〜異世界転移した関西弁女子はチートスキルに物申したい〜   作:霧島 高

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第11章 夏いうたらアイスキャンデーや。え? 異世界にはあらへんやって?

 ある日、ウチは気付いたで。

 春がおわってしもて夏になったんやって。ほら、1か月ぐらい前に、何かしらの数を数えるために、南の方の村に行ったやんか。

 あんときに、毛を刈る行為が行われとったやろ?

 なんでかいうたらな。「ねっ、チュウしよう」からの激しい運動をするんに、あそこの毛が長いままやとな、こそばゆうて邪魔やねんな。それにな、そのまま朝を迎えてしもた場合、暑さのあまりに早起きになってもて、ほな時間もあることやしもう1回ってなってまうわけや。そんなもん1回で済むわけないわな。そういう症状を予防するためのもんやねん。

 羊さんの話やからな。君らいったい何を想像しとるんや?

「また変な事、考えてるよね?」

「失礼やな。ウチはいつも真面目な事しか考えることができひん、正真正銘の真面目ちゃんやで」

 ギルマスの部屋で、あかんでルナ先生みたいな妄想なんていったい誰がするねん。常識で考えてや。

 それにな、この神聖な銀髪イケオジヴィンセントはんのいらっしゃるこのお部屋で、そんな妄想したことなんて……、今まで数えるほどしかあらへんはずや。たぶんやけどな。

 ところでヴィンセントはんといえば、ウチの大好きなソロさんを演じているハリソンさんにクリソツなわけやけど、コーヒーが大好きな宇宙人とはちゃうほうのジョーンズさんでも有名なんよな。

 ジョーンズさんはいろんな遺跡を見学しとるただの観光客なんやけど、いつもどえらい目に遭っとるわりにケロっとした魅力的なスマイルで生還してくる、超絶カッコいいお人やで。つり橋から人喰いワニのいる川ん中へ落ちそうになったり、生きたまま心臓くり抜かれそうになっても、いつも運よく助かるっちゅう、神の申し子みたいな人やな。

 やっとることは、神さんに怒られそうなことばっかりやけど。

「おっと、そろそろお暇すんで。暑いからいうて、ここで一日ダラダラ過ごしとるんは、立派な大人の過ごし方としては失格やからな」

「ミリンさんはまだ子どもだから、別にいいと思うけど?」

「あんな、さすがにそれなりに長い付き合いやし、それが冗談なんはわかるで」

「ははっ、わかっちゃった? でも私としては、ここにずっといてくれてもいいんだけどね」

「いらんこというてんと、ギルマスもちゃんと仕事せなあかんやろ。だいたいウチがここにおったって、ギルマスの仕事なんか手伝えへんで。そもそもウチはただの行商人やし冒険者ギルドとは関係ない……、いや一応冒険者もしとったわ」

「ミリンさんって、忘れっぽいよね」

「いらんこと覚えてたら、大事なことが覚えられへんようになるからな。大事なことも忘れてるやろって? うるさいわ、その通りや! ……ともかく、ウチはやることあるし、失礼すんで」

 ちゅうことで、ウチはさっさと出てったで。

 しかしやな。もうギルマスの部屋入るのに、完全フリーパス状態になってしもとるけど、なんでなんやろな。職員の皆さんもなんでかしらんけど、ほんまやったら関係者以外立ち入り禁止なはずのゾーンを歩いとっても、誰もお咎めせーへん。

 これ、向こうの世界で迷い込んだフリして入ったら、「あ、ダメだよ。ここは永遠の17歳の人を除いて18歳から。あと10年経ってからね?」って、そこにおったお姉さんから追い出されてまう場所なんやけどな。

 わかるやろけど、あと3年で堂々と入れるはずやったのにそう言われたで。たぶん3年経っても、やっぱりおんなじこと言われて追い出されたやろってのは想像できるしな。

 なんせ3年後にウチが「おや、みりんの様子が……」とかいいながら進化して、白いドレスの似合う大人なエスパーお姉さんになってる可能性は、100パーセントあらへん。何かに目覚めて大人の階段上るための石をつこうたらできるかもしれへんけど、その場合格闘好きになってもて、ついでに性別も変わってまうからな。それはちょっと嫌やな。せめてグローブぐらい使わせてもらえへんかな。

 しっかし夏やのに、あんま暑ないねんなあ。嬉しいんか、悲しいんか、ようわからんな。暑いからこそできるっちゅう妄想が捗らへんやん。

 ちゅうのもな、どうも聞いたら、ここはコピア王国ん中では北のほうにあるらしいねん。せやし、40度近くなるような場所で暮らしとったウチからしたら、天国みたいな快適空間なわけや。

 せやから素っ裸になる必要もあらへん。

 ほんまな、助かったで。もしこれ以上暑いんやったら、いつも気ぃ抜いてまうヴィンセントはんのお部屋で、ウチの汚いもんを堂々とお見せしてまうところやったわ。

 けどなあ、夏になったら、絶対せなあかん定番があるんやけどなあ。こっちでは必要なもんが手に入らへんねんなあ。

 それはな、エアコンの効いた快適な家族不在の男子の部屋をな、幼馴染でも義妹でもなんでもええんやけどテキトーな女の子が訪れてな。ああ、こりゃ外が暑くて出かけんのもイヤやし、今日は部屋んなかで過ごそうやってなったときに「じゃあそろそろ」って言いながら男子が取り出してくる、カチンコチンのかったーい棒状のあれや。

 なんやわかったか?

 正解はホームランバーな。ガリガリ君でもええで。

 そんでやるんは、どっちがあたり棒を引き当てるか対決な。

 けどな、なんでか幼馴染のこうやんと対決したときは、いつもウチが負けて、罰ゲームを受ける羽目になるで。せやけど、こうやんには「みりんに与える罰ゲームなんてなんも思いつかんわ」って言われて結局なんもせーへんままに終わってまう。

 別にこうやんが優しいっちゅうわけやない。なんせな、裸になれとか言われてもそもそも最初からマッパやし、ウチが大の苦手としとるお化け屋敷に連れていかれたかて、被害を受けるんはこうやんのほうやしな。

 何のことかわからんのやったら思い出す必要は一切あらへんで。ウチの恥ずかしエピソードなんて忘れてもらうに越したことはないからな。せやから前回のお話とかもう1回読むとかしたらあかん。……あかんで。あかんからな?

 ともかくや、こうやんと対決した時は、ウチがいっつも負けるねんな。夏祭りにな、友達何人かと一緒に行ってくじ引きした時も、ちっちゃい子はみんな大好きピカピカリングぐらいしかもろたことない。それにな、なんやったら迷子防止用や言われて、外せへん呪い装備みたいにひかりもんは最初から付けられとったから、めっちゃ無駄やねん。けどめっちゃ光るんはやっぱ面白いし、マシマシにしてつけてたけどな。

 想像はつくやろけどな、そんなんしとるのに、出店でみんながなんや買いに行っとるんを座って待っとったら勝手に迷子扱いされて、本部テントっちゅう迷子センターにいつの間にか連れて行かれとった。けど案内放送される前に、したり顔で颯爽とこうやんがやってきて、ウチは予定通りに回収されたわけや。

 その後はな、こうやんが持っとったかき氷を、2人でわけわけして一緒に食べたで。ほんなら花火の時間が迫って来たから人がぎょーさんになってきてもて、しゃあなしやからその後はずっとこうやんに引っ付いとったで。背負われたり、抱っこされたり、肩車されたりな。

 ちなみにウチは浴衣を着とった。子ども用の簡易バージョンな。着るのも楽やし、買い替える必要もないから、おとんが昔こうてくれたやつをずっと使えたで。そのせいで迷子扱いされた疑惑はあるけど、普通の服着とっても結局変わらんかったやろって気もするで。

 それにしてもよう考えたら、はぐれてしもて二人っきりになったり、鼻緒が切れたわけやないけどおんぶされたり、おんなじもんを一緒に食べてさらに花火も見たりとか、まるでラブコメ定番の夏祭り浴衣デートみたいやな。あれってな、クリスマスの告白に向けて助走をつけるための定番イベントやねんな。だいたいな。

 ちなみに大人のコーナーでしか入手できひん本の場合は、大抵そのまま会場の隣の林あたりで、浴衣が大変お乱れすることになるで。花火と同時にクライマックスや。

「ほんで、今日はなんかおもろい依頼あるかいな、っと」

 さて、しょーもなくて短い思い出話はこのへんにしとこか。

 さっさと掲示板を見るで。

「よっこらせ」

 いつのまにか常備されるようになっとる踏み台つこて、ウチは首が痛くならへんのを嬉しゅう思いながら、並べられとる木札を眺めてみたで。

 しっかし、なんでこの踏み台、置かれるようになったんやろな?

 誰かちっこい冒険者でも来るようになったんかな? もしかしてこの世界って、そういう小人みたいな種族とかいたりするんやろか?

 けど、せやったら前から置かれとってもおかしいないよなあ。そもそも高い位置に掲示板つけるんが間違っとるで。

 ほんま、なんでやろなあ?

 君ら、理由わかったりするか?

 ……え? なんで、そんな可哀想な目でウチを見てるん?

 そら、もうアイスクリンが手に入らへんことはショックやけど、そこまで気にしてくれんでもええで?

 

 

 残念やけど。特におもろい依頼はあらへんかったわ。

 そもそもウチは依頼を受けようとかおもて見てたわけちゃうしな。ウチはしがない行商人やからな、冒険者のやるような危険なお仕事はせーへんねんで。

 せやけどもしかしたら、商売に繋がるような依頼があるかもしれへんやろ?

 例えばな、あそこでとってもにこやかスマイルしながら心の中ではぺっぺっと唾吐いてそうな、大きな胸した受付のねーちゃんにかつてぐいぐい押し付けたことのあるウサギ毛玉を集めよ、みたいなミッションがあるかもしれへんわけや。せやったらそれにチャレンジする冒険者のために、ウノーミの街いってヒールポーション仕入れてきてこの街のバザールで売るとか、いっちょやってみよかな、ってなるわけや。

 残念やけど、毛玉の依頼は出てへん。まあしっとったけどな。服屋さんの綺麗なおねーさんこと、アミーちゃんとは結構顔合わせとるから、そんときに話は聞いとるからなあ。買い取りしてへんわけやないけど、依頼出すほどではないらしいわ。依頼出すと手数料かかってまうからな。

 まあ依頼出さんでもようなったんは、それこそウチがこの前ヒールポーション売っとったからやろけどな。

「そういや、名前忘れてもたけど、ちょいぱいエルフさんにしばらくおうてへんな。うーん、なんやったかな。乙女にとって大事なこと、なんぞ聞きに行かなあかん思てたような気もするなあ」

 ん~? なんか1か月と関係あった気もするけど、なんやったかな。1か月っていうたら、だいたい夏休みの期間がそれぐらいやな。なんで1か月もあるのに、ちょっとしかあらへんはずの宿題が一切進まへんのか、いっつもわからへんねん。

 そもそも、宿題があったん気付くんは始業式の日やからな。

 ふーむ。もしかしたら頭の良くなる薬あらへんかな、って聞こうとしてたんかもしれんな。エルフさんの頭を悩ませる羽目になってまうだけかもしれんけどな。それかやっぱり「ずるは、めっですよ!」って言われるんかな。

「あかん、グダグダしとったら昼になってまうで。さっさと次いくで。バザールの定期巡回やな」

 なんて思ってな、振り向いた時やった。

「キラーラビット、見たって? なあ、どこでだ? 頼む、教えてくれ!」

「お、落ち着いて。見たはずなんだけど、いつの間にかいなくなってたんだ。だから、夢かもしれないから……」

「それでもいいから!」

 羊の村で見かけたかもしれん冒険者の人が、何やら詰め寄られとったで。

 ……。

 それに詰め寄っとるほうも見たことあんな。というか、ウチが一方的によう知っとる、黒髪男子やな。

 さて、知らんぷりして、このまま外に――。

「あ! みりんちゃん、久しぶりだね!」

 しかしまわりこまれてしまった!

 でろでろ、でろでろ、でろでろ、でーろん。

 音楽間違ってしもたから、ついでに呪いも受けたかもしれん。

「あんな、さやちゃん、それはないで……」

「ん、どうしたの?」

 さて、たぶんみんなにとってはもう記憶の彼方になってたり……はせーへん思うし、説明は割愛するけどな。このウチの退路を塞いどるさやちゃんいうんは、ウチと同じバスに乗っておんなじようにこの世界に転移してきた、魔法が使えるようになるチート持っとる、弟妹多めで世話焼き気質の艶やか黒髪同級生美少女や。

 けど正確にはまだ入学式前やったし、同級生のあとにifってつけなあかんかもな。どうでもええけど、IFって遠くから見たら17に見えるな。なんか関係あるんかな。さすがに夏休みっちゅう短い間に、17人の同級生のおなご全員と付き合うんは、修羅場しか生まへん思うで。でもなあ、最近は100人ぐらい彼女がおったりする人もおるから、めっちゃ少ない気もするねんな。

 それにしても、ウノーミを拠点にしとるはずやのに、このエッサの街になんでかしらんけど来とるんやなあ。

「あ、さや! 聞いてくれ! キラーラビットの目撃情報だ!」

 そしてさっきの黒髪男子は、さやちゃんのお財布……やのうて、片想いなんか、両想いなんか、それとも両片想いなんかようわからん、これまたウチの同級生のあずま君やな。

 同級生やからいうても別にな、そのルートを攻略する気はまったくあらへん。ウチの好みは、もっとこうダンディーなお人や。エレクトな羊をこうとる未来世界の賞金稼ぎしとるデッカードさんな。本日すでに3回目の登場のハリソンさんな。

 決して美少女を寝取ったりするつもりはないで。いらんのやったら、もったいないしもらうけどな。

「早速出発……、あれ?」

 そして、ついに今までツチノコのまねして避けとったのに、ウチはあずま君に発見されてしもた。

 初対面や。これはもうトラブルの臭いがぷんぷんするで。納豆みたいなたまらん臭いや。

 そらな、お二人は関東のお人やし、それだけでご飯3杯いけるかもしらんけど、ウチはなんと大阪人やねん。本場の納豆みたいな耐えられへんぐらいの強烈な臭いが付いたら、カラカラになるまで日干しして臭い抜かんとあかんようなってまう。おひさま燦々(SANSAN)パワーが不足してまうと、自らを制御できんぐらい狂気の状態になってまうからな。

 ようみんな納豆みたいなヤバイもん、いやいや(イアイア)食ぅとるな。

「その黒髪もしかして……、さやの妹もこっちに来ちゃったの?」

 ずっこー!

「お~ま~え~は、あ~ほ~かっ!」

 あんな、さやちゃんの妹、確か二人おったはずやけど、どっちもこんなぶっさいくな女なわけないやろ! 可哀想やろ!

「違うよ、あず君。二人とも小学生だけど、こんなに小さくないよっ! 知ってるでしょ?」

「ぐふっ!」

 さやちゃんの会心の一撃!

「……ぐすっ。しくしく」

 みりんは泣いてしまった!

「ど、どうしたの、みりんちゃん? よしよし、大丈夫だよ~」

 さやちゃんはみりんに、ぱふぱふをしてあげた!

 みりんはうっとりしている……。

「ほわ~ん……、って、なんでやねん!」

 ともかくや、こうなったらあずま君にも説明せんとあかん。

 ウチがちゃんとした大人やってことをな!

「えっと……、それでこのちびっこ、誰?」

「ちびっこいうなや。いや、どうみてもちびっこなんやけど、そうやない! ええい、とりあえず場所変えんで! ここで話しとったらみんなの迷惑やからな。ついでにウチにも迷惑やからな!」

 さてな、ギルド内の連れ込み宿っていうたら、あそこや。

 賢明な君らやったら、どこかもうわかってるよな?

 さっきウチがお暇したばっかりの、めっちゃカッコいいラスボスのおる部屋や。

 

 

「帰ってきたで~」

「おかえり、ミリンさん。お腹でも減った? 何か忘れもの? それとも……」

 あれ? ここってウチの家やったかな? 新婚の旦那さんが帰宅したときみたいな、甘々ですっぱい台詞を食らってる気がするで。

 けど、現代日本は夫婦共働きばっかりやから、実際にはこんな場面はほぼないやろ。っておもたけど、ここ異世界やったわ。下宿させてもうてるおうちのご主人のエドガーはんが、嫁はんに似たようなこと言われとるんを、かなりの頻度で目撃しとるわ。

「いや、ちゃうで。事情があって、この二人を連れてきたんや」

「だろうね。どちら様かな? なんとなくわかるけどね」

 ウチとヴィンセントはんの、「あ」と「うん」の何番目かの呼吸で、すぐに話が通じたわ。

 はい、ほな今から、自己紹介タイムやからな。

 名前だけやのうて、おもろいことも言うんやで。何も思いつかんのやったら、ウチが代わりにテキトーな下ネタ言うたろか?

「あ、わたしは、さやです。ウノーミの街で冒険者をしています」

「……」

「ほら、あず君もっ」

「あ、そっか。俺は、川――」

 ひっ。

 あれ? なんか急にぶるっと寒気がしたで。

 ションベン漏らしてしまいそうや。お茶飲み過ぎたかもしれん。

 けどなんか、この冷気は近くの可愛い女の子から、もう一人の男の子に向けて発せられてるような……。

「あっ、いや……あずまです。同じく、です」

 あずま君がそういうたら、すっと冷たい風が吹き止んで、ほんでちらりとさやちゃんを見たら、その表情には花丸が浮かんどった。

 うん、ちゃんとウチが、フルネームいうんはやめとき、って言うたこと守っとって偉いで。ついでに、川〇あずま君にも強制的に守らせとって偉いで。こういうんは、伏字にしても大してエロくはならへんな。

「さやさん、それに、あずま君ね。私はヴィンセントだよ」

「ちゅうわけで、ちょいとだけこの部屋貸してな。大した話やないけど、秘密の話があるねん」

「どうぞ、どうぞ。私のことは気にしないでいいからね」

 てな感じで、応接セットをお借りしたで。ウチは二人を椅子に座らせて、いつもはヴィンセントはんが座っとるところをお借りしたで。さっきまで座っとったからか、ほんのり暖かいな。

 それに気分はギルマスになったみたいや。これでヴィンセントはんと一心同体やで。

 ……いらんこと考えてたら、なんや背後におるヴィンセントはんのあたりから、生暖かい視線を感じる気がしてきたわ。

「ともかくや。そっちのあずま君には初めましてやけど、ウチはみりん、っちゅうただの行商人や。ほんで、もうさっさと言うてまうけど、君らの同郷のもんや」

「あ、そうなの? え? でもさやからは、この街に同級生の女の子がいるって聞いてたけど、他にもいたってこと?」

「そういう流れになるんは最初から全部わかっとるけど、ウチは君らと同じ年やで」

「え? 嘘だろ? だって、どうみても小学生以下だし、それに……」

 それに、なんやねん。はよ続きを言うてみいや。

 あずま君の視線が、ウチの顔よりちょいとばかし下にいっとるけど、一体どこを見とるんやろなあ? ウチの薄っぺらいせんべいみたいな、2枚の何かを探しとるんやろかなあ!

 でも実際には服で隠れとるからわからんやろけど、そこにはせんべいの厚みすら存在せえへん虚無が広がっとるねんで。

「なあ、あずま君、もうちょっと周りを気にしたほうがええで」

 君の隣におる可愛い美少女な。君の方をにこにこしながら見つめとるけど、一切目が笑ってへんで。うちにはそこに、はにゃーんの仮面が見えとる。怒り顔のこわーい猫ちゃんな。

「え?」

 けど、あずま君がそっちを振り返る直前に、いつもの可愛い笑顔に戻ってもたで。

「ねえ、みりんちゃん。1つ聞きたいんだけど」

「ん? なんや?」

「あの人って、誰なのかな? もしかして、とは思うけど……」

「思ってる通りやで。ヴィンセントはんは――」

「ミリンさんのボーイフレンドだよ」

 ガンッ! いたたた、机で頭打ったで……。

「えっ!? って、大丈夫、みりんちゃん?」

「そんなわけあるかいな。しれっと会話に混ざって嘘つくんやめてーな」

「ふふっ、すまないね」

 見た目イケオジやのに、この人、なんや中身はだいぶチャラいねんな。そういうギャップも嫌いやない、っちゅうかハリソンさんはじめ、ハリウッドスターな俳優さんってみんなそういう感じやったわ。

「で、結局誰なんだよ、このおっさん?」

 あずま君、ぼっしゅーと、やで。

 ウチの大切なヴィンセントはんをおっさん呼ばわりとは、なかなかええ度胸しとるな。

「この人、ここのギルマスやで」

「やあ、ここのギルドマスターだよ」

「ついでにいうと、ウチが異世界から来たいうんはバレとるで。せやし、どうせ君らのことも察しとるから、ここに連れて来たんや」

「いやあ、その通りだよ。ミリンさんには敵わないなあ」

 というわけで、やっと話が進むわ。

「で、ギルマスのことはどうでもええけど、さやちゃんらはなんでここにおるん?」

「それ、どうでもいいのかな……。えっとね、わたしたちウノーミでちょっとした頼まれごとしちゃってね――」

 というわけで、ウチは二人がここに来た経緯を、さやちゃんから聞いたで。

 ん? あずま君喋ってないけど、どうしたんかって?

 そんなん、だいたいわかるやろ。

 さすがにギルドマスターに舐めた口聞いてしもたんを気にしとるんか、ハブに睨まれよったマングースみたく、石になっとったわ。なんか色々間違ってる気もするけど、だいたい伝わるやろ。

 ちなみにマングースがハブ退治にまったく役立たへんのにめっちゃ増えてもて、今度はマングースをバスターズするための組織が結成されたって聞いたで。掃除機みたいなん担いだ世界的に有名な配管工兄弟の緑の弟くんも、ウチが怖がらへんように幽霊退治するついでに頑張ってくれてるんやて。おおきにな。

 せやかてな、ウチのヴィンセントはんは、そういうの、あんまり気にしてへん思うで。たぶんな。

 ……ちらっ。

 バチッ。

 あ、背後をちらりんこしたら、ウチとばっちし目が合ってしもて、本場のウィンクとやらを飛ばされたで。ずっきゅーん、ってなるやつやな。

 これ、どう捉えたらええかわからんけど、まさか班行動みたいに連帯責任とか言われへんやろな……。

 いっつも社会見学とかで班員の皆さんにご迷惑をおかけするんは、ウチの仕事なんやけどな。理由はもう説明せんでもだいたいわかるやろし、みんなのご想像におまかせすんで。

 え? いくらでも理由が浮かぶやて?

 全部まとめて正解やから、安心し。

 

 

「仮面〇〇ダー、変身! ベルトの風車ぐるぐる~! そして、とうっ‼」

 ジャンプ!

 そして場面は変わって着地! シュタッ!

「やってきたんは、ウノーミ中央地区や。ここで怪人がいつもどおり美人さんを捕まえて、ばっちいことしてたりは……せーへんで」

 ちなみに〇〇に入るんは、ライではあらへん。そっちは真面目なストーリーやし、あんまおもんないからな。せやから〇〇に入れるべきなんは、プロ野球選手がたまに目の下に貼っとるような、太陽の光すら吸収してまう美味しく四角い暗黒物質や。

 何のことかわからん君らのうちの何人かは、きっとあらすじとか読まへんタイプやろ。

「さってと、この前来たときは、確かあのへんに……」

 あ、本気にはしてへんやろけど、一応言うとくで。

 あの世界的なふしぎ発見みたいにしてあずま君にみつかってしもうた後、ヴィンセントはんのおるまえで堂々と色々設定のすり合わせをしてからのことやけどな。

 ウチは自慢の短いあんよで、ちゃんとここまで歩いてきたで。

 せやからな、プレイヤーの不満にお答えする形でだいたいのロールプレイングゲームやらにはお約束でついてるような、それか世界が広がりすぎたせいでちんたらやってる暇あらへんなってしもたような、死霊の盆踊りみたいな名前で始まる異世界マンガをはじめ、その他多数の作品に採用されとる瞬間湯沸かし装置的なんをつこたわけやないで。

 だいたいそんなもん、この世界にはあらへんやろ。あったら行商人がみんな廃業してしもて、夜のお仕事しかできひんようになってまうわ。

 せやからエッサの街から領都のウノーミまで来んのにな、だいぶ前にもう直っとった新品の橋をつこうたわけや。だいぶ前ってことは、つまりもう中古になってもたってことやし、誰か知らん人に先を越されてしもうたわけやけど、橋1つで妄想なんてしとったらそれだけで尺が足らんようになってまうからやめとくで。

 まったく、吊り橋1つ渡るだけで美人教師のパンツとブラジャーが脱げる妄想までするやつなんて、どこぞのアホ幼女ぐらいしかおらへんわ。

 勘違いしたらあかんで。ウチのことや。

「お、あれや、あれやで!」

 さて、今回ウチが探しとるんは、あのマークや。ほら、もういつのことやったか忘れたけど、なんや君らの中の誰かから至極まっとうな本当のことを言われてぐうの音もだせんくなったウチが激怒した時、その誰かのどたまを叩いてご丁寧に身長を小さくしてあげるのにつこたあれや。

 ところで、ウチがウノーミ中央地区で以前しとったこと、君らちゃんと覚えとるか?

 そう、それや。有名なラーメン屋さんの周りには、有名やないラーメン屋さんが多数あるってことな。美味いかどうかは入って確かめるしかないで。

 つまりな、表の看板のお店やのうて、その裏手に行くわけや。ちょいぱいエルフのチューチューアイス屋さんも、目立つポーション屋さんの裏にあったからな。

 ウチの目的のお店は、たいていなんでか裏側にあるねん。裏なんとかっていうんは、すっごく知的な感じがして、どうしてもときめいてまうな。

「ん? あれは……」

 おおっと、これは危ないな。さすが裏やな。

 ウチはその裏通りに入ろうとしてたところで、すっと物陰に隠れたで。いやそんな都合のええ物陰なんかないから、壁にへばりついただけやけど。

 そもそも裏通りや言うたかてな、ナイフをあめちゃんと勘違いしてぺろぺろしてるモヒカンさんがいるようなところとちごて、普通に人が並んで歩ける明るい場所やから、どこにおってもモロバレやで。

 具体的に言うたら、京都の市内の一部のいけずな人しかわからんような、わざわざ読めへんように難しい漢字をつこうて書かれとる、なんとか通りみたいな場所な。

 ちゅうのもな、なんや向こうの方から、こっちの人にしても身体の大きな人が、なんかちょっと肩を落としながら縮こまって歩いてきてるねん。いやほんまでっかいなあ。冗談抜きで、ウチの倍ぐらい身長あるかもしれん。

 それにお胸もでっかいな。スイカップ受付ねーちゃんには負けるけど、毛玉受付ねーちゃんと比べても遜色はあらへんで。背がデカいからあんま目立たへんけどな。

 ふふん! そういうのだけには目聡いウチは誤魔化されへんで!

 そうやねん、めっちゃ背え高いけど、女の人やねんな。アミーちゃんとちごて、生まれたときから女の人やで。いや、アミーちゃんも生まれたときからそうかもしれへんけど、こういうのはどう言うんが正解なん?

 ともかく、ウチはカメレオンやで。見つからへんようにじーっとしとくで。このままやと寝てるんかなって勘違いされるかもな。

「よし、行ったな。作戦成功や」

 いや、よう考えたら別に隠れる必要なかったかもしれんけど、念のためや。一応な。

 いろんなもんデカいんやから間違いのう現地の人やろけど、黒い髪してる人はどうしても避けてまうねんな~。

「さて、気を取り直してレッツゴーやで」

 それにな。

 ウチが思わず憧れてまう目立ってしゃーない体型したあんな女の人は、女神空間にはおらんかったはずやしな。

 

 

 さて、ここは、前回と同じで行くで。

「ごめんくださいっ! どなたですねん? ウチ、行商人のミリンいうしがないもんですっ! あらま、どうぞ、お入んなさってくださいな! おおきに、ありがとうっ!」

 ……。

 あ、あれ?

 返事があらへんな。まるで無人の販売所みたいやな。

「おおい、だれかー、おりませんやろっかーっ!?」

「……」

 あっれー? ほんまに誰もおらんのやろか。不用心やなあ。

 けどなあ。なんかこう、あそこにおいてある衝立の向こう側に、誰かおるような気がするんやけど……。

「だれぞ、返事しておくれー!」

 どたどた~。

 お? 衝立の先やのうて、奥の方から誰か来たみたいやで。

「お待たせしてごめんなさい」

 それはな、女性や。

 さっきみた女の人よりずいぶん小さくて、なんやったらウチよりちょっと背が高いぐらいで、ほんま変わらんぐらいや。

 せやけど、これはまさしく。

「ドワーフの女の人やな」

「はい、ドワーフのハンナですっ」

 さて、今回もあれやるで。

 ドワーフもな、エルフと同じで昔とは変わってしもとる。

 言うてもエルフに比べて、大幅に変更が加えられとる訳やない。

 なんでかいうたらエルフとちごて、ほぼ男性しかでてこーへんからや。つまり読者層の問題、すなわち君らのせいや。

 そのせいで男性ドワーフ言うたらな、今も昔も相変わらずなんや。樽のようにぶっとくて背の低い、長いおひげが特徴の力持ちやな。

 けど、問題は女性ドワーフや。

 王道はな、ちょいとだけ体に丸みがあるけど男性とほぼ変わらん見た目ってやつや。つまりずんぐりむっくりで、お髭まであるタイプな。そのせいかしらんけど、女性のドワーフは奥ゆかしくて人前にはでてこーへんみたいな設定の場合もあるで。

 実は出てきとるけど見分けつかへんだけやけどな。

 さて、お待ちかねのもう1つは、おそらく最近の流行や。

 説明はめっちゃ簡単やで。

 ウチみたいなつるぺた幼女タイプな。ウチよりは随分マシな上に、もちろん可愛いけどな。

 あれ? この説明、エルフの時にもおんなじことしたような気がしてきたで。けどドワーフっちゅうんはエルフほど長生きとはちゃうからかしらんけど、のじゃろりドワーフっちゅうのはおらんねんな。ウチが知らんだけかもしれんけどな。もしあるんやったら、誰か紹介してくれへんかな。

 まあつまりな、キャラが被ってまうから幼女エルフと幼女ドワーフは同じ作品には登場せーへんわけや。幼女ドワーフが出る場合は、昔ながらエルフもしくはボンキュッボンなエルフが登場する場合も多いで。

 危険な暗い森の一軒家で細々と武器とか作って生計をたてとるチートなおじさんが、多種多様な種族の女性と動物のメスたちに囲われとるのに、一切手ぇ出さへんっちゅう、刺激的なスローライフを送っとるようなやつとかな。

「それで、うちの鍛冶屋になんのごようですか?」

 さて、この女性……年齢がわからんけど、たぶん若めのドワーフさんやと思うから、仮にドワーフお姉さんってことにしとくで。

 典型的ドワーフらしく背は低く、そして体はマッチョや。

 せやけどな、髭はあらへん。

 ……この世界の種族は、なんや全然、ウチの知っとるパターンに当てはまらへんのやろか。

「あんな、その前にひとつ聞きたいんやけど」

「はい?」

 そして、エルフ、ドワーフと来たら、あの種族のことを聞かなあかんと天のお告げがきたで。

「ドワーフさんより背の低い種族って、おらんの?」

「ええと、聞いたことありませんね」

 これだけは絶対に聞いとかなあかんやろ。

 だって、エルフがおってドワーフがおるんやったら、あの小人みたいな種族もおってええはずや。

 それがおらんやて。

 なるほど、なるほど。

 せやったら、ここはだいぶ奮発したろかな。

 ここは一発、ウチが開祖になって、ミリットっていう種族を……。

 あ! まって、タンマ、タンマや、今の無し、今の無しな!

 これはたぶん、やってしもたら訴えられてまうやつや。やるんやったら、ハーフミリングとかにしとかなあかん!

 なんや、君ら文句でもあるんか?

 は? ウチみたいなんが、子育てなんてできるんかやて?

 あんな、あほいうなや。世の中にはな、ちっちゃい頃に裸の付き合いをしとった中学生男女が、全然そんなこと覚えとらんところに急な同居が始まってもてな。そんで、なんでかしらんけど家族がみんな海外に行ってもた上に、いつの間にかできとった赤ちゃんが宇宙から降ってきて、ついでにやってきた猫と犬をフュージョンした何の役にも立たへん謎の毛むくじゃら一匹とその二人しかおらんなってもな、そのだぁだぁとしか言わへん赤ちゃんを育てあげることかってできるんやで。

 うちはあの子らより1つか2つは年上なんや。見た目以外は何の問題もあらへんやろ。

 ところで誰か、ちいぱいを赤ん坊にくわえさす方法を教えてくれんか? 心の友のちょいぱいエルフさんなら知っとるかな? 目の前のドワーフお姉さんは割と胸があるし参考にはならへんな。

 まあその前に、天空を漂っとる城から大切なただの石ころ持った赤ちゃんが、ウチのところにふんわりと舞い降りてこなあかんけどな。

 え? それやと、ウチの遺伝的な子どもにならへんやろ、やて?

 あんな、乙女はな。おててをいつも繋いで歩けるぐらい親密なお相手がおらへんのやったら、コウノトリさんが子どもを運んできてその乙女の腹ん中にぶち込んだりはせーへんねんで。

 そんなもん、ウチには無理やろ? わかってんねん。

 体型の問題やない。お口の問題や。

 治す気はまったくないで。

 たとえ、この先どんなことがあったとしてもな、譲れへんもんがあるねん。

 セ・リーグ首位の座な。

 

 

「それでその、ご用件はなんですか?」

「あ、せやった。実はな……」

 妄想を直ちに中止したウチは、がばりんちょ、とウサギさんポーチを開けたで。

 今回はあんまりガサゴソせんでも、目的のブツはみつかるからな。ささっと取り出すで。

「実は、ここだけの、内密の話があるねん」

 言い忘れてたかもしれんけど、ここは背の低いドワーフさんがやっとる鍛冶屋さんや。

 つまりな、カウンターはちょいぱいエルフさんとことおんなじで、ウチにとっても優しい低め設計やで。せやけど、お客さんがヒューマンさんばっかりやろから、低すぎってことはあらへん。

 その証拠に、ドワーフお姉さんは踏み台つことる。

 ……こっち側にもあれ、おいてくれへんかな。

「よいしょっと。まずは、こいつを見てほしいんや。こいつをどう思う?」

「わぁ! すごく……長いです! キラーラビットの角ですね!」

「せやねん。ちょいとばかし伝手があって入手したんやけど、ここでなんや欲しがっとるって聞いてな、持ってきたんや」

 こいつは1か月ほど前のあの春の選抜大会で手に入れたばっかりの、新鮮赤ウサギ角や。

 初期から使ってるほうも見た目あんま変わらへんけど、一応区別はつくで。なんせ初期品には木炭つこて、みりんって、ひらがなで名前書いとるからな。消えかけるたびに何度か書き直してるで。

 まあ落としたところでそのまんまネコババされるだけかもしれへんけど、一応な。習慣みたいなもんや。

 ガッコやと、消しゴムやら、ハンカチやら、パンツやらいろんなもん落としてもたからな。パンツに関しては名前書いてなかった気もするけど、それでもいつもウチのもんやって判明して、必ず戻ってきたけどな。

 なんでやて?

 そんなもん落とすやつ、ウチ以外におらんからや。

 夏場は暑いから、はくん忘れるねんな。水泳の後とか特にな。気にせんでも、ウチのスカートめくりするような命知らずは、どこにもおらんかったで。

 見たら泡吹いて倒れるだけやからな。

「で、これおいくらで買い取ってもらえるんやろか」

 もちろんな、ここの鍛冶屋さんがこれを欲しがっとるいうんは、さやちゃんから聞いた情報やで。

「はい、1200マゲカで引き取らせてください!」

 ほっほう、聞いてた通り、ええ値段やなあ。

 もはや遥か過去の話、と言いつつ2か月くらい前の話やけど、ウチとエドガーはんが運命の出会いを果たしたときに、この角は1000マゲカぐらいで売れるってエドガーはんは言うてたで。

 んでどうもな、なんやギルドに依頼出さなあかんほどに必要らしくって、せやったら売り時やろってことで持ってきたねん。

 これを手に入れてから1か月ほど経ってな、そろそろほとぼりも冷めてきたやろし、せやったらもう売ってもええかなって思ったんや。

 それに単純にな、2本もあるとポーチを圧迫してめっちゃ邪魔やねん。

「ただ、こっちにちょいとばかし事情があってな……」

 ほんで実はな、もう1つ最近気付いたことがあるねん。

 というわけで、ウチは自分の名前を書いてある、マイ立派な赤い角を取り出したで。

「え? もう1本……?」

「あ、これはな、売りもんやないねん。実はウチの護身用の武器なんやけどな」

「は、はあ」

「知っとる思うけど、この角って、表面ザラザラやんか。素手で持つと、まあまあ痛いねん」

 なんせウサギに突撃されたら、いつも手が傷だらけのローラちゃんになる上、腕がボッキボッキになるからな。ボッキはもはや生理的現象みたいなもんやからどうにもならんけど、せめて皮がずるっと剥けてまうんはなんとかしたいで。

 そりゃ用途によっては、ザラザラのほうがきもちええって人もいるかもしれんけど、幼女のウチにはそんな大人向け機能は必要あらへん。

「せやから、もしかしたら鍛冶屋さんやったら、なんぞ持ちやすいように加工してもらえへんかなって」

 ぬぅ。

 お、なんや、衝立の向こうから、これぞ頑固な典型的ドワーフおじさんみたいな人が出てきたで。

「あ、お父さん!」

 なるほど、このドワーフお姉さんのとっつぁんやな。

「……」

「ん? 見せてくれ、ってことかいな? ほい、どうぞ」

「……」

 無口な人やな。

 あれかな、いわゆるコミュ障の人かな。コミュ障いうたかて、コミュニケーションを取りたくないわけとちゃう、っていうんはな、ちゃんとマンガで読んで知っとるで。変な人ばっかり集めた高校に入学して、友達100人作りたいって健気に頑張っとる背の高い学校一の美人さんの苦労話や。

 せやし、このドワーフとっつぁんの言いたいことはだいたいわかるで。ウチは何の変哲もないただの人やけど、紙にいちいち書いてもらわんでも雰囲気で察することはできるわけや。

 なんせラマねーさんとも会話できるしな。

「……」

 そしたらドワーフとっつぁんはドワーフ娘に向かって、ぐっぱでほいのチョキみたいなんを見せよった。あれはなんやろ。髪の毛長いから切ってこい、ってことかな?

「その、加工料200マゲカでどうかって」

「そういうことかいな。ええで、ほな、こっちの角を1000マゲカでお売りするし、そっちのをごっつええ感じに加工してもらえるやろか」

「……」

 ちょっとだけこくりと頷いて、そのままとっつぁんはウチの大事なお角さんを、衝立の向こう側に持っていったで。

 まっ! げっ!

 1000マゲカを手に入れたで。

「明日にはできてますから、取りに来てくださいね!」

「おおきに。ほな、また明日くるわ~」

 加工はダメ元で言うてみたけど、何とかなるもんやな。

 ドワーフさんとは酒を飲み交わさへんと仲良くなれへんってのが定番やったし、ウチはついに向こうの世界では禁じられとる飲酒に手を出す時が来たかって、胸の高鳴りが抑えられへんかったんやけど、残念ながら無事回避できたわけや。

 ちなみにみんなは知っとると思うけど、みりんは酒やからな。みりん風調味料とちごて20歳にならんと買えへんねんで。つまりウチことみりんちゃんは、20歳未満のガキンチョお断りってことや。

 まあそんなんせんでも、こっちは何も言うてへんのに、勝手に向こうからお断りされてるけどな。

 なんせウチは、向こうの世界やとしたらおそらく、20歳になって酒買おうと思てもや、たとえ身分証もってたとしても偽造を疑われるんは間違いあらへんからな。

 ところで、こっちのドワーフって、ちゃんと酒好きなんやろか?

 

 

 さて、ウチはエッサの冒険者ギルドに帰ってきたで。

 途中でどうしても血が騒いでしもて、新型の赤角の試し突きをしてきたけど、めちゃくちゃ手に馴染むしドワーフとっつぁんには感謝やな。

 どう加工されたか言うたら、ちゃんと持ち手がついて、ツバがついたで。怪人のタカさんが、ノリさんにつけるべちゃべちゃのあれとは違うで。

 なんかこう見た目はいわゆる短剣なんやけど、ツバが緑色でその先の角が赤いし、見た目はちょっと細めの、ウチの大好きなアイスキャンデーにそっくりやな。

 あ、せや。

「よっし、こいつの名前、スイカリバーに決定やで」

 わかりやすいな、スイカリバー。

 みりんちゃんオリジナルの、甘くてクリーミーな素晴らしい特別な存在の聖剣スイカリバーや。

 チョコチップは入ってないけどな。

「しっかし、あの黄色いカエルはなんやったんやろな」

 スイカリバーもってウノーミの東の森で緑カエル倒しにいってみたんやけど、なんや日焼けして黄色くなってもたみたいな毒ガエルがいきなり出てきたねんな。

 それとも、やっぱりド根性出してでっかくなったんかな。でもスイカリバーで一撃やったし、あんま根性あらへんかったけどな。

 そんで、肝やなくて瓶入りのねっとりしたローションっぽいやつ落としたけど、やっぱり違うモンスターなんやろか。瓶はいったいどこから出てきよったんかわからんけど、せやったら肝も袋入りにしてくれてもよかったんちゃうやろか。

 ま、ええか。ウチごときに軽く倒されるんやし、どうせ大したことないモンスターやろ。

「あ、みりんちゃん!」

 ウチの武勇伝を騙る……、まちごうた、武勇伝を語るついでにヴィンセントはんのイケオジスマイル見に行こうとしたら、超絶美少女に呼び止められたで。

「おや、さやちゃんと、それにあずま君やん。どうやった? 赤いウサギは見つかったか?」

「いや、全然だぜ。白いのばっかり。毛玉ばっかり集まってさあ」

「ああ、それなあ。この街の服屋さんとこ持ってったら、けっこうな値段で買い取ってもらえるで。ただし、どんなことがあってもな、店主さんのことはアミーちゃんって呼ぶんやで、わかったな。これはフリとはちゃう。真剣な話や。まちごうても他の名前で呼んだらあかんで。あかんからな! わかったな?」

 たぶん、東京の人やから、これでどもないやろ。大阪の人、っちゅうか大阪の人の真似事しとる人やと面白がってやってまいよるからな。押すなよ、押すなよ、は基本芸人さんの世界だけでしか通用せーへんで。

 ちゃんと大阪人はそのへんの線引きはわきまえとるからな。

「えっと……、どういうこと? まあ、後で行ってくるな。サンキュー、みりん!」

「でも、あず君、どうする? 鍛冶屋さんに頼まれたキラーラビットの角は手に入らなかったけど……」

「そうだよなあ。でも、みつからないんじゃ、どうしようもないしな。やっぱり村で見かけたってのはガセだったのかもな」

「そうなん? なんやあずま君は運が悪いんやな。ウチなんて2回……ぐらいそんな話、聞いた気がするで」

 おっと、ウチのお固いお口が、ほんのちょっとだけお緩みしてしもたで。最近緩めやから、ほんのちょっとの衝撃でお漏らししてまうねんな。

「みりんちゃん……」

 けど、さやちゃんには、なんかバレてる気がするな。

 うーん。美少女からのご褒美ジト目で、じんわりじっくり見るんはやめてくれるかな。このままやと、ウチの中で何かが目覚めてしまいそうやで。

「そっかあ、俺、運40あるけど、まだまだ低いってことかなあ」

 ん?

 ええと、運ってどっかで見られるんかな?

 ステータスやろか。どのことやろ。運は英語でなんていうんや。

 そういえば、ウチみたいな体型でマンガやらが大好きな性癖の、ウチとの違いは喋りが関西弁とちゃうことぐらいの女の子が主人公のマンガのタイトルに関係があった気もするで。アニメは京都で作られとるはずのあれは、ええと、確か、ラッキースケベを略してらき☆すけやったかな。

 つまり、運とはラッキーや。

 なんて遠回りしたけど、そんぐらい知っとるで。こいつはもはや、わびさび英語とか言う日本語みたいなもんやしな。

 ちなみに、ウチのLUKの値は10やったな。

 ふむ、なるほど、なるほどなあ。

 きっとレアモンスターに出会う確率は、きっとこのLUKの値とは無関係っちゅうことやな。中の人のLUKが関係あるんかな。

 けどウチに、中の人なんておらんで。ウチはいつでもみなさんに、なんでもかんでも公開中や。

「まあ、ともかくや。一旦帰ってみたらどうやろか。もしかしたら、そのなんたらいう赤い角が、もうハンナさんの手元にあるかもしれんで」

 ジト、ジト、ぴっちゃん、ジト、ぴっちゃん。ジート、ぴっちゃん。

「ねえ、みりんちゃん。キュアポーションの時にもそんな話あった気がするんだけど、どうしてかな?」

 あ、なんか、そのな。

 これ以上そのジト目でウチ見つめられてまうと、ちょっと、そのな。

 あ……、ああ、ん。

 あああん!

 あかん、これ、癖になってまうで。

 もっと、その目でウチを見てくれへんやろか~。

「ねえ、どうしてかな?」

 あ、美少女が、こっちに迫ってきよる。

 そんなん、あかん、反則やで。なんやろか、このざわつくような気持ちは。

「ああん。らめえ……。はっ! ちゃうで。た、たまたま、そんな気がするだけや。ウチの……、そう今日の運勢占いが、クセ者に見つかる、って出とっただけや!」

 クセ者いうたら、世界のキングに憧れてしもて、大阪出身やのに宿敵の球団に所属しとった、とってもいやらしいバッターやな。

「ミリンちゃん。それだと、()()()()()()()()()()()()()()()ってことになるよ。失せ物見つかるの間違いじゃないかな?」

「そう、それや! なはは~」

 

 ちなみにその後ウチは、転がってくる大岩を華麗に避けるジョーンズさんみたく、さやちゃんの追及から逃れることに、見事に成功したで。

 ん? どうやったんやて?

 そんなもん決まっとるやろ。

「ほな、ウチはこれにて失礼や!」

 逃げるが勝ちってやつやな。

 なんせウチには最強のフリーパスがあるからな!

 駆け込み寺、もといギルマス部屋へ、ドロンやで~。

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