ウチ、ただの行商人やで? 〜異世界転移した関西弁女子はチートスキルに物申したい〜 作:霧島 高
さて、君らに問題や。
正反対なモン同士が出会ったらな、どうなる思う?
へ? 恋に落ちてまうやて? マンガの読み過ぎとちゃうか?
ピンク色に髪の毛染めとるハイテンションでおもろい女の子が、真面目で物静かやけど若干考え方が斜め上なメガネ男子に片想いしとって、第1話目から告白して付き合い始める話とか、どうせそんなん思い浮かべたんやろ。
ちゃうで。
答えはなんとな、お互い有り余る莫大な
「ふごーっ! ふごふご!」
「あ、あわわ。ご、ごめんなさい」
ただしここは異世界や。せやから、あっちの世界とは物理法則が異なるんかしらんけど、消え去ってまうんは片っぽだけなんやけどな。
つまりこれはな、おっぱいぱいとちっぱいぱいが、偶然にも出会ってしもて、そこから始まる悲しい物語な。
ハリネズミとハダカデバネズミのメレンゲみたいなもんや。やたらふわふわしとる恋物語な。
「ふごごっ!」
酸素不足のせいでいつもとちごておかしな妄想をしてしもたけどな。今ウチは背のデカい女の子に押し倒されて、ついでに大きなお胸を押しつけられ、そんでそのまま押し潰されてしもて、この世から消失しそうになっとる。
このまま消えてしもたら、8回ぐらいおんなじことを、終わりなく繰り返すことになるかもしれん。ちゃんと間違い探しに答えられへんと、また初めからやり直しになるねん。
「ぶはあっ! 天国やったわ‼ いや、ちゃうで。天国に辿り着いてまうとこやったわ!」
さて、思い出してほしいんやけどな。
ウチはエドガーはんとラマねーさんとのゆったりバカンスから、ついさっき帰ってきたところなんやけどな。ほんならエドガーはんちの前を、このデカ子ちゃんがうろうろしとったねん。
そんでもって、ウチらの急な登場に驚いたんかしらんけど、デカ子ちゃんが大音量のおっきな尻餅をついてしもたことによって、局所的な地震がおきてしもたわけや。
さすがに、ちゃんと覚えてるやんな。
ほんでもって、心配したウチが「どもないか?」って不用意に近付いてしもた結果、デカ子ちゃんは起き上がるときになんでかしらんけどバランス崩して、そのままウチに向かって倒れてきたわけや。
そんでそのままその子の餌食になって、ウチは天国にご新規1名様ご案内されたわけや。
つまり、これはあれやな。かなり前に、教会の女神像をたいへん敬虔な気持ちで眺めとった時、魔が差してしもてそのままいらん妄想に耽ってしもたバチがあたったんかもしれん。
確かあんときは「女神像が倒れてきてデカパイに閉じ込められた時の男子の気持ちを述べよ」っていう保健体育の問題を解いてたはずや。
答えは「いしのなかにいる」やな。「いる」ってどんな漢字やっけ?
要る、炒る、射……。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
ともかくや、ようやく立ち上がったデカ子ちゃんは、ペコペコ頭を下げるだけの人形みたいになっとる。ケーキ屋さんの前でテヘペロしてる人形とちゃうで。
いや、そんな間近で頭を下げてもろてもな。
ウチにとってそいつは遥かな高みにあるわけや。
ほんでしかも、ぶるんぶるんしてるおっぱいに隠れてもて、まったく見えへんのやけど。
あとな、見上げてると首が疲れてくるわ。
「なあ、おっちゃん、とりあえず悪い人やなさそうやし、おうちにあがってもらってええかな? たぶんこの人、ウチに用がありそうやし」
「もちろん、いいよお。パウラには話しておいたからねえ。じゃあ僕は、お店を周って商品を卸してくるからねえ」
ここで本邦初公開のパウラさんっちゅうのは、エドガーはんの嫁さん、つまりエミリママのことな。パウラさんの身の安全のためにもいままで紹介する気はあらへんかったけど、エドガーはんが言うてしもたからしゃあないな。
エドガーはんは、ウチが死の淵を彷徨っとるんを横目にのほほんとしながら、パウラさんと話を付けたみたいやな。
そのパウラさんは、すでに玄関先でこっちを手招きしてはるで。
「ちゅうことやし、ねーちゃん、ウチに付いてきてくれるか? ただしな、あそこにおるパウラさんには、絶対近寄ったらあかんで?」
「え……?」
さっきウチに起きたようなことが、パウラさんの身に降りかかってしもたら大変やからな。ほんまシャレにならんねん。
ウチがたぶんどっかでさりげない台詞を挟んでたはずやし、君らもう気づいてる思うけどな。
パウラさんはいつのまにやら妊娠中になっとるからな。
ウチは旅の途中、エドガーはんからそのことを聞いて知ったで。
誰やねん、食欲の秋のせいで太ってしもたんかなとかいうて、たいへん失礼なことを考えとったやつは。ほんまに全く、けしからんな。
「……あっ! な、なるほど……わ、わかりました」
そしてこのデカ子ちゃんは、すぐに気付いたな。
これが女子力の差ってやつや。
そんなもん、ウチには一切備わってへんで。おかんのお腹ん中に忘れてきたんやろ。
せやから無いものは無い。諦めるしかあらへんねん。
ところで君らの視線がウチの体のどこを向いとるか、いつもわかっとるからな。まあ減るもんとちゃうどころか、これ以上減りようがないし、いくらでも見てくれてええで。そこにはほんまに何もないからな。
これもおかんのお腹の中に忘れてきた……いや、どっちもそもそも置いてなかったんかもしれん。
うーん? それにしても、この人、ウチに何の用やろな?
「ごゆっくりしていってくださいね」
ここはエドガー家のダイニングや。窓からは秋の夕暮れの陽射しが差し込んできとる、わけやないで。まあ立地はそんなによくあらへんし、すぐ近くに他の人の家もあるからな。そもそも窓ガラスなんてもんあるわけあらへん。
こう、ガッコの靴箱みたいにな、ぱっかり開く木の窓があるだけや。ウチの靴箱の中は、セミの抜け殻コレクションでいつもいっぱいやで。
「んじゃ、適当に座ってくれるか」
ダイニングいうてもな、木の机と椅子が、狭い場所に並んどるだけやけどな。隣に居間なんてこじゃれたものはあらへん。せやから当たり前やけど、ギルマス部屋とちごて、ソファとかいうえっちな家具はないで。
そんで、ウチとデカ子ちゃんは向かい合ってそこに座ったで。
パウラさんはすでに、旦那様との共同作業部屋に引き上げ済みや。エミリちゃんも連れてな。いろいろ察してくれてはるのか知らんけど、正直助かるわ。
ちゅうのもな、ウチはようやく気付いたねん。
「ほんでおたくどちらさんなん? って言いたいところやけどな、ウチと同郷の人やんな?」
「はい。その、私は、くららです。えっと、あなたは……?」
「ウチはみりんっちゅうもんや。ん? 名前も知らんと訪ねて来たんか?」
「はい、その……。鍛冶屋のハンナさん、それからポーション屋さんのソフィアさんからも、黒い髪の小さな女の子の商人さんのことを聞いてですね。えっと、それから、ウノーミの冒険者ギルドでお話を聞いて、エッサでも冒険者ギルドでお話を聞いて……。それでですね、ここを教えてもらったんです……」
このくららちゃんは、もちろん日本人や。
前に鍛冶屋さんの近くの裏道ですれちごうた時は、そう思わへんかったけどな。せやから別にウチがすっとぼけてたわけやない。
なんせな、日本人女性というには、あまりにも背が高すぎるねん。ウチの倍っちゅうのは言い過ぎかもしれんけど、間違いなく2メートルはあるで。
それにあの真っ白空間で、こんなデカい女の人の記憶は、ウチにはなかったねん。
せやから現地の人かなって、おもたわけやけどな。
けど、今思たら、もちろんウチらとは別のタイミングで転移してきたっちゅう可能性もあるねんな。勘のええウチは、黒髪見ただけでたぶんきっとそれを反射的に理解して、隠れとったわけやな。
しかしやな、こうやって近くでみてウチは思い出したで。
「くららちゃん、ウチと一緒のバスに乗ってたやんな?」
たぶん年上なんやろうけど、でも呼び方はとりあえず「くららちゃん」にしといたわ。なんやろ、「くららねーちゃん」や「くららねーさん」ってのがしっくりこうへんねん。なんちゅうか、ホンマの姉みたいに思えてまうからやろか。
どちらにしてもな、「くらら」って呼び捨てにだけはでけへんで。
なんせその場合は「たった、たった。あそこのくららがたった」って言ってしまいかねへんからな。
へ? 余計な一言が追加されて台無しになってるやて?
あ、しもた。言うてもてるやん。
まあええか。別にな、極めて普通の事しかウチ言うてへんしな。
ともかく、本人が嫌がってないんやったら、構わへんやろ。
「あ、はい。そうです。その、みりんちゃんのことも見てました。高校生なのにちっちゃくっていいなあって……」
「……そんなん言われたん初めてやで。いや、そもそも、ようウチが高校生ってわかったな」
「えっと……、私も卒業生なので……」
おかしいな。さやちゃんには同じブレザー制服きとったのに、初等部と間違われたような……。
しかしまあ、これはあれかな。
隣の芝生は青く見えるってやつや。
体育館の隣にあるグラウンドの青い芝生を2人で眺めてたら、そのまま体育館倉庫に閉じ込められて一夜を共にすることになるわけやけど、そうすると相手のことがようわかるようになるねん。
芝生言うたら、甲子園の芝生とマツダスタジアムの芝生には違いがあるねん。どっちも天然芝で似たような種類のもんをつことるはずやねんけど、なんやしらんけどマツダスタジアムのほうが綺麗に見えるねん。やっぱり全面に貼ってあるからかな?
けど甲子園で全面芝生にしてもたら、泣いとる高校球児たちが持って帰るための土がなくなってまうからな。
それにしてもな、毎年たくさん持ち去られてるけど、まったく減る気配がないんはなんでやろか?
まさかやけど、栗まんじゅうを服の中に入れて、おっぱいみたいにバインバインさせると増やすことができるっちゅう、あの凶悪な秘密道具と似たようなもんでも仕掛けられてるんやろか?
「せやかて、ウチはウチで、くららちゃんに憧れるけどな」
ほんまにな、くららちゃんはおっきいな。女子バレーボール選手の長身の人よりも、はるかに大きいで。
これ、もしウチが血の繋がらへん弟やったとしたらやで。もし「でっかい女の子って好きなんか?」って質問されてもたら「当たり前やろ」って即答してまうやろなあ。
そんでもってそのお姉ちゃんは大学でバレーボールをしとって、その部員は性欲満載で同じような大きな女の子ばっかりで、ほんでついでに胸もみんな同じぐらい大きくて、弟君はそのバレーボール部の女子寮の管理人をさせられる羽目になるねんな。そういうえっちなマンガがあったねん。
ウチの幼馴染で、巨乳大好きなこうやんが当然のごとく持っとった。あいつはすぐ近くで公開されとる本物のちーぱいには全く目もくれんと、大興奮しながら何回も読んどったで。当然ながら、ちーぱいの持ち主であるウチも一緒になって読んでたわけやけど。
「けどすまんなあ、ウチさっきまで、くららちゃんが同じバスにいたん気付いてへんかったねん。なんでかいうたら、ウチ、くららちゃんのこと女神空間の中で見かけてたんやけど……、実は男の人やとおもてたねん。それもごめんなあ」
「あ、はい、よく言われます……。それに、そのほうがいろいろ都合もいいので……。男性に見えるように髪の毛も短くしてますし……、胸も隠してたので……」
デカい女と思われるより、デカい男やって思われた方がええってことかな。なんとなくわかるような、わからんような。
まあなあ。くららちゃんはウチとちごて、陰口を言われたらへこんでまうタイプやろからな。
もしウチやったらそうやなあ。「萌え萌えキュン!」とか言いながら、靴箱の中の大量のセミの抜け殻を、たっぷり愛をこめてお返しにプレゼントするかもなあ。
そしたらな、もれなく相手は倒れるで。
ともかくやで、もう半年以上前の事やけどな。キラキラ眩しい真っ白空間で見かけた人の中にな、ものすっごいでっかい男の人がおったんをウチは覚えとるねん。
でかいっちゅうんもあったけどな、その人が男の人の中で唯一、目がキラキラしてなかったってのもあってな、忘れっぽいウチでも覚えてんねん。
で、もちろん、ウチが男性と勘違いしとったその人こそ、くららちゃんやったわけや。
「ほんでな、ウチに何の用事で会いに来たんや?」
まあお互いの自己紹介はこの辺にしてや、そろそろ本題に入らなあかん。
「あ……、実はその……」
そしたらなんや、くららちゃんは人差し指同士を合わせてもじもじしだしたで。
「ん?」
「その、ですね。えっと……」
なんやろ、そんなに言い難いことなんやろか?
「その……、一言お礼を言いたかったんです。ありがとう、って……」
「お礼言われても、ウチなんもしとらんで?」
なんせ今まで接点なんて全然あらへんかったんや。ウチには何のことやらさっぱりやで。
「ええと、そのですね。みりんちゃんは……、私の恩人、なんです。その、えっと……、これを、見てください」
そういうて、くららちゃんは、隣の椅子においてあったリュックサックから、とあるものを取り出したで。
……それが何かを君らに教える前にな、ウチは1つ、ポンコツ女神にどうしても文句を言わなあかんねん。
くららちゃんのリュックサックは、あきらかにこっちの世界のもんやあらへん。おそらくやけど、くららちゃんが向こうの世界で持っとったリュックや。
ほんでな、実はあずま君とさやちゃんはな、こっちの世界でもガッコ指定の通学用カバンを便利につことった。肩掛けもできるし、背負うこともできるねん。
覚えとるか?
ウチはここに転移してきたとき、服以外なんももっとらんかったやろ? ポケットに入れたはずのハンカチとティッシュもなかったし、なんやったらブラジャーもつけてなかったで。
まあそれは、ウチが家に忘れてきただけやけど。
そんでもちろん、これは確かにバスん中でも持っとったはずのカバンもなかったわけや。つまりな、マンガ雑誌も、お菓子も、ウチには当分不要かもしれん乙女グッズすらも持ち込めへんかったねん。
まあ、ここは異世界やしな。そんなカバンは環境破壊に繋がってまうから持ち込み禁止なんかもな、って呑気に考えてたやろ?
こいつは要するに、1万マゲカとおんなじや。
思てたとおり、あのキラキラだけが取り柄のポンコツ女神はな、他にもまだ、ウチに渡し忘れとったもんがあったわけや。
他の転移者の方々は、元々持っとったカバンやらリュックサックをな、いろんなもんがたくさん入るよう大容量のマジックバッグに改造してもらえたっちゅうわけやな。
別に、もうええけどな。
ウチには大切で、とっても可愛いウサギさんポーチがあるからな。
どのみちたくさん入ったところで、重さはそのまんまなんやし、ウチに持ち運べるわけないしな。
「それは、どうみても弓やな」
ふむ。まあ、弓、ちゅうたら、阪神史上最強の一番打者や。先頭打者ホームランをたくさん打った上に、監督までしたはった珍しい苗字の人やで。
「はい。これ、コンポジットボウ、って言います」
しかし、めっちゃちいちゃい弓やな。なんせそのサイズは……、よう見たらウチよりだいぶ大きいな。
くららちゃんが持ってるせいで、遠近感がおかしいなってまうわ。
こいつはまるで、ウチが描いた「まだまだ伸びしろがありますよ」っていつも褒められる、たいへんお上手な絵みたいになってもてるな。間違えて指を6本描いたりしてるねん。
最近流行の
それにしても、うまい棒の定番の味みたいな、美味しそうな名前の弓やな。
「えっと、その、コンポタなんちゃらボウがどうしたん?」
「コンポタ……? えっと、その、ですね……。あの……、みりんちゃんは私が何のスキルを選んだか、知っていますか?」
うん、そいつもな、はっきり覚えてんで。
なんせな、ウチが「不死」っちゅうのを選んだとき、その決め手になったあれが共通しとるからな。
そう、あれな。
くららちゃんのおっきなおっぱいに、めっちゃ関係あるあれな。
みんなも覚えてるやろ?
おっパッシブな。
おっぱいみたいにそこにあるだけでな、みんなが幸せになってまうことが由来なんやで。
これテストに出るからちゃんと覚えときや。
そんでもって、インターネットつこてみんなで一緒にやるゲームの全体チャットで「やっぱスキルは、おっパッシブ!」って誤爆してみると、たぶん友達が増えるで。それ聞いた他のみんなも「おっパッシブ!」って連呼しだすかもな。
「確か『頑強』やろ?」
「はい……、そうです」
さて、ウチに秘められし記憶よ、我が呼び声に応え、今こそ蘇る時やで!
きてます! きてます!
超魔術、発動! きらりん!
こっくりさん、こっくりさん。『頑強』のキャッチコピーを、教えておくれやっしー!
『ひ弱な自分に自信がない? だったらこのスキルを選びましょう! 筋肉は裏切りません! 筋肉は全てを解決します! それにいつまでも病気もせず元気でいたいですよね? スタミナあふれる毎日を送りたいですよね? いつも、笑顔でいきましょう! 元気があれば何でもできる! そんなあなたにおすすめなのが、このスキル! にんにく? 黒酢? 卵黄? そんなの必要ありません! そんなのとは比べ物にならないほどの健康成分が、生涯あなたを支えます! あ、でも、気を付けてください。背が伸びたり、特定の部位だけが都合よく大きくなったりはしませんからね!』
ふう、確かこんなんやったはずや。きっとみんなの目には正確に見えとるはずや。
なんせな、最後の1文が蛇に足がついてるみたいになってもて、すべてを台無しにしてくれてたねん。せやからよう覚えとるで。
蛇に足がついてもたらな、それがいったい何になるんか、君らわかるか?
そいつはな、宿敵のでっかい人、そして赤い鯉に続く、虎が倒さなあかん新たなる敵や。
もちろんわかるやろ?
竜や。
図太い神経しとる麺やら、どっろんどろんの味噌をかけまくったトンカツやら、暇つぶしを兼ねて食べるウナギ料理やら、うまいもんばっかりある場所が本拠地やねん。
そのせいでな、マスコットの竜は、男女ともに若干太っとるで。ほんでもってもう1人の竜やないマスコットは、顔だけ太ってしもて若干とぼけたコアラ顔になってもてる。
そんでもってや、虎と竜には因縁があるねん。
なんでかいうたらな、虎と竜は、それぞれ近畿地方と中部地方っちゅう隣で暮らしとる。
つまり窓を開けたらお互いのえっちな私生活でもなんでもな、全部丸見えになってまうぐらいのな、向かい合わせのマンションとアパートみたいな間近で暮らしとるわけや。
そんでもって虎のほうは、ウチみたいに手の平に乗ってまうほどちっこいんやけど、御淑やかなウチとちごて相手のアレにすぐ噛みついてしまう積極的な女の子なんやで。それに対して竜のほうは眼光鋭い男の子なんやけど実は心優しい少年で、これはもうバチバチのバトルと甘々な恋の予感しかせえへんわけや。
ちなみにサンダースさんの呪いで低迷していた猛虎を救ってくれたんは、かつて竜に所属してはった選手やのに、虎さんの監督をしてくれはった、たいへん陽気なあの人やで。
あまりにベンチではしゃぐもんやから、周りにある扇風機やらの機材をまちごうて壊してしまわはったことで有名なんや。
「ほんで、そのスキルがこの弓と何か関係あるん?」
「えっと、その……。みりんちゃんは、キラーラビットの角を、鍛冶屋さんに届けてくれました、よね?」
「あー、うん、そんなこともあったなあ」
「実は、その、私は昔からアーチェリーをしていまして、それで弓を使おうと思ったんですが……」
弓を使う冒険者ジョブ、っていうたら確かハンターやな。
「……その、折れてしまうんです」
「は? どういうことや?」
「グリップの……握る部分が折れるんです。力が入りすぎて……」
つまりあれやな。
力こそパワーってやつやな。
「それでその……、鍛冶屋さんに相談したんです。そうしたら、キラーラビットの角を使えば、なんとかなるだろうって……。でも、なかなか手に入るものじゃない、とも聞いていて……。依頼も出してもらってたんですが……」
「そんで、ウチがたまたまそれを耳にして、偶然持っとったキラーラビットの角を売りに行ったら、その弓を作ってもらえたってことかいな」
「はい、その通りです。だから、その……、感謝を伝えに来たんです。本当に、ありがとう、ございます」
「言うても別にウチも儲かったんやし、感謝されるいわれもないけどな。まあ、気が済むんやったら、それでええけど」
なんや、そんなことかいな。
けどな、なんか引っ掛かるで。
そんなことぐらいで、わざわざここまでくる必要、あるもんかな?
なんて思ってる時やった。
「ミリンちゃん、ちょっといいかしら」
「はいな」
パウラさんが戻ってきはったで。
「そちらの方、ええと……」
「あ、くらら、です」
「はい、クララさん、ね。今晩はどうされるの?」
「えっと、今から宿を取りに行こうかと……」
「そのね、今帰って来た主人から聞いたのだけど、近くの宿、今日は満室なんですって」
「え?」
「ですから、せっかくですし、今日はこちらに泊まってはいかが? 大しておもてなしはできないのですけど……」
「で、でも、ご迷惑では……」
「そんなことはないですよ。それに……」
「ね! おねーちゃんも、一緒に遊ぼうよ!」
「娘がこう言って聞かなくてですね。できれば、是非、泊まっていってくださいな」
というわけで、本日1名のご宿泊が決まったわけや。
このおうちで、エミリちゃんに勝てるもんなんて、そうおらへんからな。
さて、次の日になったで。
ん、なんや。
ああ、どうせあれやろ。肝心のあのシーンの事が気になるんやろ?
くららちゃん、エミリちゃんと、そんでメインディッシュのウチ、この3人の行水シーンの事やろ?
ただ単にな、仲良く行水しただけや。
なんもおきひんかったで。
ほんまに、なんもなかったからな?
決して、滑って転んだくららちゃんに巻き込まれて、ウチがくららちゃんのおっぱいを強制的に吸うことになって、またもや窒息死寸前やったとかそんなことはあらへんかったからな?
嘘やないで?
そんな嘘みたいなほんまの話なんて、そうそこら中に転がってるわけないやろ。
……しくしく。
「あ、おはようさん、くららちゃん。昨日はよう眠れたか?」
「あ、うん……」
「なんや、くららちゃん、朝弱いんか? ともかくパウラさんが朝ごはん用意してくれとるし、食べようか」
ウチがダイニングで足をぶらぶらしながらお行儀よく椅子に座ってたら、寝ぼけ眼のくららちゃんがやってきたで。
ちなみに朝ごはんは黒いパンと野菜スープな。スープは木のコップに入ってるで。
「しっかし、せっかくここまで来てくれたのに、大した相談に乗れへんですまんことやなあ」
「ううん……相談できただけでも、よかったよ」
昨晩な、エミリちゃんと一緒にたくさん遊んだ後、寝る前にくららちゃんとはいろいろ話した訳や。
ちなみにエミリちゃんといつも一緒に寝とる部屋を使わしてもろたで。昨晩のエミリちゃんはパパとママの部屋でおねんねや。
そんで今日は、仲良く3人で朝からどこかにおでかけしてもたわ。
「私は、その、てっきりみりんちゃんも、私と同じスキルを選んだのかなって……」
昨晩じっくり話したおかげで、くららちゃんの口調も随分柔らかくなったで。
「キラーラビット、私と同じスキルがあるから、倒せたのかな、って……。ハンナさんに聞いたことから勝手に考えちゃってた……。ごめんね」
「あ、謝らんでええで。そ、それはなあ、ほんまにただ偶然拾っただけやねん。せ、せやから、謝ることなんて全然あらへんで!」
なんやこう、いろいろ騙してるみたいで、気が引けてまうな。
確かに、ウチの不死チートは、似とるスキルではあるんやけどな。
「と、ともかく、や。まずはご飯食べようや。な?」
「うん……」
と、ごく自然に話を変えようとした時やった。
バキッ!
「……あ……」
「ありゃりゃ」
訂正やな、やっぱりくららちゃんの「頑強」は、ウチのスキルとは似とらへんわ。
「うう、ごめん、なさい……」
それが起きたんは、くららちゃんがスープを飲もうと、そのコップの取っ手を握ったときやった。
おっきな音を立てて、その取っ手がぐにゃりと歪んでそのままポッキリ折れたねん。
「難儀やな、それ……」
「どう、しよう……」
実はな、くららちゃんの本当の相談はこれやったねん。
ほらさっき言うたやろ、おっパッシブの話。
そこにあるだけで幸せになるはずのあれな。
でもな、おっパッシブはな。昔の有名なロボットアニメで、ヒロインが乗っとったオフロスキAっちゅうロボットみたいには、残念やけどいかへんねん。
つまりミサイルとして解き放ってまうことで、ウチみたいな素晴らしい洗濯板みたいな体型へと自由自在に変化できる、なんてことはできひんねん。
そんなん現代日本でやってもたら、ただ単に焼いた魚をくわえながら煙を出しているだけのエロいネコちゃんの話どころじゃないぐらい、「ほうれんそうとりんご」の品評会で審査されてまうで。
だいたい女性ロボットのおっぱいミサイルがゆるされるんやったら、男性ロボットの――。
「まあ、壊れてもたんはしゃあないし、後でパウラさんに謝ろうな。そんで代わりのコップは、あとで買いに行こか」
「うん……」
つまりはな、パッシブってのは、呪われた装備のように外せへんもん、常時発動するってことや。
そういや、これもこうやんに教えてもうたんやけど、おっパッシブスキルの反対は確か「おっチクビスキル」っていうらしいで。
なんでやろな? 先っぽやしよく動くからかな?
せやけど、ウチのはそんなことないけどな? おかしいな? 間違っとるんかな?
ともかくや、くららちゃんのスキル「頑強」なんやけどな。
これはな、一言で言うたら、キンニクマシマシケンコウマシマシセタケソノママパイパイソノママってやつやったやろ?
ウチにとっての最大の問題は、背丈もちっぱいもそのままになってまうっちゅうところやったわけやけどな。
元からいろんなもんがおっきなくららちゃんにとってみたら、何も問題あらへんかった……、そのはずやったねん。
せやけどな、パッシブやってことが最大の問題になってもてるわけやな。
「とりあえず、コップは両手に乗せる感じでもったらどうや?」
「そうする……」
確かにな、モンスターと戦うならこいつはええで。
でもな、日常生活を送るには大変不便や。コップを持つだけで取っ手は壊れるし、ドアノブやらもな、ものすごう慎重に扱わなあかんのやって。
少し気ぃ抜いただけで、いろんなもんを壊してしもて、弁償やら何やらでかなりお金をつことるらしい。
せやけど幸いなことにな、スキルのおかげでモンスターを倒すのには苦労してへんかったらしい。
けど最近、成長してしもてSTRの値が増えてもたのか、そのせいで弓がどうしても壊れるようになったんやと。
普通やったら、STRがあがったおかげで聖剣使えるようになって、そんで王都に行ってもたあずま君のように、嬉しくなるはずやねんけどな。
まあ壊れるんやったら、武器なんて使わんと物理で殴れって思うやろ?
実はな、それにも問題があるねん。
「しっかしなあ、スキルの説明はほんまちゃんと読まなあかんなあ。いや、今回は読んでてもこうなるとはわからんかったやろけど」
「そうだね……。病気はしないって書いてたけど、まさか状態異常と病気が別物だったなんて……」
聞いたところによるとやな、くららちゃんは、ウノーミのさらに北にあるノヨトっていう国境の街に転移したんやと。そこの近くの森には、蜂のモンスターがおるらしいんやけど、刺されると麻痺っちゅう状態異常になるらしい。
くららちゃんは別のモンスターを倒しているとき、蜂の巣に気付かんと近づいてもて、襲われたんやって。
「けど、そのなんとかいう蜂に襲われて、それでよう助かったもんやなあ」
「うん、その……、スキルのおかげで、まったく痛くないし怪我もなかったの。それに……」
ん? なんや、またモジモジ君になったな。こいつはもう、黒い全身タイツを着てもらわなあかんかな。けどくららちゃんの場合、壁に刺さっとる棒を全部折ってしまいそうやな。
それはともかく、俯き加減になって、顔を赤らめとるけど?
「実はそのとき、たまたま通りがかった冒険者の方に、助けてもらって、それで……」
うん、なるほど。ウチはいろいろ察したで。
たぶん、これは仕込みやな。その冒険者とやらは、きっと蜂さんと共謀しとって、わざと蜂さんにくららちゃんを襲わせたんや。そこにさっそうと登場してくららちゃんを助けたわけやで。
あとはわかるよな?
「そんでもって、その男に惚れてもたんやな?」
「は、はわわ。え、えと……。その……、うん」
「相手の歳はいくつや? どんなやつや? 変なやつやったら、ウチは許しまへんで?」
まったく、ウチの大事な娘をたぶらかしたんは、いったいどこのウミのフネや?
アヒルボートを一緒に漕いだらだいたい別れるいうけどな。ウチの読んだマンガやと、そのままボートの中でエロいことが起きて、そんで関係が進展するんばっかりやったで。
「え、えと、その。歳は私より少し上、だと思う。その、とても優しい、人、だよ?」
「ほな、いっぺんウチが見定めたるし、そのうち会いに行くしな。ノヨトにおるんか?」
「う、うん」
まあ、間違いのうエロい姿をさらしとった麻痺状態のくららちゃんを、ちゃんと助けることのできるような真面目な冒険者なんや。めっちゃええ人なんやろ。
それはともかくとしてや、行商人としてはいろんな街に行ってみたいしな。王都はさすがに遠くて難しいけど、領都ウノーミの近場は一通り周ってみたいで。
……あ。
せやったらな、くららちゃんには、どうしても伝えなあかん大切なことがあったわ。
「あんな、くららちゃん。ものすっごう、大事なことがあんねん」
「え……?」
「これは絶対にな、守ってもらわんとあかんことや。せやから、ちゃーんと覚えとくんや。くららちゃんはウチみたいに忘れっぽくないやろから、大丈夫やろけどな。これはホンマに覚えとくんやで」
「う、うん……?」
「あんな。その男とはな……同衾禁止や。これだけは、ほんま、したらあかんで」
「え!?」
あ、くららちゃんがもっとった黒パンが1つ丸々粉々になってもた……。
ほんでもって顔も真っ赤やな。
「いや、そうやないねん。別にくららちゃんもええ歳なんやしな、大人の
「え……、えっ!?」
いやまあ、くららちゃんが未経験なんやろな、ってのはなんとなくわかるけども。
これはそういう問題ちゃうねん。ウチはほんまに真面目な話をしとるねん。これは、エロい話ではないねん。
「ウチが言うてるんはな、そういうことした後でも、絶対別々の場所で寝るんやで、っていうことや。これだけは絶対守らんとあかんで。ウチとの約束やからな」
「え、えっと。えっと……、その、どうして……?」
「……理由はいいたくないねん。ホンマは、いいたくないんやけど……、どうしても知りたいんか?」
「……う、うん」
はぁ、しゃあない。
こればっかりはな、くららちゃんのためにも、ちゃんと言っとかなあかん。
実は、昨晩な、さっき言うたやろ、くららちゃんとおんなじ部屋で寝たって。
体のおっきいくららちゃんには申し訳ないけど、床にマットしいてそこに寝てもらって、ウチは普段エミリちゃんがつことるベッドで寝てたんや。
ほんでウチはな、ベッドから落ちたんや。ほんま、たまにあるねんな。
どれぐらいかいうたらな。猛牛チームと合併してもて今はなき青波チームで活躍して、その後アメリカに渡ってそこでシーズン最多安打記録も出した有名なバッターの人の、全盛期のぐらいの打率な。そのバッターさんは、いいちこ、っちゅう酒に名前が似てるで。
つまり、3回に1回以上は確実ってことや。
さて、それからどうなったかいうたらな。
……。
バキバキ。
「ぎょえええ」
ベキベキ。
「ぐええええ」
ボキボキ。
「お、おたすけえ……」
……。
ウチはな、床に寝とったくららちゃんの安眠のための抱き枕になっとったねん。
抱き枕ちゅうよりは、寝技の相手かもしれんけどな。
普段もっと遅うまで寝とるウチが、くららちゃんよりも先に起きてたんはこのせいやで。
「あんな、くららちゃん、これはホンマに誰にも言わんといてな。ウチのスキルはな、骨が折れてもすぐに治るスキルやねん。でな、昨日な――」
ちゅうわけで、昨晩のあらましをウチは語ってきかせたわけや。
くららちゃんは、その後ずっと謝りっぱなしやったで。
まあ、相手がウチやったからよかったけどな。
自分が惚れとる男に無意識に抱き着いてもて、その男に全治何か月の重傷を負わしてまうとかシャレにならへんで。
そんなんなったらな、めっちゃ可哀想やんか。
……くららちゃんがな。
まあこの世界は、寝てるだけで骨折も治るらしいし、男のほうはどうでもええねん。せやけど、くららちゃんにとってはトラウマになってまうやろ。
どうでもええけど、馬の球団は、セ・リーグ、パ・リーグともにあらへんはずや。独立リーグちゅう、日本プロ野球機構には属しとらん球団にはあるらしいで。
ともかく、くららちゃんはただでさえ、おどおどしとって、こんなに気にしいやねん。くららちゃんのためにも、これぐらいは釘刺しといたほうがええやろ。
しかしまあ、ウチの不死チートについては若干ぼかしてさらりと説明したけどな。くららちゃんが、ウチに多大なるダメージを負わしたことで頭がいっぱいになってもたみたいで、軽く流してくれたから助かったで。
でも、くららちゃんの「頑強」とちごてな、ウチの「不死」は常時発動パッシブっちゅうことが別にデメリットになってへんで。
さすが隠しチートや、得したな!
性能は微妙やけどな。くららちゃんみたいに能力が上がるわけやないから、弱小芋虫すら倒せへんわけやし。
つまり、強すぎひんからこそ、パッシブがデメリットにならへんってことやな。
ま、ウチはただの行商人や。モンスターなんて倒さんでもええねん。
そういうんは、あずま君、さやちゃん、ほんでくららちゃんっちゅう、他の転移者の皆さんに気張ってもらうで。
せっかくの異世界なんやしな、戦闘には役立たずなスキルなんて、ウチ以外に選んでる人なんておらんやろ。たぶんな!
ん? 誰ぞ、忘れてるかな?
要らんもんばっかりこうとった、スーツおっさんのことなんて、もう忘れたで。
そんでもってくららちゃんは、一夜の関係となったウチとはお別れして、好きな男の元に戻っていったで。
なんてことや。ウチとは、遊びの関係やったんか。
確かに、エミリちゃんと合わせて3人で、ゴブリン落としとかで遊んだしな。
ちなみにここだけの話、くららちゃんは、本名を「神田
元の世界やと名前が読めへんって突っ込まれることも多かったやろけど、漢字のあらへんこっちやったら別に普通やな。忘れとるかもしれんけど、ウチの名前は平仮名で「みりん」やからな。ウチが自分の名前を漢字で書けへんっちゅうわけやないで。
それはともかくや。
ハタチ、つまりそれはなんとな、向こうでもお酒が飲める年齢、っちゅうことや。
くららちゃんは、酒飲んでまうとどうなってまうんやろな。やっぱり酒乱で、エロいおねーさんに変わるんやろか。
それは、やばいな。
そこら中の人に抱き着いて、文字通りの意味で死屍累々になってまう。
絶対飲ませたらあかんな。
まあ、スキルのせいで、たぶん酔わへんと思うけどな。
みんなにとっては残念なお知らせやな。酔ってしもて、服がはだけてまうシーンやらなんやら、そのほかエッチなシーンをいっぱい想像したやろ?
「さて、そんなん言うてる間に、冬になってまうなあ。行商もお休みやし、エミリちゃんとたくさん遊ぶしかやることないなあ」
というわけで、異世界に来て初めての冬や。
向こうの世界でウチが長い間住んどったとこは、雪なんてほとんど降らへんかったし、積もることなんて滅多にあらへんかったからなあ。
テレビとかマンガとかでは見たことあるけど、雪っていっぱい積もってもたら、どうなるんやろな。
……。
なんてこの時は、のんびり思っとったわけや。
でも実際にはな、雪とは関係なく、ウチは大忙しやったねん。
ウチにはたぶん一生経験できひん、あのことでな……。