ウチ、ただの行商人やで? 〜異世界転移した関西弁女子はチートスキルに物申したい〜 作:霧島 高
今回はな、冬のイベントをだいたい起きる順番でまとめてみるで。
まずは冬休みに入る前の期末テストな。
学園ラブコメの場合「もうすぐ冬休みだね!」「その前に期末テストな!」「ちょっと、嫌なこと、思い出させないでよ!」のコンボがだいたい決まって、一部の人をダウンさせるとこからや。
そんなテスト直前にな、主人公君は家では勉強に集中できひん理由がなぜかできてまうで。あえて例を挙げるんやったら、妹の友達が遊びにくるからって強制的に追い出されてまうなど、やむにやまれぬ事象やな。
しゃあなしやから、くそ寒い中、図書館へ勉強しに行くしかなくなるわけや。すると、なんでかしらんけどそこにはな、夏祭り浴衣デートによって恋人直前状態になっとるおなごが登場して、一緒して勉強しよることになるねん。
ただし取り扱いに注意せなあかん点があるで。事前に連絡を取り合っているパターンと、なぜか偶然いるパターンがあるんやけどな、前者ならまず安心してええ。
けどな、後者の場合はヒロインがヤンデレ化していってへんか、細心の注意を払う必要があるで。
どっちやとしてもな、主人公の妹ちゃんと結託しとった場合については、もはや包囲網が完成しとるから諦める以外の選択肢はあらへんわけやし、そのままエンディングに突入するで。
へ? ウチの場合?
そもそもなんで勉強なんかせんとあかんの? ウチにはまったく必要ないで。普段の授業聞いとるだけで、そらもう充分やからな。
クラスの仲良したちの間で開かれる勉強会なんてものにもな、ウチは参加する必要もあらへんしな。
とかなんとかいうたら、まるでウチが勉強できるみたいやろ?
え? もうウチがアホなん全部バレてるから意味ないって?
せやろな。もう隠す気あらへんしな。勉強会なんぞ参加したところで、皆様のご迷惑になるだけやしな。
だいたいあれは男女が仲良くなるためのイベントであってな、決して学力向上のためではあらへんで。
ちなみに幼馴染のこうやんは、ちゃんと勉強しとったで。裸のウチがこうやんのベッドに寝転んでマンガ読みながら大爆笑しとっても、集中力が切れへんような鋼のメンタルの持ち主や。
ただしウチがな、おっぱいマンガをこうやんの目の前に持っていくような迷惑行為をしたらな、話は別や。最初のうちは冗談で済ましてくれるんやけど、しまいには「そろそろいい加減にしよか」って言われて、最後通告みたいな釘を刺されるで。
そっからさらにちょっかい出そうもんなら、強制的にお姫様抱っこされるっちゅう辱めを受けつつ、ウチは外に放り出されてまうで。もちろん、わざわざ服なんて着せてくれたりせーへんから、産まれたまんまの姿でな。
けど、こうやんはやっぱり気の利く男やから、ウチの読んどったマンガも一緒に放り出されるで。せやからウチは、わざわざこうやんのお部屋に再度赴いて、マンガを回収するついでにまたこうやんの気を惹く必要もないわけや。
そんでしゃあないから、こうやんちのリビングのコタツをお借りして、続きを読むしかなくなるで。
なんせな、裸のまんま自分んちに帰るんはな、してはならんことやってのは、さすがにウチもわかっとるで。
ちゅうのもな、そんなんしたら、途中でおまわりさんに見つかってまうやろ?
ほんなら、「また君か」って言われてしもてな。結局、なんでかしらんけど、そのまんまこうやんちに連れ戻されるねんで。なんの意味もあらへんねん。
まあ、ウチの話はええ。
とっとと本題に入ろうや。
さて、授業時間中に絶対誰も喋ってはならん期末テストっちゅう、もし喋ってまうとお尻をハリセンでぺっちんされてまう地獄の期間が終わったらな。
ついにみんながお待ちかねの、冬休みに入るで。
それにしてもやな、ここに辿り着くまでえらい時間がかかってもたな。まったく誰やねん、要らん話に脱線しまくっとったけしからんやつは。
さて、そうなったらな、いよいよあの日がやってくるわけや。
誰もが知っとる、日本式クリスマスイブな。
でもな、パターンとしてはいろいろあるで。
代表的なんは、昼間は友達みんなでクリスマスパーティをするパターンや。主人公君も呼ばれるパターンと、おなごだけが参加しとるパターンの両方があるで。
どっちにしてもパーティが終わった後は、二人で示し合わせて過ごすことになるで。もちろんみんなは見て見ぬふりや。もしかしたらこっそり覗かれてる可能性もあるで。主人公君の妹ちゃんにも注意せなあかん。
そんならどっかのベンチで、都合よくイルミネーション眺めながら二人並んで座ったら、状況開始や。
プレゼント交換のな。
こんときの定番は、だいたい手袋かマフラーやねんな。
お互い同じもんを交換する場合と、お互い違うもんを交換する場合の2つが考えられるで。そんで同じもんの場合は「私たち通じ合ってるね」って言うし、違うもんの場合は「被らなくてよかった~」ってなって、おなごは当然どっちのパターンも対応可能やで。
ただしプレゼントの内容は、妹ちゃんを通じてすでに把握済みの可能性が高いけどな。
ちなみにこんとき、マフラーを選択した場合は、長めのもんをこうといたほうがええで。理由はわかるやろ? 仮面ライダーごっこができるからや。ついでに1つのマフラーを二人で一緒に巻くこともできるおまけつきや。
手袋の場合もちょっと大きめがええで。理由はだいたいおんなじや。一緒の手袋に同時に二人が手を突っ込んで、お互いの手汗を感じることができるねんで。
さて、そうなったらもう当然のように告白タイムが始まって、帰り際にぶっちゅうするで。こんときはシャッター音に注意するんやな。密命を帯びたエージェント妹によって、決定的な弱みを握られてしまう可能性があるで。
ちゅうわけでこれでもうみんな公認の恋人同士になるわけやけど、全年齢対応版やとなんでかしらんけどここで一旦解散になるで。
けどな、もちろんいつも通り全年齢非対応版やと、このあとどっちかの家、たいてい妹ちゃんが出かけていることになってる男のほうのおうちに行くで。
そんでもって、使い古されたネタやけど、
ともかくそれが過ぎたらな、全年齢対応だろうが非対応だろうと関係なくな、冬休みはそりゃあもうやりたい放題になっとるねんで。
まず大晦日は年明けをスマホ使って報告し合ったり、そんでもちろんそのまま初詣に行ったり、おみくじの結果を見せ合ったりと、やるべきことはたくさんあるで。お互いの家、もしくはどっちかの家でおせちとおもちを食べたりしてな。あるいは、もうどっちかの親の実家に、ご挨拶を済ましに行くパターンまであったりするで。
まったく、冬休みはたった2週間しかあらへんのに、なんでもかんでも詰め込み過ぎや……、ってそう思うやろ?
けど実はな、これが全部こなせてまうってことは、ヒロインちゃんの綿密な計画によるもんやってことやねん。ちゅうことは、そいつはつまり、もはや引き返せへんぐらいヒロインちゃんが病んでもてるってことやからな。
その後の展開は、こりゃもう、ものすっごう期待できるわけや。
さて、結論はな。
もし主人公君に、そんな感じのステキな異性がおらんかった場合、そのまま冬は省略されて季節は春に跳んでまう。ほんで桜の木の下でな、同性の親友から「ズッ友でいようね?」って微笑みながら言われてまうねん。
そんで、そのまま家帰って二人で仲良く格ゲー大会が始まるわけや。
あ、しもた!
みたいな感じで、いろんな方の妄想が捗ってまうわけやな。
ちゅうわけでな、ウチのおるエッサの街は冬になって、本日朝からぎょーさん雪が降っとるわけやねん。
「ミリンさん、こんにちは。おや、頭の上に……」
そんなこんなで、幼馴染であるこうやんとの追想を交えて妄想しながらエドガーはんちの前でぼーっとしてた時やった。
「雪、積もってるよ」
「そりゃあ、2時間ほど外にいたからなあ……」
ヴィンセントはんがたまたま通りがかったんかしらんけどこっちに近付いてきて、ほんでウチの頭からそーっと雪をどけてくれたで。
ちなみに妄想は、雪なんて積もったこともないのに近所の子どもたちと雪合戦をしているところまで進んでて、そんでもってウチがどでかい
子ども相手に大人げないって? そんなもんしゃあないやろ。あいつらのほうがウチよりでかいんやから、道具が必要や。
まあ、妄想ばっかしてたわけやあらへん。他にもいろいろやってたで。
ウチは頑張ってな、この自慢の細腕で、雪かきもしとったわけや。これしとかんと、どんどこ積もって、おうちから出られへんなってまうからな。ただし道具はつことるで。いうても、ウチでもなんとか扱えるサイズの小さめのショベルやけどな。
「よいしょっと。まだまだいくよっ!」
そんでもって向こう側でエミリちゃんが、でっかい横長の四角いお皿がついた雪かき専用のラッセルっちゅう道具つこて、ひょいひょい雪をどかしてるけど。きっとこいつは慣れの問題やな。ウチは人生初の雪かきやからな。
言わんでもええ、わかっとるで。慣れの問題やなくて、そもそもウチの力が足りひんだけや。それでもちょいとぐらいお役に立たんとあかんなおもて、ひいこら言いながら頑張っとるねん。
そういうたら、どうでもええんやけど、ショベルとスコップっていうのはな、こいつはとっても難しい試験問題やねん。なんせ関西ではな、でかいほうをショベル、お砂場で使うんをスコップっていうんやけど、関東では逆らしいわ。東京のホームセンターにおとんと買いもんに行ったとき、おとんに教えてもろたで。
つまり、こっちの世界にやってきたウチが初めてお出しした、キラキラエフェクトのかかったとある神聖なものを埋めるのにつこた道具は、関西基準のスコップっちゅうことやな。
けど、この異世界の言語とやらでは、本来どういうふうに言っとるんかはしらんで。ウチが「ショベル」って言うたらでかいほうになるみたいやし、「スコップ」って言うたら小さいほうを指すらしいから、自動翻訳機能が関西弁にも対応しとるっちゅうことやろ、たぶんな。
そもそもや、そんな便利機能がほんまにあるんかどうかすら定かではないんやけどな。だいたいあのぽんこつ女神がなんにも教えてくれへんかったんが悪いんやで。
あ、そういや思い出したけど、おとんが言うとったわ。ジュース規格とかいうもんによるとやな、ショベルとスコップは大きさの違いやのうて使い方で区別するらしいで。
ええとたしかな、ショベルっちゅうんは、ショベルカーみたいに土を掘ることができるもんで、スコップは砂をすくうためのもんなんやって。せやからショベルは足を使って掘るとかなんとか……、ここほれわんわんちゃんが君らの黒歴史を掘り返すってことかな?
ちなみに関西風ショベルもしくは関東風スコップっちゅう、ようするにデカいほうのやつはな、国と国との喧嘩でも使われることがあるらしいで。なんでもな、落とし穴を掘るっちゅう用途は実はおまけで、主にピコピコハンマーの代わりに使うんやって。
なんせウチはマンガで見たことあんねん。ウチと同じぐらいの背丈の幼女なんやけど、実は中身は転生したサラリーマンが主人公でな。ほんで神様から無理矢理押し付けられた魔法の宝石の力で、なんでも言うこと聞く部下たちと空を自由に飛びながら水鉄砲でいつも楽しそうに遊んどるやつや。
ふう、危ないとこやで。ウチの転移先、あんな異世界やのうてほんまよかったわ。まったく、軍隊の広報戦略やからってな、キレイな服着ておめかしして演技までさせられるなんて、とてもじゃないけどウチの精神が耐えられへんで。
なんせ、ウチのことを見た人がそれだけでバタバタ倒れてまうんは、こっちも気分よくあらへんからな。
「ふふっ、そんなミリンさんにプレゼントがあるよ。はい、ちょっとじっとしていてね」
「ん? なんや、急に……」
スポッ!
「やっぱり、良く似合うね。可愛いよ」
気分よく妄想にふけってたウチは抵抗する間もなく、短いカッパみたいなんを頭から被せられたで。
「アミーちゃんのお店でね、ミリンさんのためにポンチョを作ってもらったんだよ。ミリンさんはここで過ごすのは初めてだろうし、こういうの持ってないだろうって思ってね」
きらりん!
くっそう、その本場のウィンクはあかんって。ウチが倒れてしまいそうになるやろ!
「プレゼントっちゅうんやったら、そりゃありがたく貰うけど……、ウチにそんなん渡してもなんも返せへんで?」
「いいのいいの、日ごろお世話になってるお礼だからね。いっぱい使ってね」
さて、強制着用義務を負ったこのフード付きのポンチョについてなんやけどもな。
こうなんちゅうか、全面的にエッサおなじみのネコちゃんの刺繍が入った、アミーちゃん好みの、おそらくウチにはまったく似つかわしくないはずの可愛らしいデザインやねん。
けど、さすがアミーちゃんや。
こいつとウサギポーチを合わせれば、ウチみたいな下品な女でも、どこからみても恥ずかしい完璧な幼女の出来上がりになってまうで。
「わっ、いいなあ、ミリンちゃん! ネコちゃんみたいで、とっても可愛いよっ!」
「へ? ネコちゃんみたい……?」
「だってね。ほら、お耳が、ぴょこんって!」
……耳?
とてつもなく嫌な予感がしたウチは、フードの上に手を伸ばして、ちょいと触ってみたで。
「……ほんまやな。たしかに、こいつには猫耳がついとるな」
猫耳メイド喫茶がどうのこうの言ってたあれ、フラグやったんやろか。いまんところ猫耳メイドやなくてただの猫耳幼女やけど。ほんでもってパンツは履いてへんからノーパンや。シュミーズは着とるけどな。
けどまあ、ノーパン猫耳メイド幼女にクラスチェンジすることはあらへんしな。この世界のお貴族様に近付く未来なんて一切あらへんわけやし、そうするとメイドになることもあらへん。
そもそもメイドなんちゅうもんがウチに務まるわけあらへんで。そんなもん、ぺちゃぱいでペチャクチャうるさいだけでなんもせーへん言われて、放り出されるだけやもんな。
だいたいな、そういうんは異世界物語のヒロインで聖女になる予定の人がそんなもんなんも知らんまま誇らしげに、スターバックスのメイドになってまうことに意味があるんやで。
もしくは漁村出身で、眼鏡をかけた大人の美女さんメイドとかな。こっちはたしか、初詣に関係があったはずやで。そいつに合格祈願とか書き込んで神社に飾るとな、なんと勉強なんか一切せんでも、神様、仏様、ほんでもって昔のライオンさんチームの英雄である鉄腕ピッチャー様が君の願いを叶えてくれるらしいで。
そういや、そのピッチャー様の名前を思い出したら気付いたけど、さすがにこのポンチョに尻尾はついとらへんよな?
「よかったね、ミリンちゃん!」
「……せやな」
何やウチよりもエミリちゃんのほうが嬉しそうにしとるんやけど。
それになんやろ、ウチの後ろに回り込んで、なにやら掴んだりして楽しそうにしとるで。
……おっと、これ、尻尾あるやん。このポンチョ、長さがちょうど腰丈なんやけど、お尻のあたりを手で探ってみたら、なんや短めの紐みたいなんがついとるで。
アミーちゃん、ほんま容赦あらへんな。まさか思うけど、この前猫の真似してたん、アミーちゃんにも見られてたんやろか。
まあ、逆に安心したわ。もし尻尾ついてへんかったら、お尻の穴つこて――。
「ヴィンセントはん、ともかく、おおきにな。ありがたく使わしてもらうわ」
さすがにここで、じゃんけんのぐーのゆるめのやつを出しながら顔の横にもっていって「ありがとうにゃん!」とか発言しつつポーズするんは、公衆衛生上の問題もあるわけやし、すんでのところでやめといたで。道行く人がそれ見て倒れてもたら、お医者様を呼ばなあかんようになってまうからな。
「なあに。たまには、こういうことをやっぱりしておかないとね。だって、私は……」
「ん?」
「ミリンさんのボーイフレンドだもの」
ずこっ!
ぼすっ!
「ふもー! ふももっ!」
「おや、大丈夫かい、ミリンさん。今引っ張りだしてあげるからね」
すぽん!
「ぶはぁ! 驚きのあまり雪の中に突っ込んでもたがな」
まったく、ウチの力やったら、抜け出せへんくなってそのまま氷漬けになってまうねんから、注意してほしいで。
ん? なんやエミリちゃんの可愛いおめめが、凍結状態のマンモスみつけたみたいにキラキラ光っとるな。
「ミリンちゃん! 二人はいつからそんな関係だったのっ!?」
「いや、ちゃうで、ちゃうからな。騙されたらあかんで、エミリちゃん。ヴィンセントはんが冗談で言うとるだけや。だいたいウチはまだ子ども……、ん? あれ? ウチ、大人やった気もするな。ちゅうことは何の問題もない? いやいや、問題あるやろ!」
「ふふふっ」
「なーんだ、ざんねーん」
「と、ともかくや! ヴィンセントはん、冗談やとしてもや、そこら中に変なこと言いふらさんといてくれるか?」
まったく、この銀髪イケオジ。ほんま見た目とちごて中身はチャラいで。なんかこう、調子狂うねんな……。
まあええ。
言うてもやな、ウチは雪の中でもへっちゃらな、可愛くてキュートでプリティな猫耳ポンチョ(尻尾のおまけ付き)を手に入れたわけや。それは普通に嬉しいで。
こりゃあれやな、いつかヴィンセントはんにも、なんやプレゼントを返さなあかんかなあ。せやけど、何も返すもん思いつかへんな。
けど、どういうことやねん、これ。
ウチには縁も、赤いしそも、ゆかりもあらへんはずの例のクリスマス恒例プレゼント交換儀式みたいやんか。まったく……。
「それじゃあ、私はこれで帰るね」
「はーい、またね! ばいばーい」
そういわけで、ヴィンセントはんはお帰りに……。
「いや、まって。ちょいまって? ヴィンセントはん、ウチのことそのまんま持ち帰ろうとせんといてくれるか? ウチな、雪かきの続きをな、せなあかんねん」
「おや、バレちゃったか。残念、残念」
まったく、雪ん中からウチを助けてくれたんはよかったんやけどな。
そのままいつまでもお姫様抱っこされとったらな、雪かきが終わらへんやんか?
しかもあんまりの居心地の良さに、まるで猫みたいにそのまんま寝てまうところやったで。ほんま危ないところやったわ。
さてある程度雪もどけられたことやし、エミリちゃんと一緒におうちん中へ戻るで。
ちなみにエドガー家のドアは内開きになっとるから、雪のせいで扉が開かんなってまうことはないで。
けどな、なんと日本やと、脱いだ靴をそのまま玄関にぽいぽいしてキレイでバラバラに並べておいておくウチのためにな、だいたい外開きになっとるねんな。
そうやとしたら、向こうの雪国の人らってどうしてるんやろな?
2階の窓の外に楽しい滑り台でも置いてあるんやろか?
「二人とも、お疲れ様。ほら、こっちきてあったまってちょうだい」
家ん中におったエミリママことパウラさんが、お部屋の中央あたりのキッチンへ呼んでくれたで。
あ? 君らまさか、現代日本の高級マンションの広告でおなじみの、シャレオツなセントラルキッチンみたいなんを想像したんちゃうやろな?
あんな、いつまで勘違いしとるんかしらんけど、ここ中世ヨーロッパみたいな感じの古風な本物の異世界やで?
そこにあるキッチンいうんはな、単なる焚火みたいなやつや。レンガで囲われてる場所に灰が詰められとって、そん中で薪を燃やしとるだけやねん。せやから家ん中はな、ちっちゃな子どもが二人もおるのに、たばこの煙が充満しとるみたいになっとるわけや。
こういうん、日本やと囲炉裏っていうんやけど、なんやちょっとちゃうよなあ。あれは下に掘っとるような感じやけど、こいつはレンガで囲って上に盛っとる感じやな。せやから地べたに座って囲むんやのうて、周りに置いてある椅子に座るで。
うーん。暖炉の一種には間違いあらへんのやろけど、それやと煙突がついとって、そこから赤い服着た泥棒が入ってきてまうっちゅう、違うもんを想像してまいそうやしな。
せやなあ、中世ヨーロッパ風の囲炉裏、つまり略してチュウロリ……。いや、あかんで。この略称は、中学生のロリっ子みたいな問題のありそうなもんになってもて「その名前は使えません」って怒られてしまいそうや。
そんでもって、こいつは断じてウチのことではあらへんからな。
なんせウチはたぶんギリギリ高校生やし、ましてやロリっ子なんちゅうみんなが鼻息荒くしてまうような可愛いもんでは決してないねん。
ほんでもって、それとはまったく関係あらへんけど、玄関先で猫耳ポンチョは脱いできたからな。あれはお外専用の大切なお気に入りのコスプレ衣装やねん。たとえあれを着たところで、ウチがおっぱいのでっかいロリっ子なんていう矛盾した存在になったりせーへんからな。
ん? なんや?
君らの中の誰かが保身に走ったんかしらんけど、この囲炉裏に中央炉っちゅうしょーもない名前を使えって、理不尽な要求してきとるで。そんなもん断固拒否や……、って言いたいところやけど、他にも候補があらへんねんな。
しゃあなしや、とりあえず中央炉っちゅう名称を仮につこといたるわ。せやけど、もっとおもろい名前をいつでも募集しとるで。
ほんでその囲炉裏……やなかった中央炉の上にはな、お鍋が置かれとる。そいつをパウラさんがねるねるね~るねのコマーシャルの魔女みたいに、お鍋をゆっくりかき混ぜてはるで。
あ! 安心してや。パウラさんはヤンデレではない普通の奥さんやし、鍋ん中にはちゃんと具材が入っとるからな。せやから空っぽの鍋の中でおたまをぐるぐるしてるわけとちゃうで。ほんでもって中身がどぎつい色した何かってわけでもあらへんしな。
「はい、これ食べて温まってね」
パウラさんがそれをお椀にすくってくれて、ウチとエミリちゃんに渡してくれはったわ。
こういうんがな、このエッサにおける、庶民のご家庭の冬の一般的な団欒風景やで。いつもつことるちっちゃなダイニングテーブルは端に寄せられてお役御免になっとって、代わりにこうやって中央炉を囲んで暖を取るわけやな。
「それにしてもパウラさん、だいぶお腹大きいなったなあ」
いつもやったらパウラさんも外に出て雪かきしとるらしいんやけど、今はとても無理させられへん。
どうしても、ここであったまっといてもらわなあかん。
「そうね。遅くても再来月には生まれるものね」
今は年末。つまり12月や。
そういや、こっちの世界の暦について、ついこの前、教会のシスターねーちゃんから教えてもろたんやったわ。安産祈願のために女神さまのお祈りに行ったパウラさんの付き添いのついでにな。
けどな、正直ようわからんかった。
こっちにも、1月から12月ちゅう暦があるんはわかったねんで。せやけど、1か月にいったい何日あるかはようわからんねん。
なんせな、次の月になる数日前ぐらいに領主様からの布告、例えば「3日後から12月になる」みたいなんがそこら中で告げられたり張り出されたりするんやけど、そんで初めて街のみんなが知るわけや。
もしも向こうの世界とおんなじなんやったら、たぶん1か月は30日ぐらいやと思うんやけど、そんなんわざわざ数えたりすんのめんどくさいし、当然ウチは忘れてまうからしてへんで。
それにな、なんと土曜と日曜は学校行かんでもいい休みの日やねん、みたいな曜日の概念がこっちにはあらへんしな。お店とかは「休みたけりゃ休む!」ってみたいなゆるい感じやから、ほとんどの人は暦みたいなもん気にしてへんで。年末年始はみんなお休み、ってのもあらへんしな。
「再来月なあ……、まだまだ寒いんやろなあ」
「そうねえ。冬に生まれる赤ん坊はね、ちいさな村だと病気で死んでしまう子も多いのよ。この子も気を付けて、暖かくしてあげないとね」
そう言いながら、パウラさんは優しくお腹をなではったで。そんでもってエミリちゃんがとことこ近づいて、そこに耳を当てたりし始めたわ。
しかし出産っちゅうのは、やっぱり異世界でも難しいんやなあ。たぶんこいつは、魔法では怪我は治せても、病気は治せへんってやつに関係あるんやろなあ。
そういや医療の進んだ現代日本でもな、出産っちゅうんは命がけやねんな。おかんが言うてたけど、ウチが生まれてくる時、おかんも結構大変な思いをしたらしいねん。
まあ、ある程度想像つくかもしれんけどな。ウチのこの見事で素晴らしく真っ直ぐでかくれんぼが得意な体格は、だいたい遺伝やねん。
確かに、おかんはウチより背は高かったし、胸もあったで。けど、そいつはあくまで、このちんちくりんのウチと比較してやからな。あとはみんなの想像にお任せするわ。
ちなみにおかんはな、ウチを産んでからも、平日の昼にうろついてたら何回も補導されとったらしいで。赤ん坊やったウチをベビーカーに載せてたはずやのにな。
そんでもって、赤ん坊のウチが今みたいに喋ってばっかりでうるさかったかどうかはしらんで。
「あ! せや! いいこと思いついた!」
「ん~? どうしたの? ミリンちゃん?」
「エミリちゃん、ウチちょっと出かけてくるわ~」
ちゅうわけで、ずずいっとお汁を啜ったウチは、猫耳ポンチョを忘れんと装着して、元気よく雪遊びするためにでかけていくことに……。
そんなわけないで。ウチは大人やからな。猫じゃらしを見つけた猫みたいにはな、誘惑に負けたりせーへんねんで。
そうやのうてな、ウチはこの可愛いポンチョのおかげで、日ごろお世話になっとるエドガー家の皆様にできる、ええお返しを思いついたねん。
「お邪魔しまん、にゃ~ん……っ!?」
しもた、噛んでもた。まるで猫ちゃんみたいな台詞になってもたがな。
「あ~ら、い・らっ・しゃ~い、カワイイ、子猫ちゃんっ!」
そんでもって目の前には相変わらず、シナシナな感じで女らしい男のアミーちゃんや。
「早速、着てくれてるのね、嬉しいわ~」
「いや、ちゅうか、最初は気付いたらヴィンセントはんに着させられとったんやけど」
「あ~ら、ミリンちゃんのボーイフレンドったら、積極的ねっ! 妬けちゃうわ~」
ふう。
もうだいぶ慣れたし、これ以上ずっこけへんで。
「アミーちゃんまで、ほんま冗談きついで。せやけど、これものすっごう助かるわ。服がべちょべちょにならんで済むしなあ」
「ふふっ、そうなの。それは羊毛で出来てるから水を弾きやすいし、さらに蜜蝋で防水もしてあるのよ~」
そいつはかなり豪勢なんとちゃうか?
なんとなくわかるけども、これかなりの手間が掛かっとるやろ。材料費と工賃、どっちもかなりするはずやで。ウチみたいな庶民がこんなん身に着けてええんやろか。
具体的に言うたら、このマジックバックであるウサギさんポーチと同じぐらいの値段がするかもしれんで。ただ、世の中のお姉さまがたは、可愛さのあまり身に着けるのを躊躇するかもしれへんけどな。
言うとくけどウチはな、まったくもって恥ずかしがったりせーへんで。
たとえ、もはや完全な幼女となってしまおうともや、実用性には代えられへんもんがあるねん。
「と・こ・ろ・で。今日は何の御用かしらん?」
「あ、せやった。実はな、ちょっと相談があるねん。赤ちゃん用の産着みたいなんがないかな、って思て――」
「あらっ! あら、あら、まあ、まあ! おめでとう! いつ生まれるのかしらん? それにしても、いつのまにそこまで進んじゃったの、ミリンちゃん? ア・タ・シの目をごまかすなんて、イケナイ女なんだから~!」
へ?
……あっ!
「ちゃ、ちゃうで。そんなん、見たらわかるやろ! たしかにちょっとお腹は出てるけど、これはただの食い過ぎや。た、ただの幼児体型ぽっちゃりぽんぽこたぬきさんやねん。そもそも相手なんかおらんし、そんなつもりもないねんっ! ちゃうねんって。ほら、エドガーはんの奥さんや。そろそろ生まれるやろ? せやし、なんか贈りもんでけへんかな、って思ったんやって! ホンマやからな!」
「な~んだ、ざんねん~。なーんちゃって! 最初から分かってたわよ~」
「アミーちゃん、ほんま、冗談きついで……」
ともかくや、パウラさんの赤ちゃんが生まれたときのために、ぬくい産着でも用意できひんかな、って考えたわけや。
「う~ん、そうねえ。普通の生地のものだったらすぐに用意できるけど~」
「せっかくやし、なんか特別なもん用意したいねんな」
「そうよね~。あっ! だったら、こんなのはどうかしら!」
「ん?」
「実はね、ウノーミの北のね、ノヨトの街で特別な生地が売ってるの! あそこは特に寒いことで有名だから、防寒用の生地があるのよ~。それを持ってきてくれたら、アタシ、がんばって作っちゃうわ!」
「ほうほう、なるほど! ほな、ちょっと行ってくるわ!」
「でも、気を付けてね! 今の時期はものすごく寒いから、ミリンちゃんも温かくしていかないとダメよ。お腹の子に、よくないわ!」
「せやから、ちゃうって……」
「うふふ。でも、ほんとに気を付けてね!」
さあて、エドガー家に一旦帰って、準備してすぐ出発すんで。
えらいアミーちゃんは心配してくれとるけどな。
ウチは、なんと幼女やからな。寒いのなんてへっちゃらや。春から着とるシュミーズとチュニックのままでなんの問題もあらへん。
それにポンチョまでもろたから、これはもう最強装備でガチガチといって差し支えあらへんで。
ちゅうわけで、さっさとエッサからウノーミまでやってきたで。
って言いたかったんやけど、雪がだいぶ降っとったから、それが落ち着くまでは行けへんかったねん。雪かきせなあかんかったからな。
そんでいつの間にやら年が明けてしもたわけやけど、そんなら雪も落ち着いてやっと出発できたわ。
途中の道は雪がだいぶ降っとったせいで、なんやこう、ウチの胸あたりにある魅力的な絶壁みたいな高い雪の壁に囲われて、成長の見通しが全く立たへん中やってきた感じやな。ちょっとだけ、あの壁が倒れてきたらどないしようかな、ってどきどきしたで。
けどな、すれちごうた一般的な皆さんにとっては腰以下の高さに積もった雪でしかなかったねん。つまり、ウチがちいこいからこそ体験できた素晴らしい景色ってことやな。
ともかく、今日はここのいつもの宿で一泊や。
そんでノヨトはちょっと遠いから、明日の朝早めに出て、向こうには夕方ごろに着くらしいで。
おっと、せっかくウノーミきたんやったら、長年愛されとるあの人を拝みに行かなあかんな。
「ごめんください! どなた……、やっぱやめとこ!」
ずこっ! がんっ!
「ソフィアさん、いつもおおきにありがとう。で、頭打ったみたいやけど、どもないか?」
「もう、ちゃんといつも通りしてくださいよ~」
「いや、これも定番ネタやねんな。そろそろやらなあかんって思てたねん」
そういや、エルフさんいうたら森の住人で、森いうたら緑やねんな。そんで、緑で長年愛されてるいうたら、千日前でみんなの願いを叶えてくれてる苔で覆われた御仏さんやで。
ただまちごうても、すっぴんを見たいからってお掃除とかしたらあかんしな。眼鏡をはずしたら美人とかいうんは、マンガの中だけやからな? そういう人は、だいたい眼鏡をはずさんでも美人やねん。
そういやあの近くに有名な和風スイーツの店があるねんな。なんちゅう名前やったかな?
「それで、今日はどうしたんですか~?」
「いや、これといって用はないんやけど、ノヨト行くついでに寄ってみただけやで」
「なるほど~。あ、それなら、ちょっといいですか~?」
「ん? なんや?」
「実はですね~。キュアポーションを向こうの雑貨屋さんに卸してきてほしいんです~」
ちゅうわけで、猫耳ポンチョのせいでみんなはまったく忘れてたかもしれへんけど、行商人みりんちゃんの登場やで。
「実は~、ノヨトの街の近くの森で、パラライズワスプっていうモンスターが出るんですが~。春に大量発生するので、この時に退治しないとだめなんです~」
ええと?
パラライ
ぱっぱっぱらっぱ、のコマーシャルでおなじみの、全国の個人農家さんを支える大切な組合さんが出しとるお米かな?
それにスプーン? お米にスプーンなら、カレールーがいるやろ?
「ええと、なんでそれでキュアポーションがいるんやろか?」
「そのモンスターですね~、麻痺の状態異常が厄介なんです~」
ん? 確か、それ、聞いたことあんで。
「あ、せや。もしかしてそれ、ハチのことかいな?」
そいつはあれやな。あれこれでかくてでっかいことがトレードマークのくららちゃんに襲いかかって、たいへんエロエロな目に遭わせやがったっていうけしからんモンスターのことやな。
「そうです~。パラライズワスプは蜜蝋を落とすので、とっても重要なんですよ~」
なるへそ。それでキュアポーションがいるんやな。
それにしても蜜蝋なあ。
「あ~蜜蝋な、確かこのポンチョにも使ってるって言うてたし、メモ帳につことる蝋板の材料でもあるねんな」
「です~。それにしてもそのポンチョ、可愛いですね~。あっ! もしかして~、旦那様からの贈り物ですか~?」
ずこっ! ガンッ!
「ソフィアさん、あんたもかいな……」
「いいですね~。エルフの古くからの言い伝えだと、冬に贈り物を交換すると永遠の愛で結ばれる、なんてのがあるんですよ~」
「いや、ちゃうで。確かに貰いモンやけど、ウチは結婚なんかしとらへんし、恋人みたいなんもおらんで。けど、ええと……、どういう関係か、いうたらそれも難しいな。気軽にお茶は飲める関係やけども、ボーイフレンドではないで、間違いあらへん」
「え~、そうなんですか~。でも~、わたしの経験上、贈り物なんて恋人同士でしかしないですよ~。あっ、でもでも~。わたしも冬に贈り物交換何度もしましたけど~、結局そのあとみんな別れちゃいましたね~」
「……そうでっか」
永遠はあるよ、ここにあるよ、なんて嘘っぱちってことやな。永遠の愛なんてどこにもなかったんや。最後はみんなから忘れられてまうんやで。かくれんぼで見つけられへんからって、そのまま置いていかれるんや。こうやんだけが迎えに来てくれたで。「ごはんの時間やいうのに、もどってこーへんから心配したで」って。
ちなみにいつのまにかポケットに縫い付けられとった迷子防止タグが、盛大な音を響かせとったで。そんときウチが何歳やったかは聞かんといてほしいで。
いや、そんなことよりも、このふわふわちょいぱいエルフさんは、ずいぶん人生経験豊富なんやろか。人生の先輩なんやったら、こいつは今後ともよろしくしてもらわなあかんな。
……けど、あんま頼りにならん気もするけど。
「ほんなら、キュアポーション10個ぐらいこうていくわ。あ! せや、あとヒールポーションを2個売ってくれるかな」
そういや、目の前でウチを庇った冒険者が赤ウサギにぶっ刺されるようなことがもし万が一初めてあったときのために、ヒールポーションを保険でもっとこうって思てたんやった。すっかり忘れてたで。
ん? 前にそんなことが実際にあったんちゃうかって?
気のせいやろ? ええから、余計なことはな、はよ忘れるんやで。
「はい~、全部で110マゲカです~。あ、もし向こうで買い取りしてもらえなかったら、同じ値段で引き取りますからね~」
ここでちょいとばかし、この世界の商取引について補足やで。
ちゅうてもすでに何度も登場してるから、もうみんな把握済みかもしれんし、だいたいわかっとるかもしれんけどな。
このエルフさんみたいにな、ポーションを別の街で売りたいなって思てもな、エルフさん自身が売りに行けるわけやないねん。街商人は許可がないと物が売れんわけやけど、当然その許可は街ごとや。ほんでもって、その商人さんが住んでる街でしか許可はもらえへんで。
ほんならどうしたらええかってうたらな、行商人に仲介してもらうしかないわけやな。あくまで仲介な。
せやから、たとえウチが猫耳つけてるいうてもな、あっちの世界の黒猫さんみたいな運送業をやるってわけとちゃうねんで。
なんでかいうたらな、向こうのお店とこっちのお店で、お金のやり取りをする方法があらへんからやで。インターネットみたいな便利なもん、こっちの世界にはあらへんねん。あるんはカモノハシカードみたいな商人指輪さんだけな。
ちゅうわけで行商人は、卸売業者さんとか仲買人さんみたいな存在ってことや。商品を一旦買い取って、それを別の街商人さんに売るわけやな。もちろんバザールでそのまま売ってもええで。
せやけど、今回のキュアポーションは、あくまで今やのうて春に需要がくるねん。せやから今バザールで売っても買い手がつかへんわけやな。
まっ、げっ!
「ほな、向こうの雑貨屋さんに卸してくるわ~」
「はい~、お願いしますね~」
ほんでもって、そのまま今夜のお宿にきたで。
残念ながら、あずま君とさやちゃんの無料のラジオ放送局はもう聞けへんなってもたから、ここでのお楽しみはもうないで。
せやから君らはな、ウチの行水シーンで我慢しとくんやな。
せやし今回は特別にな、木で出来た目隠しの中に入ってきてもええんやで?
ん? なんや? そんなとこで立ち止まってもてどうしたんや?
遠慮せんとこっちに入ってきてええで。洗い場にしか屋根ないんやし、雪ん中突っ立ってたら寒いやろ?
ほら、こっちおいでーな。
まあ言うてもな、いつも通りケチってるから温水はもらってへんくてな、冷水で洗い流すシーンしかあらへんけどな。
ざばーん!
ふう、気持ちええな。
けど、ちょっとぶるっときて、そのまま漏らしてしまいそうやな。でもここでやるんは、マナー的な問題であかんやろな。
しゃあないし、ちょっと一旦外で出してくるわ。
え? 連れション?
別に構わへんけど、隣で倒れるんはやめてや?
掛かってもてもしらんで?
……。
はい、そんならご飯も終わったし、あとは全部脱いで寝るだけな。
「あ! そういうたら年明けたんやし、あれやっとかな」
ほら、新年に乙女が裸でベッドの上におるっていうたら、いつものあれやらなあかんやろ。
ほら、あれやあれ。秘密のあれな。秘め事な。姫事な。姫の初めてな。ウチは姫ではないで。暇ではあるけどな。
ちゅうわけで!
「ステータス!」
ぴんぽんぱんぽーん。
今回は一発で開いたけど、やっぱりトラウマチャイムは回避不能やねんな。これ聞くと「8歳ぐらいの~、女の子が~、お待ちです~」ってアナウンスが自動的に頭の中に再生されて、ほんで自分の年齢がいつまでも8歳のままな気がしてくるねんな。
けど、もう2回目やからな、この後に続いてウチの眼球サインボールにまな板娘っていう悪口書かれてもな、一切気にせーへんで。
なんせ事実やしな。
「どれどれ……」
――――
NAME: MILYN RACE: HUMAN
JOB: FIGHTER AGE: 15 EXP: ERR
HP: 7 MP: ∞
STR: 1 INT: 25
AGI: 18 LUK: 10
MONEY: 0 MAGECA
SPECIAL SKILL: IMMORTAL
WEAPON SKILL: PIERCE(10)
――――
「あれぇ?」
いろいろ、おかしいような?
いや別に、STRが1なんは、おかしないし、諦めとるけどな。
あと金が0マゲカなんは別にウチが博打に失敗してすってんてんになって、今日の宿代払うんが精いっぱいになってもて、せやから服を全部うっぱらって今裸で過ごすしかない、ってことやないから安心してええで。
まあ単にこいつは、全部商人指輪さんの方にお金が入っとるから、冒険者腕輪さんにはあらへんっちゅうだけや。ちなみに冒険者腕輪さんは初回費用と維持費ともに無料なんやけど、商人指輪さんは初回特典で3か月は無料なだけで、それ以降は1か月に10マゲカの維持費がかかって自動継続の上で自動引き落としされるから注意やで。
向こうの世界でいうたら、スク水とかいうサービスみたいやな。
スクール水着いうたら、みんなも当然知っとるやろけど、ワンピースタイプとセパレートタイプがあるねん。どっちやとしても、みんなが楽しみにしとるブルマの形のはずっと過去の遺物やからな、そんなもんはマンガの世界にしか登場せーへんで。
ちなみにウチの通っとった中学やと自由に選べたんやけど、女子は着替えやすいちゅう理由でウチ以外はみんなセパレートタイプやったで。
ウチもそうしたかったんやけど、おかんとこうやんに説得されてワンピースタイプにしたわ。なんやしらんけど二人とも口揃えて「死人を出したいんか?」ってウチのこと諭してきたねんな。
けど、さすがにウチかてな。いつもこうやんと水遊びする時がそうやからって、同級生みんながいる前でセパレートの上側を着ぃひんなんて常識に欠ける行為はせーへんのになあ。
……あ! しもた~、上の方もってくんの忘れたわ! まあええか。下だけで構わへんやろ! ってなる程度なんやから、持っていくんさえ忘れへんかったら問題ないはずやのになあ。
ともかくつまりな、1つあるだけで上下共に隠せるワンピース水着みたいに、冒険者と商人を兼業しとるウチみたいなもんはあんまおらへんってことや。みんなだいたい片っぽだけなんや。
「あ、いかんいかん。ほんのわずかに思考が妄想に逸れてしもたな。ええと、他に確認せなあかんのは……」
そういや、みんなには秘密にしとった、っちゅうわけやないけど、新年あけて思い出したことがあってな。
ウチこと
ちゅうわけで、おそらくもうすぐ誕生日なんやけど、たぶんおそらくついさっき説明したばっかりやけど、こっちの世界の暦やとそれがいつになるかわからんねん。
ほんでな、これが重要や。
なんとな、こっちの世界では、誕生日パーティなんてあらへんねん。
つまりな、おかんから、十日戎でおなじみの笹につける飾りをプレゼント代わりにもらうことはあらへんってことや。そんでもってケーキの代わりに大量のたこ焼きを食わされることもあらへんってことや。
いや、おかんのたこ焼きは絶品やし、めっちゃ美味いからそれは嬉しかったんやけどな。
けど、そもそもその時期は、おかんのしとったたこ焼き屋がありえへんほど忙しい時期で、なんとこんなウチでも手伝いに駆り出されてしもてたぐらいやからな。
そんなんやし、おうちでたこ焼きパーティなんてしてる暇、どこにもあらへんかったねん。
あ~、でもおかん死んでもてたから、どのみち今年はそれもなかったねんな……。
けど、おとんと過ごすことになったんやから、むしろ普通に誕生日パーティしてくれたんやろか?
まあどっちみち、こっちの世界きてもたから、それもあらへんしなあ。
「おおっと! しんみりしとる場合やないで」
話を戻すとな、誕生日を祝わへんってことは、じゃあみんないつ歳取るねんってなるやろ?
けど、そいつは簡単な話や。向こうの世界でも、もうあんまり言わへんけど数え年ってあるん知っとるか?
そいつと一緒でな、要するにや、新年つまり1月になったら歳取るってことやねん。
ええとせやから、ウチの年齢はついこの前まで15やったはずやから、15の次は……。
「あるぇ? 15のままやな。うーん? あれかな、ウチは異世界人やし、ちゃんと誕生日迎えへんと16にならんのかな。けど、ヴィンセントはんにギルド登録してもろたときに、誕生日なんか言うてないけどな……?」
そもそも冒険者の登録っちゅうんは現地の人基準なんやし、誕生日なんて記入する項目あるはずないで。
せやったら、この値はいつ増えるんや?
まあええか。どうせポンコツ女神あたりのチョンボやろ。
表示がおかしいだけやったら気にすることあらへん。ウチが自分で16になったって、ちゃんと覚えておけばそんでええだけやしな。
うん。忘れるかもしれへんし、あとで蝋板に書き込んどこ。
「他におかしいところは……おっ!?」
なんやこれ。
あきらかにおかしいところあるやん。めっちゃ見逃してたやん。
EXPの値が388かと思ったら……、ええと……。
「いー、あーる、あーるって何て読むんやこれ? いー、あーる、さんすーでやきびーふんか?」
ええとそうやとしたら、「いー」が1で、「あーる」が2やから、122ってことやんな?
あれ? なんかおかしいな。なんか前は、もうちょっとあったような……。実はEXPってだんだん減ってくもんかな?
0になったらどうなるんやろ?
いやそんなわけないで。たしかさやちゃんやったか、くららちゃんやったか、それかあずま君が「経験値が増える」とか言うてた気がするで。
ん~? EXPって経験値とちゃうんか?
でもそれ以外にそれっぽい項目ないけどな。
……そういえば。
だいたいの異世界マンガやと経験値っちゅうたら、
そんでようみたらSTRもINTもAGIもLUKも全部そのまんまで「まるで成長していない……」みたいな状態やな。
うーん? あずま君はSTRが50超えて聖剣が使えるようになったわけやし、くららちゃんも成長して弓を壊してしもてたよなあ。
せや。たぶん、他の転移者の方々とちごて、最弱芋虫に勝てへんぐらいにウチはよわっこいからな。
せやからモンスターなんてほとんど倒しとらへんし、そのせいで成長しとらへんのやろ。
それにウチは、ただの行商人やしな。
冒険者としては永遠のFランクなんやし、こんなん成長なんぞせんでも、別にええわ。
ちゅうわけで、ついに明日、ウチは初体験や!
ノヨトの街に、初めて向かうで~!
くららちゃんは元気にしとるかなあ?
好きな人とは、いったいどこまでいったんやろなあ?
Aかな、Bかな、それともまさかのCかな?
わくわくすんで!
……。
も、もちろん、忘れてへんで。
目的はあくまで赤ちゃん用の服の生地やからな!
みんな、ちゃんと覚えといてや!