ウチ、ただの行商人やで? 〜異世界転移した関西弁女子はチートスキルに物申したい〜 作:霧島 高
冬のイベントはな、まだまだぎょうさんあるんや。
けどイベントいうてもな、例の夏にも開催されるけど冬にもあるイベントの紹介はすでにやってしもたから、今回はしつこいやろからもうせーへんしな。
ん? えっちくてもえっちくなくても一部のマニア向けな内容の、そんでもってとっても薄いこともあればとんでもなく分厚かったりもする本が同時に売ってたり、おねーさまとおにーさま方がヒーローおよびヒロインごっこしたりしとるのをみんなで撮影するような、とっても楽しい例のあのイベントのことな。
せやからそういうんは省略して、さっさと本日のメインイベントを進行させていくで。
つまりやな、当然やけど、これから紹介するんは学園ラブコメ純愛アドベンチャーの続きやで。男の友情を深め合うイベントCGはもう確保したし、セーブしたところからやり直すで。
さてクリスマスプレゼントは交換し終わったんやけども、もし男子君が想像以上にヘタレやった場合、告白をしようとするけどあと一歩踏み出せへんわけや。けどな、もちろんそんなことヒロインちゃんには全部筒抜けや。せやからヒロインちゃんは、焦らしプレイを心の底から楽しんどるで。
となるとや、男子君が年末をどうやって過ごそうともな、初詣へ行くことは避けられへんわけや。なんでかいうたらその年はな、いつもの年始となんやちごて理由は不明やけど妹ちゃんがおねだりして、ほんで一緒に初詣へ赴くことになるねん。するとや、そこには準備万端のおなごがあらわれて、そんでもっていつの間にか妹ちゃんはおらんくなっとるねんな。
ほんでもって強制的におみくじを引かされる刑や。大凶を引いた場合はもちろん、大吉やとしてももう結果は変わらへん。神様もな、そんな些細なことはどうでもええねんいうて、サジを投げたってことやな。
まあ、1月のイベントはただの前座やし、この程度でええやろ。
問題の本番は2月や。
2月言うたら、もちろん決まってるわな。
バレたいんでえ、ってやつや。まちごうてへんで。
つまりな、これまでの焦らしプレイを散々楽しんだヒロインちゃんが、そろそろ自らの気持ちを男子君に強制的にバレさせたいっちゅう、生物としての自然な欲求がむくむくと膨れ上がってくるわけや。
そしてついに、山のてっぺんの石の上に雷がたまたま落ちてその石が割れるっちゅうよくある演出と共にな、その封印が解き放たれるで。
つまり、ヒロインちゃんの中に眠るヤンデレちゃんが目を覚ますわけやな。
まあ、ただ寝たふりしとっただけやけどな。
ちなみにたいていの学園ラブコメやとな、いろんな避けようのあらへんストーリーの都合により、2月14日は土曜日のことが多いで。
となるとやな、前日13日の金曜日にガッコで義理チョコたちが配られることになるわけや。おやつの持ち込みは禁止のはずなんやけど、この日ばかりは先生も見て見ぬふりをする場合が大半やで。
ただし特定の教師と生徒の間で予定調和のように没収という行為が行われた場合、その二人の関係には注意が必要やから後をつけねばならんのやけど、こいつはどうでもいい余談な。
ほんで本題に戻るとや、実は黙っとったけど、男子君はな、学園内で密かに人気があるねん。せやから大抵は同級生にあと一人、さらに上級生と下級生にも一人ずつ、そんでから教師の中にも一人な、男子君を好いとるおなごがおったはずやねん。
けど今年はな、その男子君は、それらのおなごたちからも、そんでもってみんなに配布されているはずの義理チョコすらも一切手に入らへん。1年前はいっぱいもらえたはずやのにな。
こいつはまるで、何者かによって阻止されているかのようやな。
もちろんただの自然現象が原因やとおそらく考えられるで。そこらじゅうに漂っとって、空気って呼ばれてる、とても自然的なやつな。精神衛生的にはな、そう考えといた方が安心やで。
そう言うたかてな、やっぱり男子君はしょんぼりしながら帰ってくるで。
ほんで妹ちゃんからも、もらえへんねん。言うても、これは毎年変わらへんけどな。なんせ妹ちゃんと例のヒロインちゃんは昔から知っとる仲やからな。もちろんヒロインちゃんの中に眠る、もう一人のヒロインちゃんともな。
そんでそのまま、男子君が枕を涙で濡らした次の日や。
朝起きると、枕元にヒロインちゃんが立っとるで。
もちろん男子君は、そこでハート形の大きなチョコを貰うしか選択肢はあらへん。そんで、そいつを朝ごはんの代わりに食べなあかん。
ヒロインちゃんにじっくりつぶさにその様子を観察されつつな。
もちろんハートチョコには、たっぷりの愛情が注がれとるで。
いったい何を入れたら愛情が詰まることになるんかは、ヒロインちゃん以外は誰もしらんけどな。
さて、そいつをなんとか食べ切ったら、どうなるやろか。
なんとな、ここでヒロインちゃんは何もせんと満足して帰りよるで。もちろん満足したフリな。
そしたら男子君は、食べてしもた以上、その日から1か月間お返しに悩む必要があるわけや。ヒロインちゃんの狙い通りな。
となるともちろん男子君は、頼れる妹ちゃんに相談するで。もし相談せんかった場合は、向こうから勝手に教えてくれるけどな。
すると、マカロンかあめちゃん、あるいはマドレーヌ、もしくは手作りチョコを勧められるで。
ちなみにここでな、せっかく妹ちゃんが事を荒立たせへんために自分の身の安全を確保可能な無難な提案したっちゅうのに、それを無視して別のもんを選択した場合はな、いつの間にか中身が上記のどれかもしくはすべてに入れ替わってまうねん。
もちろん下手人はみんなの完璧な推理の示すとおり、男子君のおうちで暮らしとる、とっても身近なエージェントやで。
どっちやとしてもな、なんでかしらんけど3月14日になったらな、やっぱり朝から枕元におなごがおるわけや。「おはよう。今日、何の日か、わかってるよね?」って耳元に息がかかる距離ぐらいで呟かれるで。
ほんでびっくり仰天で跳び起きた男子君は、慌ててお返しを渡すで。
そんならヤンデレちゃんから「今、食べていい?」ってお願いされるで。もしこんときに「太るよ?」とかいらんこと言ってしもたとしてもな、好感度がもうメーター振り切っとるから、完全にその会話は無視されて、流れるように話が進むで。
せやから「食べていい?」に対して可能な選択肢は「はい」「イエス」「高須クリニック」しかあらへん。ほんでな、ヘタレ男子君が答えに迷いながらも、これやとおもて一番下の選択肢を押そうとした瞬間な、男子君は逃げられへんようにきつく抱きしめられてまうで。
するとな、朝やったはずやのになんでか部屋が真っ暗になってしもて、ここからは楽しそうな食事風景を音声のみでお楽しみくださいになってまう。
そんでもって、もちろんヤンデレちゃんの美味しそうな咀嚼音と共にな、楽しそうな歌声みたいな叫び声が響き渡るで。
その内容は「イヤっ♡」「痛いっ♡」「熱いっ♡」「中までっ♡」「生はダメっ♡」「キャベツも添えて♡」「ソースは中濃♡」「お肉が固くなっちゃった♡」って感じの、まるで非常食のメンチカツが食べられてるみたいなんやで。
ほんでこいつはなんでかしらんけど、極小で柔らかみたいな会社製の表計算ソフトウェアに関係あるらしいねんな。せやから隣の部屋にいる妹ちゃんがそれつこて一覧にしてまとめとって、あとでヤンデレちゃんに提出せなあかん義務があるねん。
へ? こんなけ簡潔にまとめたいうのに、いったい何を食したんか、わからんやて?
そんなん、わざわざいわんでもわかる思うけどなあ。ホワイトデーのお返しのお菓子にきまってるやんか?
それに添付されとったヤンデレちゃんの大好きな何かも一緒やろけどな。
要するにこいつは、ホントは怖い幼馴染のゆるふわコメディ推理アドベンチャーや。
そもそも男子君がな、隣のおうちに暮らしとったのがあかんのやで?
せやからな、ウチの幼馴染のこうやんは、きっとウチに感謝しとるはずや。ウチがヤンデレやのうて、ただのアホタレやったから、こうやんは命拾いしたわけやな。
ちなみにやけど、一応バレンタインデーには、例のブツをこうやんには渡しとったで。
どうせ、チロルチョコ、あるいは奮発してチョコバットやろ、なんて大変失礼なこと考えとるんやろ?
ふん、そのとおりや! っていつもやったら言うてるけどな。
残念やけどな、なんと驚きの手作りチョコや。
……たこ焼きやけどな。
ロシアンたこ焼きや。5個はチョコ入り、1個はカラシたっぷりたこ焼きな。こうやんは5個食べる義務があって残りはウチが食べるんやけど、こうやんがチョコ入りを全部あてられへんかった場合、つまりカラシたこ焼きに当選した場合は追加で罰ゲームがあるで。
なんとな、ウチの魅惑のエプロン姿がこうやんにお見舞いされるで。
そりゃもう当然やけど、エプロン以外は何も着とらへん。
つまり、みんなの憧れ、裸エプロンやな。
けど残念なことにな、せっかくエプロン用意しといて後は着るだけっちゅう準備万端の全裸待機しとるいうのに、なんでかしらんけどこうやんはハズレを引かへんわけや。
しゃあないから罰ゲームはあらへんくて、残った1個についてはもったないし当然ウチがいただくことになるわけやな。あまりの美味さに、跳びあがってちびりそうやから、パンツを穿かなあかんという辱めを受けるで。
しっかしなんでやろなあ。いっつもこうやんには、ババ抜きやらのこういう相手の反応を楽しむゲームは絶対勝てへんねんなあ。
そんでもってこういうゲームするときはな、ウチ、ちょっとドキドキしてまうねんな。
ちゅうのもな、なんでかしらんけど、こうやんが穴があいてまうまでじっくり見つめてくるねんな。けど、もちろんそんな程度で、ウチの完璧なポーカーフェイスは少したりとも変化することなんてあらへんねん。
たとえ、こうやんの指がウチのもっとるジョーカーちゃんをやんわりとお触りしたとしてもな、ウチがにんまりとしてしまうことなんて、ほんのこれっぽっちも絶対にあらへんねんで!
せやから、もしかしたらウチのほっぺたに青のりでもついてるんかな、っていつも心配になるねんな。
だってやで、食べてるお口やのうて、なんでほっぺたにそんなもんくっつくねんな?
そんなんなってたらな、まるでわざとつけて「ほっぺたに何かついてるよ」って相手に言わせて、指でぴっと取らしてそのままペロっとなめさせるプレイみたいやんか。アーモンドのお味がしたらどうするねんな。
あ、せや! みんなも機会あったらロシアンたこ焼き作ったるさかい、一緒に遊ぼうな?
もちろん罰ゲームつきやで。
せやから、お口をソースで汚した裸エプロン姿の尻尾付き猫耳幼女のガキンチョが「ざぁこ☆」やらなんやら、今たいへん流行しとるあらゆる台詞で君を罵倒するわけや。
おっと、こりゃ罰ゲームいうよりご褒美やな。
めっちゃ嬉しいやろ……っ!?
ごめんな、やっぱ今のなしな。
あんな、君な……。
誰か、後ろにおるみたいやで?
……もしかして、君のお隣のおうちに住んどる幼馴染ちゃんが、お食事にやってきたんとちゃうか?
「な、ななっ、なんやってーっ!?」
あまりの衝撃的な展開に、ウチとこうやんとカラシたこ焼きにまつわるとても悲しく悔しい思い出が、全部一気に頭に浮かんでもたがな。
「今年は仕入れの数が少なくてねぇ。もう全部売れてしまったんだよ」
ウノーミを朝早うに出発したウチは、絶壁雪に囲まれながら街道をまっすぐ北へ進んだだけで、なんとそのままノヨトの街に到着してしもて「はるばるきたったぜ~、ノヨトへ~」とか心の中で叫んだわけやけど、そこまではよかったねん。
ノヨトの街は、ウチが完全把握済みのエッサの街より規模は小さいみたいでな、門番のにーちゃんに聞くまでもなく、ちょいぱいエルフさんの言うてた雑貨屋さんはおそらく見当ついたはずや。
せやけど迷子扱いだけはご勘弁願いたかったからな。ちゃんとな、衛兵詰め所という名の迷子センターの前におった衛兵のにーちゃんにな、念のため場所を聞いたで。
そんでもって、これは絶対必要な事項やから、ウチが立派な大人やってことを精いっぱい力説しといたで。「うん、うん、君は大人なんだね。一人でなんでもできて偉いね」ってものすごく納得して褒めてくれたから、これでウチが迷子扱いされることは絶対あらへんはずで、これですべての問題は事前に解決したはずやったねん。
せやけど、ここで別の問題が持ち上がってしもた。
「こりゃあ、こまったこまった、こまどりシスターのプリンセスやで」
なんとか辿り着いた雑貨屋さんにはな、すでにキュアポーションを1個当たりなんと15マゲカで引き取ってもろたで。
それはつまり5マゲカ掛ける10個で50マゲカの儲けになったわけで、そんでもってそれはきっと君らにはどうでもいい情報やから省略すべきな事柄であるんは間違いないけど、金のことに汚いウチにとってはとっても大切なことやからどうしてもここで説明を挟むしかなかったんやから勘弁してや。っていう長くてとっても読みにくうて過剰な文章は、ウチやったら絶対読み返すことはあらへんから、ほんまにどうでもええから便所に流すとしてや。
ウチがこの街に求めるもんは、ただ一つや。
衛生的なトイレとはちゃうで。そんなもん、この現実の異世界には無理やからな。もうすでに、そこらへんの土ん中に埋めたり、あるいは川にどんぶらこしたからな。
ウチが欲しいんはアルパカの毛でできた、赤ちゃんに安心の、あったかやわらかでふわふわな布やねん。
ムーニーはママの味~や。
あれ? なんかちゃうような……。
そもそも、おむつやのうて産着の材料な。
「なあ、べっぴんのおねーさん。アルパカの生地、この街のどっかで作ってもらえへんのかなあ?」
ちなみに、雑貨屋を営んどるのは、妙齢と高齢の間ぐらいの絶妙な女性な。
せやからここで、君らに大切なこと教えとくわ。
名前のわからん妙齢以上の女性を呼ぶときは「おねーさん」やからな。これ常識やからな。
そんで妙齢よりもさらに若い女性を呼ぶときはな、「ねーちゃん」やで。代表選手は冒険者ギルドの毛玉ねーちゃん、スイカップねーちゃん、ほんでから教会におる恐怖のシスターねーちゃんな。
ただし、ちょいぱいエルフさんについては疑義があるで。なんせこれまでの発言を根拠にするとやな、妙齢どころか高齢やと推定されるわけやねんけど、せやかて見た目は若輩っちゅう、壮絶な問題が発生してもうてる。
言うてもな、残念ながらウチは名前を知っとるはずなんやし、今後とも「おねーさん」とも「ねーちゃん」とも呼ばへんで。
つまりどっちが正解かはわからんっちゅうことや。
けどな、正解できひんかった場合は「めっですよ!」って注意される嬉しい罰ゲームがまっとるから、君らには何事にもチャレンジする精神が必要やな。
「それがねぇ、アルパカ生地はこの街で作ってるんじゃないんだよ」
「へ? そうなん?」
みんなはウチが楽しく羊の数え歌を歌っとった時のことを覚えとるか?
せや。あんときはウチが代理で買いにいったけど、糸目行商人エドガーはんが得意としとる、エッサの南のいくつかの村を周って羊毛の糸を集める話な。
あれはな、飼っとる羊をな、毛刈りしてそのままその村で糸に紡いどるんや。そんでエドガーはんはその糸を買い集めて、ほんでエッサの街にあるお店、たとえばアミーちゃんの店なんかに卸してるねん。
つまりエッサの場合、羊毛の生地っちゅうのはエッサの街中で作られとるっちゅうわけや。
けどな、アルパカの生地の場合は、そういうわけとちゃうらしいねん。
「アルパカはねぇ。ここから北の1つの村でしか飼っていなくてねぇ。そこで糸から布まで全部作ってるんだよ。ラマの生地なら、この街でも作ってるんだけどねぇ」
どうやら、エッサよりもだいぶ寒いこの街で普段使われとるんは羊毛やのうてラマの毛らしいで。たぶんやけど、ラマねーさんの出身地もこの辺なんやろな。
せやけど、アルパカ生地っちゅうんはラマ生地よりも高級品で、ようするにその村の特産品になっとるんやろなあ。
これは当たり前なんやけど「毛でそのまま売る」「糸にして売る」「さらに生地にして売る」の中やったらな、生地にするんが一番高く売れるで。
もちろんそれぞれ加工のための機材やら、加工する人の訓練やら諸々が必要になるし、その経費との兼ね合いもあるから、一概に利益が増えるか言われるとそうでもないけどな。
ただし、そこでしか手に入らんもんなんやったら、いわゆる専売状態になるんやしな。基本経費はそのまま全部上乗せして売っても問題にならへんし、こいつはかなりの利益になるはずや。
んでもって、村で作れるもんは、領主さんによる許可制なんや。
ちゅうことは、このアルパカ専売制は、セリン侯爵様の方針ってことやな。
しっかし、これはほんまに困ったで。
あ! なんや、ええ方法があるやん。
「せやったら、その村まで行ったら、アルパカ生地が手に入るってことやんな?」
「そうだねぇ。この冬の間は他にやることもないし、いっぱい作ってるだろうねぇ。でもねぇ……」
「ん?」
「道がねぇ。お嬢ちゃんだと難しいんじゃないかねぇ」
「……さよか」
せやったな。
ちょっとみんなに思い出してほしいんやけどな。
大きな街道にはモンスター除けと一緒にな、かつての虎さんが夏場の地獄の遠征に行ってヒットを打つみたいな名称の、ロードヒ
せやけど、そいつはおっきな街道だけや。
村へ続くようなせばこい道は、大雪っちゅう大自然によって封鎖されとるわけや。ちっこい道やからいうてウチに優しいってことはないねん。なんでかいうたらウチはそれより更にちっこいからや。
大は小を兼ねるけど、小は大を兼ねへんねん。ウチがたまにお世話になっとった男子トイレの話な。
「う~ん、ここはラマの生地で我慢するんも1つの手かもなあ……。いや、それやとちょっとなあ」
そもそもやで、ラマ生地の衣服やったら、ウノーミでも手に入るねんなあ。確かに生地となったらノヨトでしか手に入らんねんけど、せっかくここまできて普通のはなあ。
それにアミーちゃんは是非アルパカ生地でって言うてたし、それにお土産がてら余分にこうて帰りたかったねんなあ。まあいうて、実際にはアミーちゃんにその分は買い取ってもらうわけやし、すでにそういう話もしてあるんやけどな。
「はあ、ウチがもっとでっかかったらなあ。雪を掻き分けてでも行けたんやけどなあ」
こういうセリフをなんというか、もう君らはわかっとるよな?
せや、これこそフラグや。
「話は聞いたよ……」
「うおっ! びっくりしたっ!」
背後から不意打ち食ろうて振り向いたら、そこには大変ふくよかな巨壁があって、ウチの逃げ道を完全に塞いどった。
「ウチの背後にそーっとそびえ立つんはやめてくれんか、くららちゃん」
もちろんそいつは、いろいろおっきなくららちゃんや。
そのくららちゃんはウチの近くにいつのまにやら忍び寄っとって、ウチはそれに全然気づけへんかったわ。
「ごめんね。でも、私……、普通に動くだけでもダメなので……。いつもこうやって、そっと動かないと……」
「あ~、そういうことかいな。いつも気を付けとるんやな」
「……うん」
もし、くららちゃんが激しく駆け寄るどころか普通に近付いてきてしまうだけでな、この雑貨屋さんの商品棚に陳列されている様々なもんが、大きな震動によって崩れ落ちてまうねんな。
せやから、くららちゃんはいつもそーっと歩いとるわけや。
こいつはまるで忍者やな。つまりくららちゃんは、背が高くておっきいお胸のくノ一ちゃんやな。そんなお色気むんむんくノ一ゆうたら悪代官に捕まってなんぼってところもあるわけやし、そうなってまうと猫じゃらしで体中をこしょこしょされてまうシーンは放送でけへんで。
まあ君らにとっては大変悔しいかもしれんけど、目の前におるくノ一ちゃんは網タイツみたいなもん履いてへんし、ほんでもって露出のほぼあらへん格好をしとるで。ぶ厚めのチュニックの上に更に外套を羽織っとるちゅう、防寒対策等々すべてばっちりのやつな。
そんでもって、忍者も、ましてアメリカンな感じのニンジャっちゅうジョブも、この異世界には両方ともあらへんで。徒手空拳で素っ裸のほうが強くて強いなんてな、そんなんゲームやとしてもな、まさかありえへんやろ?
「そんで、くららちゃんもなんや買いモンか? せやったら、あとでギルド行って探そうおもてたし、ここで会えたんは正直助かったで」
もちろん、せっかくノヨトまで来たんやし、友達になったくららちゃんにはどーしても会いたかったねんな。別にな、下世話な目的は、ほんのちょっぴりだけあるけどな。それはウチの生き甲斐なんやし、諦めてや。
ちゅうのもな、セリン侯爵領は領都のウノーミが中心地なわけなんやけど、街だけで言うたらノヨトが一番北にあって、エッサが一番南や。もちろん村まで含めたら、さらに南や北にもあるし、西や東にも広がっとる。
それはともかくな、ウチの本拠地であるエッサからやと、ノヨトまで来んのにどうしても片道2日かかるねん。
つまり、気軽に行き来できる距離ではあらへんってことやな。なんせ行こうとおもたら、ウノーミで往復分の宿泊代がかかるわけやし、当然やけどノヨトの滞在日数分だけ宿泊代も掛かるねんな。
せやからな、お得な5枚つづりの切符つこうて普通または快速列車だけを利用してな、アオハルの勢いに任せて遠距離恋愛中の彼女に一か八かでプロポーズしに行こうなんて思てもな、そんな真似はできひんねん。
その場合、プロポーズの結果はどうなるんやて?
たぶんやけど「え? なんで新幹線使わないの?」とか素朴な疑問をしてくる彼女の場合は、失敗っちゅうことやから諦めるんやな。
せやけど反対にな、「余った切符で今度一緒に旅行しようね!」ってな感じのノリの大変よろしい彼女やったら大成功ってことや。せやからな、なんやったらそのまま新婚旅行についても、すべて列車旅で計画してもええで。なんせ沖縄以外やったらだいたい行ける……はずやったねんけど、北海道だけは新幹線つかわんと行けへんなってしもたんが大変残念やねんな、鉄道にとっても詳しいそこの君。
「えっとね……、実は、他の冒険者さんから聞いてね……。街の外門で、大きな声で不思議な言葉を叫んでるとても小さな女の子がいたって……。たぶん、みりんちゃんかなあって……、それでいろんな人に聞いたらね、雑貨屋さんに辿り着いたんだよ……」
「さよか。う~ん? けど、ウチ、そんなん1つも叫んだ覚えないけどなあ?」
まあおそらくいつもの癖が出てもて、ほんでちょっと小声でいろいろ喋ってたんを、誰かがめっちゃ大げさにいうとっただけやろな。
「それで、みりんちゃん……。アルパカの村に行きたいんだよね……?」
「せやねん。けどなあ、雪を掻き分けていくにしても、ごっつ時間かかるやろしなあ。そんでもってまちごうて雪に埋まってしもたら、そのまま春先まで見つけてもらえへんなって、さすがにそれやとなんぼウチやいうても困ってまうしなあ」
そういや雪ん中を進むいうたら、虎さんの応援歌みたいなタイトルの、雪山ハイキングの映画があったねんな。これまたカッコよくて有名な日本人俳優の健さんが主演しとるねん。ほんでその健さん率いる少人数のグループと、別の登山口から入った大人数のグループが、その途中ですれちごうてハイタッチするっちゅう、とっても感動的なお話やで。
でも、みんなが勘違いしたらあかん思うし、こいつは念のためやけどな。
主演俳優の健さんいうんは、これまた雪のように寒~いギャグでおなじみの、トミーズの眼鏡をかけてる方の、キンコンカン健ちゃんとはちゃうで。そっちはそっちで、ウチの大好きな芸人さんの一人ではあるけどな。
「あのね……、よかったらだけど、その、私といかない? 私と一緒なら、大丈夫だと思うよ……」
「そりゃ助かるけど、ええん? くららちゃんかて忙しいやろ?」
「ううん……。えっと、そのね……。その友達が困ってるなら、助けたほうが、いいかな、って。それに……、この前、相談に乗ってもらったから……」
ほんま律義なええ子やなあ。
もし、ウチが男やったら、こういう子と付き合いたい……。
いや、待ってや。
確か大阪が舞台の少女マンガでそんなん見た気がするな。男の子がウチよりも少し背が高いぐらいのちいこいバスケ部員で、逆に女の子は背がめっちゃ高いねんけど、ウチとはまるでちごてとっても前向きで明るくてどっちかいうたらガサツな性格でな。二人してみんなに冗談で夫婦漫才を披露しているうちに、恋に目覚めていくねん。
つまりな、こいつはどう考えても身長差および体格差により、たいそう
「どう、かな……?」
「うーん……せやな。うん、是非、お願いするわ」
他に選択肢もあらへんし、これぞ渡くんの船やな。たぶんこの船は、次々と雪山を崩壊させていってくれるはずや。
「あ、そんなら、これ念のためにな、渡しとくわ。たぶんくららちゃんのことやからどもないやろけど、もし怪我でもしたらつこうてや。別に返さんでもええしな」
ウチはウサギさんポーチから、ソフィアさんのもぎたてヒールポーションを1本取り出したで。まあちょいぱいさんには、も
おまえにはそもそもあらへんやろ、っていう苦情は受け付けへんで。それに対しては「そういう仕様です」ってFAQが残念ながらすでに用意してあるからな。
意気投合したウチとくららちゃんは、翌日、アルパカ村へ向かってノヨトを出発したで。
ちなみに昨晩はな、旅費を少しでも節約するためにな、くららちゃんのつこうてる宿に無理言うて相部屋で泊まらしてもろたわ。まあ、満室やったから泣く泣く相部屋にならざるを得んかっただけやけど。
つまり音声のみでお楽しみくださいが現実となったっちゅうわけやな。
要するに、エドガー家のあの夜の惨事が今回も繰り返されたってことや。詳細はわざわざ言わへんで。もう慣れたもんや。
あとな、こいつは初回に起きた事件ではあるんやけど、諸々の事情により省略せざるを得んかったことがあるねん。
なんとさすがノヨトやな。めっちゃ寒い地方ってことはあるで。
洗い場の横に、サウナがついとったねん。
まあいうて、現代日本に置いてあるような、設備がなんでも整っとるようなやつやあらへんけどな。
仕組みは単純やで。エドガー家にもある、一般のご家庭のキッチンと一緒や。
狭い掘っ立て小屋ん中に中央炉があるんやけど、そいつでその上においてあるぎょうさんの大きめの石をあらかじめ熱しておくわけやな。けど現代風サウナとちごてやっぱり煙突はあらへんから、小屋ん中は中央炉から出たススでまっくろくろのすけやで。
あとはアツアツの石ころに水を掛けるわけやな。けど自動で放水してくれるションベン小僧みたいなんはあらへんから、神社の手ぇ洗うところにおいてあるひしゃくみたいなもんを使う手動式やで。
ほんならな石の上でジュワっとお肉の焼けるいい音がして、もしそこに制服のシャツなんて着てようもんなら、しっとりびしょびしょで肌が透けて見えてしもてノーブラがバレてしまいそうな感じになるで。
もちろんサウナに服着て入るわけないけどな。
そのサウナにウチとくららちゃんは一緒に入って、そいつをこれでもかってぐらい充分に堪能したわけやな。ついでに君らの代わりに、くららちゃんも堪能しといたから感謝するんやで。
なお、君らにとっては実に残念やけど、男女別のサウナが豪華にも用意されとったから、現地の映像は残ってへん。せやし、今ウチがここで丁寧に説明したったわけや。
つまりな、ウチはあまりの気持ち良さに、ほんのちょっと油断してたわけや。
どうして人は同じ過ちを繰り返すんやろなあ。
サウナから洗い場に出た瞬間や。のぼせてもたんか、何かに躓いたんかわからんけど、くららちゃんがウチに向かって倒れ込んできたねん。
つまりな、いつもどおりのえっちいようで誰も得せえへん悲しいトラブルや。
そしてウチはついに気付いてしもたわけや。ウチの体には装着されておらへん例のあれ、要するにくららちゃんの特製マシュマロはとっても柔らかいってことにな。
ちなみにヤンデレちゃんからもらった呪いのチョコに対して、運命のホワイトデーに中身のないマシュマロをお返しするんはな、やめといたほうがええで。
そんなんしてもな、ヤンデレちゃんには効果がないどころか、むしろ逆効果になってしもて、ヤンデレちゃんがスーパーヤンデレ人にメガ進化するだけやからな。
へ? 君らマシュマロを返す意味もしらんのか?
まあ、わからへんのやったらな、君を隠しカメラで常に監視しとるお隣の幼馴染に試してみるとええで。
それがちょっと怖いんやったら、早いことスマホで「幼馴染 マシュマロ 返す」って入力して調べたほうがええで。
せやけど、その検索履歴も常に筒抜けやからな?
「よいしょ……、よいしょ……」
ズドドドドっ。
「くららちゃん、ウチ、何も手伝えへんで悪いなあ。ほんでもって雪の壁のせいで、何にも見えへんわ」
「ううん。これぐらいどうってことはないし……、任せておいて、ね」
ウチはこう、いわゆる金魚の美しいアレみたいにな、くららちゃんの後ろを早足で歩いとるだけや。
そのくららちゃんは、2枚の四角い板を山の形になるようにくっつけたもんを手に持ちながら押しつつ、ただ前に進んどるだけやで。こいつはまるで、超人オリンピック常連のロビンさんが付けとるマスクみたいな顔の、雪国の映像でおなじみのラッセル車そのものやな。
つまりな、物凄い勢いで、雪がどんどこ掻き分けられとるわけや。ウチが後ろをついていくんがやっとなぐらいのスピードでな。
あれやな、こいつはなんかこうヨーロッパのほうの伝承みたいなやつで聞いたことあんで。梅酒のソーダ割みたいな名前のあれや。刺青の入った人がやってくると、みんながさーっと道を開けてまうんとおんなじ現象な。
おそらく周囲にいらっしゃる雪ん子ちゃんたちは、おっきなくららちゃんのあまりの美貌に恐れおののいて自ら道を開けてくれてるねんで。
くららちゃんの名誉のためにもな、決して圧倒的物理力によって、無理やり押し開いとるわけやないで。そんな破天荒な人やってことが、もし万が一くららちゃんの想い人さんにバレてもたら大変やからな。
なんてそんな大真面目なことを、いつもとちごて悠長に考えてたんがあかんかったんやろか。
ガゴンッ!
激しい音を立てて、ラッセル車が停止してもたで。
「ぶほっ!?」
ほんなら急に止まれへんウチは、ラッセル車の後ろに付いとる、美味そうなデカすぎる桃にぶつかって跳ね返されたわけや。
それに対してウチは、自慢の不味そうなうっすいせんべいみたいな尻で餅をついたで。
「わわっ」
しかも慌てたくららちゃんは、おっきな板を持ったまんま後ろに下がってきたで。
「ぐふっ!」
もちろんそこにはなんや薄汚いもんが転がっとるわけで、ウチは下がってきたくららちゃんにぽっこりぽんぽこを踏みつぶされたわけや。
「きゃっ……」
ほんでもって金魚のフンを踏んでしもたくららちゃんは、バランスを崩して後ろにどかーんと倒れたで。その衝撃により雪の壁がたいそう崩れてもて、ウチが白いもんまみれになるっちゅう、とてもお見せできない映像が放送事故により流れてもたな。
まったく関係ないけど、雪の宿っちゅう、ミルククリームのついた美味しいせんべいのお菓子があるんをなんでか思い出したで。
けどな、勢いよう倒れてくれたおかげで、ウチのお腹からは大きな足がどいたわけや。せやからウチは、これ以上くららちゃんから余計な被害を受けへんように、白いハッピーターンについとる魔法の粉みたいなもんを払いのけながら、なんとか立ち上がることができたねん。
恐ろしく強力無比な踏んづけ攻撃で、ぽんぽんの凹凸が逆転してもうて幼児体型ではなくなるっちゅうたいへん嬉しゅうことになってたんも束の間、驚くべき再生力が余計な仕事をしよってからに、すでにウチの胸よりたいへん柔こいお腹はわざわざ元通りのぽっちゃりに戻ってしもとる。
「いったい、なんやいうね……ん?」
ふむ、こいつは、あれやな。
「なんや、ただの、鹿児島のかき氷やないか。こいつは、ほんの、ちょっとだけ、頭がきーんってなるだけやねん。せやからこんなん、こわいこと、ま、まったくあらへんで」
よし!
こ、こんなときこそ、死んだふりの出番やな。
今回こそ、や、やるべきときやで!
いや、ちゃう。ようみたら、あいつは熊やない。
シロクマや。つまり、死んだふりは、効果あらへんやんか。
ガクガク。ブルブル。
あかん。かき氷食べたせいか、体が震えだしてもたで。
ええい、あんな、ウチよりほんのわずかにちょっとばかしずいぶん大きいぐらいのシロクマなんてな!
くららちゃんよりは、めっちゃそれなりに小さいねんで!
せやから、ブルブルブルブルブルベリアイのブルブルくんみたいに、怖がることあらへん!
せや。こういうときこそ、あれをがばっと開けて、あいつを見せつけるときや!
「いまこそ暗き深淵より、その真なる姿を現すんや! 聖剣、スイカリ……へ?」
それは、ウチがウサギさんポーチに手を突っ込もうとしたそん時やった。
「グオォォォォ!」
「ぎゃーーーーっ!?」
目の前におった優しそうなヤンデレシロクマちゃんが豹変して、ものすっごい勢いでウチに迫ってきよってな、これ以上辛抱溜まらん感じにとっても力強い抱擁をしてきよったねん。
バキバキっ!
「ぎょえーーーーっ!?」
ボキボキっ!
「ぐえーーーーっ!?」
ほんでもって昨夜の宿の再現みたいなことが、こんな真っ昼間から起きてしもたで。
いや、くららちゃんの抱き枕状態よりも幾分かマシかもしれん。
こいつは、くららちゃんほどの怪力とはちゃうからな。
せやけど、やっぱりウチの力ではどうにもならんのは変わらへんで。
一応、状況的にその方が絵になるかなおもてな、なんとなく絶叫してみたけど、ほんまいうたらこれっぽっちも痛くはないねん。たぶんあまりの寒さに、痛覚がマヒ状態になっとるだけやろけど。
しかしやな、シロクマに折られた背骨は瞬く間に再生して、そんでもってまた壊されるっちゅう、エネルギーの無駄遣いみたいなことが無限に繰り返されとるで。
これな、SDガンダムの皆さんみたいな人類の目標に反しとるわけやし、そろそろやめてくれへんかな?
「み、みりんちゃん! い、いま……、助けるからっ!」
けどな、今回のウチには頼もしい助手がおるで。
なんとか首だけ後ろに動かしたらな、そこにはちっちゃく見えるけどでっかい弓を持ったくららちゃんが、ふっとい矢をつがえて、その大きな胸を張りながら構えとったで。
さあワトソン君、懲らしめてやりなさい!
「……そこっ!」
そしたら、くららちゃんが放った必殺の矢が、シロクマ目掛けて飛んでいったわけや。
シュイィィィン!
せやけどシロクマかって黙っとらへん。
当然やけど、このシロクマはその矢を防ごうとしよるわけや。
なんとな、ちょうどええもんが、そこにあったねん。
……たまたま持っとった盾みたいにまっ平らなもんをな、それこそ盾の代わりに使いよったで。
ぶっすぅぅぅー!
「ぐえぇっ!?」
そしてウチは、くららちゃんの極太の超長くてかったいうまい棒みたいなもんで体を貫かれて、そのままあわや昇天しかけたわけや。
「グワァァァ!」
ほんでもって、そのままウチを完全に通り抜けよった必殺の矢は、その向こうにおったシロクマのこともついでのように貫いたで。
キラキラ~。
そしたらこのシロクマ、たったそれだけで輝きながら昇天していってしもたわ。
「きゃあぁー!? み、みりんちゃん、ご、ごめん! ……あ、そうだ! ポーションっ!」
そんなら慌ててリュックサックを降ろして、その中にあるはずのヒールポーションを探そうとするくららちゃんや。
「は、はやく。はやく、しないと……!」
けど焦ってんのと、ほんでもってなんやいろいろ詰められてるせいか、なかなか見つからへんみたいやで。ぎょうさん入るがゆえに目的のもんを探すのが大変っちゅうのは、大容量のマジックバッグの欠点やねんな。
前も言うたけど、手ぇ突っ込んで思い浮かべるだけで欲しいもんが手に入る、みたいな異世界マンガにありがちなご都合主義にはなってへんねん。慌てたときのネコ型ロボットが、お腹のポケットに手ぇ突っ込んで、要らんもんをぎょうさんばら撒きよるんはこのせいやな。
その点、ウチのウサギさんポーチは容量が2倍ぐらいの小さめやから、そこまで苦労はせえへんし、大助かりやで。
「あっ……、あった!」
「探しもん見つかったんか、くららちゃん?」
「うん……! これでいますぐ、みりんちゃんを助けないと……ぇ?」
「しっかしなあ、でっかいシロクマで怖かったなあ。あ、そういや、くららちゃんはどこも怪我してへんか?」
「へ……? えっと、私は大丈夫だけど……、みりん、ちゃんは……?」
「あの程度、どもないで。まあ、くららちゃんが無事なら、よかったわあ。そういやな、あのシロクマ、でっかい爪を2本落としよったけど、これ、何に使うんやろな?」
ウチのスイカリバーよりちょっと短いけど、えらい鋭い爪やな。なんぞ武器にでもなったりするんやろか?
「えっと……、私、知らないよ……。でも……、それ、みりんちゃん、もらっておいて……」
「ん? ほんまにええんか?」
「いいよ……、でもね、その代わりに……」
「代わりに、なんや?」
「みりんちゃんの、スキル……、ちゃんと教えて、ね?」
……。
やっぱ誤魔化せへんかなあ?
案外このまま行けるかな、って思たんやけど、くららちゃんにはすでに色々知られとるしなあ。
まあええか。
くららちゃんとはズッ友な親友になれそうやし、ちょっとばかし秘密を共有する仲になっても構わへんやろ。
「そりゃ、まあええけど。でもな、せやかてな、その名前が『不死』っていうことぐらいしか、わからへんねんで?」
「……え?」
そんなこんなで、この不死チートについて、わかっとることをくららちゃんには公開することになったわけや。
けどな、実際には、ほぼなんもわかってへんねん。
なんせな、ほら、他のスキルのこと思い出してみてや。
あの例の、人をおちょくっとるとしか思えん、詐欺まがいのキャッチコピーみたいなんあるやんか?
もちろん、この不死チートにもな、それがあったはずやねん。
けどな、あのボケナス女神のおった、黒ずんだ雪みたいな白い空間でのこと、みんな覚えとるか?
不死チートのひらひら紙を読もうとしたらな、あのケツカッチン女神のアホが、後がつかえてるからって強制的にウチをそのまま転移しよったやろ?
しかも、確か「てへぺろっ」とかおそらく言いながら大失敗しよって、1万マゲカとマジックバッグを配布し忘れよった上に、丸裸のウチを極悪ウサギ草原にほっぽりだしよったわけや。
ん? ありゃ、こいつはうっかりまちごうたな。
丸裸やのうて丸腰やったな。ガッコの制服を着とったはずやで。
「せやからな。こいつは偶然起きてしもた実体験によってわかっとるんやけど、死ぬような怪我しても死なへんことと、そんでその怪我もすぐ回復してまうことやな。それからおまけに、状態異常におそらくならへんってことぐらいや」
「実体験って……、それ、大丈夫なの……?」
「まあ、生きてるんやし別にええやん」
生きてるだけで丸儲け、やで!
「ともかくこんなとこで喋ってるんもなんやし、はやいとこ村まで行こか」
「……そうだね。でも、そのスキル、なんだかちょっと変な気がする……」
ちゅうわけで、くららちゃんとウチは、雪の中を再度進み始めたで。
けど、どうもくららちゃんは何かに悩んどるようで、ちょっとばかし進みが遅うなっとったわ。
けど、そのおかげで全力の駆けっこせんでもよくなったから、ウチはだいぶ助かったで。
さて、くららちゃんのおかげで一切何事も起こらんと無事平穏のままアルパカ村についたウチやったけどな。
なんとそこにはアルパカ生地が普通に売っとって、特筆すべきことなんてなんもなく、アミーちゃんへの納品分も含めてできる限りの生地の入手に成功したで。
まあいうてもな、ラマねーさんつれてきてへんから大した量やない。せやからウサギさんポーチの隙間に入る分だけや。せやけどな、それだけでなんと合計200マゲカもしたで。通常サイズの布が4枚こうたから1枚あたり50マゲカな。
ほんで1枚が産着用、3枚が売却用な。アミーちゃんには1枚あたり80マゲカで買ってもらえるんやけど、ウノーミで2泊、ノヨトで2泊、さらにアルパカ村で1泊の合計5泊もしたわけやし、利益なんてあらへんで。まあ産着用の分は売ったわけやないけど、それでも加工してもらう分の費用は払うわけで、もちろんその分の売上も減るんやけど。
それはまあええねん。今回の目的は産着を手に入れることで、その旅費を少しでも稼ぐために商売もついでにしただけやしな。
こりゃアルパカ村周辺ならともかく、経費も考えたらエッサなんかで庶民に手を出せるシロモンとちゃうで。まあ、今回の産着は贈答もんやから、経費は度外視や。
あれかな、アルパカ生地って、たぶんお貴族様の衣装用なんかな。ウサギ毛玉もアミーちゃんはお貴族様用って言うてたしな。
さて、そんなこんなで、ウチはさっさとエッサまで帰ってきたで。
……え?
省略しすぎやて?
しゃあないなあ、ちょっとばかし思い出を語ったるわ。大したことなんもなかったけどな。
けど、まず最初に言うとかなあかん。
ウチはな、アルパカ村から、一人寂しく帰って来たねん。くららちゃんがこさえてくれた道を通ってな。
くららちゃんは、村においてきたで。
まあ、最初からそうなるやろな、って思てたんやで。
実はな、ウチはくららちゃんの秘密をすでに聞いてたねん。
くららちゃんの想い人……、ちゅうよりむしろ
せやからな、ウチがアルパカ村に行くんを口実にしてな、会いに行きたかったっちゅうことや。さっきも言うてたけど、この話はノヨトの宿で泊まった時にあらかじめ本人から聞いてたねん。
ほんでまあ、くららちゃんと彼氏さんは仲良く二人でな、彼氏さんの家の他数軒で共用しとるサウナに入っていかはったわ。
こいつはあの村の習わしらしいねん。仲良い男女がサウナで親交を深めるっちゅうんはな。もちろんその間は貸し切りやからな。
いうとくけどな、ウチは別に聞き耳を立てにいったりなんてしてへんで。そんな下世話な真似できるかいな。そういうんは妄想やから楽しいねん。あずま君とさやちゃんのときは、まだチューもしてへん仲やからできたねん。
それがまさか、すでにくららちゃんがABCの一番下の選択肢まで済ましとるとは、そんなん思わへんやんか。
意外と行動力お化けやな。まあこれは、彼氏さんも割と積極的やったってことかもしれんけど。
なお、その彼氏さんは思っとった通り、ブロンド髪の優しそうな好青年やったで。純朴って感じではないけど、チャラい感じもせーへんかった。
つまりな、一般的な常識のある、しっかりもんの男ってことや。
こいつはウチの見立てによるとやな、今回彼氏さんのご両親にもご挨拶を済ませたことやし、今年中に結婚するんとちゃうか?
けど、そうなったら冒険者業はどうするんやろな?
まあええか。その辺は二人で考えたらええことやしな。友達が幸せになってくれるんやったら、なんでもええで。
待ち遠しくてしゃあないな。
ほんでもって、エッサに戻ってそれから数日後や。
「ヴィンセントはん、おりまっか~? ってみたらわかるがな!」
ウチは雪かきの合間に、ギルドマスターを訪ねて冒険者ギルドにやってきたで。
おっと、猫耳ポンチョのフードはさすがに室内では被る必要はあらへんな。ただの尻尾付き幼女にここで変身やで。
「おや、いらっしゃい、ミリンさん。だいぶ遠くに出かけてたみたいだね。さっそくポンチョを活用してくれて嬉しいよ」
「せやねん。めっちゃ役に立ったわ、おおきにな」
もう慣れたもんで、ウチは指定席になっとるお子様用の椅子に座るで。
いや、そんなもんあらへんで。ただのいつものソファや。なんやこう、ウチが抱きしめるのにちょうどええ感じの羊毛クッションが、そこだけにおかれとるけどな。
これすんごい気持ちええねんな。サイズも少し小さめでジャスト
それにしても、ギルマスのお客さんに子ども連れでもおるんかな? とりあえず気持ちええし、こいつはウチのお膝に乗せとくで。
「それで、ノヨトはどうだったのかな? 雪がたくさんあったでしょう? それに友達にも会えたかな?」
「そりゃもう、ウチの背よりも高ぅ積もってたで。まあくららちゃんに助けてもろて、事なきを得たけどな。……あれ? ウチ、ノヨトに行くっていうてたっけ?」
「アミーちゃんと、それからエドガーさんにも聞いたんだよ」
「ああ、さよか。あ、せやせや、忘れんうちに……」
ウチはお気に入りウサギポーチに手ぇ突っ込んだで。
実はここに来るんにな、なんと目的があったねん。せやからウチは、例のブツを取り出したで。
「これな、ポンチョのお礼や。口に合うかわからへんけど……」
「おや。ありがとう。イチゴのジャムだね。これ、ミリンさんが作ったのかな?」
「せやねん。向こうで季節外れのハチが何匹か出てな、適当に倒しながら帰ってきたら一匹だけ蜂蜜入りの瓶を落としよったねん。砂糖なんてこっちの世界では手に入らへんし、こりゃいいもん拾うた思てな。せやし砂糖の代わりに蜂蜜つこて、ポンチョのお返しにジャムでも作ったろかなって。……もしかして、甘いもん、苦手やったか?」
アルパカ村からノヨトに帰る途中な、蜂蜜瓶をたまたま1個拾ったねん。
その他にもな、おそらく蜜蝋が詰まっとるハチの巣もたまたま落ちてたんやけどな。結構大きかったし、アルパカ布でいっぱいやったポーチに収まりきらんかったから、そいつらは泣く泣く放置してきたけどな。
……あれ? ウチは今、ヴィンセントはんに正直に「倒した」って答えてしもて、その反対に心の中で「拾った」って言い訳した気がすんで。
まあ、もう今更やな。
「ふふっ、もちろん甘いもの、大好きだよ。エッサだと果物ぐらいしか手に入らないから、これはとっても嬉しいね。それにしても、ミリンさんは料理もできるんだね」
「こんなもん、ただ材料入れて煮詰めるだけやから、誰でもできるで。焦げ付かんようにゆっくり混ぜながら、ただ待っとったらええだけやしな。それにな、じっと待っとるんは得意やねん。いろいろ大切な考え事しながらな」
「それでも、なかなかできないと思うよ。あ、せっかくだし、今食べてみようか。お茶とビスケットを用意するね」
ふと思たけど、ホワイトデーのお返しの定番っちゅうたら、だいたいあめちゃんやねんけどな。
ジャムってなんか意味あるんやろか?
ラブコメとかでは、あんまりそんなん返してるシーンあらへんよな。そりゃそうや、手作りするんやったらチョコにするもんな。
ジャムっちゅうたら、なんやろな。
大変とろとろやな。切ったパンやらに塗るもんやで。なかなかねっとりしとるわ。ひみつの隠し味もあったりしてな。ともかくあまいねんで。へんなもんは入れたらあかんで。
ん? どうしたんや? 君ら、ウチの
まあ考えても無駄やな。どうせ異世界にホワイトデーなんてあらへんし、お返しの意味なんて関係ないで。
喜んでもらえたらな、そんでええねん。
「ところでね、ミリンさん。その蜂って、何色だったか覚えてるかな?」
「あ~、なんやどぎつい紫色やったで。他は普通の黄色と黒の虎さん模様やったのに、そいつだけ近所のおばちゃんの髪の毛みたいな目立つ色しとったわ」
「なるほどね。……無事に帰ってきてくれて嬉しいよ、ミリンさん」
そういうわけで、異世界での初めての冬は、穏やかに過ぎていくわけや。
あとは、せや。
パウラさんの出産が待っとるで。
赤ちゃんよ、無事に産まれてくるんや!
けど、念のためな、ソフィアさんとこでヒールポーションは一杯こうといたからな!