ウチ、ただの行商人やで? 〜異世界転移した関西弁女子はチートスキルに物申したい〜 作:霧島 高
君らに、夢はあるか?
……あんな、転生してハーレム築いて、ほんでもって
もうちょっと普段のウチがやっとるようにお上品で、放送可能で、なおかつ現実的なやつはないんか? ほんま頼むで。
そりゃまあ、わからんでもないで。
けどな、よう考えるんや。
だいたいハーレムっちゅうんはな、いくら異世界なんやいうても、公に認められとるんは上のほうの貴族様だけやろ? ヘタしたら王様とか王子様とかぐらいしか、認められへんかもしれんで。
王子様でハーレムか。
こいつは乙女ゲームの世界やな。
そんならもちろん定番っちゅうのがあるねんな。
マン〇ンライフのこんにゃく畑……。
ならぬ婚約破棄な。
ん? 何で伏字になっとるんやろ? ただの会社名を出すんがあかんのかな? 無駄にエッチくなってもて、逆に怒られへんかこれ?
しかしなあ、婚約破棄なんて、せっかくのチャンスやのに、なんでそんなもったいないことするんやろな?
ほら、だいたいそういうときってな、新しい正妻候補ちゃんが登場するやんか。知的でクールビューティホーなウチとはまったくちごうて、ゆるふわな感じの天然カワイ子ちゃんな。
そうするとやな、お花畑好きと思われるこの女の子を王子様の得意の話術でなんとか言いくるめて側室とやらで我慢してもうてな、おめめが鋭い感じの婚約者ちゃんはそのままにしといたらええやんか。
これぞ一石二鳥の十徳ナイフみたいな感じやろ?
ついでにその辺のメイドさんやらにも手ぇ出したらええで。王子様の周りのメイドって、そういう目的で送り込まれとるからな?
へ?
そんな嫁さん複数おったら、こじれるんちゃうかって?
そんなもんな、絶対に婚約破棄のほうがこじれる思うけどなあ。だいたいの異世界マンガかて、婚約破棄した側が大変な目におうとるやん。
次期の王様なんやし、お世継ぎがたくさんおらんと不味いやろ。
ほんまそれが仕事やいうのに、なんで一人に絞ってまうんかなあ?
……あ!
そうや、わかったで!
ああいうマンガに出てくる王子様っちゅうのは、きっと精力に自信がないんやな。基本王城の中で引きこもっとるし、体力もないんかもしれん。
なるへそ~。
けどなあ、異世界なんやし、赤マムシドリンクのさらに強力なやつみたいな、お手軽精力剤ぐらいあらへんのやろか?
ほんま、媚薬やら女性向けのもんはすぐに出てくるくせに、男性向けのお薬はあんまでてこーへんねんな。それともウチの読んだ異世界マンガが、幼馴染のこうやんセレクションっちゅうのもあって、偏ってしもとるんやろか。
まあええか。
どっちの薬も、この世界では見かけたことあらへんしな。
たぶんご禁制の品になってもてるんかもな。それか値段が高すぎてご貴族様ぐらいしか手ぇでへんとか、どうせそんなしょーもない理由やろ。
……ふーむ。
赤色と、禁制品か。
これは、まずいな。
これ以上は言えんで。
言うてもたら、某球団からウチが追放刑に処されてまうからな。
そんなんなってもたら、ウチの色々足りひん頭やと、受け入れ先を見つける方法がなくなってまうで。
もし、やるんやったらもっと前からその球団に下働きいっぱい送り込んで、追放と同時にその人ら全員引き上げて球団運営を大混乱に陥れつつな、機能不全になっとるオフシーズンの間に他の球団味方につけるとかコーチ陣を補強するとかの事前準備を入念にしとかなあかん。
そんでもって、完全に信頼できる忠実なかっちょよくて、文句ひとつ言わんと三日三晩ほぼ飲まず食わずで走り回って働き続けてくれる、ブラック労働への耐久性マックスなマルチに活躍する選手も1人ばかり用意しとかなあかんで。
そんでそのイケメン青年のご主人様の、海ほたるの道路みたいな名前の侯爵令嬢はんはな、自分が命令しといてなんやけど、彼の身を遠くから案じとって食事も喉を通らへんわけや。
ほんならその願いが通じたんか知らんけど、夜空に浮かんどる餃子みたいなんを同時に見上げて、二人とも同じことを呟きよるで。
はぁ、それにしても腹減ったなあ、って。
ともかくや。
そんな危ないシロモンはウチの手に余ってまうで。
ウチが目指しとるんは、ごくごく普通の行商人やねん。
そうや。
やっと本題に戻ったけど、将来の夢の話やったな。
ところで、みんなはウチが一応女子やってことを覚えとるよな?
ほんなら、女の子の夢について語らなあかん。
けどな、それはもちろん、決まっとるで。
もちろん、それは。
お嫁さんや!
なんちゅうのは、知っとるやろけど、遥か昔の話な。
言うてもな、ここは中世ヨーロッパ風の異世界なんやしな。
たいていの女の子は大きいなったら、エミリママことパウラさんみたいな優しいお母さん、つまり専業主婦になっとるで。
異世界の話はどうでもええ。
ともかく現代っちゅうんは、男も女も働く時代や。
いつもの信頼できる
そんで本命、女の子の将来の夢は、お菓子屋さんってのが定番な。
これは結構昔から変わらへんらしいで。
そんでもって、ウチが小学校の文集にな、とても綺麗で読みやすくて性格の滲み出とる字で書いた将来の夢もな、それとだいたいおんなじや。
まあ、だいたい想像つくやろけどな。
たこ焼き屋、って書いたで。
こうやん以外はうまく読めへんかったらしいけど。涙で滲んだんかな?
ん? なんでたこ焼き屋にしたんか、やって?
だって、おかんがたこ焼き屋やったんやもん。ウチかてやりたいやん。
せやから決して、他に何にも思いつかへんからって、適当に書いたわけとはちゃうねんで? ほんまやからな?
ほんで、君らはなんて書いたんや?
ん? どうしたん?
なんでそーっと、本棚の前に立って、卒業文集を隠そうとするんや?
もしかしてそこに、君の誰にも知られとうない大事な黒歴史でも刻まれとるんか?
まあ、それ見せてくれへんでも、別に構わへんで。
なんせその文集は、君のクラスメート全員が持っとるんやからな?
「うぎゃーっ!」
それは、草木も寝とる
きっと今頃よーいどんで、隣の人間国宝さんのおうちに、誰かが忍び込んでそうな時間や。
「おっと、どうしたんや?」
ウチは揺り籠の中に腕突っ込んでな、大声で泣き始めよった赤ん坊を抱き上げたで。
「しかしまあ、たった3か月でたくましうなりよったなあ」
「あぎゃあ!」
「よーしよし、抱っこしたるさかいなあ。どもないで~」
ん?
君ら、もしかして勘違いしてへんやろな?
忘れてもたんか?
言うとくけど、この赤ん坊はウチの子とちゃうで?
この子は、ウチの居候先のエドガーはんとパウラさんの長男で、エミリちゃんの弟のエリク君な?
まったく、君らの早とちりには困ったもんやで。
さすがにウチかてな、一応哺乳類に分類されとるはずやし、やることやらんかったら赤ん坊を産んだりせーへんねん。
それにそもそもやで。乙女の大切なアレすらまだ始まってへんねん。別にそんなん隠す気もあらへんからな。
せやからな、ガッコでプールの授業を休んだ時に、男子から「もしかしてあの日なん?」なんてニヤニヤしながら言われたときの答えに「何、恥ずかしがってんねん? 生理って大声で言わんかい」ってのを用意してたんやけど、結局お蔵入りになってもたわ。
そもそもウチのこと知っとったら、そんな無謀な行動取れへんかったやろな。もしできたら、そいつはおそらく、ある意味で勇者やな。ハーレムは作れへんタイプの残念勇者やけどな。他の女子からの冷たい目線を一生浴びることになるで。
そういや、ウチ、もう16歳になったねん。
せやから、いつ何時そいつが始まってもおかしくないねんなあ。
ほんでもって、ついこの前のことなんやけど、パウラさんからそれっぽい布セットをいっぱいもろたで。どうやらエリク君のおむつのついでに、端切れをつこうて、ウチのために作ってくれたらしいわ。
ほんま、お母さんはなんでもお見通しやな……。
有り難い話やで。
ちなみにそいつの材料はな、かつて変態イノシシ仮面に3割ほど持っていかれて短くなってもたシュミーズやらの古着やで。
あのシュミーズ、短くなってちょうどよかったんやけど、さすがにいろいろ黄ばみが激しくなってもたから、新しいのをこうたねん。
……ん?
あんな、ちょっと待ってや。
君ら、今日は勘違いしすぎやで?
さすがにな、ウチは立派な大人や。赤ちゃんやないねん。
寝ションベンなんて、もうせーへんで?
せやからな、黄ばみ言うんは、ほら。
あれや。
その、そっちの穴やのうて、な?
逆側の……。
ちょっと、言うん、恥ずかしいな……。
ほら?
な?
どうしても飛び散ってまうやろ?
汁もんとか食べたときに、な?
お口の周りから、色々な?
「おぎゃぁ……」
「よーし、ええ子やで~」
さて、ウチが抱っこしたったら、エリク君もすぐ大人しくなるねん。
実はな、エリク君は寂しがり屋なんかしらんけど、揺り籠ん中やとあんま落ち着かへんみたいやねんな。人肌が恋しい、ってやつやな。
ただしママ限定やのうて、こんなお口周りの汚い胸無し幼女でもええらしいわ。
そうやねん。ついに始まってもうたねん。
世の中のママさんの大半を悩ませるっちゅう、赤ちゃんによる地獄の夜泣き攻撃がな。
そりゃもう、夜中にエリク君が起きてまうと、えらい騒ぎになるで。
そのせいでな、ただでさえ出産後体調崩しとったパウラさんは、余計にしんどそうやってな。
せやから、エリク君の夜のお世話を、ウチが買って出たねん。
あんな……、君ら、夜のお世話って聞いて、変なモン想像したんちゃうやろな?
こうやって抱っこするんがほとんどやで?
そりゃもちろん、シモのお世話もするで?
けど、そんなん赤ん坊なんやから、しゃあないやん。ションベンやらウンチっちゅうのは生理的欲求や。
布おむつの交換もなんのそのや。
そんときにどうしても登場してまうちっちゃなゾウさんなんかに、そもそもウチが恥ずかしがるわけないやろ?
けど、ふむ……、こいつはよう考えたらまずいかもしれん。
エリク君が将来大きいなったとき、こいつはちょっとした黒歴史になるかもしれんで。
だいたいな、男の子が赤の他人の異性に世話されとったいうんは、一生いじられるねんな。主に隣のお宅のお姉さんとかにな。
そんでもって、そのまんま性癖拗らせてまうねんな。
もちろん、それが推定28歳のお姉さんが最初から狙ってたことや。
けどまあ、エリク君は正太郎っちゅう名前やないし、そんなことにはならんやろ。
ちなみに同じ金田でも、もう誰にも越えられへん記録だらけのピッチャーである正一さんの読み方は「ショウイチ」やのうて「まさいち」な。
「……すやぁ」
それにしても、可愛い寝顔やなあ。
この子はどんなイケメンさんになるんやろなあ。
やっぱり将来はプロ野球選手かな?
ともかく、今はまだ小さいバットでも見せてもらおうかいなっと。
……えっとな。ちょいとばかし臭いがしてきてるし、おむつを交換せなあかんねん。
せやから、これは
異世界やしな、そんな将来に至るルートはあらへんで。
「いつもごめんね、ミリンちゃん」
「なーに、任せとき! ウチはいつでも元気やからな」
さて、こいつはその翌朝のことや。
パウラさんが寝床から出てきて、バトンタッチやで。
ウチは一睡もしとらへんけど、すこぶる快調やな。
なんやこう、あっちゅう間に夜が明けるねんな。エリク君抱っこして妄想したり、揺り籠そーっと揺らして妄想したり、ほんでもっておむつ替えて妄想したりするんを繰り返してたら、いつの間にか朝になるで。
あんまりにも忙しい夜や。
世の中のお母さんが、ホンマに偉いいうんがようわかったで。
「おぎゃぁ!」
「あらあら、待たせてごめんなさいね」
そんでもって、さっそくの授乳タイムな。
なんせこればっかりは、やりとーてもウチには絶対でけへん。
やっとこさエリク君も気付いてしもたんかしらんけど、ウチが抱っこしてもな、パイパイをせがんできたりせーへんなったねん。
ちょっと寂しいな。まさか3か月足らずでバレてまうなんてな。
まあでも、最初の頃は、随分悩まされたねんで。
あんまりにもモゾモゾしてせがんでくるもんやから、こりゃもうウチのチョコボールみたいなんをお口のところにもっていくしかないやろか、そんならそいつをパックンチョするやろか、とかいろいろな。
でもな、すんでのとこでやめといたで。
そりゃもう、エリク君の名誉のためにもな。
だいたいな、男っちゅうんは「あんたもちっちゃい頃は、おっぱい吸っとったんや」なんてことを母親から言われてしもたら、ものすっごう恥ずかしいもんやろ?
それがまさか母親どころか、ウチみたいなブサイク幼女のアレをまちごうて吸ってもてたとか、こいつはもうただの黒やのうて暗黒の歴史になってまうで。そんなら、ものすっごうおセンチメンタルな気分になってしもて、そんでもって太極拳みたいな不思議な踊りを披露する羽目になってまうかもしれん。
「ちゅぱちゅぱ」
「うっし、これで安心やな! ほんならウチはご飯の用意してくんで」
「ありがとう、ミリンちゃん。でも、無理しないでね? 夜はほとんど寝てないんでしょう?」
「せやねん。けどなあ、なんやろ。最近、徹夜しても全然元気やねんな。ちょいと前やったら、いつの間にか寝落ちしてもて、気付いたら床に転がってたのになあ」
そういや、あれはいつのことやったやろか。
こうやんちにお泊りした時にな、ちょうどその日の深夜、それこそ深夜でしか放送でけへんような、際どくてたいへんおもろいアニメがあってな。そいつを今日こそは、こうやんと一緒にリアタイしたろうおもたねん。
けどな、放送時間まであんまりにも暇なもんやから、どうしてもベッドの上に寝転んでマンガを読むっちゅう誘惑に耐えられんくなったねん。そしたらいつのまにかリタイアして、気付いたら床に落ちて寝てた、ってことが何度もあったねんな。
しゃあないから、こうやんちが加入しているネット配信つこうて昼間見ることになるんやけど、やっぱり夜中やないとなんや損した気分になるやんか。フインキって大事やろ?
ところでなんでフインキって漢字に変換でけへんの?
なんや間違っとるんか?
フインキやのうてフニンキ? フニャンキ? フニャンチ?
え? 順番が違う?
えっと、フニャチ……。
あっ、せや、思い出したで。
あんとき見てたんは確かな、デカパイちびっこ大学生が高校時代の先輩のことが好き過ぎるあまり照れ隠しでイジって遊びまくってたら、なんでか都合のいいエロトラブルが起きまくって、結局自分が遊ばれて恥ずかしい目におうてまう話やったはずや。
そんでもってデカパイマスターこうやんがそれ眺めながら、「夜に見る巨乳の価値は何倍も大きいねん」ってしみじみ言うとったで。そんでウチが「なんでなん?」ってきいたらな、こう答えよった。「深夜枠のアニメやったら、原作よりも大きさが数倍になっとるかもしれへんから」って。
つまりこいつは、夜更かししたほうが胸は大きくなるっちゅうことか?
そんならこのまま絶対眠らせてもらえへんエリク君との夜の生活を続けとったら、ウチの胸もそのうちでっかく……。
はっ!
あかんがな。
ゼロになんぼ数字掛けたってゼロやんか。
この世の切ない真理やん。
「おっと、そろそろええかな」
朝ごはん用スープが完成やな。黒パンと合わせたら、いつもの朝食の出来上がりや。
「あ、そういえば……」
「ん? パウラさん、どうしたん?」
「昨日ね、ミリンちゃんがいない時にヴィンセントさんがいらしてね。時間がある時にギルドまで来て欲しいそうよ」
「そうなん? ほな、朝ごはん食べたらさっそく行ってくるわ」
さて、春もいつの間にやら中ほど過ぎてしもた本日、お日様キラキラのなかを、元気いっぱい歩いていくで。
けどホンマ全然寝てへんのに、なんでなんやろな?
まるで昨晩はそりゃもうずいぶんお楽しみで、朝もスッキリして目が覚めて、今日も一日このままハッスルやで、みたいな感じの気持ちよさやな。
「けどなあ、やっぱ寝たいよなあ」
ほら、よう言うやんか?
寝る子は育つって。
せやから寝ぇへん子は、背が小さいままやって。
そりゃウチかて半分諦めとるけどな。せめておかんぐらいのサイズにはなりたいやんか。
メンヘラちゃんの法則とやらに
ちゅうわけで。
さて。
バーン!
ギルドの扉を開いたったで。
そんでもって。
ドーン!
ギルマス部屋へそのまま直行や。
「ヴィンセントはん、ウチがやってきましたで~」
「やあ、いらっしゃい、ミリンさん。待ってたよ」
ふぅ、銀髪イケオジギルドマスターは、今日も目の保養になるなあ。
こういう普段着でええねん、普段着で。
この前みたいなかっちょ良すぎのキラキラ衣装姿は、返って目の毒なわけやし、そんなもん直視したら目玉焼きが出来てまうからな。
まあ、チートのおかげですぐ治るけどな。
「ほんで、何の用……って。おおう、なんちゅうことやっ!!」
そんでもって、ウチはいつも通りの指定席へ陣取るためにソファのとこまでやってきたんやけど、そこで偶然発見してもたんや。
「こ、こいつは……っ!」
なんと、そこに新しく用意されとったんはな。
あの、寝そべる姿にみんなが憧れる「
そこにはなんとな、これこそ枕にすべしみたいな形の四角いクッションと、少し前から導入されたほどよいサイズで抱きしめるのにちょうどいい丸いクッションが、まるでウチのためであるかのように用意されとったねん。
「こんなん……、辛抱たまらーんっ!」
と言いながら、ウチはソファにジャンプ一番飛び込んだで。
そのまま丸クッションを、ウチの大事な平たい胸に押し当てながら、四角いクッションに頭を乗っけて。
はいっ!
ごろごろ~、ごろごろ~。
「……はっ!」
あかん、あかんで。
こんなウチのだらしなくてあられもない姿をヴィンセントはんに見せるわけには……。
けど……。
「くっ……ごろ……りんするんが、まったくもって止められへん!」
「ふふっ、いいよ、ミリンさん。最近、夜眠れていないんでしょ? 好きなだけ休んでいってね」
「せやけど、どう考えてもこんなん仕事の邪魔やんか……。お客さんがきてもたらどうするねんなっ!」
ごろん、ごろん~。
「大丈夫。ミリンさん以外は誰も来る予定がないから安心してね」
「いや、せやかて、職員さんもここにくるやろし……」
ごろ、ごろ……。
「ね?」
「……アッハイ」
ウチはこの誘惑に勝てる要素なんて、どこにもあらへんかったねん。
ああ、極楽や~!
そんで浄土みたいなソファの上で、しばらく仰向けになってぼーっと悟りでも開いたろかとおもて天井のシミでも数えようかな思たんやけど、そんなもんあらへんくて、なんとまっさらさらのキレイキレイやったねん。
ほんで数えるモンがのうて、このままやと煩悩まみれになってもて困ってまうなと、ぼーっとしてたそんときや。
「なあ、ヴィンセントはん。なんで、そこにおるん?」
ふと、ほんのりあったかい視線に気づいて横向いたら、ヴィンセントはんがいつのまにやら執務机やのうて向かいのソファにおって、ウチみたいな余計なもんを視界に収めつつ仕事をしとったねん。
「ここにいたら、ダメかな?」
「あかんことはないで。そのソファは別に減るもんやないからな」
でもウチ見とったらたぶん
「なら問題ないってことだね」
うーん?
まあえっか。
ウチもぼうっとヴィンセントはんの仕事ぶりを眺めんで。
そんなら、これでおあいこやな。
せやかてやっぱりウチのスン値が上昇することはないで。
あ、せや。前々から気になってたことがあるし、この際聞いたろ。
「ヴィンセントはんってなあ、どうやってギルマスになったん?」
「ん? 私かい? そうだね、元々私は先代のセリン侯爵様によくしてもらっていてね。いうなればその縁で、って事だね」
なるほど、いわゆるコネやな。
……なんでコネっていうんかな? ネコちゃんと関係あるんかな? 可愛いネコちゃんおったら癒されるし即採用、っちゅう
それはともかくや、たいがいの異世界マンガやとな、ギルドマスターいうたら元は優秀な冒険者やったりするやんか。
あれって要するにプロ野球の監督みたいなもんやんな?
けどいくら割と優秀な選手やった人やいうてもな、それを支えるコーチ陣なりがあってこそやろ。ほんでそのコーチ陣は、そこまで有名な選手やなかったりするねんな。
つまり異世界マンガに登場しよるギルマスはお飾りで、実質的にはナンバー2が一番偉いってことやな。となると誰にゴマする必要があるんか、よう吟味せなあかんちゅうことや。
そうやな。例えばや、残業嫌いでおっきなハンマー振り回すのが大好きな受付嬢さんやらが、実権を握っとる可能性も捨てきれへん。
せやけどこの世界やと、なんやそういうわけでもないらしいねん。
なんせ、ヴィンセントはんは元冒険者って感じではないねんなあ。
「ほっほう。ほんなら、ギルマスって、侯爵様が選ぶん?」
「そういうわけではないんだけどね。各街のギルドマスターはね、王都のギルド本部で決めることになってるんだよ。でもね、やっぱりほら、ギルドとしても貴族の方々とやり取りをするのに、何も知らない人を選ぶわけにはいかないからね」
「せやなあ。貴族様を怒らしてもたりしたら、そりゃもう一大事やしなあ」
こいつは、あれやな。
ガッコで学級委員選ぶんとおんなじやな。
誰も立候補せーへんからいうて、しゃあなしでくじ引きなんかで決めようもんなら、ウチみたいなんが幸運にも選ばれてまうからな。
せやからな、ああいうんは、センセが先にめぼしい子見つけて事前に交渉しとかなあかんねん。
せやいうのに、そういうんまったく知らんと突然立候補かましたったら、センセの顔が一瞬引き攣るからそれはもう見モノやで。
ちなみにウチが貧乏くじに見事当選した時は、なんでかしらんけど話し合いの末、別の人がやってくれることになったで。みんながウチのことを大事な友達やと思ってくれてたんがようわかったわけや。
決してウチへの信頼度があまりに低すぎて、手持ちどころか預かり屋にもいれてもらえず、そのまま手放されてるとかそういうんとはちゃうで?
「そんなこと尋ねるなんて、急にどうしたんだい?」
「あ〜、なんとなく聞いてみたかっただけやねんけどなあ。ん~? せやなあ、ほら、エドガーはんとこにエリク君が生まれたやんか。ほんなら、エリク君が大きいなったときのことを考えもてなあ。たぶんエドガーはんのあと継いで、エリク君も行商人になるやろう思うわけや。たぶんな」
「そうかもしれないね」
「そしたらなあ、ウチ、完全に邪魔者やんか? いつまでも居候させてもらうんもあかんやろ思うねん。せやし、早いとこ、ちゃーんと自立せなあかんかなあ、おもてなあ。ほんなら将来のこと、考えなあかんやろ? 今んとこ漠然と行商人やるんは決めとるけど、せやいうたかて、エリク君と商売敵になりたいわけとちゃうしなあ」
エドガー家の将来に想いを馳せてみるとやな。
おそらくエリク君は行商人になるやろう。
ほんで姉のエミリちゃんは、あと10年もせんうちに、冒険者ギルドの受付嬢をしとるやろ。
ん? なんでわかるんか、やて?
君ら覚えてへんのか?
デカパイ愛好家こうやんの格言、前に教えたやろ。
あれや。「受付嬢の選考基準は、胸の大きさ」ってやつな。
デカパイはどんな冒険者やとしても圧倒可能な、最強の聖なる武器なんやって話な。毛玉ねーちゃんにスイカップねーちゃんを思い出すんや。
せやから将来巨乳が約束されとるエミリちゃんは、冒険者ギルドの受付嬢になるねん。
「行商人以外は考えていないのかい?」
「せやなあ……。まあこれはもうヴィンセントはんやからいうけどな、ウチは元々たこ焼き屋……あ~、ちっちゃい料理屋さんみたいなんをしたかったねん。せやけど、そういうお店って、こっちの世界やとパン屋さんか宿屋さんぐらいしかないやん。なんやこう、それやとイメージちゃうねん」
「そうだね。料理を作る人となると、貴族のお抱え料理人ぐらいかな」
「ああ、やっぱそういう人おるんやな、この世界。けど、さすがにそんな大層なモンはどうやったって無理やで。それにウチが目指してたんは、もっと庶民的なやつなんや。向こうの世界基準でやけどな。せやかて、どのみち必要な材料が手に入らん以上無理やけどな」
「材料かい?」
「せや。あれや、いつも食べとる黒パンやらビスケットみたいなんってな。あれの材料って、たぶんライ麦、ってやつやろ?」
「うん。ライ麦は寒くても育つからね。このあたりでも育てやすいんだ」
「ああ、やっぱりなあ。ちゅうことは……」
ライ麦いうたら、もう一つはあれに決まっとるやろ。
ナースと魔女っ娘を組み合わせて、そこにウサミミ付け足したら出来上がってしまったあれな。しかもそのライバルの巨乳ちゃんは、メイドと魔女っ娘の掛け合わせで生まれて、なんと猫耳メイド……という予想に反して、なんでか狐耳メイドやねんで。
つまり、そのマジカルテな女の子の名は……。
「小麦はあったかいとこ……たとえば南のほうにいけば作っとるんか?」
「王都よりも南で作ってるはずだよ。でも数は少なくて、あんまり庶民は食べてないかな」
「さよか。ちゅうことはあれか。南の主力なんは、ビールにもつことる大麦なんかな? う~ん、せやったら、ウチの得意料理は小麦が大事やからなあ。やっぱりこっちの世界やと難しいよなあ」
もはや全国的に知られとるけど、大阪言うたらコナモンや。
たこ焼き、お好み焼き、うどんに焼きそば、それからイカ焼きもあんで。
けどな、こん中にな、特段の注意を要する食いモンがある。
お好み焼きのことな。
こいつの話題でほんのちょっとエラーしてもたら、虎と鯉の仁義なき戦いが始まってまうからな。
せやから、どっちの地域やとしてもな、センシティブな話題扱いされてもて投稿から消されてまうから、みんな気ぃつけとるねん。
けどな、オレンジ兎チームの人らはそのへんの事情まったく知らんと、禁断ワードを連発してまうからホンマ困ったもんやで。
そんなんやから、あんたんとこはどっちのチームからも恨まれとるんやで?
ちなみにコナモンには主食だけやのうて、甘いもんもあるんはみんな知っとるやんな?
代表選手はたい焼きに回転焼きやな。
ほんで回転焼きのことを
なんでかいうたらな、ホンマはそれ、回転焼き売っとる店の名前やねん。主要な駅にはだいたいあるで。
せやけど、関東のほうでよう言われとる、今川焼っていうんはたいてい通じひんから注意な。「戦国武将でも焼いとるんか?」とか言われんで。
「なるほどね。ミリンさん、いろいろ考えてるんだね」
「せやで。ウチはちゃんと、将来のことを考えて……」
「うん。とても偉いね、尊敬するよ」
んん?
あれ……?
さらさら、さらさら。
なんやろ、いつのまにかヴィンセントはんが隣に来て、ウチの頭をそっと撫でてるような気が……。
「考え……て……、ふわぁ……」
「ふふっ、おやすみ。ゆっくり休んでね」
「……すやぁ」
「むにゃ……」
「ミリンさん、そろそろ起きる時間だよ」
「あかん……まだ、食べられるで……じゅる」
ぽやぁ。
ああ、あかん……。
美味しそうなもんみたら、いつもの癖で、ヨダレが……。
「……?」
なんやろ……。
頭の下にやわこいモンがあんで……。
そこにタオルが敷かれとるな……。
ああ、こいつは。
つまり、ヨダレ対策ばっちりいうことや……。
そんなら、なんも問題あらへんな……。
「ウチの……たこ焼きを……捕まえるで……じゅるる」
ぎゅう!
ほっぺすりすり。
これ以上ウチから逃げられへんように、麻痺にしたる……。
「ああ、なんやろ、これ……。とってもええ匂いが……。うほっ、こいつは、間違いあらへん……。イケオジのマンダムな香り……」
……。
「……はっ!」
「やあ、おはよう」
バチィィ!
「ああっ! 目が、目があぁぁぁぁ!」
あかん! 寝起きにこれは、絶対あかん!
魅惑の赤い瞳をばっちし見てしもたがな!
なんでそんなに近くにあるん!?
ええい、はやく、目を逸らさんとあかん!
くるっ!
ぼふっ!
「……ぷしゅ~」
ああ、これはヴィンセントはんの、引き締まったお腹やなあ……。
もう、あかんかもしれん。
ウチは死んだわ。
……。
不死チートあんで。
さて、ここで一旦冷静になってな、状況を整理しよか。
まずな、ウチが目覚めたんはいつものエミリちゃんの部屋やのうて、イケオジヴィンセントはんのギルマス部屋や。
当たり前や。だって、そこに新調されとった、ロングなソファに寝そべってたんやもん。
そこまではええねん。
問題はそっからや。
ウチは、確か、四角いクッションを頭に敷いて、いつの間にか寝とったはずや。眠る直前になんぞあった気がするんやけど、まったく覚えてへんで。
そんで目ぇ覚ましたら、頭の下の四角いクッションはのうなってもてて、そんなもんよりも遥かに上等な、ウチみたいなもんが絶対つこたらあかんもんに置き換わってもてた。
「なんで……なんで、こんなことになっとるん!?」
「だって、ミリンさんが、ソファから落ちたからね。何度戻してもまた落ちるから仕方なくね」
「せやからいうて、これはあかんわ……。あかんって!」
せや、こいつは、絶対皆様にお見せしたらあかんシーンや。
だってな……。
「なんで膝枕やねん! 圧倒的膝枕やんかっ!」
「こうしておけば、転がっても落ちないように支えられるからね?」
「そんなんしたら、お膝がウチのヨダレでべとべとになってまうやん!」
「綺麗な布で拭いておいたから、安心してね」
「おまけになんで、ウチはヴィンセントはんをぎゅっとして、ほんでお腹に顔をぴったりくっつけとるやん! なんで離れられへんのっ!?」
「それは……、どうしてなんだろうね?」
「そんなんな、気持ちええからに決まっとるやろっ! そんでもって、ええ匂いがするからに決まってるやん! このまま二度寝したら、きっと今までで最高のすんばらしい夢みてまうわ!」
「うーん。それは、ちょっと困るなあ」
「なんであかんのっ! あれか、これが、いけずっちゅうやつか!」
「だってね、ほら……。向かいのソファにね、ミリンさんのお客さんが来てるよ?」
「……へ?」
ゴロンっ!
ウチはヴィンセントはんへの抱き着き攻撃を中止して、反対側に転がったで。
「おっと」
そんなら落ちそうになったところを、ヴィンセントはんが支えてくれたで。
「……」
そんでな、そこにな、おったんや。
「みりん……ちゃん……」
「……」
「その……、お幸せに?」
「くららちゃん、なんでいるん……」
あああああ!
「ちゃう。ちゃうで。ちゃうねん。これは、ちゃうからなっ!?」
「あのね……。説得力が……なさすぎるよ……みりんちゃん」
「うう……」
そんなん、しゃあないやん。
今まで黙ってたけど、ヴィンセントはんはな……。
ウチがフルスイングで三球三振してまうぐらい激しく好みの直球どストライクなんやもん!
そんならどうしたって、そのまま振り逃げして、ヘッドスライディングかますしかあらへんやん。
……へ?
そんなん今まで何回も、ダダ漏れやったって?
うん。
せやろな……。
さて、仕切り直しや。
ウチは反省の色も込めて、ソファの上で正座な。
そんでヴィンセントはんは、ウチの隣に座っとるで。
ただし、ウチがこれ以上ダメージを受けへんためにも、ウチとヴィンセントはんの間に四角いクッションを置いてガードしておくで。
ほんでいつも通り丸クッションはお膝の上な。つまり正座して、お膝の上に石を置いてるみたいな絵になっとるわけや。
ただしこのクッションは、緊急事態が発生した時に真価を発揮するで。顔の前に持ってきて、赤い眼からの直視を避けることができる優れモンや。
「そんでくららちゃん、ウチに何の用やの?」
ちなみにヴィンセントはんは、当然やけどくららちゃんのことも把握済みや。異世界から来たことも含めてだいたいな。
さすがにくららちゃんの巨大なあれのサイズまでは知らんと思うけど。
「あ、うん。ええと……その……」
そのくららちゃんは、おっきな体を丸めながら向かいのソファに縮こまって、両手の人差し指をコネコネしてもじもじ状態や。
もう、この時点でいろいろ察したで。
伊達に今までいろんな人の恋愛事情に首突っ込んできたわけやあらへんからな。
「なんや進展があったんやな?」
「……うん。えっと……あのね」
聞いてマルゲリータ。ちょいと言い難いんやけど~。
けどな、このネタは、もうやったで~。だいぶ前にな~。
「実は……」
「実は?」
「その……結婚、しました」
「うん、せや思たわ。おめでとうさん」
「……うん。ありがとう」
そんでもってにっこりほっこり笑顔のくららちゃんや。
「でも……ごめんね、
ん?
「誓いの儀式、やて? なんや、こっちの世界でも結婚式みたいなんってあるんか?」
「えっと、そのね……。教会の女神様の前でね、二人で結婚を誓い合うの。それを、知り合いの人たちに、見てもらうんだけど……、日程とかをあらかじめ決めておくわけじゃなくてね……」
思い立ったら
急に見たくなるねんな。
「ふぅん? そんなら、ドレスみたいなんも着ぃひんの?」
「うん、着ないよ……でも……」
「でも?」
「青い服をお互い着るのがいいんだって……だから、そうしたの……」
ふうん……?
青い服……、なんやろ、なんやこう、ウチの完璧な記憶の中に引っ掛かるモンがあるような……?
「それと……。まだ……話に続きがあって」
「ん?」
「そのね、これを機にね。二人で王都へ行くことにしたの」
「そうなんや……。そら、寂しいなるなあ」
「……うん」
冒険者は強うなると、ほとんどみんな王都に行ってまうねんなあ。
そんで王都っちゅうのは、最低でも片道5日もかかる、遠い場所やねんな。せやから、あの2人も王都に行ってしもて、全然会えんくなったねんなあ……。
あ、せや。
「あんな、王都にな、ウチの知り合いがおるねん。あずま君とさやちゃんいうてな、二人ともウチと同い年なんや。前はウノーミにおったんやけどな、おんなじように王都へ行ってもたねん。もうちょいで1年ほどになるかもなあ」
「そう、なんだ……」
「せやねん。そんでな、もし向こうで
「うん、わかったよ」
それにしても、あの2人はどこまで進展したんやろなあ。
いつでも二人一緒におるいうのに、1年前の時点でまだ恋人にすらなっとらへんかったけどなあ。
くららちゃんみたく、もう結婚までしたんかなあ。
……せやったら、ウチに手紙の一つぐらい寄越すやろし、たぶんまだなんやろな。
けど、よう考えたらあの2人、ウチと同じでまだ16歳やったわ。
結婚できるんは18歳からやねんで。なんや女子は16歳からできるっていう時期もあったらしいけど、それはもうだいぶ昔の話やからな。
でも実際んところは、女性やったら20歳半ばぐらいで結婚する人が多いって聞いたけどなあ。せやし21歳のくららちゃんかて、そりゃもう随分早いわけや……。
ん? でもよう考えたらここは異世界――。
「あ……、私、そろそろ行くね……」
「さよか。まあ、王都行って、もしなんや困ったことでもあったら、手紙でも出してくれるか? ウチでは頼んないかもしれんけどな」
「そんなこと、ないよ? ……うん、えっと、お手紙出すね!」
まあ、手紙って言うんもな、なかなか気軽には出せへんしな。確実に届けようおもたら、冒険者ギルドに依頼せなあかんし、金も結構かかるねんな。
「それとね、ミリンちゃん」
「ん?」
「……ふぁいとっ、だよ!」
「……何がやねん?」
くららちゃんのこの謎の応援は、いったいなんや?
「ふふっ」
ほんでもって、ちらっとみたヴィンセントはんは、不思議な微笑みを浮かべとった。
んん~? 何やこう、ムズムズすんな……?
あ、むずむずいうたら、ずっと正座しとるけど、足が痺れたりせーへんな。
たぶん不死チートのせいやな。
大いなる無駄遣いしかしてへんな。
やばいな。
つまり正座しても反省したことにならへんってことや。
……ん~?
そういや、なんか、とても大事な考え事しとったような……。
あっ!
せやった。
将来の身の振り方やったな!
う~ん?
なんやええ話でも、すぐ近くに転がっとらへんかなあ?