ウチ、ただの行商人やで? 〜異世界転移した関西弁女子はチートスキルに物申したい〜   作:霧島 高

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第2章 現代日本の常識ならさっき埋めてきたとこや

 ウチはそいつと見つめ合ってたんや。

(なんやったかなあ、こいつの名前)

 こっちを見降ろすそれはつぶらな目をしとる。真正面やなくて顔の横側に突き出すようなっとる大きく丸い目や。せやからこいつは草食動物や。口を左右に動かしながらなにかしら食っとる。

 馬やないで。馬いうたらウマヅラハギみたいな顔しとるはずや。それに馬にしたら耳が長いわ。バナナぐらいの長さやな。耳の長い馬いうたら、王様の耳はロバの耳のロバや。

 せやけどロバはこんなに全身毛むくじゃらとちごたはずや。そんでこいつはカラメルみたいな色の毛をしとる。キャラメルちゃうでカラメルやで。

 決定的なんは首の長さや。ぐいーんと長い。あれが馬ぐらいの長さやったら、ウチのほうが背で勝ったはずや、ギリギリな。動物と張り合ってもしゃあないな。

 だんだん思い出してきたで。あれはそう、ウチがこうやんと動物園にいったときや。はぐれてもうて迷子と間違われて……ってその話やない。「妹さん、寂しそうでしたよ」とかちゃうねん。あいつ面白がってしもて、その後ずっとウチの手を引いとったこととちゃうねん。「やあやあ、我が(マイ)妹よ」とか抜かしとったこととちゃうねん。

 そうや、思い出したで! こいつの名前はっ!

「アルパカや!」

「ラマだよ」

 がくーん。2択を外してもうたがな。そうかお前はラマかいな。そうか、そうか。あんまり顔近づけんといてくれるか。怖いから。うちはちっこい小動物やねん、取り扱い注意な。

「短い間やけど、よろしゅう頼むわ、ラマくんよ」

「メスだよ」

「……ラマねーさん、頼んだで」

「ぶぅん」

 よし会話成立や。

「お嬢ちゃん、なかなかおもしろいね」

「それが唯一の取り柄やさかいな。せやけど助かったわあ。右も左もわからんようなってしもてなあ。おっちゃん通りかかってくれて、ほんまおおきになあ」

「なんのなんの、しかし大変だねえ。何も覚えてないのかい?」

「そうやねん。ほんま何も覚えとらんねん。ここどこなん?」

 嘘やないで。初めてきた世界のことなんて覚えてるはずないからな。

 ウチの話におっちゃんは「そういうこともあるのかねえ」なんていいながら、大きな荷物を背負ったラマねーさんの引き綱を握り直しとった。どこにでもいそうなおっちゃんや。髪の毛は黒うないし、背は日本人男性より高いけど、どこにでもいそうなおっちゃんや。この世界やったら、たぶんな。

「せやし、いろいろ教えてくれたら、助かるんやけど、あかんかなあ?」

「もちろん、いいよ。街まではまだまだかかるしね」

 よっしよっし。純朴そうなおっちゃんを待っとってよかったわ。物々しい行列なしてる荷馬車の大群とか、きらびやかでごてごてした御一行様とか、かくれんぼしながらスルーしといてよかったわ。

 なんでかいうとな、ウチはな、こうやんの言うてたことを思い出したねん。

 

 ……。

「なあ、こうやん」

「どないした、我が(マイ)幼馴染よ」

「ちょい前からやってるそのポーズなんなん、なんかのキャラか? まあええわ。なあなあこのマンガな、主人公の想い人のべっぴんさんがいきなり自分の素性全部バラした上に騙されて奴隷商人に、はい、ご新規一名ご案内~されてもてるやん。なんでなんや? 普通、もっと警戒するやんな」

「ふーむ。それは難しいところやな。やはりヒロインをピンチから助け出したる、っちゅうんは物語の定番なんや。そのために彼女は犠牲とならなあかん。作者あるいは読者の都合でな」

「そうか、マンガやしな、気の毒やけどそれぐらいのご都合主義はしゃあないな。ところでもしウチが同じ目におうたらこうやんは助けてくれるんか?」

「そもそも君ならそんなことならんやろ。ちゃうか?」

「せやな、誘拐とかいつも気いつけてるしな。防犯ブザーが手放せへんで。うるさいわ」

「そしてそんな君に助言をして進ぜよう。こっちのマンガも読むとええで。そっちのと違って女の子が主人公や。自分の貞操を守るため必死になる姿が、これまたそそるんや」

「ちゃうやろ。エロエロでボインボインなところしか見てへんやろ。いまさらやから別にええけどな。で、それでもウチが捕まったら助けてくれるんか? こうやんの大事な大事な幼馴染の純潔かかっとる場面やで」

「時と場合によるで」

「しばいたろか」

 ……。

 

 あれ? 肝心なところが抜けとるな。

 ええとやな、つまりな、記憶喪失のフリしたらええってことや。あの女主人公がしたようにな。「何も覚えてないんですう」って言いながらおっきなぱいぱいを見せつけてな。そしたら、だいたいなんでも教えてくれるらしいで。特にうら若き乙女やったらな。ただし相手は選ばなあかんで。ドナドナされてまうで。

 ウチはうら若き乙女ちゃうけどな。胸見んなや。気の毒な顔すんなや。

「僕にもちょうど君ぐらいの娘がいてねえ。もうすぐ8歳になるんだよ」

「……」

 ダブルスコアや。もう今日は負けやな。テレビ消しとこ。やけ酒や。ジュースでな。未成年やしな。多分こっちの子がデカいだけや。そう思いたいな。

「しかし、その服どうしたんだい? かなり……汚れちゃってるね」

 それは控えめな表現やなあ。まあ言い直した気持ちもわかるけどな。ウチが着てるブレザーの下のシャツはな、穴だらけのボロボロや。ブレザーもスカートも含めて血だらけやし、泥まみれや。あの初戦を制したウサギ戦やったけどな、すぐに次戦が始まってもうたねん。最初含めて合計7回や。7連勝や。首位確定や。その犠牲に、ウチの腹には北斗七……ってことはなくて3つ穴があいたんや。もう塞がっとるけどな。どれも痛かったで。特に3回目はな、やばかった。なんやちょっと違うウサギでな、角が3倍長うて真っ赤っかなウサギやったんや。お陰でな、ブレザーで隠れとるけど、シャツの背中側にも穴が空いとるで。死ぬほど痛かったで。死なんけどな。チートさまさまや。言うとっけどな、ほんま痛いねんで。伝わらへん思うけど。

 せやけどともかくな、時間かかったけど、最初のとおんなじようにグロ画像にしたったわ。石ころは最強や。でも最強の座ではなくなってもたけどな。

「これはな、おっちゃん、ウチが頑張った証拠や。あ、せや、おっちゃん。ところでこれって価値あるもんなん?」

 ウチはスカートベルトに差し込んでいたそれを抜き取った。ん? なんで制服スカートやのにベルトしてるんやって? 丈を短こうしてようやっと普通なんや。ウチの背丈見たらわかるやろ。

「それは……、キラーラビットの角だねえ、いいもの拾ったねえ」

 まあおっちゃんもまさかウチが自分でぶち殺したったとか想像つかへんやろな。か弱い乙女やからな。

 そうやこの角が犯人や。ウチにでっかい風穴を開けたんはこいつや。風が通って気持ちようなってすーはーしたで。まちごうた、すーすーやな。で、赤ウサギのモザイクあとにはこれが落ちとった。これが手に入ったから、その後は楽やったで。だいぶ慣れたんもあったけど、突っ込んでくるウサギの前にこれを正面向けとったら勝手に刺さりよるんや。まあ自分の身を囮にするっちゅう、危険な賭けやけどな。でもうちの場合ノーリスクや。ハイリターンや。やるしかあらへんで。おかげでそれ以上、シャツにまんまるアクセントは増えへんなったわ。

 ……やるたびに腕がな、ボキィっちゅう、なかなかええ音を響かせよったけど、気にしたら負けやで。ぽんぽん貫かれる痛みよりははるかにマシや。

「けっこう高いん?」

「そうだねえ、鍛冶屋さんなら1000マゲカぐらいで引き取ってくれるんじゃないかな」

「マゲカ?」

「マゲカってのはコピア王国の通貨だよ。知らないってことはお嬢ちゃん、別の国から来たのかな?」

「んー、なんか知ってるような、知らんような、わからんなあ」

 マゲカ、マゲカっていうんかここのお金は。ちょんまげみたいやな。マゲ力ちゃうで、マゲカや。ああそうや、ここはコピア王国いうらしいわ。コビアじゃなくてコピアな。なんや聞いたことあるようなないような地名やな。偶然やろけどな。

「20マゲカあれば1日暮らせるからね」

 つまりこれ1本で2か月ぐらいは暮らせるってことかいな。せやけどこれはもうウチの戦友やからな、売る気はないで。

「ちなみにこれはどうやろか」

 ウチはスカートのパンパンになってるポケットから、ゴワゴワの薄汚れた白い毛玉を取り出してな、おっちゃんに見せたった。これは初勝利の記念ボールや。気色悪いけどな。

「ホーンラビットの毛玉だね。お嬢ちゃん、運がいいねえ。服屋さんにもっていくといいよ。10マゲカぐらいで買ってくれると思うよ」

 まあまあやな。悪くないで。6個あるしな。ええ稼ぎやな。

「それにしても、おっちゃん、詳しいなあ」

「はは、これでも長いこと行商してるからねえ。自分の通っている街で何が売れるかぐらいは知っとかないと務まらないよ」

 実を言うとな、この出会いはな、うちの運命を変えよったんや。そういうて過言やない。

「ぶぅん」

 ……ラマねーさんのことやないで? こっちみんといてくれるか。

 まあそれはな、もうちょっとあとの話や。

 

「それじゃあね」

「おおきにな、おっちゃん、達者でな」

 街の城門にたどり着いて、おっちゃんとは別れたで。

 そこはまあ、でかかった。でかいとしか言いようがあらへん。街道の途中から見えとったんやけど、最初はようわからんかった。遠目やとな、めっちゃ小さあ見えたねん。緑の中にぽつんとな。残念やけどうちは海外旅行とかしたことないけどな、たぶんヨーロッパの城塞都市ってのはこういうもんやろ。田園になってるあたりを通り過ぎて目の前に現れたのは、そびえ立っとる城壁やった。絶壁ちゃうで。おいこらどこみとんねん。

 しかしやなあ。ウチが標準的な身長やったとしても高いおもたやろな。ええと、あそこに突っ立っとる鎧姿の兄ちゃんの、そうやな5倍以上はあるな。目視やとようわからんな。

 城門の出入り口は2つに分かれとる。小さいのと大きいのや。トイレちゃうで。美少女はトイレにいかへんって聞いたことあるやろ。ウチは行くけどな。さっきもな、ってなに言わすねん。別にこんな世界やし、しゃあないやろ。公衆トイレなんて道端にないしな。おっちゃんにスコップ借りたわ。マイスコップ、はよう買わなあかんな。

 で、ウチが向かうのは小さい方や。他にもウチと同じように歩いている人らがぎょうさん出入りしてうるさい足音立てとる。要するに基本街への出入りは自由っちゅうことやな。昼間だけやろけどな。犯罪者顔はさすがに止められるらしいで。兄ちゃんがきりっとした顔して警戒しとる。表情だけは立派やな。犯罪者ってどんな顔しとるんか聞いてみたいな。

 大きい方には荷馬車が止まっとって中身をチェックされとるで。まあこれは全部チェックされるらしいわ。そうおもてたら、どえらい豪華な馬車がそのままノーチェックで出ていきよったで。そういうパターンもあるんやな。まあわかるで。お貴族様やろ。ウチには縁のない話や。いらんしな、シッシッ、近づくなや。

 ちなみにおっちゃんは別の場所へ向かったで。城門入る前のちょっと脇にな、フリーマーケットみたいなんが開かれとってな、そこを見て回るらしいわ。これをバザール言うらしいで、この世界では。ウチもできたらそのうち見に行こうおもとる。けど先にやらなあかんことあるねん。

 いろいろあって忘れてたんやけどな、ボケ女神が言うとったやろ。冒険者ギルドに入れって。ほんまやったら転移して目の前にあったはずなんやけどな。やっぱいっぺんしばき倒しにいかなあかんな。ほっぺ出してまっとれよ。両方やからな。1回で済むと思わへんことやな。膨れた焼き餅みたいにしたるわ。

 せやけどキラキラに言われたから行くわけちゃうで。おっちゃんに相談した結果や。そもそも手に入れたもんを売るんやったら冒険者ギルドか商人ギルドに登録しとかなあかんらしいねん。なんでかはしらんけどそう決まってるらしいわ。ちなみに掛け持ちもええんやて。せやったら登録したほうがええやろ。

「ほんまいらん苦労させられたで」

 冒険者ギルドの場所はおっちゃんに間違えんよう聞いとったからな、城門通ってそのまままっすぐ……。

「お嬢ちゃん、ちょっといいかな?」

 あ、これ、わかってるで。なあ、衛兵の兄ちゃん。君が言う事あてたろか?

「迷子ちゃうで」

「……」

「せやから、迷子ちゃうで?」

「あ、そうなの。じゃ、いいかな。いいのかな?」

「ほなな」

 ぴゅーとウチはその場を去ったで。兄ちゃんはあっけにとられた顔をしとったわ。余計なトラブルはごめんや。道草食ってる暇ないで。腹壊すしな。街ん中はトイレあるやんな、さすがに。あれ? でも待ってや、なんや中世ヨーロッパのトイレ事情は実はえらいことなってたんやって聞いたことあるで。

 まあそんときはそんときや。どんとこいや。

 

「邪魔するで~」

 邪魔するんやったら帰ってや。あいよ~、っていやなんでやねん、帰らへんし。

 あ、ちなみに小声や。なんとなく言ってみたかっただけやで。なんかこう、こういう扉みたらやらなあかん思うやろ、なあ?

 石造りの頑丈そうな建物や。3階建てのでかい建物や。外から見たらめっちゃ物々しかったで。木製扉の上に看板があって、剣と盾のマークや。間違いなく冒険者ギルドやおもうて、ウチは邪魔したったで。言うて他にも人は出入りしとったし、ウチみたいな小さいやつは邪魔にすらならんやろけど。中は広々やな。

(なんや、やんちゃそうなおっさんはおらんやん。それはそれでさみしい気がするんはなんでやろな)

 ウチの読んだマンガやとな、「おうおう、なにようでえ。ここはおめえさんみたいなひよっこが来るとこじゃねえんだよお。かえんな、かえんな」って100%言ってくるはずなんや。あれ、変やな。なんか時代劇みたいになっとるな。ちょっとちゃう気がするな。もしかしてあれって時代劇が元ネタなんやろか。

「あっこに並べばええんかな」

 行列みたらとりあえず並んどいたらええやろ。行列できてない店はあんま美味ないで。

「なあなあ、ギルドの登録ってここに並んでたらええんか?」

 んでウチの前で暇そうにしとる少年へ声をかければ完璧や。ウチと同い年ぐらいやろな。後頭部なんて全く見えへんけどな。

「え? あ、うん、そうだよ……?」

 少年は振り返ったけど、そこには誰もおらん。やだな~、こわいな~、誰もおらんな~。いやおるけどな。

 ややこしなるし黙っとこ。少年は狐につままれたような顔をしながら前を向いたで。「こっちや」っていうてもよかったけど、また「迷子?」とか言われたらかなわんし。

 そんなこんなで順番が回ってきたで。なんやえらい視線を集めとったけど、これはもうしゃあないやろ。どっちかっていうと心配そうな視線や。みんな心が暖かいな。ウチ、惚れてしまいそうや。

 ほなちょいと背伸びしてっと……、カウンター高すぎやろ。もうちょいウチに優しくなれへんか。足がプルプルするで。踏み台、踏み台はどこや。

「えーっと、きみ、冒険者ギルドになにかようかな? お父さん探しに来たの?」

 受付のかわいこちゃんなおねーさんが思った通りのことをやっぱり言うてきよったで。ワンピースみたいなもんの上からエプロンを着た素朴な感じやけど、おねーさん自体が光るもんを持っとる。主に胸や。こうやん、ここにおらんで残念やったな。あれはウチのもんや。

 しかしボケるべきかどうか、悩ましいな。ノリツッコミ……いや、相手は本気で心配しとるしな。ここは我慢の一択や。血が騒ぐで。

「ウチな、冒険者、なりに来てん」

「ああ、そうなんだ、へえ」

「本気やで?」

「マジ?」

「本気の本気、マジマジや」

「あのね、きみ、いくつ?」

「なんや、もしかして年齢制限、あるんか?」

「成人してないとだめよ、ほら帰って帰って、次の人まってるんだからね?」

 成人ってまじか。成人いうたら18やろ。お酒とタバコはハタチからや。え、どうするん?

 いや、まてまて。さっきの少年はどうみてもウチと同じくらいや。あかんあかん、現代日本の常識なんて捨てやなあかん。そんな臭いもんは街の外で埋めてきたはずや。たぶんもう酒飲んでええ年齢なんや、こっちでは。だいたい向こうでも16から飲める国もあるって聞いてるで。あれ、てことは、まだやな。

「ウチ、15なんやけど、あかんの?」

「それ、嘘でしょ?」

「なんで嘘つかなあかんねん」

「嘘ついたら、女神様からいたーいおしおき、もらっちゃうんだよ?」

「あいつとちごて嘘なんかつかんわ」

 すんなりいかんと思うてたけど、ほんまにいかんかったわ。そしてそろそろ脚プルプルが限界や。もうええわ、普通に立つわ。顔半分隠れるけどもうええわ。

「あいつ? ……ねえ、きみ、私の弟よりちっちゃいけど、15歳なわけないよね?」

「15やいうてるやろ」

「弟、まだ10歳なんだけど」

「ねーちゃんの弟がでかいだけやで」

 なあ、これどないしたらええん? いつまで続くん?

 

「まあまあ、ここは私が引き継ぐよ」

「え、でも」

「いいからいいから。次の人が待ってるんでしょ?」

 なんやろな、なんやろか、こう、なんやろうな。

 銀髪の紳士が、そうや、ええ言葉があったわ、イケオジや。イケオジが颯爽と出てきよったで。スラリとした身長の、人生経験めっちゃ豊富そうで有り余ってるおっちゃんや。行商人のおっちゃんは丸っこい感じやったけど、こっちはシュッとした何でも切れそうな感じや。聖剣より鋭そうや。

 ウチな~、こういう人な~、憧れなんよな~。ふらふらついて行ってしまうな~。

 あかん、あかんで、警戒心や。心を鬼に。鬼に金棒。うまい棒たこ焼味や。

「はい、お手をどうぞお嬢さん」

 手を差し出されたら取るに決まっとるやん。ほわあ。

「ではいこうね」

 どこいくんや、一体どこに連れて行かれるんや、うちは。やばいでこの先は成人指定かもしれん。

 んなわけないで。冷静になったで。でもウチ、現在進行系でギルドの奥に連れ込まれてくんやけど、ほんまに大丈夫やんな? ここほんまに冒険者ギルドであってるやんな? 娼館ちゃうやんな? ウチみたいなんは需要ないで。

 ほわーっ!

 

「いやあ、受付嬢がすまなかったね。許してくれるかい」

「ウチは別に、ちゃんと冒険者になれたらそんでええ。ちゅうことは、登録できるっちゅうことやんな?」

「もちろん、できるよ。この紙に……ああ、君、読み書きできないでしょ。代筆してあげるよ」

「お願いしてええか。え? なんでわかるん?」

「冒険者になろうっていう若者はだいたいできないからね。ほら、いいからいいから、順番に教えてくれるかな」

 大きな木のデスクが奥にでーんとおいてある広い部屋や。応接室? 執務室? ようわからんけど、多分どっちも兼ねてるんやろ。革張りの気持ちええソファが4脚置かれとって、ウチと銀髪紳士が向かいおうて膝突き合わしとる。2人の間に遮るもんはない。2人だけの空間や。ローテーブルがあるけどな。

 そんで紳士はものすっごうきれいな所作でえんぴつもっとるわ。あ、えんぴつあるんや。ウチも欲しいな。スマホあらへんし、かくもんぐらいやっぱほしいで。ホンマにえんぴつやろか。今から大事な書類書くんとちゃうん? 消しゴムでまっさらさらになってまうで。きれいに消えたためしあらへんけどな。消しゴム見あたらんけど。パンもないで。腹は減ってないけどしばらく何も食べてへんし、そろそろ口元が寂しいなってきたわ。

 で、紳士に言われるままうちは真摯に答えていったで。ウチは正直モンやからな。女神とやらのおしおきが怖いわけやないで。なんやこの人前にすると、自分に嘘をつきたくない、そんな不思議な気持ちになるんや。嘘やで。逆らったらあかん気がするだけや。あとでどえらい目に会いそうやからな。

「じゃあ最後に職業だね。何にする?」

「何にするって、言われてもなあ。何があるん?」

「ファイター、ナイト、ハンター、スカウト。それからブラックマジシャン、ホワイトマジシャンだね。最後の2つは適性調べないとなれるかどうかわからないけどね」

「せやなあ。一個ずつ詳しゅうきいてええか? あ、最後の2つはいらんわ」

 その適性とやらを持ってないのは把握済みやでな。ウチら転移組はそれ用のチートスキル持ってへんと魔法は使えへんねん、ちゃんと覚えてるで。騙された気分になるやろ。絶対おるで。よう説明読まんと適当なチート選んでしもて、こっちに転移してから「魔法使えへんのかーい」って叫んどる人。軽いな。なんでウチが言うと全部なんでも軽ぅ聞こえるんやろか。

 ええと、なんやて。ああ、うん、長いしさらっとまとめるで。ファイターは前で戦う、ナイトも前出るけどこっちは他の人らを守る、ハンターは遠くから弓でぷちぷちする、スカウトは戦闘ではほぼ役立たんけど罠とか敵とか先に見つける。そんでから職業で使える装備が変わるんやて。原理はわからんけどそうらしい。どういうことやねん、そら。マジシャンとやらは省略するで、っていうか聞いてへんからわからん。たぶん魔法でなんとかするんやろ。もしかしたらハンドパワーかもしれんけど。

 よっし決めたで。

「君ならスカウトがおすすめかな」

 残念やったな。

「ファイターにすんで」

「……いいのかい?」

「ええで。女に二言はあらへん。1回で全部済ますからな」

 こうやんが言ってたで。ノーキンはすべてを駆逐する、って。人の名前みたいやな。とある危険なアクセサリーを扱った世界的に超有名な小説の作者にそんな名前んがおったやろ。あ、これ言うたらヤバいかもしれん。まあええわ。脳筋やろ、知ってるで、それぐらい。まあ選んだ理由はちゃうけどな。

 正直スカウトもまよた。でもな、戦闘では役立たん、ってことはな、こいつはパーティを組んでなんぼの職業っちゅうことやろ。で、このちんちくりんの座敷童みたいなおなごを誰が入れてくれるっちゅうねん。座敷童に失礼やろ。代わりに誰か謝っといてくれるか。

 もちろんパーティとかそういう用語ぐらいしっとるで。あれやろ、冒険者になって男2人とべっぴんやけどアクの強い女3人でパーティ組んで、しばらくして有名になってきたら天狗んなったリーダーの男が縁の下の力持ちやったもう1人の男を追放してハーレム築いたんはいいものの、気付いたら全部NTR(寝取ら)れてもうてたってやつやろ。マンガで読んだで。そんなパーティなんて願い下げや。ウチ追放されてまうやろ。

 つまりはな、ウチはソロや。ウチの大好きなハリソンさんや。あ、そうや、この人ハリソンさんの若い頃によう似とるわ。

「まあ、いいか。それじゃ最後に、ここに血を1滴落としてくれるかな?」

 そう言ってハリソンさん(仮)は、ちっちゃめの千枚通しみたいなんを渡してきたで。え、こんなに長い針いらんやろ。突き抜けてまうやん。痛そうやな。もう経験済みやけど。ウチはもう中古品やで。

「えい」

 ぶす。ぷしゅー、ぽたぽた、ぽたぽた。

 力加減間違えておもたより深く刺してもた。ずいぶん赤いもんが紙の上に飛び散ってダイイングメッセージみたいになってもたで。まあええわ。すぐ塞がるしな。あ、内容読んでないけど大丈夫やったやろか。字わからんけど。奴隷契約書とかやったらどうしよう。信じてるで、ハリソンさん。

「うお、びっくりした」

 するとやな、なんと紙がキラキラして消えよった。なんやこっちの世界キラキラばっかりやな。あんまりモザイク多いと地上波で放送できひんようになるで。まさか配信とかしとらんやろな。乙女の尊厳がやばいことになってまうで。

「お、おお」

 キラキラしたあとにはヘビの抜け殻みたいなもんが落ちとる。ええと、財布、財布。あ、カバンの中やった。持ち込み禁止やったわ。

「おお、おおお」

 ウチがそれを確保せなと右手で拾おうとしたらな、そいつ動きよったねん。抜け殻ちごて本物やったわ。あ、ちなみにウチは爬虫類とか問題あらへんで。なに? 知ってた? まあせやろな。ゴキブリぐらい勢いよう踏み潰せるで。

 そんで手首に巻き付いて腕輪みたいになりよった。かっこええやん。

「それが冒険者の証だよ」

「なるほど、なるほどお。これでウチも冒険者の仲間入りやね。おおきにありがとう。あ、そういや、おたく、どちらさんなん?」

 ウチはよう言われんねん。肝心なところが抜けとるって。せやしそれ以外はちゃんとしてるんや。持って生まれたもんは変わらんねんで。

「僕かい? 僕はヴィンセント。この冒険者ギルドのギルドマスターだよ」

「ふうん、そうでっか」

 ウチは静かに立ち上がったで。そのままそろそろとカニ歩きでソファの横まで進んで、立ち止まってヴィンセントはんをしっかり見た。

 それからスクワットみたいに膝を曲げてな、そのまま膝ぴっちり揃えて正座してん。そんでな、そのまま手のひらを床に向けて腕を伸ばしてな、じっくりゆっくり前屈や。

「生意気な口きいて、ほんますんませんでしたーっ!」

 渾身の土下座や。これまで生きてきたん中で一番気合い入っとるで。大一番や。ほんますんません!

 めっちゃ偉いさんやん。ウチ、絶対なんか失礼なこと口走っとるで。覚えてへんけどな。絶対やらかしとるで。間違いあらへん。

 

 もちろんその後すぐ、ハリソンさん改めヴィンセントはんは笑いながら「いいよいいよ。そんなかしこまらなくて。別にそんなに偉いわけじゃないし」って言ってくれたで。

 こ、これはどっちや。言葉通り受け取ったらええんやろか、ウチには判断できんかった。

 そんで、これも運命の出会いってやつや。

 それがわかるんは更にもっと先やけどな。

 ウチはなんやしらんけどおっちゃんばっかり運命あるみたいやで。

 

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