ウチ、ただの行商人やで? 〜異世界転移した関西弁女子はチートスキルに物申したい〜   作:霧島 高

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第4章 異世界きてまで勉強なんてしとないわ

 ウチはでっかくておっきくてなんや後ろから光が差しとるもんを見上げとる。なんでこんなもん作ったんやろ、地震起きたら倒れてきそうで怖いな。まあでっかい言うてもせいぜいウチの倍ちょいぐらいしかあらへんけどな。

 けど、あれが倒れてきたとしてや、偶然あのデカパイが顔の上に落ちてきよってパフパフ状態になったんやとしたら、おっぱい星人な男性諸君はそれでも喜ぶんやろか。でも石やしな、フルパワー出した男のあれよりもすこぶる硬いはずやと思うけどなあ。もしかしてあの部分だけ不思議パワーでビーズクッションみたいな柔らか素材に変わってるっちゅう、無駄なサービス精神発揮したりしてるんやろか。

 さて唐突やけどここでな、みんなに問題や! でーでん!

 ウチが今いるんはどこやろかいな?

 何、そんなもんわからんて? しゃあないな、ウチもサービス精神発揮して3択にしといたるわ。

 そんでな、正解者にはなんと豪華賞品プレゼントまであんで。どケチのウチにしたら大盤振る舞いやな。せやしあんじょう気張ってや。

 ほないくで~。

 

 1 ダンジョンの最下層にある魔王の間や。くびれくっきりボインボインむちむち魔王にそっくりな石像が立っとるんやけど、肝心の魔王はん自体はおらん。そういや扉のとこには営業時間が書いとってその下に「外出しています。清掃不要」って札がぶら下がっとったな。こりゃエレベーターまで戻って出直さんとあかんなあ。使えん忍者が宝箱の罠解除にミスってもて僧侶が石化しとるけどちゃんと帰れるかな。

 

 2 日本のとある南国風の県にある観光スポットや。国内やとここでしか見られへん有名な像があるんやで。敵情視察のついでにきたったわ。なんやしらんけど食パン焼く機械みたいな名前の島からパクってきたらしいで。しかもヘドロから生まれた東京タワーが大好きな怪獣さん対策んために、目からビームを発射しそうなやつを厳選してわざわざもってきたらしいねん。ネコミミとか鈴とかつけて毒でも吐かせたらもうちょい強なるかもしれんで。ただしビームはうまくでーへんようになってまう。

 

 3 教会の中にあるポンコツキラキラ女神像の前や。

 

 どうや、めっちゃ難しいやろ。こりゃ正解率が1%切るかもしれんなあ。

 ほな、正解発表すんで。どどどどどどど~。

 ばん! なんとな、3や!

 どうやった? 正解でけたか?

 あ、そうやったプレゼントやな。抽選ちごて先着順やで。よかったやろ?

 んで、ご期待の商品はなんとな、ウチが後生大事にとっといた未使用の新品パンツや。ただな、すまんけど発送はでけへんしウチの家のタンスから勝手に持っていってくれるか。くまさん柄のやつはたいてい未使用品やからな。それ以外のやつはにおいかいだらだいたいわかるで。匂いやなくて臭いな。もしおとんにでおたらな、事情きっちり耳揃えて伝えてもうたら、ウチなら言いそうやなってノリでわかってもらえる思うし、安心し。

 ゆうてどうせ住所わからんやろけどな。個人情報保護法とやらや。あれ? もしかして異世界転移したウチとかって死んだ人間と同じ扱いなんやろか。せやったら適用されへんとか聞いたことあるけど大丈夫かな。

 あかん。やばい、それはやばいで。よし、やっぱ臭い嗅ぐんはなしな。殺人事件になってもて一緒に暮らしとったおとんが疑われてまうからな。真相解明するんに、高校生の女と人工呼吸と偽ってプールん中で破廉恥なことをしとったおませな小学生男子をつれてこなあかんようになってまう。アーモンドをべろりんちょな感じにナメナメしよることで有名な、クラスメートの彼女2人も含めてハーレムつくっとるあいつや、あいつ。

 それにしてもなあ、この女神像は不審やなあ。みんなを見下ろして監視しとるんかなあ。目のところにカメラのレンズでもついとるんやろか。じっと見てると悪口みたいな事実をいいたくなってくるで。それに、あのあほんだら女神に似てるようでなんや似てないような気もするんねんな。

 もしかしたらあの女神とは別人かもしれん。そしたら先代様かな。なんで代替わりしてもたんやろ。もしかしてあれよりもさらにアホくさい存在で、チートスキルん代わりにご指名入ってアフター満喫してたら言葉巧みに騙されて異世界へ連れ込まれたあげくおさかんなクズ男子の欲望のはけ口にでもされとるんやろか。ほんであまりにも雑な扱いされたせいで闇落ちして大暴れしてたらなんやいつのまにか邪神になってもてて、閉じ込められとる仄暗い水の底からたまーに抜け出して物騒なあめちゃんそこら中で配り回りつつ、みんなが発狂するぐらい見事なプロポーションで誘惑しまっくってんのに全然信者があつまらんくて、しゃーなしにへぼい魔法しか使えへんオタクで気弱な男子を鋭利な刃物で脅して強制加入させることしかでけへんかったちゅう、健気な存在にでもなってるんやろか。

 なんやめっちゃ可哀想やな。御冥福をお祈りしとこ。ウチのとこには来たらあかんで、っと。あとついでに今年の虎さんチームが優勝しますようにっと。なんまんだぶ、なんまんだぶ。まあ祈らんでも勝つけどな。常勝チームやからな。結果見られへんけど。

「ミリンちゃーん、もうすぐはじまるよ!」

「さよか。おおきに、エミリちゃん。いまいくで~」

 おっとそろそろ時間や。三つ編みふたつを後ろおさげにしたブロンド幼女でウチと名前のよう似とるエミリちゃんが呼んどるで。やっぱめんこいなあ。将来が楽しみやなあ。なんせ7歳やって聞いたのに、ウチより背は高いし、すでに胸もだいぶ出とるから今後爆乳間違いなしや。ウチと似た名前やのになんでこんなにちゃうんやろな。悔しいわけやないで。むしろ尊敬しとる。せやしお嫁に出す時はウチがめちゃくちゃ厳しい要件つけたるさかい、未来の旦那は今から覚悟しとくんやで。

 というわけで、やっぱりよう見たらあのポンコツかました女神にしか見えへんかったきったない像とはおさらばや。ほんまやったらションベンかけて更に汚したろか思たんやけど、公衆の面前やしやめといたわ。お祈りしてるみなさんがウチの汚いモンみて口元からキラキラしたもん吐きながら急に宇宙からの電波を受信したみたいになってバタバタ倒れてしもたら、ウチが天国のゲートくぐらしたみたいな感じになって後始末が大変やからな。

「はやくきてよ~」

 さて、しょーもないこと考えてんと、はよエミリちゃんとこいかなあかん。

 ウチはなんでこんなことになったやろなあと考えながら、礼拝堂っちゅう場所で佇んどる女神像に向かって心の中で屁ぇぶっかけながらその場を後にしたったで。

 そうやねん、あれは、アミーちゃんのお店で口の汚いちーこい女子高生Cからやっぱり口の汚い幼女Bにクラスチェンジした後、未来のスーパーアイドルエミリちゃんのとーちゃんこと行商人のエドガーはんにあえなく御用となってもうた後のことや――。

 

 ※

 

「いやあ、すまないねえ。妻と娘がどうしても君に会いたいっていうもんだからねえ」

 アミーちゃんのお店で首根っこを掴まれて連行された先は、ウチが想像しとったような悪いことした人を放り込んで強制スクワットさせてスキルをあげさせることしかできひんようになる地下牢みたいなとこやのうて、なんとエドガーはんのおうちやったんや。ほんまやったらアポなしでお宅訪問するんやったら大きなしゃもじが必要なんやけど、今回はエドガーはんにご招待されとるさかい、山吹色のお菓子みたいな手土産はいらんかった。

 エドガーはんの名誉のために言っとくけど、悪さばっかりしとってついにとっつかまった猫みたいに連れてこられたっちゅうんは嘘やで。いくらエドガーはんがホンマに前見えてるんやろかってぐらい糸目の行商人やからって、そんなことはせえへん。

 それに幼馴染で気のおけへんというか気ぃ抜いてやつのベッドでごろごろしとったらいつの間にかエッチなマンガを読み始めとって、これおもろいし一緒に読もうや言われてウチもそのまま一緒んなって笑い転げながら読んどったら、いつのまにか窓の外でヒヨドリがうるさく鳴いとる時間になってたこともようあるこうやんがな、言うとったねん。「糸目の商人は悪だくみが得意やから、実はめっちゃ世間の情勢に詳しくて頼りになんねん。せやから一枚噛ませてもらうとええんや」って。やっぱこうやんは頼りになるなあ。

「ミリンいいます、よろしゅうに。エドガーはんには迷子になってしもたときにえらい世話ぁなりましたんや」

 はじめておうた人には丁寧なあいさつが肝心や。しかも恩人であるエドガーはんの家族なんや。いくらウチやとしてもな、いつもくだらん下ネタばっかり言うて過ごしてるわけやない。ここは真面目に行くで。騒がんといてやウチに流れる血液よ。

「そんなに丁寧にならなくて大丈夫よ、いらっしゃい、ミリンちゃん」

「あたし、エミリっていうの。あとで一緒にあそぼうね!」

 そんでそのままその日はエドガーはん一家んとこでご厄介になることなってん。あれよあれよとなんやいろんなことが決まってもて、可愛いエミリちゃんのおねだり爆発によってな、ウチは食事も馳走になったしその夜エミリちゃんと床を共にすることにもなってん。

 さすがにウチもな、ちゃーんとわかっとる。マッパはやめといたで。それはこうやんちだけや。ベッド占領して寝とったら、いつの間にか床に転がされとったで。せやけど自慢やないけどな、風邪ひいたことあらへん。ほんで次の日が平日やったら当然そのままガッコや。ちゃんと制服は準備しとる。確信犯や。心配せんでもパンツは常備してあるで。置いといたらこうやんのかーちゃんが洗ってくれるねん。教科書ぐらい忘れたってかまわへん。どうせ見てもなんもわからん。

 で、翌日、ウチはエドガーはんにこう切り出されたんや。

「ミリンちゃん、エミリと一緒に学校へ行かないかい?」

 ウチはもちろん躊躇したで。なんでかわかるやろ?

 異世界きてまで勉強なんてしとないわ。

 ……向こうでも大して勉強しとらへんて? なんでばれたんや。ウチな、ちゃんと気ぃ付けてそれ秘密にしとったはずや。ウチがアホなんバレてまうん恥ずかしゅうて黙ってたはずやのに何で知ってるんや? あんたらエスパーなんか? そんなにウチをヌードモデルにしてエロエロボディを描きたいんか?

 ちゅうわけで翌日、エドガーはんからもろた布みたいなんつこうて、エミリちゃんがやってんのを真似して歯ぁ磨いたら、教会にやってきて勉強することなってん。そりゃエミリちゃんに目ぇうるうるされて懇願されたらな、誰かて断れへんやろ。

 ちなみに学校いうたかて、教会がサービスでやっとるっちゅう簡単な読み書きだけの授業で、参加は自由なんやと。まあ自由や言うてもな、ウチの場合エミリちゃんが行くんやったら強制参加やけどな。

 

 ※ 

 

 礼拝堂っちゅう場所からさいならしてやってきたのはちっちゃな部屋や。ウチぐらいの男の子やら女の子やらが10人ほど集まっとる。あ、もう慣れてもてるし自然と言うてもたけど、ウチぐらいっちゅうんはウチと同じ背丈ぐらいっちゅう意味や。せやからウチがみじめになって可哀想やし女の子の紹介は割愛すんで。男の子については元々紹介する価値あらへんやろ。

「こっちだよ!」

 さっきウチのことを呼んだエミリちゃんが長机のとこの椅子に座って手招きしとる。隣に座れっちゅうことやな。どうやらウチのために確保しといてくれたらしいで。カバン等での席の確保はおやめくださいなんてどこにも書いてへんから問題ないやろしな。そもそも机と椅子はいっぱいあってここにいる子どもらだけでは全部埋まったりせえへんし。

「みんな席についてくださいね。始めますよ!」

「はーい」

 みんなお元気よく返事しよったで。ウチもしといたわ。こういうんは周りに合わせるんが鉄則やで。こういうときに1人だけ別んことするんはまったくウケへんから気ぃつけや。白い眼で見られて謎の光線受けて凍り付くで。ついでにその場も冬の雪山になるで。お客さんからの視線も冷たぁなるで。夏場はちょうどええかもな。

「今日は書き取りの練習をしますからね」

 いわゆるシスター服を来たそれなりのサイズのねーちゃんが前の方に出てきて、肌色多めの紙を見せびらかしとるで。「もうっ! こんな……こんな、えっちな本を持ち込んだのは、いったい誰ですか! いますぐ名乗り出なさい!」って恥ずかしそうにしつつ、みんなにご褒美顔を晒しながら言うてるのを期待したかもしれんけど、そんなわけないやろ。ちょっとは頭使ったほうがええで。

 紙自体が肌色なんや。ちょっと濃い目やけどな。たぶん楊貴妃とかそんな名前の紙ってあれのことちゃうかな。ウチに似とる妖艶な美人さんやで。んで、そこには赤色で大きな字が書いとる。なんちゅうか、ローマ字の「H」ってやつが変形したようなやつや。とても、あのな、そのな、大胆なえっちなんや。

 つまり言いたいんはな、こっちの世界、ある程度文字と、ついでに数字も向こうの世界と共通らしいねん。

 ただしひらがなとかカタカナではあらへん。さっきも言うたけど、アルファベットに近いけどやっぱり違う文字や。ん? もしアルファベットそのものやったら、ちゃんとわかるんかやて? 失礼な。ウチはついこの前まで中学生やったんやで。小文字のピーとキューの違いぐらいわかるがな。けど、たまにどっちがどっちやったかわからんなんねんけど、それぐらいやからなんの問題もないやろ。ええとな、ピーが右向いとる女で、キューが左向いとる女やな。なあ、いま、ウチの体形見て、小文字のエルを思い浮かべたやつはな、正直に手ぇあげてくれるか? 大丈夫やで。いまさらそんなもんでウチの鋼のメンタルは傷つかへんからな。あとでこっそりベッドを濡らすだけや。寝ションベンとちゃうで。

 けどそれにしても不思議やなあ。

 よう考えたらなんにも読み書きできひんのに、最初から会話は成立してるねんな。もしかしたらフィーリングで通じとったりしてな。コミュニケーションはマイハートがベリーインポテンツやって言いながら軽い調子で嘘くさそうな顔したおっさんが踊りながら出てきてもおかしないで。それにラマねーさんとも意思疎通できてたしな。たぶん東京人相手より通じてるんちゃうかなあ。あの人らはウチの高度に洗練された際どい冗談が通じひんからなあ。汚物を見るような顔でウチのことを見るねんな。なんでかなあ。

 まあええか。常識なんてクソでも食っとけぐらいの異世界転移やしな。苦労せえへんようになんかしらのとてつもない力が働いとって、会話だけは勝手にこんにゃく食べさせれたみたいな感じに翻訳されとるんやろ。けどそれにしても中途半端とちゃうか。せやったら文字やら単語やらも全部わかるようにせんとあかんやろ。まああのポンコツな女神のことやしな、力不足なんか頭不足なんかしらんけど無理やったんかもしれん。それか法の網目をかいくぐりよってやっすい下請け料金で発注したんやけど結局納期に間に合わんくなって、ちゃんと仕事しろやって下請け会社に詰め寄ろうとしたらすでに夜逃げした後の祭りで、ほんでどうしょうものうて中途半端なもんあきらめてリリースしたらユーザから苦情が殺到してるんかな。

「はい、どんどん書いてくださいねえ」

 余計なこと考えんのはあとや。今は勉強、勉強や、勉強せな……あかん、ねむうなってきた。みんなはウチのことよう知ってる思うけど、ウチは天才やからいまさらこんなことやらんでもええねん。

 けど頑張ってウチはスタイラスペンをもってタブレットに書き込みしていくで。H、H、H……。ええっとネコ型ロボットってどんな尻尾の形しとったかな。なんかこうチェリーボーイのあれみたいな形やったかなあ。

「ミリンちゃん、それなーに? じゃなくって、ちゃんとやりなよ」

 おっとエミリちゃんに怒られてもうた。はっと顔を上げたら、シスターねーちゃんがプンプン顔してこっちを見とる。それはたぶん特定男子にとってはサービスになってまうから意味ないで。さっきから表情筋のサービス精神旺盛なねーちゃんやな。ただのスマイルは有料やけどその他はなんでも無料って感じやな。

 ん? なんや、なんか気になることでもあるんか? なんかあったかな? ネコ型ロボットの尻尾の形まちごうてたか?

 その前? エッチやなあ。ウチのグラマラススタイルのことやろ? え? ちゃう? それはもう見たくもないのに見てしもたて? まあそういわんとまた見せたるさかい、楽しみにしとき。けどな、しばらくその機会はない思うけどな。おねんねシーンは省略せなあかんし。なんでなんって? やっぱ口から涎たらしとるとこ見せるんは恥ずかしいやろ。まるでウチが食い意地はっとるみたいに思われるやん。それになエミリちゃんのおねんねシーンを見せるわけにはさすがにいかんで。そんな写真もっとたら、アカウントが永久凍結されてまうからな。ウチの優しさや、解除不可やで。

 ところでみんなは、頼むでティーチャー、ちゅう磁石をつこうたお絵かきのおもちゃをしっとるか? 要するにウチがつこてるスタイラスペンとタブレットちゅうんはあれみたいなもんや。書いては消し、書いては消し、っちゅうんを繰り返して、最後は記憶まで消えよるで。ただしなんかしらんけど奇跡がおきて最後に記憶だけは戻ってくんねん。せやから勉強になるわけやな。

 ただな、こいつは磁石とちごて、ヴァンパイアハンターご愛用の蛇みたいな武器を持っとるおねーさまが豚どもを踏んづけた後、その上に腰掛けて食べるパンに塗ってる蜂蜜と関係あるもんの力を借りるで。あっ、おねーさまのつま先にちょっとだけ蜂蜜ついとる。ほら、君ら出番や。ブヒブヒ言いながらご褒美もらいにいき。

 なんやっけ、尖筆(せんぴつ)蝋板(ろうばん)とか言うてたわ。ウチは漢字わからんけどみんなにはきっと見えとるやろ。

 要するに、板の上にハチの巣で採れるもんの煮込みを塗りたくって、そいつを尖ったペンで削りながら字を書くわけやな。消したかったら反対側のお好み焼きを返すヘラのちっちゃいやつみたいなんでグリグリしたら、せっかくつくった砂の城が波にさらわれたみたいなって消えるで。あほやな、そんな場所で作るからや。ところで誰か砂に埋もれてるウチを助けてくれんか? 寝とったらいつのまにか埋められてもうたねん。こうやん、へるぷや~。おかんにやられたんやけど、ウチのこと忘れてトイレいってもた~。このままやと溺れてまう~。砂の城作り直す前になんとかしてくれんか~。

「ミリンさん、手が止まってますよ?」

「あっ、はい。すんまへん」

 なんかシスターねーちゃんが短い鞭みたいなんをビシバシしとるんはウチの気のせいやんな?

 

 そんなこんなでエドガーはん一家に気に入られたウチは、エミリちゃんの勉強に付き合うことを条件にそのまま下宿させてもらえることんなって、ご飯まで頂けて、懐の寂しいウチにとっては万々歳なことになったんや。まあ勉強は苦手やけど、毎日やのうて3日に1回ぐらいしか授業はないらしいからなんとかぎりぎりやれそうでほっとしとる。

 とはいえ下宿やいうてもな、エドガーさんはただの行商人やし庶民に違いあらへん。せやから風呂なんてないからできるんは行水だけや。別に元々カラスの行水しかせえへんウチにとってはなんともない。せやけど他の転移者さんたちはどないしてるんやろなあ。特にあの美少女ちゃんは大丈夫かなあ。体中から納豆みたいな臭いさせとらへんかなあ。まあウチとちごて東京のお人やろし、納豆の臭いぐらいどもないかもしらんけど。

 そういうたら、テニス界に新ルールを作り出して名を残した熱い台詞でお馴染の元スポーツ選手がちんちんみたいなもん鼻につけながら紹介しとる洗剤つこたみたいに、たった1つの合言葉をいうだけで着てるもんも含め体中が完全消臭されるっちゅうマンガのシーンもあったな。しかもなんでかしらんけど割と高頻度で。そんな作者有利のご都合主義なんてあらへんやろ。いくら男の裸なんて描きたくないねんっていうてもな、そりゃあないで。ちゃんとそういう需要はあるんや。ウチの裸なんかよりもずっとずーっとな。

 けど、一応やってみよっかな? そら!

「クリーン!」

 ……。

 ほら、ないやろ? 期待したか? 美少女ファイターにつきもんのお色気変身シーン、期待したやろ。残念やったな。今からマッパになって見せたろか? 不感症になっても知らんで。え、もう見たから価値なしやて? 新しい発見があるかもしれんで。股の間のホクロとかな。嬉しすぎて気絶するかもな。バーン。ほら全部脱いだで。どうせいまから行水やしな。

「ミリンちゃん、なにしてるの?」

 エミリちゃんに見られてもたな。ウチが自分の股を大きく開いて覗き込みながらホクロの位置を確認してるとこ。まあええか。

「なんでもないで。そろそろ水浴びしにいこか」

 

 さて、今日は教会でのめんどくさいけど役立つ恐怖の教室はあらへん。せやからウチは一念発起して、この街でやりたいなあおもてたことをひとつ、消化しよう考えたんや。

 朝からいつもどおりの幼女Bスタイルに変身して、ウサギさんポーチを身に着けて、気持ちいいおひさんが左におるんを確認してから南へ向かうで。あ、エドガーはんのおうちは冒険者ギルドとかのある西地区や。住宅はたいてい西なんやと。東は商業地区になっとるって前も言うたけど、工房やらもそっちにあってそういう棲み分けになっとるらしいわ。工房で作って店で売るっちゅう流れ考えたらそのほうがええんやろな。

 実は昨日エドガーはんと話しとってちょっと考えてることがあるねん。今日のお出かけはそれとめっちゃ関係があったりする。どういうことかはまだ秘密や。

 ほんで南いうたら何があるか?

 答えは迷子センターや。

 ちゃうで。こっちやとなんでか衛兵詰め所っちゅう名前んなってるけど、行き先はそれとちゃう。目指してるんは南門や。そのままウサギボールを取りに行くんともちゃうで。別に今んとこ金に困ってるわけやないし、アミーちゃんには悪いけどそれはしばらくお預けや。理由は察してほしいな。自己防衛や。これ以上目立つわけにはいかんのや。

 さて南門や。そこはサクッとスルーして……。

「おい、聞いたか。また駆け出し冒険者がホーンラビットに大怪我させられたらしいぞ」

「無茶しやがって。あの角は俺たちみたいな鎧がないときつかろうに」

「なんでも毛玉や角がそこら中に落ちてるなんて噂があるらしくってな、どうもそのおこぼれにあずかろうとして、やられてるんだと」

「なんだよ、それ。そんなわけないのにな」

 誰やそんなありえへん噂しとるんわ。まったくけしからんな。まあ気にせんとこ。そのまま衛兵さんたちの会話は流しそうめんにして、ウチはそそくさと離れたで。

 ウチがたまたま拾ったっちゅう言い訳してギルドのねーちゃんに毛玉ぐいぐいしたんが、噂の原因やなんてことはまさかないやろ。まさか、まさかな~。何言うたか覚えてへんけどな~。ウチがお腰につけとった角団子もひとつたまたま拾ったって言うたかもしれんけど関係ないしな~。今はポーチの中でお休み中やしな~。

 さて気を取り直してやってきたんは、何を隠そうバザールでござーるや。覚えとるか? ウチがこの南門にエドガーはんと辿り着いた時にちらっと横目で見た、城門前のフリーマーケットみたいなやつや。

 そこではな、行商人やと思われる人らが、今日のところは10人ほど散らばっとって、ゴザみたいなん広げて自分らの商品を並べて売っとる。まあ説明せんでもフリマそのまんまやな。

 ただな、なんでこんな場所でやっとるかや。これはエドガーはんから聞いたんやけどな、街中んではこうやって大っぴらに物を売るんはでけへんらしいねん。理由は単純、税金の問題や。

 よう聞きや。ウチがな、こんな真面目な話するんはな、100年に1度しかあらへんで。4年に1度あるはずの2月29日が地球から葬り去られる周期と一緒や。

 ……。

 あ、やっぱやめとこ。今つこたらもったいないな。せやし昨日ウチがな、スキマ時間にエドガーはんから聞いた話そのまま倍速で流すわ。

 

 ……。

「なあ、エドガーはん、この街ってな、税金みたいなんあるん? ウチも暮らしてるんやったらそのうち納めなあかんの?」

「税なんてなかなか難しい言葉よく知ってるねえ。ミリンちゃんの親御さんも商人さんだったのかな?」

「そうやね……、あっ、 ええと……、どうやろなあ? ほんで、どうなん? やっぱ払わなあかんの?」

「そうだねえ、実はね、ミリンちゃんはもうすでに納めてる、とも言えるんだよねえ」

「え、それ、どういうことなん?」

「えっとねえ、アミーちゃんのお店で、お買い物したでしょう? それと宿屋さんで1泊したよねえ。そこで払うってこと自体で、もう税金を納めてるってことになるんだよねえ」

「ちょっとまってや。ええと、つまりこういうことかいな。物を買ったらその分だけ税金を払っとるっちゅうことか? ……いや、ちゃうな。商人さんが物を売ったぶんだけ商人さんが税金を払っとる、っちゅうことか?」

「そうなんだよ、正解だよ。やっぱりミリンちゃんは商人さんとこの子どもだったのかなあ?」

「ど、どうやろな。なはは……」

 ……。

 

 これでわかったやろ? 日本でいうたらな、消費税っちゅう悪魔の税金があるんは知っとるか? ウチみたいなイタイケな子どもからも10%上乗せして搾取しよるあれや。駄菓子やとしても、おパンツやったとしても関係あらへん、何買ってもとられんねん。まあ駄菓子はちょっとだけ割り引かれてとるけどな。パンツに関してはウチがたいていすっぽんぽんで暮らしとる理由のひとつやな。買わんかったらええねん、合理的やろ?

 ともかくな、ここの税金は消費税みたいなもんや思ったらええ。けどな日本とはちょい違う。なんせな、商売っちゅうんわな、日本やと消費税以外にも例えば法人税っちゅうやつが掛かる。要するに儲けた分だけ払わなあかんってやつや。売った分とちゃうで。うまい棒たこ焼き味をウチら庶民に20円で売るんやったら、消費税が2円かかるんはわかるやろ? でもな、うまい棒を15円で仕入れとったら、20引く15して5円が儲けになるさかい、そこに対してかかるっちゅうんが法人税や。ただな、この街に、っちゅうよりおそらくこの国全体に法人税らしき考えはあらへん。理由はな、儲けを計算せなあかん、ちゃんと取引した値段を記録せなあかんからや。

 あかんな結局真面目ちゃんモードになってもた。100年に1度を消費してもたで。ん? アホの子で売り出し中のウチがなんでそんなこと知っとるやと? 別にええで、その気持ちわかるしな。ウチにだって得意のことのひとつやふたつ……まあひとつだけやけど、あるんや。

 それはな、もうわかってるかもしらんけど、金のことや。

 金が絡んだことだけは得意やねん。いっちゃん簡単なやつやけど簿記の資格ももっとんねん。金のことだけはなんでかしらんけど勉強できるねん。

 エドガーのおっちゃんにはほぼバレてもてるかもしれんけどな、ウチのおかんは商売しとった。たこ焼き屋や。ウチも手伝ってたで。たこ焼きだけがウチの唯一の得意料理で、食べモンとしてちゃんとお出しできるもんや。

 こっちの世界やと、たいていの大阪のおうちには常備されとるたこ焼き器があらへんから役にたたんスキルやで。もし万が一、やりたい放題してるものづくりの神様みたいなウチの近くに住んどったかもしれん太眉男子高校生が転移してきよったら、トラウマを刺激せえへんようにちょっと距離を取りつつ頼み込んで造ってもらってついでに材料も用意してもらうけどな。まあ幼女Bのウチやったらワンチャン膝の上に乗ったとしてもな、キラキラ吐いたりせえへんかもしれん。ただし、ストップ役のはずやのにむしろそれを後押しする第一嫁さんのせいでこの世界が崩壊の危機に陥るかもしれんけど、そうなったらそうなったや、無茶苦茶な奴らばっかりやしなんとかしよるやろ。

 ともかくや、この街の税金は、消費税に似とる。ただし説明は省略したけどちゃうとこもあるし、せかやら現地では売上税っていっとる。地球でもな外国にはその名の通りのもんがあるっちゅうんは聞いたことあるで。そういう税金がかかっとる。むしろそれだけや。

 で、バザールや。

 ここでは行商人が物を売っとる。

 ほんでな、なんとここで売る分には税金は取られへん。だってここ街の外やん。街中とちごて許可なく物が売れるんや。もちろん日頃冗談しか口にせえへんウチが冗談にでけへんほどヤバイ品は禁止されとるやろけどな。

 ただしな許可なく売れるっちゅうはな、リスクがあんねん。トラブルが起きても自己責任や。だって衛兵さんにとったら管轄外やもん。ヤバイ品のことがあるから見回りはしとるけど、助けてはくれへん、っちゅう建前になっとる。まあ何事にも例外はあるやろ、とウチは踏んどるけどな。これは商売人としての勘や。

 ともかく、おそらく掘り出しもんとかもおいてある。けどウチは別にそういうもん探しに来たんとちゃう。

「よし、準備や」

 ウチにお似合いの可愛らしいウサギさんポーチの口を開いて、覗き込みながら手ぇ突っ込んでごそごそしたるで。ん~、どこいったかいな。お、あったあった。そーいっ。

 しかしな、マンガみたいに手ぇ入れるだけで欲しいもん思い浮かべたら出てきよるんやったら便利なんやけどなあ。ちゃーんと中見て探さなあかん。今は赤ウサギ角もここにしもてるけど、外でるときは修学旅行で木刀みつけた18歳以下男子みたいにぶんぶん振り回しながら歩かなあかんなあ。誰も見てへんからいいけど。というか、大草原で毛玉集めてたときのウチがそうやな。もうすでにやっとったわ。恥ずかしいな。まるでウチが男の子になってもたみたいやん。

「さぁ、エドガーはんにもろたこれが、ついに活躍するときがきたで!」

 んでな、ウチが取り出したんは、ちいちゃめのスタイラスペンとタブレットや。いまからこのタブレットでな、えっちい動画をみたるねん。この青空の下、衆人環視の元でな!

 んなわけないやろ。ちゅうか見られるわけないやろ。よう考え。ウチはな、エロ本の中の非実在少年少女みたいに退学のリスクなんてすっぽり忘れてしもて、旧校舎やろうと体育館倉庫やろうとなんやったらみんなが帰ったあとの自分の教室で忘れモンを取りに来た他の子が来てもうてその子も急遽参加しようとしてまう状態でところかまわず性欲を発散したりする、なんてことはせえへん現実の高校生やねん。決して相手がおらんわけやない。まだ見つけてないだけや。ウチの理想は高いからな。ちなみに何べんも言うけど幼馴染のこうやんはええ男やけど、つるぺた幼女は完全対象外や。ちゃんと覚えてたか? いつか試験に出すからな。間違えたら異世界転移して勇者にさせられて強制的に魔王と戦わされてまう刑やで。魔王を倒した後は暗殺者送り込まれてもて誰も知らんうちにこっそり処刑されるからな。

 さて、これはな、いうたらメモ帳や。蝶番で閉じとるんを開くとな、ドカーンって感じの爆発シーンにでっかく使いよるだけで何の情報もあらへんまま今週の連載分がそれだけで終了してもうたっていうような見開き1ページ分しかないんやけど、文字が書けるんには違いあらへん。

「さあて、何が売っとるかいな、っと」

 もうわかったやろ? ウチがこれからやるんはな、市場調査や。確かにな、ウサギ毛玉をアミーちゃんに売るだけでこのまま十分暮らせるかもしれん。でもなそいつにはリスクが伴うっちゅうんは、ちょいまえの衛兵のにーちゃんらの会話でようわかったやろ?

 ウチは考えた。確かにウチは冒険者になった。

 でもな、ウチはな元々商売人を目指しとったねん。

 で、ウチが最初にでおうたんは、行商人のエドガーはんや。しかも今、気に入られて下宿までさせてもろとる。

 ほんなら、やるしかないやん。

 エドガーはんと同じ、行商をな!

 ウチはそんとき、左手をおてんとさんに向けてかざしたで。

 そこにはな、昨日商人ギルドでもろうた、ウチが商人になったっちゅう証拠の指輪があってな、きらりと輝きよったんや。

 ウチにはチートスキルがあるから言うてもな、崇高で立派な目標なんてなんもあらへん。

 せやけど行商だけで身を立てるっちゅうも、立派な目標やろ?

 ほな、やったるでー!

 

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