ウチ、ただの行商人やで? 〜異世界転移した関西弁女子はチートスキルに物申したい〜   作:霧島 高

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第5章 1万マゲカとか、ウチ聞いてへんで?

「排水溝の掃除、なあ」

 お日様ポッカポカで睡魔というこの世で誰もが逆らえへん恐ろしいもんに襲われてしもて、気付いたらおっきな蝋板に頭から突っ込んで、ウチの憧れのソロはんが捕まってもたときみたいにフリーズドライ状態になってしもたりしたシスターねーちゃんの大人の午前授業を、なんとかやり過ごすことができて解放感いっぱいで寄り道して買い食いまっしぐらになりそうなある日の昼や。

 ほんでから、ちゃーんとエミリちゃんをご安全におうちに送り届けて、ウチは冒険者ギルドにきとる。ちなみにこっちの人には昼ごはんなんて習慣はないで。1日2食のダイエット生活や。それやのにみんな、いろんな部分がでっかく育ってるんはなんでやろな。もしかしたらウチもこっちで生活してたらいつか……。

 や、やめい! そんな飼ってた金魚が死んでもたときみたいな可哀想な目でこっちを見るんやない!

「うーん、別に汚いもんは平気っちゅうかウチが汚物みたいなもんやからええんやけど。ウチの力では役に立たんしなあ」

 みんなは覚えてるかどうかわからんけど、ウチのSTRは1や。STRっちゅうんはうちの短くてかわいらしい細腕のことやろ? 基準がわからんから何とも言えんけど、おそらく0とかマイナスとかはあらへんやろから最低や、たぶんな。別に「お箸より重いものなんてもったことないんですう」みたいなことは言わへんで。そんなもんどんな絶世の美少女がいうたかて誰かて嘘やわかるやろ。そんなんに騙されとる純情男子なんて現実にはおらんで。なあ? 君ら?

 それかものすっごう長い、どんな奥様でもすいっすいな感じの高枝切りばさみみたいな箸のことをいうとるんかもしれん。「あれれ? 間違えちゃった! てへっ☆」みたいな感じで君らの大事なもん切られへんように注意しときや。

 ほんでな、もうお約束やからわかる思うけど、ギルドの掲示板には売れ残りの依頼を描いた木の板がいっぱい残っとる。もしくはな、嫌な顔しながら引き受けたけど、まだまだ人手がたらんっちゅうやつもあるかもしれん。

 そんなかの1つが、排水溝の掃除、いわゆるどぶ攫いやな。その絵と下に数字が書いとるねん。文字での説明はあらへん。そらそうや。たいがい読めへんもん。ええとこのぼっちゃんじょっちゃんやったら読めるやろけど、そういうんで冒険者なんちゅう底辺の仕事しとるんは、まあおそらくおらんやろ。

「20マゲカなあ。宿代1泊分になるんなら、わりとええ儲けやな」

 うーん、これは、悩むなあ。うーん、これは。うーん、こ。

 あ! そうや、せっかくやしな、これ紹介せな。みんながお待ちかねの、エロ本にはたいていなんでか出てくるけど、美少女しかでてこーへん健全マンガには全くこれっぽっちも関係あらへん異世界トイレ事情や。忘れとったわ。

 今回は結論から言うで。源泉垂れ流しや。排水溝通って、そのまんま街の北に流れとるでっかめの河に流れてくみたいやで。たぶんな。ちんすこうみたいなんわざわざ追っかけたわけやないけど、方向からしたらそうやろ。

 ちなみにな、向こうの世界で下水処理ゆうんはかなり難しいんや。キラキラ水をきれいにすんにはものすっごう時間がかかるで。なんで知ってるかやて? 小4の社会見学で、そこで働いとったおとんから聞いたからや。異世界やと汚いもん食べるんが大好きなぷるぷるとかで誤魔化しとるっぽいマンガも多いけどな、実はあながち間違ってへんねん。向こうの世界でも同じようにウチみたいなちっこい微生物っちゅういきもんが頑張って処理してるんやで。これ豆知識な? せやしウチは溝さらいなんて屁でもないで。

 それにしたってなあ、魔法でなんとかならんのかとも思たけど、そんな魔法なんぞないんかもしれん。異世界転移者はチートないと使えんとかいうようわからん制限掛かってるし、魔法はほんのちょびっとだけなんかもなあ。それかやっぱ誰もそんなばっちい魔法つかいとうないんかもな。「うんちをすっきりきれいにする魔法」なんてカビてそうな魔導書持ち歩いてるウチよりちょこっとだけマシな程度の体型のエルフ、どっかうろうろしとらんかなあ。そのお供のデカパイ天才魔法使い美少女ヒューマンに小金ちらつかせたら、ある種ご褒美みたいなめっちゃ嫌そうなふくれっ面を読者のみなさんにサービスしながらばっちいもんキレイキレイしてくれへんかな。

「せやな、これに決め——」

「おや、久しぶりだね。ミリンさん」

「うお、びっくりした。急に背後から不意を突いて現れんのやめてくれんか。ウチの大事な穴がキュってなってもたで」

 昼過ぎのがっらんがらんのギルド内でとても大切で真面目な考え事しとったら、ウチはえらいさんに見つかってもうた。ここのギルドマスターをしとる、ウチの憧れのソロさんにクリソツなヴィンセントはんや。

 ちなみにこの前、一生に一度の土下座したことはもう忘れてるで。それ覚えとるやろいうんはなしな?

「マスター、忙しないん? もしかして暇なん?」

「実はそうなんだ。だからさ、ちょっとそこでお茶しないかい?」

 チャラ男みたいなこというてるけど、銀髪のかっちょいいしっかりしたおじさんなんやこれが。前も言うたけど、イケオジやで。

 そしてウチはまんまとキャッチされたわけや。そんなん当たり前やろ。ただで茶飲めるんや。行かな損やで。

 

 ほんでそのままウチはまた奥の部屋へ連れ込まれてもたわけや。

 このイケオジ、まさかやけど同じ手口でありとあらゆる種類の女の子、ここに連れ込んだりしてへんやろな。いまウチが座っとるこのソファ、いったいぜんたいどんな用途で使われとるんやろか。やっぱり「ほら、こいつを磨け!」「とても大き過ぎます!」って言いながらでっかい槍をお掃除させとるんかな。周り見回してもそんな槍ないな。どこにあるんやろ?

 まあ仮にそうやとしもや、ウチが気にすることやない。無自覚ハーレムはイケオジの特権や。さすがにダンジョンで最弱スライムにやられてまうぐらいよわっちい幼女を捕まえたりはせえへんやろ。たとえ夜になったらえっろえっろボディのねーちゃんになるとしてもな。悔しくなんかないで。そんなチートスキルなかったもんな。あったら選んだでたんかって? そんなんな、毎晩寝巻が破れてしもて、もったいないやん。あっ、よう考えたらウチいつも夜は素っ裸やしなんも問題なかったわ。

「いやあ、君だけだよ?」

「え? ウチいつから心の声そのまんま喋ってたん?」

「言ってないけど、なんとなくかな?」

 君だけだよ、そう、僕に必要なのは君だけなんだ……なかなかの殺し文句やな。とてもウチが冗談言える空気やなくなってもたやん。以心伝心ってこういうのをいうんやな。ウチとの絆が深まって、ヴィンセントはん専用の特別な姿したその名もヴィンセント・ミッリウガに変化してまうかもしれんで。ちょっと喋りがなごうなるだけで、身体がエロくはなったりはせえへんけどな。

 ヴィンセントはんはそんなこと言うてないって? ええやん、妄想ぐらい。それぐらい許してーな。

「ところで聞いたよ、商人ギルドに登録したんだって?」

「せやで。けど今んとこまだ何やるかは具体的に決まってるわけやない。資金もあらへんしな。ちゅうかそれ誰に聞いたん?」

「ふふっ、こういう仕事してるとね、いろんな噂話は入ってくるものだよ。あっ、そうだ!」

 あ、まって、まってや! その「クリームソーダ!」に、ウチの頭から飛び出した下ネタアンテナがビンビンや。それ以上は言うたらあかん! ちゅうかウチ連れ込んだ目的、最初からこれやろ。

「ちょうどいいね。ミリンさんにやってほしいことがあるんだよね。お金はちゃんと払うよ?」

 まさか、まさか、こんな真っ昼間から、ウチのまっ平らな身体つこうてあれを膨らませろとかいうんちゃうやろなっ!? ウチにはそんなもんこれっぽちもないで!

「実はね、この前パン屋さんにおかしな冒険者が入ってきたって苦情がね……」

 だってSTR1しかあらへんもん。

 

「しかしな、ヴィンセントはん、やたら強引やなあ。それになんやこう、あの赤い目にいろんなこと見透かされてる気がすんねんな」

 ちゅうわけでやな、強引に押し切られてウチは頼まれごとを引き受けてもた。まあ悪うはない。お駄賃50マゲカもくれる言うからな。

 確かにな、いまはエミリパパことエドガーはんのとこでお世話になっとるから、ほぼなんもお金かかってないんと同然やし、必死こいて稼がなあかんってことはないねん。

 せやけどずっとこのままってわけにもいかん。ご厄介になってるんやったらいくらかは払ったほうがええ、というよりせなあかんやろ。

 ゆうても今んとこ元手がなんもあらへんからな。ま、ウチが独立したらその暁には耳揃えてなんやお返ししよ。お返し言うたらイボ愛子様が丁寧に紡いだそうめんやな。君らの悪事は遺品からなんでもバレとるからな。せやし地獄に落ちてるやろから、そうめんでできた糸掴んでちゃんと昇ってくるんやで。途中で切れたら食べたらええしな。ちなみに赤帯より黒帯のほうがうまいで。もろたときの参考にし。送ってきよった相手があんたのことどうおもてるか、ようわかんで。

 さて、ヴィンセントはんからの依頼や。

 ウチはここ最近通いつめとるバザールに来たで。ここに本日、お探し中の未確認生物が出張しとるっちゅう話をさっき近所のおばちゃんらに聞いたんや。

 はてさて、おるかいな、っと……、早速おったわ。もうちょいコマーシャルとか挟んで間ぁもたしてくれんか? おもろいこと考える暇もなかったがな。

「おお、これはいい仕事してますねえ! 買いましょう!」

 そこにはな、この街ん中で何度か見かけとったけど華麗なスルーでかわしとったスーツ姿のおっさんがおった。本日のお尋ね人や。

 ヴィンセントはんからは「なんかね、最近いろんなお店で迷惑なことしてる人がいるみたいだから調べてほしいんだ。ミリンさんの同郷の人でしょ?」って言われてもたねん。ウチは「ちゃうで? ちゃうからな?」って引き攣った笑いで上手く完璧に誤魔化しといたで。ほんま、ただ髪の毛が同じ色やからいうだけの横暴な理由で一緒にせんといてほしいわ。迷惑千万やな。

「これも、これも! いやあ、皆さん大判振る舞いですねえ」

 おっさんはほくほくしながら、木彫りの熊みたいなもんやら首がゆらゆらしてる赤い牛やらいろんなもんをな、妙な袋にポイポイ放り込んどった。お行儀よくお淑やかに授業受けとったら先生が「誰かみりんのお口にいつものアレ頼むわ」っちゅう鶴の一声かまして周りの生徒がみんなよってたかって猿ぐつわみたいにしてウチに噛ましてきた、ジーって閉める時に別のモンよう挟んでもうて、もしそれが男子のアレやったら「あいたたた、ちみってもたがな」って大きな声で叫んでまうあれまでついとる。悪いな、商標権の問題でウチの知っとる名前は言えへんねん。ちゃんとした名前わからんねんけど、マンガだけやのうてアニメでもなんでもござれの幼馴染のこうやんが言うとったで。似た名前のアニメがあったって。ええと青空の下のデカパイがどうのこうの……あっ! 双丘のなんちゃらっていうとったで。

 それにしても異世界すごいなあ、あるねんなあ、タブレット入れるのに便利なスクエアリュック。

 んなわけあるかいな。あれって学生カバンとちごてご禁制の品とちゃうんかい。あれがええんやったら学生カバンはなんであかんねん。そりゃな、大したもん入ってへんかったけど、別にいいけどな。暇な入学式でこっそり読もう思うとったマンガ雑誌ぐらいしかあらへんかったけど。あ~、なんや思い出したら先生の次回作に期待が高まってきたで。

 とかなんとかいらんこと考えとったら、爆買いおっさんはいつのまにかおらんようなってたで。しかしな、お店に迷惑かけとる聞いとったけど、行商人のおっちゃんらからしたらカモみたいなもんやし、なんも悪いことしてへんかったな。

「いやあ、どこのバザールでも全然売れなかったんだけど、買う人もいるもんだねえ」

「ちゅうか、エドガーはん、あの熊どこでこうてきたん?」

「あれかい? ずっと北の方でねえ、時間かけて作ってるらしいよお。知り合いの行商人から買っただけだから、よくわかんないんだけどねえ。すごく精巧だよねえ」

 確かにどんだけ手間かかってんねんってぐらいリアルやったけどな。なんや向こうの世界でも似たもんあった気がするけどたぶん勘違いやろ。

 せやけどこの世界、熊おるんかな? おるんやろな。けどたぶんあの因縁の角ウサギみたいに普通の熊とはだいぶちゃうんやろな。

 まあ普通の熊やとしてもや。ゆるゆるベルトなぬいぐるみとか、はちみつ大好きな無職さんみたいなんとは絶対ちごて、都市に最近よう出没しよるお腹減らして冷蔵庫をあけてくるような狂暴なタイプやろ。せやったら、どのみちウチなんてひとたまりもあらへんな。

 よし! 絶対フラグ立ったで。不死チート選んどいてよかったわ。

 それにしてもおっさんどこいってもたんやろ。ウチのお駄賃のためにも探しに行かんと。

「あの人なら、街に向かったよお」

「おおきに、おっちゃん。またあとでな~」

 なんでかしらんけどみんなエスパーみたいにウチの思とること把握しよるねんな。なんでかなあ。

 

「おばちゃん、ちょっとごめんなあ。なんか変なカッコした黒髪のおっさん、このへん通らへんかったか?」

「あら、その人ならあっちのほうにいったわよ? あなたのお父さん?」

「いや、まったくこれっぽっちも関係あらへん他人やねんけどな、ちょっと野暮用があって探しとるだけなんや。おおきになあ」

「いえいえ、どういたしまして」

 ってな感じで異世界スーツおっさんを捜索中や。どうも商業区のほうに行ったみたいやから、まんまる広場までやってきたで。そういやあのおっさん、アミーちゃんのお店からやんわりなでるように追い出されとったな。いろんなお店に迷惑かけとるっちゅう話やし、アミーちゃんとこお邪魔して聞いてみよ。

「ごめんやしておくれやしてごめんやし~」

 ウチ、元ミス・ユニバースのみりんちゃんと申しますねん。アメリカーンからやってきて2年連続三冠王達成した縦縞の英雄とはちゃいますねんで。ほら、このウルトラスレンダーなボディみたらわかりますやろ?

「あら、いらっしゃい、ミリンちゃん。お買い物かしらん?」

 う~ん、目の前のスーパーニューハーフなアミーちゃんのほうがウチなんかよりよっぽどナイスバデェやな。相変わらず立派な胸板をしてらっしゃるなあ。

「それがなあ、ちょっと冒険者ギルドの用事できてん。お買い物ちごて申し訳ないんやけど」

「うふふ、いいのよ。あなたならいつでも大・歓・迎! それでご用はなあに?」

 ウチはサクッと黒髪スーツおじさんの話をしてみたで。

「ああ、あの人ねえ。もう、ほんっと失礼しちゃうんだから。ぷんぷん! お買い物はしないし、アミーちゃんって呼んでくれないし、それにお金を貸してくれなんて言ってくるしぃ。そんなことばっかりいうもんだからあ、思わず大きな声、だしちゃったの。あれぇ? もしかして、聞こえちゃってたんかしらん? もう、やだぁ、はずかし~。どんなけ~」

「ほらまた失礼なやっちゃなあ……アミーちゃん、金貸しなんかしとるん?」

「してないわよお。そういうのはもっと大きな商会のお役目なのよう」

「ほほう、そうなんやなあ」

 そのあとウチはアミーちゃんとちょっとばかし世間話にお花をぱっかんさせてから、ちゃんとお礼言うて店を出てったで。そういやおっさんはあれ以来このお店にはきてへんらしいわ。ほらな、あれだけ親切丁寧に穏やかな声で追い返されとったら、来とうても来られへんやろ。

 しかしや、さっき爆買いしとったけど、その金は誰からか借りよったんやろか? 普通に考えたらなんの伝手ものうて、担保にするもんもあらへんのやったら誰かて貸してくれへんやろにな。ここにはトイチで無担保融資してくれることで有名なきんさんぎんさんなんぞおらへんねんで。しかも2人から借りてもたら利子も2倍になるおまけつきや。

 

「ようやく見つけたで」

 あれから1時間ばかし歩き回ってついにウチは発見したで。

 せやけどなあ、なんや近寄りがたいなあ。

 さっきまで浮かれてはしゃいどったおっさんがなあ、建物の間のせんまい路地で今にも雨が降り出しそうなどんよりお目々で虚空を眺めとるんや。こんなにお天道さんの気持ちいい快晴で、たそがれるんにはまだ早いやろ。あっこだけなんやしめじが生えてるみたいやな。

 しかしなあ、女神空間んときはガキンチョみたいに目ぇキラキラさせてたのになあ。あの輝きはどこにいったんやろなあ。シャンプー変えたほうがええで。じめじめ地下空間で毎晩のようにお色気ムンムン悪魔女とちちくりあってるムササビみたいな名前の王様の種族みたいなやつにな。

 いややなあ、話しかけるの。でもなあ、ヴィンセントはんから貰える50マゲカは惜しいしなあ。

 よし、とりあえず恐怖の黒い公爵のようにこっそり忍び寄ってみよ。カサカサ、カサカサ、カササササ……。

「はぁ、どうしてみんな買ってくれないのかなあ。この熊、100マゲカの価値があるはずなのになあ」

 100マゲカやと? いやさっきおっさん、それエドガーのおっちゃんから40マゲカでこうとったやん。何言うとるんや?

「僕のスキルが囁いている。これは100マゲカで売れるって」

 どういうこっちゃ? スキル? チートスキルのことやろか? おっさん何選びよったんや。

 ええと、ちょいまち。今から思い出すで。なんやそれっぽいのあったかいな。買ったもんが高う売れるスキル? そんなもんなかったで。あったら即選んどるしな。ちゅうかな、もし売れるんやったらエドガーのおっちゃんがその値段で売っとるやろ。

「おっさん、何アホなこと言うとんねん」

「ん? 君は誰だい?」

 しもた、あんまりあほくさすぎて声に出てもたがな。しゃあないなあ。

「とおりすがりのなんでもない行商人ですわ。気にせんとってください」

「いやいや、君どう見ても子どもでしょ? 迷子? 親御さんは?」

 あれやな、ウチのことは全然知らんみたいやな。あの女神空間でずいぶん舞い上がってしもてた人やしな。なんも目ぇ入ってなかったんやろ。

 ほんなら都合がええで。

「ん~? もしかして君、日本人、だよね? やっぱり、そうでしょ」

 そう都合よくはいかんかったわ。

「ねえ君、僕にお金貸してくれない? 10倍にして返すから!」

 そんな都合よくはいかんで。

 それどう聞いても詐欺師のセリフやん。もしくはパチ屋にいざまいろうとする負け確のおっさんやん。

「大丈夫、大丈夫。絶対返ってくるから安心して」

 そんな暗号資産投資詐欺には引っかからへんで。ウチは全国のなんでか知らんけどぎょーさんタンス預金してるじっちゃんばっちゃんとはちゃうねん。革命目指すしかできひんドケチ大貧民みりんちゃんや。

「お金借りてきてもいいからさあ」

 あかんやつや。そんなんしたら返済のために銭湯でアルバイトするハメになるやん。毎日浴槽の掃除っちゅう重労働を強制されてまう。この可愛いお手々では何時間かかるか分からへん。

「なんてね、冗談だよ」

「たちの悪い冗談はおもろないで。いい加減にしいや」

「それはそうと君、この熊買わない? 本当なら100マゲカのところ、今ならなんと90マゲカ! 買わないと損だよ?」

「誰が買うかい!」

「そう? まあいいけど。じゃあ僕はこれで失礼するね。早くこれを売ってこないとね。うーん、あっ、そうだ! このへんに並べてみようかな。そしたらきっと誰か買ってくれるね」

「あかんで、おっさん、それ。ちゅうかな、ちゃんとルールは守らなあかん」

「ルール? 何言ってるんだい? 異世界なんだし日本の法律とか関係ないでしょ?」

 このおっさん、なんやろか。なんや、こう、話が全く通じひんで。

「あのな、ようかんがえや。なんであんな場所でバザールやっとるんやとかちょっとは疑問に思いなはれ。異世界には異世界のルールがちゃーんとあるねん。それにおっさん、商人の指輪すらしてへんやん」

「ん? 指輪? ああ、あのお金払うときの? この冒険者の腕輪で問題ないでしょ?」

「……」

 もしかしてウチがおかしいんやろか。

 いいや、そんなことあらへん。ウチが運よく行商人のおっちゃんにまっさきにでおうて、あんときにこの国の商売について多少なりとも学べたんがよかったっていうてもな、ここまで迂闊なことはしとらん。

「まあ、いっか。それにしてもさあ」

 なんや、まだなんかあるんか?

「ね、君も思うでしょ? 女神様もたった1万マゲカしか持たせてくれないなんて、一桁間違えてるとしか思えないよね?」

「……へ? 1万?」

 ウチの聞き間違えか?

 1万……10000、やて?

「そう、1万だよ。君も貰ったでしょ。少ないよね~。10万、いいや100万ぐらいぱーっとくれないとね~」

 どうやらな、ウチは勘違いしとったらしい。

 ウチはな、あのクソボケ女神が最後っ屁のように漏らしよった「あっ」はな。あれはてっきり、緑豊かでだだっぴろくてお日様ぽっかぽっかで昼寝しとったらぎょうさんウサギが集まってきよって、ほんで戯れに大事なとこ貪られるような広々大草原へウチを送り込んでまいよったことやとな、そうおもてたんや。

「1万マゲカなんてあっという間になくなっちゃうもんね」

 けどなちごたんや。それだけやなかったんや。

 あのアホンダラはチートスキル以外にも金っちゅうこの世で命の次に大事なもんをウチに振り込み忘れとったねん。もしかしたらエクセルのコピペミスってもて全額このおっさんに振り込んで返金を要求するも「全額すっちゃいました、てへぺろ」って言われて突っぱねられてるだけなんかも知れんけど、おそらくそうやない。

 ウチを除いた異世界転移民みなさんにそれぞれ1万マゲカの生活応援給付金やと……。ウチがものすっごい長いモン下の腹に突っ込まれて抜き差しされつつみっともない悶絶した表情晒してお茶の間のみなさんにゲボ吐かれながら昇天間近の死にそうな思いで手に入れた赤ウサギ角のさらに10倍! の金額やとな。

 しかもこのおっさん、それでも足らんとか抜かしとる。

「1泊200マゲカの安い宿で我慢してるのに、結構なくなっちゃった」

「……」

 ウチは絶句するしかあらへん。ウチの生きがいである冗談も言えへんなったわ。

 エドガーはんにオススメされてウチが初日に泊まった、ウチにとってのスイーツなお宿はその10分の1なんや。これが東京モンの金銭感覚か。ウチのおとんがいつもぼやいとった。東京はなんでも高いんや、って。誰もやりたがらへんし毛嫌いもされとるけどインフラささえる大事な仕事やのに、安月給で借り上げ社宅住まいしとった、ウチの大好きなおとんがな。

「もういいや。こんな田舎町じゃ僕のこの完璧な能力を誰も評価してくれないし、大きな街に行こうかな。そうだ王都に行こう。うん、これで間違いないね」

「ほうか。まあ気張りや」

 ウチはな、夢見るおっさんのことはもう見なかったことにしてその場から空気のようにすーっと薄れていったで。ヒントはくれてやったしな。もう好きにしたらええ。勝手にしたらええねん。

 そりゃ最初のうちは同郷もんやし、ちょっとは協力したろかともおもた。

 でもな、あれはな、処置でけんわ。まあ王都に行くみたいやしそこでなんぞ現実でも知ったらええ。チートスキルあるからいうて世の中舐め腐っとたらああなるねん。

 ウチは知らん。最低限の義理はもう尽くしたで。

 正直はらわた煮えくりそうやけどな、ここは我慢や。はよ帰ってエミリちゃんの天使の笑顔で癒されにいきたいわ。

 それにしてもな、まさか、まさかやで。

 ほんまにまさかやけどな、ウチに渡し忘れてるもん、他にあったりせえへんやろな、あのドクソ女神は……。

 まあええ。なんぞあったところでウチのやることは変わらん。そんなもんで、左右されるようなウチの座右の銘やない。生きてるだけで丸儲け。楽はでけんでも地道にやってたらな、どうにか生きていけるだけの金は儲けられるねん。

 それをあのおっさんは、チートスキルで楽してぱーっと金儲けしようとしか考えとらん。

「あ……、そうか、そうことかいな」

 わかってもたで、おっさんのチートスキル。思い出したわ。

 あのチートスキル、確かな、こういう謳い文句やったわ。

 

『これがあればあらゆるものが丸裸に! どんなものでも、その真の価値がわかっちゃいます! しかもそれがわかるのは~、なんとっ、この転移者特典を持つあなただけなのです! さあ、この異世界に存在するあらゆるものを見つけるため、いざ出かけましょう――』

 

 チートスキルの名前、想像ついたか? 異世界転移のマンガではおなじみのあれや。

 そうや、もうわかったやろ。

 せや、その名も「鑑定」や。

 まちがいあらへん、おっさんはこのスキルを選んどる。

 けどな、はっきりいうで。これはな、あのぱっとせえへんチートスキルんなかでもな、ダントツに最悪なスキルや。

 なんでやと思う? たぶんみんなやったら、きっとわかるやろ。

 そうや。注目せなあかんのはな、「真の価値がわかるんはこいつをもっとる異世界転移者だけ」っちゅうとこやで。

 確かにな、あの熊の真の価値いうんは、おっさんの言うてたとおり100マゲカかもしれん。

 でもな、それどうやって証明すんねんな。この世界の人は誰も「鑑定」なんてチートスキルもっとらんねん。異世界転移者だけの特典なんやからな。

 それにな、取引の値段っちゅうんは、時と場所で変わるもんや。みんなが欲しがったら値段は高うなるし、みんながいらんかったら値段は安うなる。足らんようになったら高うなるし、余ってきたら安うなる。真の価値がいくらやろうとな、少なくともいまこの街では100マゲカどころか10マゲカでも誰も買わへんのは確かや。

 ここに生きてる人らにとって、真の価値なんてどうでもええねん。それをなんやあのおっさんはな、ゲームみたいにどこでも一律でモノを買い取ってくれるおもとんねん。

 ああ、もしかしたら、あの美少女同級生のフツメン彼氏くんがめっちゃまともに思えてきたで。よっぽどヤバいで、あのおっさん。

 できれば再会とかしとうない。王都行く言うとったし、ウチはそんな魔境には何があってもいかへんで!

 あかん、これ絶対フラグやん。こういうのは不死チートではどうにもならんで。

「はあ、まあええ。そんときはそんときや。そんとき考えよ!」

 とりあえずヴィンセントさんに今日の御駄賃もらいにいくで。

 まっててや~、ウチの愛しい50マゲカ〜。

 

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