ウチ、ただの行商人やで? 〜異世界転移した関西弁女子はチートスキルに物申したい〜 作:霧島 高
さて、今回はたぶんみんな忘れとるやろから、前回のあらすじからいくで。
ちなみにウチも忘れとるからな。
えーと、たしかあれは、エッサの街から北へちょろっと歩いたところにある、大人の事情で壊されてしもうた橋を東に向かって迂回してからや。
そこにあった別の何かをひっかけとる橋で、なんぞおもろいことでもしたろかっちゅう色気は出さんと、誘惑を華麗に避けたあとや。
あ~今から森や~、こら怖いな~、モンスターでるやろなあ、おもてな。警戒したウチがしゅたっと小学校で使う竹の物差しぐらいで、硬くて先が細なっとる、至れり尽くせりで入れたり出したりすんのにちょうどいいサイズの棒状のもんを構えたんや。
ちょうど、その時のことやった。
ウチは森の中でな、イノシシにでおうたんや。
そろそろその辺に咲いとるボタンの花にな、ウチ特製の元気になる黄色いシロップでもかけたろかと思っとった、森の道や。そこで牙のなが~~~~~~~いおつきあいな、イノシシにでおうたんや。
そのチャラいイノシシが言いよるねん。「そこのちんちくりん、暇しとるやろ。ちょいそこまでドライブしながら茶ぁでもしばかへんか?」って。もちろんウチは、「すんまへん、急に用事思い出したし、失礼しますわ」言うて、スタコラサッサの助や。
せやけどなんや諦めんと追いかけてきよるねん。お中元にもろてうれしいハムを入れたスープをな、ゆっくりトコトコ煮込むようにじんわり近づいてきよる。
ほんでまた大きな声で話しかけてきよった。「おい、そこの胸無し子。なんや茶色く汚れた白くて丸い穴の開いとるもんをおとしよったで。わいの頭に引っ掛かってもうてるしちょっと取ってくれへんか?」って。
そんでウチは言うたんや。「えらいすんません。にーさん、おおきになあ。ほなせっかくや、ちょっとそこまで乗っけってくれへんか?」って。ほんでからイノシシあんちゃんに乗ったまんまな、合唱しとるカエルを容赦のう踏みつぶしたりして楽しうおしゃべりに興じつつな、ウチはここまでやってきたっちゅうわけやな。
そんな緑あふれる大自然を抜けてやってきたんは、セリン侯爵領の領都や。
名前はウノーミっていうで。
ん? そんな危ない目におうてしもて大丈夫やったんか、やて? なんやウチのことえらい心配してくれるやん。けどな、ちょっと君の目つき怪しいし、そんなん言わんといてくれる? 不安商法って知っとるか?
しっかし、みんな物覚え悪いなあ。ほんまに忘れてもたんかいな。間違いのうあったことやで。ウチはちゃーんと覚えとるからな。
ほら、ウノーミの街の門の前で、冒険者らがなんやゴブリンの巣穴見つけに行くんやーって、勢い込んどったやろ。たぶん捕まってこしょしょの刑に処されとる可愛いねーちゃんらを助けに行くんが目的やと思うわ。
まちがってもな、ウチの下着に染み付いた香しい臭いのせいで暴れ狂っとるような、デカい豚さんに出会いを求めにいったんとはちゃう思うで。
「お、冒険者ギルドや。迷子センターの前で衛兵さんにきいとったけど、ほんまにすぐ近くやったな。時間もあんまあらへんし助かったで」
エッサの街よりたぶん何倍も広そうな領都ウノーミはな、5つの区画に分かれとるんやと。
せやけどとりあえず用があるんはこの南地区だけや。イノシシとキャッキャウフフしとったせいで、だいぶ押しとるさかいちゃっちゃといかなあかん。
なんせお日様が……ええと、にしからのぼってひがしへ~しずむ~、あらまたいへんや、の反対の反対の反対やから、西にあるでっかいお城みたいなところあたりをうろつき始めとる。
ちゅうわけで、前回のあらすじとか悠長なことを考えてる場合やない。すまんけど省略するわ。
「おじゃましまんにゃわ~」
……だれもずっこけてくれへんな。こんなぎょうさん人がおるのにな。寂しいな。こっちの世界は世知辛いで。つっこんでもくれへん。
気ぃ取り直して、とりあえず並んだろか。夕方前の冒険者ギルドはそれなりに混んどる。たぶん依頼を終えた冒険者らが、今夜の飲み会に受付嬢を誘うっちゅう無駄な努力をしに来とるんやろ。「恋人なんていないんですう」なんて真っ赤な嘘やからな。
「しかし、デカいなあ」
ここのギルドの建物のことやないで。いや、それもでかいけどな。それ以上にでかいもんがあったんや。
並ぶ前にウチはちらっと受付嬢を見たねん。そんで思わず呟いてもた。
ウチは急に、幼馴染のおっぱいマイスターこうやんが、いつも言うてたことを思い出したで。「ギルド受付嬢の選考基準は胸の大きさや。どんな文句いうてくる冒険者かて、おっきな胸には文句つけられへんからな。しかし、いっぺん実際に拝んでみたいもんやな、でかぱい受付嬢」って。やっぱウチやのうてあいつが転移するべきやったな。それか、いますぐここに呼びだせへんかな。たぶんめっちゃおもろいことが起きるで。
それにしてもや、こいつはなんちゅう重大で役に立つ情報なんやろか。ウチがまかりまちごうてギルドの受付嬢の試験でも受けることになってしもうたあかつきには、トイレ行くついでに黄色い蛍光ペンでマーキングしとかなあかん重要ポイントや。
うん、あんな、君らの考えてることは全部わかっとる。だからわざわざ口に出さんでええし、心の中にどんどんしまっちゃっといてくれるか? ウチはな、この夢いっぱいのイマジナリー胸に誇りをもって……。
え? ちゃうて? それ以前の問題やて? ウチのこの完璧な営業スマイルのどこに問題があるいうねん?
は? いらんこと喋り過ぎ? ウチからそれ取ったらウチの存在ミジンコより小さあなってまうけど? なに? 元からそんぐらいやて?
よっし、君な、ちょっと黙ってそこに跪くんや。今からこの最強のハンマーつこて、ゲーセンに生息しとる可哀想なワニさんみたいに、どたまピコピコ叩いたる。ウチより小さあなるまでやめへんからな。
「次の方、どうぞ~」
「はいな~、っと」
暇つぶしにいろいろ考えてたらあっと言う間やな。
とりあえずウチは一応周りを見回して、そこに踏み台があらへんことを確認してから、慎重にカウンターに近づいたで。
「ええと、ちょっとまってや。手紙、手紙っと……。お、これや」
ウチはウサギさんポーチをがさごそして、エッサの街の冒険者ギルドで預かった手紙をさがしたで。そんでから奥の方にあった依頼の木札と一緒に手紙の束を取り出して、腕をぷるぷるしながら伸ばしてカウンターの上に置いたで。なんやこう、周囲から「がんばれ~」って応援されとるような視線を感じるな。
「あら~、エッサの街からなのね。えらいね~、お父さんと一緒に来たの?」
「うん、どうせそうなこと言うやろと思っとったで。あんた、まさか思うけど、エッサの街の受付嬢の姉ちゃんか?」
「ううん、妹はいるんだけど、ちょうどあなたと同じぐらいね。6歳なのよ」
……なんやおなじこと言われるたびに、どんどん年齢が下がっとるけど?
「まあ、ええわ。ほれ、とりあえず文句言わんと振り込んでくれるか? 暗証番号ぴっぴして言われた通りの金額入力してくれるだけでええで」
そんなこんなで、スーパーメロンな受付嬢はんがおずおずと四角い台座みたいなんを差し出してきたで。そこには100っていう文字が浮かんどる。まあこれはエッサの街のタマタマねーちゃんですでにやったことがあるからな。冒険者の腕輪をぴっとすんねん。
ほんならいつもの「まっ、げっ!」や。受け取り完了やな。こういう手紙配達とかは配達先で受け取れるんが嬉しいで。
それにしても相変わらず天板の位置が高いわ。腕を伸ばすんも一苦労やし、かろうじて目の位置が飛び出すぐらいの高さしかあらへん。
あ、目ん玉飛び出すいうたら、あのカエルの肝、引き取ってくれるんかな? 時間がのうて掲示板見てへんし、依頼が出とったんかわからんけど、一応、聞いてみるか。
「な~、ねーちゃん。ちょっとええやろか。あんな……」
もういっぺんウサギポーチをごそごそ漁って、そこから例のブツを取り出そうとしたまさにそん時や。
ウチのデビルイヤーが耳障りなモスキート音を拾ったで。
「そろそろ東の森に行って、もっと強いモンスターと戦いたいなあ」
「え? でもあそこ、確か毒のあるカエルがいるんじゃ……。ごめんね、毒を治す魔法はまだ……」
ずこーっ! ゴンッ!
「えっ!? 急に、どうしたの? 痛くない? 大丈夫?」
あいたたた、思いっきり天板のフチにおでこをぶつけてもたがな。
衝撃のあまりゆさゆさ揺れた大玉スイカも、ウチを心配しとるな。
「いや、なんでもあらへん。なんでもあらへんで」
涙が出そうなぐらい痛いで。こりゃおでこにサクランボが出来そうや。
けど、よう考えたら不死チートあるし、たんこぶなんてでけへんやろな。よかったよかった。たまには役立つもんやな、このチート。
ん? 言うとくけど、たまたま床に転がっとった石っころにけつまづいただけやからな。決して、驚きのあまりずっこけて、そこにカウンターの端っこが偶然あったわけやあらへん。
ふう、ウチは同じ過ちを繰り返したりせーへんで。なんせちゃーんとした大人やからな。事前対策はばっちりしとったで。今思い出したわ。
「ええとな、スイカねーちゃん。カエルが落とす肝って何に使うん?」
「スイカ……? カエルってポイズントードのこと? あの肝を使って解毒剤ができるんだよ。でもね~、危ないから近づいちゃダメだからね。舌に毒針があって、ちょっと触れるだけで大変なことになるんだから。それに、君ぐらいの大きさなら、そのまま丸のみにされちゃうよ」
「アッ、ハイ」
どうやこの交渉術。ちゃんとこのキモい肝が何に使うんかわかったやろ。
しかし、ねーちゃんはついでみたいに死亡フラグをばんばん言い出しよったけど、もうすでにすべて実戦で実践したあとなんや、これがな。確かに舌が巻きついた時にちょいとチクっとしたで。
あれ毒やったんやな。ウチ冗談で毒キノコ食ってもどもない言うてた気がしたけど、ホンマやったらしい。
まあ半分予想しとった。不死チートいうてんのに毒で死ぬわけないもんな。めっちゃ役に立つやん、このチート。
「ところで、ポーチの中探してたみたいだけど~、他にもなにかあるの?」
「いいや、なんもないで。絶対にカエルの肝とか入ったりしてへんで。ほな、ウチは先を急ぐから、さいならや。おおきにな」
ふう、助かったで。
もうちょっとでホームゲーム9回表の拙い守備が原因で逆転負けして、熱烈な縦縞ファンから強烈なおしおきを食らってまうところやった。ほんまグラウンドにゴミを投げ込むんは勘弁してほしいで。お掃除係の人からそのあと笑顔で「応援してます!」って言われるんが一番きついんや。
さてな、ケツカッチンがぎちぎちになってやばいもんが漏れそうやし、大ブーイングからさっさと逃げるように冒険者ギルドからはおさらばすんで。
それにしてもナイスアシストしてウチのエラーをカバーしてくれた、見知らぬ冒険者には感謝やな。
せやけど、どっかで聞いたことがあるような、ないような声やったな。
……うーん、たぶん、気のせいやんな?
そんでから、せこせこしてやってきたんは、今夜のお宿や。いうてまだ夜やあらへん、夕方や。
ウチが急いどったんはこのためや。はよせんとお得な宿が埋まってまうからな。
ほんでないとな、出張先の訪問先からまるで予定調和のようにな「今晩のお宿はお決まりどすか? なんやったらええ場所紹介しますよってに」って連れていかれた先が、おうたやおダンスにお接待までついてくる、超豪華なお座敷サービスつきの、ものすっごいお高い場所やねん。
まあたいてい向こうの会社持ちやけどな。そもそも貧乏人はそんな場所には案内されへん。イチゲンさんには大工仕事を紹介されるだけやで。
さて、宿に着いたら、最初にやるこというたら決まってるやろ。ウチのサービスシーンや。生まれたまんまの艶やかお色気姿でみんなを脳死させたるで。
ん? なんか単語を1個まちごうた気がするけど、まちごうてない気もする。たぶんおうてるやろ。
でもな、残念やったな、紳士諸君。
エッサで泊まった20マゲカのほんのちょっぴり豪華なお宿とちごて、ここの洗い場はなんと木の衝立で完全に覆われとる。だから残念やけど、今回は課金してもみられへん。ラジオ中継みたく音声解説で我慢するんやな。
ん? いくらしたんかやて? やっぱ気になるか~、しゃあないなあ。
なんと今回のお宿はな、1泊2食付きで30マゲカ、ちょっと奮発したで。といいたいとこやけどな、単にウノーミはエッサよりも物価が高いだけや。けど景気がええ証拠やし、ほんでほんのちょっぴり豪華っちゅうわけやな。言うて今回も、心の師匠、糸目行商人エドガーはんのオススメや。
しかもお湯も貰えるで。ただし別料金や。お宿に泊まったら君らが必ず購入しとる、カード式の有料チャンネルみたいやな。
いうてもウチは冷たい水で平気やから無駄金は使わんで。おいてあった木桶に水をためて前回と同じようにするだけやな。
ちゅうわけで、へーい、どん! すっぽんぽんや!
「うーん、このシュミーズは、なんや下半分が破れてなくなってもたせいで、見た目がかぼちゃぱんつみたいになっとるな。使えんことはないけど、せっかく予備あるしお片付けしとくか。ウチのムチムチ太腿をばっちりお見せして死人がでてしもても、責任取れへんしな」
ともかくこいつはざっと洗って、後で部屋ん中で乾かしてポーチの中に突っ込んどこ。このポーチはあくまで容量がわずかに増えとるだけで、このまま突っ込んだら乾燥しとる肝がワカメみたいに這い出てきよるからな。やっぱ小分け袋必須やで。
チュニックの予備は旅行用のリュックサックに入れるおやつ問題により諦めて持ってきてへんし、この後の食事のことも考えたらまるごと水洗いはでけへん。
まあ、シュミーズだけ着てっても幼女扱いされるだけで何の問題にもならんかもしれんけど、ウチの精神が耐えられへんなるやろから念のためや。
ちゅうわけで、この長袖チャイナドレスみたいな形状になってもたチュニックは、濡らした布つこうて拭くだけにしとくで。
「よし、こんなもんやな。あとは残った水を頭からばしゃーんと……」
ガチャっ。
あ、誰か入ってきたわ。
そうやねんな。鍵掛からへんねんなあ。
まあ女性専用車両やし、男性諸君は乗り込んだら白い目で見られるから、入って来たんは女の人か勇者のどっちかやろ。まあ勇者ごとき、ウチの魅惑ボディつこたらイチコロやから問題あらへん。
「あっ。……こんにちは。わたしも使わせてね」
「ええで、好きにし。元々ここは、みんなで一緒に使う場所やろ」
背後から若い女の人の声がしたで。残念やけど勇者ちゃうかったわ。
せやからウチは振り向いたりせんとそのまま続行や。
さて、勢いようバシャーンと……。
「ちょ、ちょっと、それ水でしょ! そんなの被ったら風邪ひいちゃうよ!」
なんやしらんけど、後ろから肩押さえられて強制的に止められてもたで。
ぐぬぬ。まったく動かんな。
「心配せんでも、どもないで。こんな程度で風邪ひくほどヤワな身体やないんや」
なんせウチには最強の不死チートがあるからな!
「もうっ! だめだからね。女の子なんだし、もっとお肌を大切にしないと。ちょっとそこに座って。お湯で拭いてあげるから」
「あかんって。ウチなんかにそんなもんつこたら。金をどぶに捨てるようなもんや」
さて、そこでウチは後ろを振り向いたわけや。
「あっ……」
「えっ?」
そこには美少女がおったんや。紛れもない美少女や。
ハネのまったくあらへん艶やか髪は、こんな異世界やいうのにまっすぐ肩の下まで伸びとる。ぱっちりおめんめはちょびっとうるうるで、驚いたからやろか、桜色した唇はすこーし開いとってこれがまた可愛らしい。ウチからしても思わず吸いつきとうなってまうで。これぞまさしく、全国の男子が欲してやまない、すっぴんでも美顔な美少女やで。
うーん、あかんな、ウチの壊滅的な語彙力では、君らに正確に伝えることは不可能や。まあ、あとは君らの想像で補っとき。
でな、ここまで言うたらな、もう気付いたやろ。
この可愛いおなごのつやつや髪は、いわゆるびしょびしょのカラスの羽みたいな色をしとる。
せやから、どっからどうみてもウチの同郷のお人や。
けど、どっからどうみてもウチとは違う人種や。
「……えっと、きみ、バスの中にいたよね?」
そんでもって、あの美少女や。
確か彼氏らしき男子に、サヤ、って呼ばれとったはずや。
「ひ、人違いとちゃうか? ちゃうで、まったくちゃうからな」
「ううん、絶対いたよ! だって、初等部の子がいるなあ、って思ってみてたもん!」
しょ、初等部? あれ? ウチの通う予定やった高校って、そんなんあったん?
いや、そんなことどうでもええ。なんとかこの場を切り抜けんと……。
「ともかく、お姉さんが拭いてあげるから。ほら、そこ座って! 大丈夫だからね。全部任せておけばいいから、安心して」
「せやから、ちゃうって……」
「いいから、いいから。ほら、よいしょっと」
なんちゅうことや。
ウチは美少女の華奢な細腕で軽々持ち上げられて、そのままひっくり返した桶に乗っけられてしもた。
ほんで一旦離れたんも束の間、美少女の魔の手が、お湯で濡らした布をもってウチに迫ってきよる。
そ、それだけはほんま、か、勘弁してくれんか。
な、なあ、頼むわ。
こ、これ以上は……さすがに……。
「さぁ、きれいにしましょうね!」
「こら、ちょっ、やめっ。……あんっ、そこは……」
あ、あかん、あかんて! へ、変な声が、漏れてまう。
こ、このままやと、テレビん前で死人が、でてまう!
「あっ、ああん……」
あああ、これ以上は、やめて、おくんなましぃ。
「あっはぁ、もぉ、らめぇ~‼」
「うう、ウチはもうお嫁にいけん。ぐすっ」
「なんか、ごめんね」
その後のことは言いたくもないし全部割愛して、ウチの部屋の中や。
ん? 肝心のシーンはどうしたって?
代わりにウチが堪能しといたったさかい、感謝するんやな。
まあでもしゃあない。君らにも、ちょっとぐらいサービスしたるわ。
この美少女は、毛玉ねーちゃんとシスターねーちゃんの、ちょうど中間や。
「で、なんでノコノコとウチの部屋についてきたんや? ウチがもし狼やったらどうするつもりなんや?」
「それはどうみてもありえないよね」
「せやな」
まあいいとこウチは子ネズミやしな。むしろネズミ退治用の毒入りチーズかもしれん。
「で、なんぞ相談でもあるんか? まあだいたいわかるけど、一応いうてみい」
「その前に、ほんとに同い年なんだよね?」
「まだ疑っとるんか。せやから高校の入学式に向かってたいうたやろ。制服のリボンもおんなじ水色やったやん」
「そっか。でも、みりんちゃん。だったら、もっとご飯食べないとだめだよ?」
「いうとくけど、ウチは人よりめっちゃ食べるで。その結果がこれや。で、ウチのことはどうでもええ。そろそろ本題に入ってくれんか、さやちゃんよ」
この美少女の名前は、代々木早耶らしい。聞いてもいいひんのに、自己紹介してきたで。ええトコの子や、どうみても。
まあウチは「みりん」としか名乗ってへん。あとフルネームの自己紹介はやめときって、言うといたで。せやしウチはもうこの子のことは「さや」としか認識しとらん。そうでないといつ何時ポロッと秘密を漏らしてしまうかわからんからな。
もちろん、ウチは大変口が堅いからな、あくまで保険みたいなもんや。
せやけど、誰もウチには他人に知られて困るようなことは話してくれへん。ウチに話してくれるんは、自分では言いたくないけどみんなには知られてほしいことばっかりやった。
こうやん? あいつはすべてオープンな男や。ガッコ中にあらゆる性癖が知られとった。
まあそんなこと、この美少女にはこれっぽちも関係あらへんで。
「ええとね、その、ちょっと言い難いんだけど」
あろえりーな。このまま夜食をしてまう話とか続くんやろか?
「ええと……」
「はっきりせえへんなあ。あ~、どうせあれやろ、彼氏んことやろ?」
女子の改まった話なんてだいたいこれしかあらへん。
「か、かれし!? う、ううん、まだそういう関係じゃっ!」
「さっさとやることやったほうがええで。まあ、ウチがつべこべ言うことやないから、とやかく言うつもりはないけどな」
なんでかしらんけど、昔からウチにはこういう相談が多いねん。たぶんな、ウチから相手に漏れることを少しは期待しとるんやろ。あと、ウチが無乳の安全パイってのもあるな。
ほら、ラブコメマンガでようあるやろ。おせっかいで八重歯のおなごがいろんな男女をくっつけとったら、実はくっつけようとしてた男がそのおなごに超惚れとって、なんでかしらんけど自分がその当事者になってもて慌ててまうやつや。
あれ? なんやめっちゃうまくいってしもてるやん。転移前にちょうど読んだやつやったし、これしか覚えてへんわ。
まあ、みんなのほうがよう知っとるやろ。なんでもええから、ドロドロえっちぃやつを自由に思い浮かべてくれたらええで。
せや、3はたいてい2で割り切れへん。これがあらゆるラブコメのお約束や。
でもな、異世界やとそんな厳しいルールは、いろんな人の都合であらへんことが多いけどな。特に君らの都合やで。需要が多種多様なんも考えもんやな。
「ほんで、いったい何悩んどるんや?」
ウチがもう1回念押しして聞いてみたら、ようやく話し始めてくれたで。
「その……あのね。わたし、全然あずくんの役に立ててなくって、それで……」
あずくん、な。正式名は川崎梓馬や。せんでもええのに他者紹介を勝手にしよったんや。せやからウチはこの子に自分の名前を教えとうないねん。
まあ、ウチの中では「あずま」って名前で処理されたで。恋するおなごの前でその相手を名前呼びすんのはご法度かもしれんけど、「あずくん」とさえ呼ばんかったらええやろ。乙女心はたぶんそんなもんや。どっちかゆうたら、そういうの気にして勘違いすんのは男の方やからな。
「役に立ててへんて言うけどな、魔法はどないしたんや?」
この子が選んどったスキルは「魔法の素養」や。みんなとちごて、ウチはちゃんと覚えとる。友達以上恋人未満のあずま君のほうは「聖剣」や。
2人ともテンプレ通りのお約束なもんを選んだわけやな。まあこの子の場合、あんまりそういうの詳しいないみたいやから、あずま君が全部決めとったけどな。
「あ、知ってるんだ」
「あんだけでかい声で騒いどったら、嫌でも聞こえてまうわ。言うとくけど、さやちゃんのことやないで」
「う、うん、そうだね。あはは……」
そういやクソ女神空間にいたときは日本に戻れんことでグズっとったけど、もうそのあたりは乗り越えた後みたいやな。
案外この子、ずぶとい精神をしとるかもしれん。心のうまい棒がちょっとしたことで折れてまうウチとはまったくちごてな。
「あのね、魔法なんだけどね。実はわたし、まだ1つしか使えないんだ」
「……なんとなくわかった気がするで。ウチが選ばんかったん、そのせいやからな」
そういや「魔法の素養」のチラシに書いとった、嘘ではないけど詐欺まがいのキャッチコピー、どんなんやったかな。
ええと、確か――。
『さぁ、あなたが今から転移するその先は、なんと剣と魔法の世界! そう魔法! みんな魔法、使いたいですよね。ちっちゃなころからの憧れですよね、リリカルな魔法少女にカモネギな魔法先生! そんなあなたにおすすめなのがこのスキル。これがあれば、なんとあなたも魔法が使えるようになっちゃうんです! 異世界生活のQOL爆上げ間違いなし! 就職先には絶対困りませんよ。さあ共に学んで、あなたの成長を、喜びに変えましょう!』
なんや最後のほうだけ、ウチもちょっとばかしお世話になったことのある資格スクールみたいになっとるな。金払うた以上、みんながんばらなあかんおもうて、ほんで合格率が高いまま維持できんねん。たぶんな。
「けど、ウチとちごて、さやちゃんは勉強できるやろ? もうこっちの言葉、読み書きぐらいできるようになっとってもおかしない」
「あ、うん、簡単な文章ぐらいなら……英語と似てたし」
「せやろ。せやのに問題があるんか? すまんけど、ウチは魔法のことはさっぱりなんや」
さやちゃんはやっぱりよう勉強できよる。完璧美少女やな。
文字だけで四苦八苦しとるようなウチとはまるでちゃう。せやいうてもな、別に恨めしいとかおもわへんで。そりゃ羨ましい思うけど、できる人はできるで問題あらへん。
「そうだね、ええとね……」
で、ウチは簡単にこの世界の魔法について教えてもらうで。言うてもさやちゃんも全部わかってるわけやない。あくまで冒険者ギルドで聞いた話をまとめただけやって前置きはしとった。
「魔法を覚えるには魔導書が必要でね。1つだけは最初から覚えてるんだけど……」
さやちゃんの冒険者ジョブは、ホワイトマジシャン。要するに回復魔法とか防御魔法とかを使う、派手やないほうの魔法使いや。
んで、最初の魔法っていうのが、「ヒール」っちゅういわゆる回復魔法やな。ちょっとした怪我を治すやつや。
でも、これは人によっては別の魔法のこともあるらしい。さやちゃんがたまたまこれになったいうことやな。
「魔導書なあ。どうせ高いんやろ。この世界、紙は貴重やろし」
ウチが今まで見たことあるんは、魔法紙っていわれとる冒険者ギルドの登録につかったあれとか、シスターねーちゃんがみんなに見せつけとった羊皮紙とかや。
ちなみに、このまえ楊貴妃とまちごうとった羊皮紙っちゅう単語は、あのあと思い出したで。
「うん……魔導書は安くても千マゲカはするんだって」
「ほら高いなあ、っておもうけどな。けど、貴重なモンやったら、そんなもんやろ」
まあ安うても、っちゅうのは、天井知らずってことかもしれん。
どうでもええかもしれんけど、ウチが行商で魔導書を扱うことはあらへんで。おそらくな。
なんでやって? 高すぎるからや。理由はいろいろあるけど、とりあえずいまは関係あらへんし、詳しい話はまた今度な。
「そうだね。でも問題はね、魔導書は古代語って言う別の言葉で書かれていて、文字から違うってことなんだ」
「ほら、難儀やなあ。そっちはそっちで勉強しなあかんのか」
「うん、勉強は、別に構わないんだけど……」
ほんま凄い子やなあ。
「けど、なんや?」
「簡単な辞書みたいなのを買うのにね、1万マゲカ必要なんだ」
なんとなく、これで話がやっと見えてきたで。
とりあえずこの子が、うっかり女神兵衛から1万マゲカをちゃんと受け取っとるとしてや。古代語を学ぶにはその全額が必要で、さらに魔導書にも金がかかる。
で、そこにさらに毎日の生活費もかかる。衣食住や。
衣に関してはな。この子はウチと同じようなチュニックの大人版を着とるし、さっき洗い場で、大人用のはみ出さへんシュミーズも着とったんをウチは見たで。
当たり前や。入学式初日に体操服とか持っていくわけないやろ。つまり制服以外の着るモンは下着も含めて持ち込んでないねん。ご禁制の学生カバンをたとえ持って来てたとしてもな。
で、残っとるんは、食と住やな。
うーん、もしかして……。
「なあ、さやちゃん。ウチの勘違いかもしれんけど、もしかして最初はこの宿とちごたんちゃうか?」
「みりんちゃん、よくわかるね。うん、最初はね、あずくんがもっといいところにしようって決めたんだ。でもそのうちね、このままじゃまずいって思うようになって、それでここに変えたんだよ」
あずま君な。考えはわかるで。自分のためというよりさやちゃんのためやろ。
そういやあいつ、選んどったチートスキルはどうしたんや?
「あずま君の聖剣はどうしたんや。あれがあれば、それなりに稼げるやろ」
ウチはそう言いながらな、なんとなく予想できたで。
他人のことやけど、ウチはとっても嫌な予感がしとる。
あの聖剣のキャッチコピーは、スパスパ切れる包丁のコマーシャルみたいやったけど、言うてみたらそれだけや。内容自体はそこまで悪いとは思わん。
けどな、あのド天然女神のことや。そんなもん信用したらあかんねん。
「それがね……STR制限ってのがあってね……」
……。
どうやらな、聖剣はアメリカンサイズな剣らしい。ステータス画面で見た、おそらく腕の太さを表しとるSTRの値が、50以上ないとそもそも装備でけへんのやと。
ちなみにウチのSTRが1やったんは、みんな覚えてるやろ。そういやあの値の基準みたいなん、誰かに聞こう思て忘れとった。
「あずくんのSTRは42あってね、だからあともう少しなんだけど。でも、あずくんが言うにはね、もっと強い敵を倒さないと、経験値がもらえないんだって。それでね、経験値がもらえないとSTRもあがらないって言うんだ」
これはあれやな、死のスパガーデンみたいなことになっとるな。温泉がかけ流し式やない場合は、ちゃんと消毒やらろ過やらせんとあかんねん。
ウチはこんときやっと、冒険者ギルドでウチをナイスアシストしてくれたんが、さやちゃんとあずま君の2人やったって気付いたで。
つまりな、聖剣を使うためには経験値がいる。せやけど東の森には毒持ちのカエルがいる。解毒のためには魔法がいる。魔法を覚えるには大金がかかる。大金を稼ぐには聖剣がないと無理。
っちゅうわけや。
この子、ええトコの子やおもてたけど、たぶんちゃうな。どっちかいうたら貧乏性で有名なウチに似とるかもしれん。
見た目はまったくちゃうけどな。
「なあ、さやちゃん。もしかして大家族やったりするか?」
「うん、よくわかったね。弟が3人に、妹が2人いるよ」
そうか、そうか。
なんちゅうええ子や。しかも長女でおかん気質やな。だからウチのこと見かねて洗いだしたんやな。
ほんま、あずま君にはもったいないで。あずま君といえば、女神像の前で思い出しとったマンガにおった、アホな女神を掻っ攫っていったクズな主人公君の名前に似とるな。
これはやばいな。なんちゅうか、さやちゃんのことがめっちゃ心配になってきたで。
「で、問題はカエルなんやな?」
「そうなんだ。あの毒がやっかいでね。解毒薬も材料がないみたいでなかなか売ってなくて」
「解毒薬なあ……ん?」
「どうかしたの?」
ん~? なんかウチ大切なこと思い出せそうな気がすんで。
確か、ウチ冒険者ギルドでスイカップねーちゃんから聞いたような……。
……あ!
「あ~、もしかしたらやけどな、その解毒薬な、もう少ししたら薬屋さんで売り出すかもしれへんで」
「そうなの? どうして?」
「あ~、うん、知り合いの行商人からそう聞いただけや。た、ただの噂や」
つまり、これも同じことやったわ。
カエルを倒すにはカエルの毒対策が必要でな、カエルの毒を治すんにはカエルの肝が必要やし、カエルの肝を手に入れるんにはなんとカエルを倒す必要があるねん。
すべてはカエルのおる井戸を映したビデオテープを、最初にみたやつが悪いっちゅうこっちゃ。
「まあ、それはおいとくとしてや。確かにおっきな買いモンは勇気がいる思うで。でもな、初期投資やおもて、買うしかあらへん。魔法っちゅうんは、さやちゃんがこの世界で生きてくための生命線なんや。最初に金がえらいかかってもな、その分だけちゃーんと後で稼げるやろ。それにたぶんやけどな、早めにいろんな魔法使えるようなっとかんと、後悔することにもなるで」
「えっと、それはどういうこと……?」
これは別にウチが言わんでも、この子のことや、たぶん自分でそのうち気付くやろとは思う。ただやっぱな、異世界に関する知識が足りてへん。
まあいうて、ウチのそれはマンガ読み漁った結果やけど。でも元の世界でもある程度通じる話や。
「よーするに、さやちゃんの未来の旦那がスーパーピンチになったときにな、『あの魔法さえあれば』なんてそんとき言うたとしても、いまさら手遅れってことや」
「……‼」
「今でも最低限は稼げてるんやろ? 絶対に役立つんはわかってるんや。自分の金の使いどころやで。まあ、今はちょっとばかし金が足りんかもしれんけど、頭の片隅にいれといたらええで」
「……うん、わかった。ありがと、みりんちゃん」
んで、このあと、もうちょっとだけ色々ピロートークをして、ウチの部屋からさやちゃんは出てったで。
ただな、さやちゃんには敢えて言わんかったんやけど、ウチは1つ気付いたことがあんねん。
またもや、あのクソ女神のやらかしや。いうても正直、ウチの勝手な推測も混じっとるけど。
あいつがウチに配布忘れよった1万マゲカの詫び金のことや。
ウチは思ったねん。
もしかしたらこの金額、昔から変わってへんのちゃうか、って。
あいつの口振りやと、どうもな、異世界転移ってのはウチらが最初のグループってわけちゃうらしい、っての覚えとるか?
ほんでな、エッサの街と本日滞在中のウノーミを比べたらな、ウノーミのほうが、若干物価が高いんやって言うてたやんか。つまりな、当たり前やけど場所によって物価がちゃうってことや。
でもな、物価ってのはな、場所以外にも影響されよる。いろいろあるけどな、今回注目せなあかんのは、時間や。
つまりもしかすると古代語の辞書は、昔はもっと安うてな、例えば今の半額で5千マゲカぐらいやったかもしれん。そう考えたらな、当時の転移者が1万マゲカもろて魔法の勉強のためにその半分を使う、っちゅうんやったら、割と現実的やろ?
けど今は、1万マゲカ、つまり自己資金の全額が必要や。つまり準備金が不足しとるねん。これはあのクソ女神がこの世界の物価に無頓着なせいなんちゃうやろか、とウチは思うたわけや。可能性は高いで。
せや言うてもな、あとはさやちゃん自身の問題やな。あずま君っていう金の成る木がせっかくおるんやから、それ逃さん限りどうとでもなるやろ。
女は怖いで。気ぃつけるんやな。
ところでな、そんなことよりみんなに秘密の話があるねん。
これはホンマに誰にも聞かせられへん。だから誰にも言うたらあかん。ウチと君らの約束や。ええな?
実はな、さやちゃんとあずま君は、ウチのおる部屋の隣に、なんと一緒に泊まっとる。
な、わかるやろ?
今日はな、壁にミミアリーを実践するで。
カード買わんでも、もしかしたら有料チャンネルの音声だけが聞こえるかもしれん。
どうや、俄然やる気になって来たやろ!
な、みんな、今夜は一緒に楽しもうや! な?