ウチ、ただの行商人やで? 〜異世界転移した関西弁女子はチートスキルに物申したい〜 作:霧島 高
今日は野球の話をするで。
あ、もしかしたら君ら勘違いしてるかもしれんけど、野球っちゅうんはな、決して釘刺したバットで殴り合いするデスゲームとはちゃうからな。そういうんは200年ぐらい経った後のアメリカで、ブルーな服を着た人が可愛いワンコと一緒に旅しとる、ほんわかゆったり世界の4つ目だけに間違って伝わってもてる平和なスポーツや。
まあそんぐらいはわかってるやろ。一応念のためや。もしかしたら間違ったほうの野球の話やと勘違いされたらかなわんからな。
せやからこれはな、大多数の日本人が大阪にあると勘違いしとるんやけど、実はその隣の県にある猛虎の本拠地球場でな、日々熱戦と罵り合いが繰り広げられとる普通の野球の話や。
せやけどな、我らの球場は、夏場んなると全国から押し寄せてくる高校生たちに無理やり奪われてもて、地獄の敵地巡礼が始まってまうで。でも最近は近場にドームができたさかい、そこで快適に暮らしとる猛牛さんを追い出して使わしてもらうようになったから、助かっとるけどな。追い出されてしもたシカみたいな牛さんが、どこにいってまうかはしらんで。
パ・リーグのことはようわからんねん。ちなみにそのドーム球場は、セ・パ交流戦の時に虎さんがお邪魔すると、三塁側はもちろん一塁側までところどころ黄色うなってまうことで有名やで。
すまんな、いつもどおり前置きが短くて物足りひんやろけど、本題に入るで。
ホンモノのほうの野球は普通、9回が最終回や。ただし高校野球やとな、大量得点差がつくと、5回とか7回とかで終わってまう。これをコールドゲームっていうで。
芸人が渾身のギャグかましたんやけどダダ滑りしよった時みたいに、会場がさむうなってまうからやと思うで。そんときは、しゃあないから全裸になったりすると大ウケするけど、海外でやると捕まってもうたりするから真似はせえへんほうがええ。それがこの世で許されるんは一人だけや。おやつの10分前さんや。
せやけど、プロ野球にコールドゲームはあらへん。まあ、途中で大雨とか降ってもてどうしょうもあらへんって場合を除いてやけどな。
せやから、たとえ何十点と差がつこうとな、9回までは何が何でもやらなあかん。ただし、その時点で観客席はがらがらや。もしくは「金返せ!」って借金取りみたいにみんな騒いどるで。
けどな、諦めたらあかん。たとえ0対9で赤ヘル軍団に負けとってもな、6回に7点取って終わってみれば12対9で大逆転勝利したこともあるねん。虎さんの本拠地で起きた、わりと最近の話やで。
でも、その年のセ・リーグ優勝タイトルは、その鯉さんチームに持ってかれてしもたんや。縦縞チームは2位に終わってもて、惜しくもタイトルを逃してしもた。タイトルやで。もういっぺんいうで、タイトルやで。タイトルに注目やで。
さて、プロ野球のテレビ中継見とるとな、たいてい9回が始まる前に、その日のハイライトっちゅうんが流れるねん。主にそのテレビ局がスポンサーやったり親会社やったりするチームのな、ファインプレーのシーンとか、ホームラン打ったシーンとかやな。たとえ負けてたとしても、まるで勝ってるかのように放送するで。
せやから今からハイライト流すしな。
まあハイライトやさかい、真剣に聞く必要はないで。たぶんみんなもう知っとる話やからな。
さあ、ここで本日のハイライト、見てみましょう! あっ、テレビ中継のアナウンサーはみんな標準語なんやで。ウチには無理やな。
ええとやな。確か、領都ウノーミを出たウチは、そのまま石畳で出来とる立派な街道を南下しとったはずや。街道に沿ってくだけで、半日あればエッサにつくからな。
そういやはっきり理由は覚えてへんのやけど、ウノーミの冒険者ギルドでな、なんや、だんじり祭りみたいなんの準備が行われとったで。まあ、怪我でもしたらイヤやったし、ウチはそそくさと退避したんやけどな。
で、もちろん、ウチはな、ちゃんと覚えとったんやけどな。大事なことやし2回言うけど、ちゃんと覚えとったで。
街道を進んで橋のところまできたんやけど、なんと、まだ橋の修理が終わってなかったねん。そりゃそうやわな。腕のふっとい監督のおっちゃんが修理に1週間以上かかる言うてたんやから、あれから2日しか経っとらんのに直っとるわけないわな。
せやからな、そのことをあらかじめしっかりと把握しとったウチは、そこからほんのちょいとばかし引き返して、それなりの時間経ってから分かれ道まで戻ったわけや。そっから東に向かう小道をいったで。それは森へ向かっていってな、本来やったらウチはウノーミに行く途中ですでに通ったはずなんやけど、イノシシタクシーつこうたから初めて行く道やったねんな。
で、ウチはその小道をぶらぶら歩いていると、とある2人組の冒険者がウチの前を歩いとることに、すぐに気付いたわけや。あずさやペアっちゅう、付き合っとるんか付き合ってへんのかが、どうしても気になってまう男女ペアや。華麗なダンスは見せてくれへんけど、男子のほうは華麗なスルーが得意技やで。
そのまま、ウチは当然コソコソと2人をストーキングや。いつ青空の下で、勢い余ってぶっちゅうするんかなって、期待しながらな。
まあ冗談や。行き先が同じやっただけや。
ちょいぱいエルフの薬屋さんでフレッシュなキュアポーションを手に入れて、ほんで念願の毒カエル退治に行くんやろ、って思ったで。あずま君は、はよう強なって聖剣ぶん回して、ついに手に入れた金をさやちゃんに奪われるように貢ぐんやからな。わかってるやろな。
さて、森や。モンスター除けの魔道具は設置されてへんで。
っちゅうわけでもないんやな、これが。ところどころに仕掛けられとるらしいわ。冒険者の拠点になったり、ウチみたいな行商人やらが逃げ込める安全地帯やな。赤い扉があったりはせーへん。大量に走りながら群がってくるゾンビから逃げるための、定員4人の小屋みたいなんとはちゃうで。
ただ石碑みたいな目印が置いとるだけの広場や。セーフティゾーンとかいうらしいで。健全なマンガしか置いてへんような、つまらん場所みたいな名前やな。
で、二人は最初のセーフティゾーンで、モンスターを狩るための準備を始めとった。
せやけどウチはな、あずま君と関わるとなんやめんどくさいトラブルが起きそうやったからな、巻き込まれへんようにちょっとだけ遠回りしたねん。
「おっ?」
……ほんなら、カエルの舌が巻き付いてきて、そのままぱくっとされたで。予想通りな。
「ええっ!?」
せやけど、なんやさやちゃんの驚きの声が、聞こえた気がしたで。まあええやろ。
「おりゃっ!」
ぶっすー!
でもな、あらかじめ構えとったウサギ角を突き刺せばイチコロや。キラキラになって肝が落ちよった。いわゆるRPGではお約束の、HPってやつがあんまあらへんってことやな。せやから毒の先制攻撃が怖いだけなんやろ、たぶん。
「どうしたの、さや?」
「……ううん、なんでもないよ」
どうやら決定的なその瞬間を、あずま君は目撃ドキュンでけへんかったらしい。
せやからな、ウチは二人に気付いてないフリしつつ、何事もないふうを装って、そのままてくてく歩いてったで。
おそらくきっとやけどな。さやちゃんはウチがあらかじめキュアポーションを飲んどったと思たに違いあらへん。あのメロン味のチューチューは、解毒作用だけやのうて、しばらく予防作用もあるっちゅう二度おいしいもんらしいわ。
ちなみに実際にはメロン味はせーへん無味らしいけど、元の世界のチューチューも、実際には色がちゃうだけでメロン味はせーへんからそこは一緒やな。当然、ホンマは飲んでへんから比較したわけちゃうけど。
そんなこんなでな、おっきなカエルを何匹か倒しつつ、何の効果もない吊り橋渡って、あとは何事ものう進んだってわけやで。
っちゅうのが本日の試合のハイライトや。9回がこのまま終わってしまうんか、はたまた逆転劇が待っとるんかは、誰にもわからへん。
あ、ちなみにウチは高校生やしな。高校野球の場合は9回で決着できひんかったら最大18回まであるし、そこで引き分けやったら再試合もあるからな。神の河とかいうお酒に似とる別名もっとる不思議ちゃんと、白くて可愛いらしいパンツみたいな布をもった王子様が対決しとったやつとか有名やで。
で、もうしつこいかもしらんけど、タイトルの中でも個人タイトルっちゅうのがあってな、こっちは数字がとても大事や。打者やったら、打率、打点、ホームラン数、盗塁数とかな。投手やったら、セーブ数にホールド数、防御率。
それになんといっても、何勝したかや。ここが重要や。
勝の数やで。読み方はわかるか? 「かち」やのうて「しょう」やで。
何が言いたいか、わかったか?
つまりな、9回やからって、ほんで終わりってわけやないんや。
ちなみに最近はこれが続いてしもて、いつまでも終わらんなってまうことを、エタるっていうらしいで。ネットは広大らしゅうてな、とある界隈ではそんな話ばっかりで溢れとるらしいねん。
なんでやろな。いつもパチンコ屋におるおっさんみたいにやめ時がわからんようなってるんかな。やめ時わからんようなってるんは、ロボット掃除機みたいに毎日同じことしかできんように、知らんうちに脳味噌を改造されてもたんかな。
ところでエタるのエタってどういう意味やろな。
いちごのヘタのことかいな? たしかにあれはいつもきれいに取れへんから残るし、めんどうなってそのまま食べるもんな。みんなそうやんな? ウチだけちゃうやんな?
「エッサよ! ウチは帰ってきたで!」
ばばーん、とウチは宣言したで。外門でな。
「お嬢ちゃん、どこいってたんだい? 迷子になってるんじゃないかって心配してたよ」
「あれ? 南門にいた衛兵のにーちゃん、東門に変わったん?」
「今日は休みの予定だったんだけど、代理でね。風邪が流行ってるみたいなんだよね。君も気を付けなよ」
「おおきに、にーちゃん。でもウチはどうもないで。昔っから風邪なんてひいたことないからな。あと迷子ちゃうで。大人やからな」
というわけで、朝早めに出発したはずやのに、誰のせいか知らんけどいろいろあって昼をだいぶ過ぎてしもた中、お日様に向かって歩くで。目指すんは西地区、冒険者ギルドや。手紙届けなあかんからな。
それにしても、風邪なあ。兵士さんの中で流行るとかあるんやなあ。体鍛えてる人でもかかるときはかかるし、しゃーないな。冬にインフルとか流行ると学級閉鎖になって、外出は控えて家で勉強しろとか言われんねんな。
せやからウチはちゃんと言いつけ守って、ベッドに大人しゅう寝転んで、ためになる本を読んどったで。
もちろん、みんなもおんなじことしとったやろ?
せやけどな、ウチの場合は、ひと味ちゃうんやな。
なんせな、寝転んでたんは幼馴染のこうやんのベッドやし、読んどったのは将来絶対ためになるえっちいマンガや。
もちろん素っ裸やった。布団に潜り込んでたら充分暖かいやろ。むしろあつーなってもて、そのまんま部屋から出てな、リビングにおったこうやんのかーちゃんに断ってから、冷凍庫からガリガリくんを出すねん。で、そこにおいてあったコタツに入ってガリガリ君食べてたら、そのままコタツの中に潜り込んで寝てもてる。
そんでしばらくしたらコタツに入ってきたこうやんの足がな、ちょうどいいところに触れてもて、ウチが「あっはぁん」って声を出して起きてまうわけやな。こうやんのかーちゃんがずっこけるで。
そんなことしてたってウチは風邪ひかん。別に不死チートなんかあらへんでも風邪なんかひかんねん。
あれ? 不死チートって病気も防げるんやろか?
そもそも、兵士さんの間で病気が流行っとるいうとったけど、そんなんポーションとか魔法で治せへんのやろか?
えーと、確か、マンガやゲームとかやと、状態異常とかは、教会にたっかい寄付金納めたら治してくれたはずや。でも蘇生はなんやしらんけどよく失敗して、ご遺体がゴボウ煮込んだ時にぎょうさん出てくる灰汁みたいなんになってもて、すくいとるんが難しいからか知らんけど、そっから生き返らすんにはさらに追加でドン! ってなってもて10倍の値段やねんな。残念やけど、お鍋のまんまカレーみたく美味しゅうなるまで寝かすことしかできなくなるし、そのまんま忘れ去られる運命が待っとるねん。
ん~? まあええか。そのうち誰かにきいてみよ。
さて、ようやく冒険者ギルドについたわ。
んで、もちろん、扉を開けるんやったら、やらなあかんことがある。
さあ、いくで!
「ただいま! おかえりなさい! ありが――」
「やあ、おかえり」
「なんでやねーん!」
ずこー!
「大丈夫かい、ミリンさん?」
まったく、体が反応して勝手にずっこけてもうたやないか。
ウチはぱっぱと服についたホコリを払いながら、さっと立ち上がるで。
「ウチの一人芝居をじゃませんといてくれるか。いや、そうやない。なんでギルドの扉開けたら、ギルマスが立っとんねん」
「ん~? 暇だから?」
「その疑問形はいったいなんや。まあええけど。ほんで、ウチになんか用かいな?」
「いいや、別になにもないよ。単に城門の前でちっちゃな女の子が大きな声で叫んでた、ってのを聞いて、もしかしたらって思って待ってただけだから」
ウチ、なんか叫んでたかな。記憶にないで。やばいもん搭載したロボットとか盗んだ覚えもないし、主人公の恋人をNTRした覚えもないしな。エッサの街の、ソトモンに帰って来ただけやしな。
「ほら、受付、今なら空いてるよ。早く行っておいで。お茶用意して待ってるから」
「そうでっか。ほな、行ってくるわ」
しっかし、なんでギルマスがウチのこと待ち構えとったんやろか。
あ、待って。なんかお茶用意してるとかいって、返事待たんとどっか行ってもたで。
え? これ、バッドエンドに繋がる強制イベントか? どうやっても助けることができひんヒロインっぽい花売り少女とやのうて、大きなぱいぱいのすぐ手が出てまう暴力的な姉さん女房としか結ばれへんなってまうとかそういうやつか?
エスケプしたほうがええか?
……いかんとまずいやろなあ。まあええ、せっかくやしついでに今まで放置してた疑問とかきいてみたろ。
「ほんで、ウチに茶ぁしばかして、一体何を要求するつもりなんや。言うとくけど、ウチは大して払えるモンあらへんで。このちっこい身体みたらわかるやろ?」
ギルドマスターのお部屋のソファに座らされたウチは、おかんよりこわいおしおきタイムがいつ始まるんかとわくわくしとったで。ウチのおかんよりこわいもんなんて、そうそうあらへんからな。
「いやあ、本当にミリンさんとお話がしたかっただけなんだけどね。しばらく会ってなかったし」
ほんでギルドマスターがにっこりしながらお茶啜ってんで。その笑顔は怖すぎるわ。いや、でも、イケオジのニヒルな笑顔ってやっぱりええな。しかも銀髪で割と上等な服きとるし、これはもう……。
はっ! あかん、あかんで。勘違いしてもて惚れてまうやろ。
「その笑顔は禁止や」
「どうしてだい?」
ともかくや。さっき手紙を無事ギルドの受付に届けたんやけど、そこでも「ギルドマスターがお待ちです」って念を押されてしもた。せやからウチはしぶしぶ、カッコええギルドマスターと、1対1のお茶会をルンルン気分で楽しむためにやってきたで。
あ、そういえば。
「なあ、ヴィンセントはん」
「なんだい?」
「いつもおる、毛……おっぱいの大きい受付のねーちゃんおらんかったけど、今日は休みなん? 冒険者のみんなが残念そうにしとったで」
せやねんなあ。そのせいかしらんけど、受付に並んどる人が少なかったんよな。今日おったんは、鋭そうな目つきのおねーさんやった。けどな、おかんより怖かったし、いつものあのサイズは計測してへん。君ら、今度こっそり測っといてな。
「ん? ああ、彼女かい。朝はいたんだけど、体調が悪いみたいで午後からお休みだよ」
なるほどな。たぶん、あれやな。
日本で一番有名な遊園地のある県が本拠地の球団で、2026年から監督やっとる人と同じ名前の人が、どら焼きみたいな被りもんしてCMやっとる、大阪土産におすすめの饅頭を食べ過ぎたらなる病気やな。あれ食べるとな、こけしみたいなん持ちながらポーズを取って「プリズムパワー! メイクアップ!」とかいうて全裸になって着替えてから、おしおきとかしたくなるねんな。
なんてな。ウチも女子や。ガッコのプールの日にお休みせなあかんなるそいつのことは、ちゃんとわかっとる。
ただ、その、な。こういうんてほら、やっぱ話題にすんのって難しいねん。黒の組織の構成員の妹に騙されて毒物飲まされて
そんな感じでマンガとかやと、ものすっごう避けられてるねん。ウチと同じ汚物扱いされてるからかしらんけどな。
うーん、こんなウチでも、やっぱ迷うなあ。せやしストレートに言うんはやめとくわ。最近ロサンゼルスあたりで大流行のスイーパーのように言うで。
そいつはな、この世界に来る直前にな、ウチがどうしても気になってしもうてヌードルみたいな名前のサイトで検索したら、勝手にAIが調べてしまいよったところによるとや。10歳から14歳が平均的なんやけど、遅いと17歳まで始まらへんらしいねん。
ほんで、うちは15歳のな「見た目は幼女! 頭脳はエロガキ! その名は行商人みりん!」やねん。
学生カバンの中には、ちゃんとその時に備えていろんなグッズを準備しとったで。おやつのカスまみれになってたけどな。
ちなみに、それを理由にしてプールの授業を休んだことはないで。これで察してくれたか?
あ、学生カバンないんやったら、念のためその時に備えてそういうのウサギポーチにいれとかなあかんな。まあいうてこっちの世界やしな、たぶん布みたいなもんを当てとくぐらいしかできひんやろ。あ、でもな。今夜は一緒に過ごしてあわよくばこのまま、って勢い込んでやってきた男に「今日はだめな日なの、ごめん!」って言って残念がらせるためにあるクリスマス前夜、みたいな名前の頭痛生理痛に効く薬はあるかな。
今度、たぶん長生きしてる分だけ経験豊富やろし、ちょいぱいエルフさんとこで聞いてみよ。けど、ほんま、いつ始まるんやろな?
……あれ? 不死チートもってるウチって、そういう痛いのとかちゃんとなるんやろか? ウサギ角刺さった時は痛かったけどな。せやけど、あれ、ホンマに痛かったんかな。なんか痛い気がしただけで、気のせいやったりしてな。まさかな~。
「ああ、それじゃなくてね、風邪みたいなんだよね。2日前ぐらいから、街で流行り出したみたいなんだよねえ」
「なんや、そうやったんか。いや、そのほうがあかんような気もすんな」
……あれ? ウチ、またなんかいろいろ考えてたこと口走っとったかな?
せや。思い出したで。せっかくやし聞いてみよ。
「なあ、ヴィンセントはん。この
藪蛇なったらかなんし、ウチはいつもどおり、ウチが異
「そうだね。病気と状態異常は違うものだからね。病気はポーションじゃ治らないよ」
「そんなら、病気なったらどうしたらええん?」
「普通のお薬で治すよ。薬屋さんにいったら貰えるね。でも、ちょっとした風邪ぐらいなら、おとなしく寝ておくのが一番だけどね」
その辺はあっちの世界と一緒なんやな。そういや、確かにこのエッサの街にはエルフさんとこみたいな店はあらへんのに、薬草集めの依頼が出とったもんな。
ん? まってや。もしかしてあっこは薬屋さんとちごて、ポーション屋さんって言うた方が正しいんやろか。ちょいぱいさんとこにはポーションしか置いてへんかった気がするで。
ねるへそ、薬屋さんとポーション屋さんは別もん、ウチ、覚えたで。
「ほんならな、怪我とか骨折とかはどうすんの?」
まあ不死チートなウチには関係ないけど、ついでに聞くで。いや、実はこれな、前から聞きたかったねん。だいたい予想はしとるから、ほぼ確認やけどな。
「ちゃんと食べてから、だいたい寝れば治るよ」
へ? 寝る?
「……お腹に穴が開いてまうような、めっちゃひどい怪我でも治るん?」
「そうだね。死んでなければ、だけどね。腕が無くなっても再生するよ。時間かかるから、普通はすぐにポーション使うけどね。ずっと痛いのイヤでしょ?」
まじ?
ほんま?
ほんまかな?
うーん、ほんまなんやろな。
なんかこうゲームみたいやな。
まあ、モンスターもキラキラして消えるしな。
寝るんは馬小屋でもええんやろか? まあ常識的に考えて宿の店主さんが許可せえへんやろけど。あと馬にも蹴っ飛ばされて追い出されるやろけどな。
ええと、まとめるとこういうことや。
病気は、普通の薬飲んでからの食っちゃ寝で治す。
モンスターとかがしてきよる状態異常は、キュアポーションか魔法で治す。
怪我は、寝るかヒールポーションやな。あ、さやちゃんが今んとこ唯一使える魔法でもいけるはずや。
「あと、教会に行けば魔法で治してもらえるよ。割と高い費用とられるけど。でも病気は無理だね」
ほうほう。そいつが一番聞きたかったねん。骨折が寝たら治るんは予想外やったけど、ウサギ倒してた時にウチも骨折勝手に治ってたしな。不死チートって、実はものすっごい回復能力で誤魔化してるってことなんかもしれんな。
まあ、それはなんでもええ。肝心なんはそのことちゃうからな。
「おおきに。だいたいわかったで」
「そっか。じゃあ私も質問、していいかな?」
「ええで、なんでもきいてや」
もちろんウチは、たとえ自分の知りたかったこと教えてもろたことに満足したいうてもな、蓋開けて放置した炭酸ジュースみたいなことには絶対ならへんで。
「ふふっ、じゃあお言葉に甘えるね」
ヴィンセントはんがにっこり微笑んだで。
ほわぁ。やっぱええなあ。イケオジスマイル。ほんま、惚れたらあかんかなあ? ウチが勝手に惚れる分には誰も迷惑せえへんよなあ?
「ねえ、ミリンさん。『世界』ってどういう意味かな?」
……あ。
ああああああ。
やってもた。やってもたで。
せやから、普段から口には気ぃ付けろって、自分で自分に言うとったねん。無理やけどな。このお口は勝手に喋りよるんや。
……。
でもな、ウチはそのあとちょろっと聞いたで。
そもそも最初からヴィンセントはんは気付いとったんや。しかもな、よう聞いたらな、ウチのせいちゃうかったねん。
原因はなんやったんかやて?
あんな、覚えとるか? あのやらかしスーツのおっさんや。「僕は異世界からやってきた、特別な存在なんだ!」とか、ギルドの登録んときにのたまわとったらしいで。
ウチはあのスーツおっさんに調味料をふりかける依頼を受けたときにな、ヴィンセントはんに「同郷の人でしょ?」って聞かれたんはちゃんと否定したはずや。せやのに、なんでバレたんや。上手に笑って誤魔化したはずや。
ほんで、銀髪のイケオジは最後にもういっぺんにっこり笑って。
「ふふっ、そういうわけだから、これからもよろしくね。何か困ったことがあったらいつでも相談に乗るからね」
なんて言うてきたで。最も困ってるんは目の前の人のことやったけど、そんなもん相談できひんわ。
「いつでもお茶用意して待ってるからね」
そんなふうに見送られて、ウチは冒険者ギルドから退散することになったわけや。
と、とりあえず、今んとこギルマスにしかバレてへん。それにバレたんは異世界転移のことだけで、ウチの生命線である、大事な不死チートのことはバレてへん。
それにウチのヴィンセントはんは、きっとそういうんを言いふらす人やない。このまま良いご縁を築いていけば、きっと実を結んでゴールインできるはずや。
待って。なんか変なこと言うたで。どこにゴールインするつもりやねん。サッカーゴールか? みんなに思いっきり蹴られまくって、最後はゴールネット突き破って、翼を授けられて大空の彼方へ飛んでいくんか?
さすがに宇宙で生きていくんは、不死チートあっても無理ちゃうやろか? その前にこの世界は丸いんか?
待ってや。そういや、それを確認する方法はこうやんから聞いたことあるで。
確か……「遠くを見てな、それがみりんの胸みたいにまっ平らやったら丸いんは間違いないで。これをちいぱい線っていうんや」っていうとった。せやから、丸いはずや。おかしいな、なんで丸いはずやのにウチの身体は平らなんや?
「……もうええ。気を取りなおそ。せやけど、もう今日はなんもやる気おきひんわ。エミリちゃんとこ帰ろ」
というわけで、下宿先のエドガーはんちに帰ってきたで。
「おかえり、ミリンちゃん。無事でよかったよお……げほんっ」
「ただいまやで。せやから、ウチは大人やっていうたやろ。って、おっちゃんも風邪かいな? えらい流行っとんな」
「そうなんだよお。げほっ。ミリンちゃんも気を付けてね。げほん」
んで、その日はな。久しぶりにおうた、ウチより大きい7歳のエミリちゃんのうるうるお願い攻撃で、そのあと幼女同士でほぼ過ごすことになってもた。
せやからこの後のことは、断腸の思いで割愛せざるを得んねん。自動ドア禁止法とかいうやつに引っ掛かるからな。そんなん禁止されてもて、ドアノブに手ぇ届かんかった場合、ウチはどうしたらええん?
ほんで次の日、ウチは南門バザールに来たで。あ、まいっちんぐな感じで淫らに破れてもたチュニックはエミリママが直してくれるらしいし、部屋に置いといた予備のほうに着替えたで。ほんまお世話になりっぱなしやな。
ともかくエドガーはん一家に恩返しするためにも、ウチは頑張らなあかん。昨日あったことはもう忘れたで。気にしてる暇なんてあらへん。
「さあて、準備すんで!」
さて、ウチがものすっごい反撃食らったヴィンセントはんとの対話やけどな、ちゃんと成果はあったねん。
ほら、病気とか怪我とか状態異常の話な。
ほんでな、みんなはもうたぶん時空の彼方に忘れてもてるやろけどな。ウチがこの街に初めて来たすぐあとに、今年とれたてのお米みたいな冒険者がなんでかしらんけど無茶しやがって、ウサギの毛玉集めにいきよって大怪我したらしいんや。
ほんま、あれ、なんでやったんやろな? ウチは関係ないはずやけどな。
「そんなら、まずはゴザを広げてっと。ここに取り出したるわ~」
ででん! ぱっぱらぱっぱっぱ~!
「ひ~るぽ~しょん~」
ちゅうわけで、こいつをな、今から10マゲカで売るで。
え? ぼったくりちゃうかって? 要らんことはよう覚えてんなあ。
まあな、こいつはちょいぱいソフィアさんとこでな、5マゲカで売ってたんを、裏技つこうて4マゲカ相当で仕入れたからな。高い思うんも無理あらへん。
でもな。
「お! ねえ、お嬢ちゃん。それいくらだい?」
「1本10マゲカやで~」
「なら、2本もらえるかな?」
ほら、早速売れたやろ?
ふふん! どうや!
なんてな、別に大したからくりやあらへん。
さっきもいうたけどな、この街にはポーション屋さんはないねん。ちなみに薬屋さんはあるらしいけど、ウチはまだ行ったことあらへん。
ほな、この街ではポーションはどうやって手に入れるんや? って思うやろ。もちろん売っとるで。雑貨屋さんっちゅう、いわゆるコンビニや。コンドームどころかガリガリ君も売ってへんけどな。いや、コンドームの代わりになるもんは売っとるかもしれんけど、探してへんからわからん。まあ、需要はないやろ。
でな、あっちの世界のコンビニやとな、でっかいトラックが一日に何回も商品運んでくるんは知っとるか? ウチは知ってんで。長いこと立ち読みしてたらわかるからな。ちなみにウチはずっと立ち読みしてたかて、店員さんからは気付かれへんで。見えへんからな。嘘やで。鏡やらなんやらでちゃんと見えとるで。堂々としとっただけや。さすがに紐で亀甲縛りされてるやつは読んでへんからな。
ともかくな、この街で作っとるもんやったらともかく、雑貨屋さんみたいないろんなモンあつかうんやったら、それをどうやって仕入れるか。
これは簡単でな、行商人通して買うわけやな。
つまりな、目当てのもん売っとる街に立ち寄る予定の行商人にな、お使いを頼むってことや。もちろんそれには余計なお金がかかんで。
そうなるとコンドームとおんなじ話になんねん。
需要の問題や。売れへんもん仕入れたら丸損やろ?
でな、はっきり言うたらな、この街でポーションに需要はあらへん。
けど、なんでかなって、理由が気になるやろ?
ウチもな、さっきヴィンセントはんに話聞いて、ようやく全部納得いったんやけどな。まあ、ウチより勘のいい君らやったらもう全部わかってしもとるやろ。
つまりな、街の人はポーションなんて基本いらんねん。普通に暮らしとったらな、そんなでかい怪我はせえへん。もし怪我したとしてもや、寝てれば勝手に治るし、最悪は教会に行けば治してもらえる。せやから日常的にポーションなんて使わへん。
つまりな、こいつは冒険者しか買わんっちゅうことや。
ほな、エッサの冒険者はどうやってポーション入手してるんや? わざわざウノーミまで買いに行っとるんやろか? って思うやろ?
まっ、げっ!
「よーし、これでホーンラビットを倒しに行けるぜ。あんがとよ」
けどな、正解はな。無いんやったら無いでしゃあないし、ポーションを使わんでもいいようにしとるだけや。
あのウサギが、冒険者に避けられとる理由はこれやねん。
角ウサギは、一撃がデカい。せやから基本、攻撃を食ろうたらあかん。でも万が一がある。そんときにポーション持ってないとそのままやられてまう。毒カエルと似たようなもんやな。
ウサギもカエルもな、うちみたいなへなちょこパワーでも倒せるほどのHPしかきっともっとらへんねん。おそらくやけど、攻撃力に全振りしたお腹ピーピーな感じなんや。三角定規の狭いほうみたいに尖っとるねん。
せやから、ポーションを懐に忍ばせて、ほんでホーンラビットを倒しに行くわけやな。
ま、これも一時的な需要やけどな。ホーンラビット倒しに行って、いっつもポーション使わなあかんのやったら冒険者も赤字やし、基本は保険やねんな。せやからみんなに行き渡ってもたら、そのうち売れ行きは悪うなるやろ。
ちなみに雑貨屋さんにはすでにナシつけといたからな。別にバザールやと自由に商売してもええけど、こういうんは一声掛けて根回ししとくんが大事やで。
雑貨屋さんのポーションは在庫切れやったけど、普段は15マゲカで売っとるらしいで。経費考えたらそんなもんやろし、税金も掛かるしな。全然利益にならんから置きたくもないんやて。冒険者から文句つけられることがあるから、しゃあなしで売ってるんやと。せやからウチが売ってくれると助かるとまで言われたわ。その分売り場が使えるからな。
つまり、これはコンビニの新商品やな。物珍しゅうてみんな一度は買うんやけど、やっぱり定番商品の魅力に気づいてそっちに戻ってまうねん。アメリカンヒーローみたいなキャラクターで人気のメーカーが、毎年のように出している変わり種フレーバーの炭酸飲料とかな。
「まいど、おおきに~」
そんなん言うてたら、15本なんてあっというまに売れてもたわ。
でもしゃあない、ウチの輸送能力はこれが限界や。
え? ウサギさんマジックポーチ、もってるやろて?
あんな、ウチのお気に入りの可愛いらしいこのポーチはな、確かに深さが2倍やから容量がおそらく2倍になっとるで。せやけどな、いつ何時破れるかわからへんから着替えのシュミーズも入れなあかんし、乙女のたしなみの日用品もいれとかなあかんねん。
しかもな、入れたもんの重量がなくなるとかそんな都合ええことにはならん。オパンツ引力とかいうプリーツ法則には逆らえへんねん。ウチは見た目どおりで、中身もか弱い幼女なんや。
あれ? 本当は高校生やった気もするで。最近だいぶ忘れてきとるわ。
ってわけで、そろそろゴザ片づけて店じまいを……。
「あっ! ミリンちゃん、見つけた!」
ん? あれ? 門のとこから聞こえてくるんは、ウチよりもめっちゃ可愛い幼女で、ウチより8歳年下で、ウチより背の高いエミリちゃんの声やないか。
まったく、こんなとこに幼女が1人できたらあかんで。衛兵さんがハラハラしながら見守っとるやん。
ドドドドドド!
しかも、なんやえらい、猛スピードでこっちに走ってくるで。なんやろ、ウチのほっぺにご飯粒でもついとるんかな。
どうでもええけど、ウチより足速いんちゃうやろか?
どこにも勝てる要素が一切あらへんな。ちいぱい線もないどころかはっきり盛り上がってるしな。
「エミリちゃん、落ち着いてーな。どないしたん?」
「ミリンちゃん! あのね! たいへん、たいへん、たい、へんたいなの!」
なんやて!
ウチのエミリちゃんによからぬことをしたんは誰や!? そこの君か!? いいや、君らは紳士のはずや。そんなことするはずないで。ウチは信じとるからな! すぐに名乗り出るんや!
「だから、すぐに帰ってきて!」
まったく、こんなガッコ終わりの時間帯から、いったいどんなN極とS極の際どいヒーローの格好したコンビが現れたって言うんや。
きっとそれ、U字さんとは違うほうの2人のコージさんに違いあらへん。
せやったら、はよ見に行かな!
ウチ、あれ大好きやねん!
「そうじゃなくって、お父さんが大変なの!」
ちゅうわけで、ウチは店じまいちゃちゃっと終わらしたで。
「エミリちゃん、はぁ、はぁ。おいていかんといて~」
その後のウチはまるで、おさかなくわえて走っとるドラ猫を、必死に追いかけとる気分やった。
エミリちゃん、速すぎやろ。それか、ウチが遅いだけか?
それにしてもやな。いったい、エドガーはんに何が起きたっていうんやろな。
と、いうわけでな。
さあて、次回のみりんちゃんは~? 「みりんちゃん、服を脱ぐ」「みりんちゃん、裸を見せつける」「みりんちゃん、そのまま寝てまう」の3本立てでいくで~。テレビん前で倒れんといてや~。
よーするにな、9回では終わらんと、まだまだ続くってことや。
安心したやろ?
なに、ウチの裸はもう見たあないって?
う~ん、せやなあ。
金払ってくれたらモザイクぐらいは掛けたるで!
ほな、また来週やで。
お楽しみにな!