「傀儡」と「あなた」   作:珊瑚宮出身イマジン

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※一応書いときます、今回キャラ崩壊の可能性ありです(であいがしら)
あときちんと案通りにしたつもりですけど、もし合わなかったらごめんなさい。
案投下ありがとうございました~!


某戦闘摂理を解析する対人ゲーのシーズンで呼ばれまくってそっちに集中してたら、いつの間にかこんなに日数が経っていた件

本当に申し訳ない(ブレイク博士)


ネタ案先(ありがとうございます!)
Re.勘違いから始まる「傀儡」様のバニーサービス


金属の擦れ合う乾いた音と、かすかな放電音が鳴り響く工廠の研究室。

作業台の奥では、遮光ゴーグルを装着したサンドローネがピンセットと極細の溶接バーナーを握りしめて全神経を研ぎ澄ませていた。

一度熱を断てば瞬時に素材が変質し、ここ数週間の苦労が水泡に帰す──まさに一分の狂いも許されない、超精密機巧コアの接合作業の真っ最中だった。

 

「あなた」もそんな空気にあてられ邪魔にならないように気を遣いつつ張り詰めて仕事に励んでいた中、控えめなノックと共に研究室の重い扉が開く。

顔を覗かせたのは、以前の騒動でも顔を合わせたことのある執行官『少女』コロンビーナの直属の部下──先遣隊員の同僚だった。

 

「お疲れ様です、「あなた」さん!頼まれていた試作パーツの伝票と検品書、持ってきましたよ」

 

───ありがとう、助かるよ。わざわざ届けてもらって悪かったね

 

「いえいえ!……そうだ、「あなた」さん、今日の仕事終わりって何か予定あります?」

 

伝票を受け取った「あなた」へ同僚は声をワントーン落としつつ、実に楽しげな笑みを浮かべて身を乗り出してきた。

 

「実は工廠の裏通りに、新しく大衆酒場ができたんですよ。そこがまた飯も酒も凄く美味い上に……看板娘のサーシャちゃんがめちゃくちゃ愛想良くて!兵士たちの間で大人気なんです。

席に着いたらすぐ寄ってきて、客の膝の上に乗っかって甘えてくるらしいんですよ!」

 

───へえ、それはいいね!たまには普通の成人男性らしく、仕事終わりにパーッと飲んで息抜きしたいと思っていたところなんだ。ぜひ付き合わせてよ!

 

「あなた」はこれまで自身を拾ってくれた「傀儡」サンドローネへの恩返しのため、日々自己研鑽を重ねていた。

今でこそ多少余裕は生まれたものの、それまでは娯楽と無縁と言っても過言ではないほど我武者羅に学び続けていたため、息抜きというものの存在すら知らないまま過ごしていた。

それを見かねた主人のさりげない補助もあって、現在の「あなた」がいるのだ。

 

「決まりですね!じゃあ定時に工廠の通用門で!」

 

軽快に手を振って去っていく同僚を見送り、「あなた」は受け取った書類を仕分けようとデスクへ向かった。

 

その背後──。

作業台の陰から、ピシリ、と小さな金属片が軋むような不穏な音が響いていた。

 

「(……………な、)」

 

ゴーグルの奥で、サンドローネの瞳が信じられないものを見るように大きく見開かれていた。

作業は佳境。

手元をミリ単位で狂わせるわけにはいかず、怒鳴りつけることも、ましてや作業台を蹴り飛ばして割って入ることも物理的に叶わない。

その拘束された極限状態の耳へ、信じがたい単語の数々が克明に飛び込んできたのだ。

 

 

──看板娘。

──膝の上に乗っかって甘えてくる。

──普通の成人男性らしく。

 

 

「(……なによ、それ………!なによそれえぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!??!?!)」

 

ゴーグルの下で、みるみるうちに目が血走り耳元まで真っ赤に染まっていく。

手元のバーナーの炎が怒りのあまりわずかに揺れそうになるのを超人的な職人技でどうにか抑え込みながら、サンドローネは内心で猛烈に歯軋りした。

 

「(あいつ…!!私の目を盗んで、そんな破廉恥な店に行く気なの!?お、女を膝に乗せて鼻の下をだらしなく伸ばしながら酒を飲む気なのね!?…だいたい「成人男性らしく」って何よ!普段私の助手でありながら、そんな下劣な欲求を溜め込んでたっていうわけ……!?)」

 

暫くしてようやく最後の溶接を終えバーナーの火を落とした頃には、既に部屋には「あなた」の姿はなかった。

定時になり、意気揚々と酒場へ向かってしまった後だったからだ。

自分のデスクに向かうと、

 

『すみません、友人と酒場に行ってくるのでお先に失礼します!仕事内容はデスクにまとめてあります!』

 

とだけ簡潔に書かれた紙切れが置かれていた。

静まり返った研究室でサンドローネはゴーグルを乱暴に外すと、真っ赤な顔のままバンッと作業台を叩いた。

 

「…ふ、ふん!たかが助手が非番にどこで誰と酒を飲もうが、主人の知ったことじゃないわ!……そうよ、私には関係ないもの!勝手に鼻の下でも何でも伸ばして、だらしなくデレデレしてくればいいじゃない!!」

 

プライドのままに一通り吐き捨てはしたものの、その声は誰に届くこともなく、一人きりの部屋にポツンと残された主人の頭の中は、一晩中消えることのない激しい妄想と嫉妬の炎を滾らせ続けるのだった。

 

 

「……私じゃ、ダメだっていうの…?バカ「あなた」……」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「大将~!飲みに来ましたよ~!!」

 

工廠の裏通り、雪除けの(ひさし)が連なる一角に、赤提灯のような暖かな灯りを灯す一軒の酒場があった。

扉を開けると、湯気と炭火の香ばしい匂い、そして仕事終わりの兵士や職人たちの活気ある笑い声がどっと押し寄せてくる。

 

「へいらっしゃい!……あぁ、悪いねぇあんちゃんたち。今日はうちのサーシャが腹を壊しちまってな、奥の部屋で寝かせてるんだ」

 

厨房の強面な店主からそう告げられ、同僚と「あなた」は思わず顔を見合わせて肩を落とした。

そう、この店で大人気だという『看板娘』とは、客の膝に乗るのが大好きな人懐っこい看板犬(メス)のことだったのだ。

 

「マジか~!サーシャちゃん、膝の上に乗せてモフモフしたかったのに……」

 

───残念だけど、体調が悪いなら仕方ないね。お大事にしてほしいな

 

「その代わりと言っちゃなんですが、本日の日替わりは最高に脂の乗った魚と熱々のシチューですよ!二名様ね!空いてるカウンター席へどうぞ!」

 

突如厨房の奥からひょっこりと顔を出したのは、エプロン姿の愛想の良い若い女性店員だった。

「ちゃんと前見て案内しろよー」「わかってるよ父さん!」なんてやり取りを見るに、どうやら店主の娘さんらしい。

 

「お兄さんたち、優しそうないい顔しているね~!私、そういう真面目そうな人結構タイプかも!なんてね、あはは!!」

 

聞きました!?「タイプかも」ですってよ!嬉しいですねぇ~!

 

───ふふ、お世辞が上手いんだね。でもありがとう

 

トークに軽く花を咲かせつつそんな彼女の笑顔で席へと案内され、直後に湯気が立ち昇り香ばしい熱々の料理と、なみなみと注がれた大ジョッキが二つ運ばれてくる。

 

「はい、冷えたエールお待ち!今夜は私が付き合ってあげるから、パーッと飲んでってね!」

 

「おっ、ありがとー!……ふふ、「あなた」さん。犬はいなかったですけど、あの子もすごく愛想良くて可愛いし、当たり引いたんじゃないですか?」

 

───はは、そうかもね。活気があって、料理もすごく美味しいし……たまにはこういうところで飲むのも、本当にいい息抜きになるよ

 

お互いにジョッキをぶつけ合い、他愛のない世間話や仕事の愚痴を笑い飛ばしながら、夜は更けていく。

時折交わされる親子の微笑ましい掛け合いに苦笑しつつ、どこまでも穏やかで健全な大衆酒場の時間が流れていた。

 

──だが、その穏やかな空気がふと切り替わる瞬間が訪れる。

 

カラン、と控えめに鳴った入口の呼び鈴と共に、店内の喧騒がスッとまるで潮が引くように静まり返った。

冷気を纏って店内に足を踏み入れたのは、天井に届かんばかりの威風堂々たる偉躯。

仮面で素顔を覆い、漆黒の軍服を隙なく着こなしたその人物──ファデュイ執行官序列一位、『隊長』カピターノだった。

 

「た、隊長様…!!?」

 

客、店員問わず皆が固まり同僚がビシッと直立不動になりかけるのを、カピターノは静かに革手袋の手を上げて制した。

 

「構わん。非番の席だ、楽にしてくれ。皆、私のことは気にせず楽しんでほしい」

 

重厚で、だがどこまでも穏やかな声が店内に響き、凍りつきかけた空気がふっと緩む。

カピターノは店内をゆっくりと見渡すと、カウンター席の「あなた」と「あなた」の同僚の姿に目を留め、迷いのない足取りで静かに歩み寄ってきた。

 

「…『少女』殿のところの先遣隊、それに……『傀儡』殿の助手だな」

 

───は、はい!『隊長』様もお疲れ様です……!

 

「ああ。隣、失礼するぞ」

 

そう言ってゆっくりと「あなた」の隣のカウンター席に腰を下ろすカピターノ。

まさか最高幹部直々に声をかけられるとは思わず背筋を正す「あなた」に対し、カピターノの黒い仮面の奥にある青い双眸が、ふっと細められたように見えた。

 

「ふむ、貴公の働きは耳にしている。『傀儡』殿の探究心と技術はこのスネージナヤの至宝だが……妥協を許さぬその気性故、隣で支える貴公の心労と激務は並大抵のものではあるまい。日々の献身と精励、実に見事だ」

 

───め、滅相もありません!()()()()()()()にはいつも良くしていただいていますし、私の力など微々たるものです!

 

「…ふっ、驕らない謙虚な心も良し。だが、己の成した仕事には誇りを持つといい」

 

地位に驕ることなく末端の助手の苦労と献身を真っ直ぐに認め、温かく労う圧倒的な人格者ぶり。

その言葉の重みに、「あなた」は胸の奥が熱くなるのを覚えた。

すると、「あなた」の方を向くカピターノの仮面の奥にある青い双眸が、どこか懐かしむように、あるいは慈しむように微かに細められた。

 

「……貴公のその真っ直ぐな姿を見ていると、ふと私のもとで武芸や心得を手ほどきした若者たちのことを思い出すな…」

 

───『隊長』様が、手ほどきを……?

 

「ああ。一人は近衛として剣を執り、今や冬契軍(ドルジーナ)を率いるまでに腕を上げたが……どうにも悪戯が過ぎる上に、抜けたところが多くてな。この前も汽車に財布を忘れて歩いて戻ったと聞き、頭を抱えたものだ…」

 

……ヴェスナ様…のこと、ですよね……?

 

───う、うん……多分……?

 

「……もう一人は宮廷でメイド長を務めている。そちらは冷静沈着なんだが、あの奔放な片割れの尻拭いに日々頭を痛めていてな…」

 

ふっ、と仮面の奥から微かに零れたのは、普段の厳格な武人の顔ではなく、手のかかる娘たちの行く末を見守る父親のような、温かな苦笑だった。

 

「分野や立場こそ違えど、貴公のように己の領分でひたむきに励む若者たちを見るのは実に清々しい。

……あやつらも、根の真っ直ぐさと忠義は本物でな。貴公のような者となら、良き刺激を与え合えるかもしれない」

 

そう語っていたカピターノだったが、ふと店内の時計へ視線を向け──小さく咳払いを落とした。

 

「……いかんな、つい話し込んでしまった。酒の席で若者に長々と身内語りを聞かせるなど、無粋の極みだったな。忘れてくれ」

 

───い、いえ!『隊長』様のお話、とても嬉しかったですし興味深かったですよ!

 

「ふっ、そう言ってもらえると嬉しい。……機会があれば、いつかあやつらとも会ってみてくれ。きっと、話が合うはずだ」

 

───は、はい!(…ん?待てよ…そういえば以前パレスへ納品に行った時、廊下の隅で正座して般若みたいな顔のメイド姿の人に怒られてた白っぽい金髪の女性騎士の人がいたような……………いや、やめておこう。多分あれは別人……の、はずだ…)

 

内心でふと思い出した記憶に冷や汗をかきつつも表に出さないように「あなた」が努めていると、穏やかに目を細めたカピターノはカウンターの店主へ目を向け、懐からずっしりと重みのあるモラ袋を取り出して事も無げに置いた。

 

「上司である私がこれ以上長居しては、貴公らも羽を伸ばしきれまい。今宵の貴公らの勘定は私が持とう。……店主よ、釣りは要らぬ。彼らに美味いものを食わせてやってくれ」

 

「ええっ!?そ、そんな隊長様!悪いですよ!!」

 

慌てて止めようとする同僚に、カピターノは背を向けたまま、軽く片手を挙げてみせた。

 

「日頃の精励への、()からのささやかな労いだ。今宵は気兼ねなく、存分に英気を養うといい」

 

そう言い残して、颯爽と夜の雪景色の中へ立ち去っていく偉大な武人の背中。

同僚はジョッキを握りしめながら、ボロボロと大粒の涙をこぼしていた。

 

「隊長様……俺、一生……一生あなたについていきますぅぅぅぅ………!!!」

 

───(…本当に、器が大きくて温かいお方だな……。いつか、時間を作ってそのお弟子さんたちにも会ってみたいな)

 

「ちょ、ちょっとお兄さんたち何者なの!?あのめちゃくちゃかっこいいお偉いさんが凄い額のお代置いて行っちゃったんだけど!!」

 

『隊長』カピターノの背中を見送り、席に向き直って再びジョッキを手に取ろうとした──その瞬間だった。

目を輝かせ、頬を紅潮させた店主の娘さんが、カウンター越しにぐいっと身を乗り出してきたのだ。

 

「ねえねえ、あの方と知り合いなの!?凄いオーラだったし、声も渋くてめちゃくちゃかっこ良かったんだけど!もっと教えてよ~!」

 

───え、ええと……同じ組織の上司、というか…偉いお方なんだ。僕もあんな風に直接お話したのはこれが初めてで…

 

「へぇ~!お兄さんもあんな凄い人の下で働いているんだ!やっぱり只者じゃないと思ってたんだよね~!」

 

すっかり興奮した様子の彼女は、父親の「おい、同じところにいねぇで仕事しろ!」という怒声を「あとちょっとだけ!」と手を合わせながら笑って躱しつつ、厨房から小皿を二つ素早く運んできた。

乗せられているのは、香ばしく炙られた燻製肉の小鉢だ。

 

「はいこれ!格好いいお偉いさんを連れてきてくれたお礼に、私からの特別サービスね!」

 

「うおおっ、マジで!?ありがとうなお嬢ちゃん!!」

 

「ふふっ、どういたしまして!……あ、お兄さん!また私のいる時に来てよね!お話待ってるからね!絶対だよ!!」

 

───あはは、ありがとう、機会があったらまた寄らせてもらうよ

 

それから更に長く話しつつも楽しみ、退店時には入り口で人懐っこい笑顔で大きく手を振る彼女に見送られ、お腹も心も大満足で満たされた二人は、夜風が吹き抜ける雪の通りへと出た。

 

「いやぁ~飲みましたねぇ!!飯は美味いし、隊長様は神だったし、女の子には特別サービスまでしてもらっちゃって……最高でしたね!「あなた」さん!」

 

───うん、本当にいい息抜きになったよ。今日は誘ってくれてありがとうね

 

「いえいえ!!またこうして来ましょうね!それじゃ!」

 

───それじゃあ、また!

 

上機嫌な同僚と別れ、「あなた」は心地よい酔いと疲労感に身を任せながら宿舎へと帰路についた。

──その頃、主人が研究室でどれほど内なる炎を燻ぶらせていたかなど、夢にも思わずに。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

翌朝。

抜けるような青空と、相変わらず冷え込むスネージナヤの工廠。

昨晩の息抜きのおかげですっかり気力を充実させた「あなた」は、いつものように研究室の扉を開けた。

 

───おはようございます、サンドローネ。昨日はお先に失礼してしまってすみま──

 

「あなた」のそんな挨拶の言葉は、途中でピタリと喉の奥へと引っ込んだ。

部屋の中央──応接用のデスクに腰掛け、腕を組み、仁王像もかくやという凄まじい威圧感でこちらを睨みつけているサンドローネの姿があった。

目の下にはうっすらと濃い隈。

そして何より、その全身からはまるで絶対零度の吹雪と煮えたぎるマグマが同時に噴き出しているかのような、凄まじい不機嫌オーラが立ち込めていたのだ。

 

「……あら、随分とご機嫌な様子での出勤じゃない、「あ・な・た」?」

 

低く、地を這うような冷ややかな声が、静まり返った研究室に響き渡った。

 

───…あの、サンドローネ?何かあったの?そんな目の下に隈まで作って…あれから徹夜でもしたの?

 

「……誰のせいでこう(寝不足に)なったと思ってんのよ、この鈍感」

 

───え?

 

「とぼけないでちょうだい!昨晩、随分とだらしなーく鼻の下を伸ばして楽しんできたようじゃない?」

 

───え!?だ、だらしなくなんてしてないよ!工廠の裏の酒場に行って食事と酒を楽しみながら息抜きをしただけだって!

 

「ふぅん?()()()、酒場ねぇ……?あそこには『看板娘』がいるって聞いてたけど?」

 

───ああ、サーシャちゃんのこと?僕たちも(モフるのを)楽しみにしてたんですけど、昨日はお腹を壊してお休みだったんだよ

 

「(なっ…!?名前まで把握している上に、「ちゃん」付け……!!?)」

 

サンドローネの額に青筋がピキリと音を立てて浮かび上がる。

 

───でも、代わりに店主の娘さんがすごく愛想良くしてくれて、僕たちが席に着くなり「今夜は私が付き合ってあげる(からいっぱい飲んでね!)」とか「(優しそうでいい顔している、そういう真面目な人って結構)タイプかも(なーんて、冗談だよ!)」なんて言って和ませてくれてて、すごく温かいお店だったよ

 

は…?なんですって……?

 

───おまけに『隊長』様が奢ってくれた後もずっと側で身を乗り出して興味深そうに話しかけてくれて…最後には「(お偉いさんを連れてきてくれたお礼に)私からの特別なサービス」っておつまみまで出してくれて、「(お話もっと聞きたいから)また私のいる時に来てね、絶対だよ」って約束までされちゃったんだ

 

…………

 

───いやぁ…僕はあくまでも普通の男だし、あんな風に若い女の子に手厚くされたらやっぱり悪い気はしないというか「ついに開き直りやがったわねこの破廉恥男ぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!!!!

うおぉ!!?ちょ、ちょっと待ってよサンドローネ、なんでそんなに怒ってるの!?

 

「はぁ!?怒るに決まってるでしょ!!『付き合ってあげる』だの『タイプかも』だの……挙句の果てには『特別なサービス』!?次回の来店の予約まで取り付けて鼻の下を伸ばしたまま帰ってきたですってぇ!?!!」

 

───い、いやいや違うよ!!そういう変な意味じゃなくて、ただの世間話とおつまみのサービスで──

 

「黙らっしゃい!言い訳は見苦しいわよ!!私の目を盗んでそんな破廉恥な店に通い詰めて……普段私の助手を務めておきながら若い女にちやほやされて酒が飲みたいだなんて、そんな下劣な欲求を溜め込んでいたってわけ!?」

 

───だから誤解だって!ただの大衆酒場だし、僕だって普通の男だから、愛想良くされたら嬉しかったって言っただけで──

 

「そこまで女にお酌されたいのなら……わ、私にしなさいよ……!!」

 

───………え?

 

「…わ、私にしなさい!!私が相手してやるって言ってんのよバカ「あなた」っっ!!!」

 

───……………………はぁぁぁ!!?!?!

 

「覚悟してなさい!最高の接客ってやつを骨の髄まで叩き込んであげるわ!!」

 

───はい!?えっ、ちょっ、サンドローネ!?どこへ行くの!!?何してるの!!?!?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──数分後。

 

よ、ようこそ、お、おこしく、ください、ましたぁ~……」

 

あれから応接ソファに無理矢理正座させられた「あなた」の前に、カツカツとぎこちないヒールの音が近づき、かつてないほど真っ赤になっているバニー姿の主人が、プルプルと震えそうになっている手つきでお酒の瓶を持っては、「あなた」の目の前にあるグラスに注ごうとしていた。

なんなら口元は既に震えていて、あまりの噛み倒しっぷりにこちらも釣られそうになってしまう。

 

──いや、直視できない…!!

 

目の前の主人が着ているのは、普段の重厚で気品あるドレスとはあまりにもかけ離れた、艶やかな光沢を放つ黒のタイトなスーツ。

白く華奢な肩から鎖骨のライン、大胆に露わになった背中と付け根まで見えそうな腰のゼンマイ、そしてすらりと伸びた網タイツの脚。

頭に乗っているウサギの耳が、彼女の小刻みな震えに合わせてピコピコと揺れている。

 

「…な、何をボーッと突っ立…じゃなくて、座っているのよ……っ。ほ、ほら、グラス、持ちなさいよ……!!」

 

トクトク、と頼りない音を立てて注がれる琥珀色の液体。

注ぎ終えたサンドローネは、意を決したようにギクシャクとした動きで「あなた」の真横──触れ合いそうなほど至近距離のソファへ腰を下ろした。

 

ぎし、とソファの革が沈む感触と共に、ふわりと鼻腔をくすぐる彼女特有の甘いオイルと石鹼の香り。

熱を放つ彼女の白い太ももと肌の温もりが、間近から生々しく伝わってくる。

 

「……っ、な、なによ、その顔……。そんな大衆居酒屋の小娘なんかより、私のほうが……ずっと、上等でしょ……?」

 

上目遣いに睨みつけてくるその瞳は、羞恥でじっとりと潤み、耳元どころか首筋まで真っ赤に染め抜かれている。

ぷるぷると震える指先でおずおずと「あなた」の袖を控えめに掴み、消え入りそうな、けれど必死に甘ったるく作られた掠れ声が鼓膜を擽った。

 

んんっ、違った……。……ご、ご指名……ありがとうございます、()()()…。こ、今夜は……最後まで、私だけを…み見てなさいよね…バカ……っ

 

最後の方は恥ずかしさのあまり蚊の鳴くような声になり、自爆同然に頭から湯気が出そうなほど顔面を真っ赤にして俯いてしまうサンドローネ。

そんな様子に「あなた」の心臓と顔は、昨晩のアルコールどころではない凄まじい勢いで跳ね上がり、急激な体温の上昇を実感していた──。

 

───……サ、サンドローネ…?

 

──だが、そこで終わらなかった。

俯いて肩を震わせていたサンドローネは、何を思ったのかハッと顔を上げると、涙目で真っ赤な顔のまま、もう殆どヤケクソのような勢いでソファの上に膝立ちになったのだ。

 

「…っ、な、なによその顔!これでも満足してないって言いたいわけ!?……ありえない、そんな酒場の小娘なんかに、私が負けるはずがないんだから……っ!!」

 

───ちょっ、えっ、サンドローネ!?近い、近いですって──!!

 

「黙りなさい!ほ、ほら……もっと近くで見なさいよ!そんな女よりも、私の方がずっと柔らかくて上等だって、言いなさい…!!…今夜は絶対に、部屋から出してあげないんだからね……バカ「あなた」……っ!!」

 

勢い余って「あなた」の胸板へ両手を突き、ゼロ距離まで顔を寄せて叫ぶサンドローネ。

──だが、そんな彼女の張り子の虎のような勢いも、長くは続かなかった。

 

「……っ、あ……」

 

言い切った瞬間、ふと自分が口走った言葉の破廉恥さと、至近距離で触れ合う体温のリアルさに今更ながら脳の処理が完全に追いついてきたのだろう。

カッカと熱を放っていたサンドローネの顔面は、もはや真っ赤を通り越して真っ白になり、瞳がぐるぐると渦を巻き始める。

 

「……キュゥゥ……」

 

まるで蒸気を噴き出したかのように、カクンと脱力した主人の身体が「あなた」の胸元へと倒れこんできた。

極度の緊張と羞恥心による、完全なるキャパオーバー。

──要するに、オーバーヒートによる気絶である。

 

───へ…?ハッ、ちょっとサンドローネ!?しっかりして!!

 

主人から感じる感触から思考を逸らし続けていて事態をようやく飲み込んだ「あなた」は、慌ててソファのブランケットを引っ張り出し、露出度の高すぎるその身体をすっぽりと包み隠しながら、安堵半分焦り半分の複雑な心境のまま彼女をソファへ横たえたのだった。

 

──その少し前。

資材伝票のサインをもらいに来ていたファデュイ兵が、ノックしようと掲げた右手を扉に近づけた瞬間のこと。

 

「……?」

 

何やら声が聞こえると感じた部下は話している最中と察し、ノックを止めて話が一段落するところを見極めるために扉に耳を傾けていた。

 

──これでも満足してないって言いたいわけ!?

──もっと近くで見なさい!

──今夜は絶対、部屋から出してあげない

 

漏れ聞こえる声は、紛れもなく自身の上司である「傀儡」様の声。

だがその断片的な言葉の数々は、どう好意的に解釈したところで弁解の余地がないと思わざるを得ないほどに危険な熱を帯びていた。

防音壁越しゆえに、会話の全貌までは定かではない。

だが彼女の配下に名を連ねる者たちにとって、それは工廠における「最大の禁忌」を告げる警鐘に他ならなかった。

──「あなた」というあの助手殿が絡む主人の聖域に無粋な横槍を入れた者に待つのは、死よりも恐ろしい「生きたまま機巧への再構築」が待っている、と。

それはこの研究室に仕える者たちが骨身に染みて弁えている、絶対の生存規範だった。

 

「(な、何をなさっているんだ傀儡様は……!?あの真面目な助手さんに、なんてことを……っ!!いや、違う…!や、やばい…今ノックをしたら…生きて帰れないッッ!!)」

 

ずっと自身の脳内で鳴り続けている警告音という名の生存本能のまま、兵士はノックをしようとしていたその手を降ろすと、盛大な勘違いを抱えたまま忍び足でしかし脱兎のごとくその場から逃げ出したのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

数日後──。

工廠内には、「『傀儡』様が助手を研究室に監禁し、破廉恥な衣装で専属接待をさせている(あるいはしている)」というとんでもない怪文書めいた噂が爆速で広まり、なぜか「あなた」は行く先々ですれ違う兵士から涙混じりの生温かい同情の視線を向けられることとなった。

 

そして当然の如く、その噂は組織のトップの耳にも届き──。

後日、統括官『道化』ピエロ直々に執務室に呼び出された二人は、軍規の乱れについて数時間に及ぶ正座説教を正論の鉄槌と共に食らい、頭を冷やすためスネージナヤパレス全域の自動機械総点検という膨大なペナルティを申し渡される羽目になったのである。

 

執務室から解放され、工廠へ戻る廊下。

自身の行いが赤裸々にされ魂が半分抜けたような顔で隣を歩くサンドローネは、ふと正気に戻ったかと思えば、みるみるうちに顔を真っ赤にしてプイッとそっぽを向き、消え入りそうな声で吐き捨てた。

 

「ふん!あんたをあんな風にお世話していいのは、世界中で主人の私だけなんだからね!勘違いしないでよね、バカ「あなた」……!」

 

───(……もしかして、怒られたこと全く反省していないのか?この人…)

 

盛大なすれ違いから始まった狂乱の一幕は、山積みのペナルティ作業と、どこまでも不器用で愛らしい主人の独占欲に包まれて幕を閉じたのだった。

 

 

 




「傀儡」→いつの間にか用意していたバニーでキャバ嬢ごっこに。何やら予習までしていたらしい…
かーっ!見んねプロンニア!卑しかクロックワーク☆プリンセスばい!

「あなた」→こいつ、本当に男か…?周りから色々な意味で同情されている

同僚→「あなた」に優しくすると決めた。でもなぜか誘おうとすると謎のブロックが入るようになった

「隊長」→(無言で頭を手で押さえている図)初登場がこれですまない…


ヴェスナあまりにも面白いキャラすぎるんだ…でもヴォジャニーツァも欲しいよ…
声も相まって「ただの人間やフェイには興味ありません」とか言いそうだと思ってたのはここだけの話。


順序的に海灯祭を後にしてしまったのですが、次回がそれになるのでもう少しだけお待ちください…

今後の話(あるいは番外編みたいなもの)での指標として。「あなた」は本編ストーリー(魔神任務)に出てもいいのか?(あくまでも参考にするだけなので、票数次第ではあるものの実際に書くかどうかはまだ考えさせてください。)

  • イッテイイヨー!(作者好み展開かも)
  • シリアスなのはダメ!死刑!
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