「傀儡」と「あなた」   作:珊瑚宮出身イマジン

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二つ目の案となります。ありがとうございました~!

色々言いたいことはあるけど…これだけは言わせてくれ…!!
旅人ォー!!なんで!!サンドローネを!!頼らない!!?
魔神任務であんだけ頼ってって言ってたのに!!!

でもなんかそんな姿も似合ってしまうように見えるんだよな…なんでだろうw


二人きりの海灯祭

極寒の吹雪が吹き荒れるスネージナヤとは打って変わり、潮騒の香りを孕んだ穏やかな夕風が頬を撫でる。

茜色に染まる海原の先には、すでに無数の提灯が灯り始め、幻想的な賑わいを見せる璃月港が広がっていた。

──そう、海灯祭である。

 

──ほんの半日前。

研究室で突然、璃月行きの乗船切符を机に叩きつけられた時の光景は、記憶に新しい。

 

「悪いけど、これから北国銀行への査察に行くわよ!ついでに東洋の絡繰り技術を現地調査するわ。……以前、息抜きがどうとか言っていたじゃない。…い、いい機会だから、世界最高峰のお祭りを見せてあげるわ!」

 

あの時の、真っ赤な顔で視線を泳がせながら叫んでいたサンドローネの様子を思い出し、「あなた」は密かに口元を緩めた。

 

「……何考えてるのかは知らないけど、先に言っておくわ。深夜の定期船が出るまでの数時間が、今日の回れる時間よ」

 

埠頭の片隅、行き交う船乗りたちの視線を避けるように停泊した連絡船の甲板で、主人が「あなた」の表情を見ながらジト目で不機嫌そうに腕を組んでいた。

いつもの豪奢なドレスや重厚な防寒コートではなく、執行官だとバレず目立たないようにする為に用意された、薄手の生地で仕立てられた璃月風の旅装。

フード付きの外套から覗く華奢な佇まいは、一見すれば異国からやってきた良家の令嬢そのものだ。

目立ちすぎてしまう巨大人形の家族──プロンニアはお留守番させているため、いつも背後に控えている威圧感もない。

 

───すごく似合っているよ、サンドローネ。普段と雰囲気が違って、とても素敵だね

 

「…っ、な、何を変な目でジロジロ見てるのよ!こ、これは目立たないように仕方なく着替えただけよ!」

 

案の定、耳元まで赤くしてぷいっと横を向いてしまうサンドローネ。

だが、その言葉とは裏腹に、フードの奥から覗く双眸は、港のあちこちに飾られた色鮮やかな霄灯の灯りを物珍しそうに追っていた。

 

「いい?今回の目的はあくまで北国銀行の機密物資の搬出確認と…あの東洋の機械、『仙家絡繰り』とやらが組み込まれた凧の構造調査よ。祭りに浮かれに来たんじゃないんだからね」

 

───うん、分かってるよ。絡繰りの調査、付き合わせてね

 

早口で並べ立てる彼女の建前に、「あなた」は口元を緩めながら頷いた。

 

「……ふん。迷子になって、私の足を引っ張らないことね」

 

小さく鼻を鳴らし、翻る外套の裾を押さえながら、サンドローネはおずおずと「あなた」へ手を伸ばした。

そっと伸ばされたその小さな手を「あなた」が包み込むように握り返すと、彼女はふいっと視線を逸らしつつも指先をぎゅっと絡め、夕闇の迫る璃月港の街並みへと足を踏み出した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

時刻はそろそろ夜に差し掛かっているのにも関わらず、まるで昼のように明るく照らされた璃月港。

その一角、石畳の両脇には色とりどりの霄灯に照らされた屋台──「霄市」を始めとした様々な店が所狭しと軒を連ね、香ばしい煙と人々の歓声が夜気の中に立ち込めていた。

そんな中で二人が足を止めたのは、人だかりができていた一軒の絡繰り遊戯の露店だった。

盤面の上に置かれた小さなぜんまい仕掛けの絡繰り獣を手元の糸とレバーで操り、障害物を越えてゴールへと運ぶというゲームだ。

 

───へぇ…面白そうだ、ちょっとやってみてもいい?

 

「…ふーん、まあ子供騙しの玩具ね。せいぜい恥をかかないようにしなさい」

 

呆れ顔のサンドローネに見守られつつ、「あなた」はレバーを握り挑戦を開始する。

…と、意気込んではいたものの──絶妙にいびつな歯車の噛み合わせやパッと見ではわからない盤面の傾斜などに翻弄され、最後の最後で絡繰り獣はカタカタと音を立てて倒れてしまった。

 

「あちゃー!惜しかったねぇ兄ちゃん!絡繰りは力任せじゃ動かないんだぜ、残念だったねぇ!」

 

───くっ、上手くいかなかった……!

 

悔しそうにガックリと項垂れている「あなた」に、店主の悪気のないカラカラとした笑い声が突き刺さる。

すぐさま切り替えて苦笑いして引き下がろうとした「あなた」の背後で、ピキリと凍りつくような殺気が立ち込めていた。

 

「…退いてなさい、「あなた」」

 

───え?サンドローネ…?

 

「私の大(・)事(・)な助手を素人扱いしたこと……そのよく回る生意気な舌ごと、後悔させてあげるわ」

 

低い声で宣告したサンドローネは自身の外套の袖を捲り上げると、目にも留まらぬ手つきでレバーを握った。

──「あなた」が遊んでいた時の視覚情報も含めた──ぜんまいの巻き加減、盤面の微小な傾斜、機構の重心のブレ──その全てを瞬時に看破した彼女の指先が、まるで生き物のように絡繰り獣を滑らせていく。

障害物を軽やかに飛び越え、完璧な軌道で最短タイムのゴールを叩き出すこと、実に連続十数回。

 

「ま、参りましたぁぁぁ!!全部持って行っていいから、命だけはぁぁ!!」

 

手を合わせながら涙目で平伏する店主から、景品の特賞の最高級細工箱やら限定のぬいぐるみやらを両手いっぱいに抱え込まされた「あなた」の隣で、サンドローネはツンと鼻を鳴らした。

 

「フン、当然の報いよ。……私の助手を馬鹿にするなんて、百年早いわ」

 

───情けないところ見せちゃってごめん。それと、ありがとうサンドローネ。僕のために怒ってくれたんだね

 

「べっ、別に!私の名誉のためよ!勘違いしないでちょうだい!!」

 

そう言いながら真っ赤になって早足で歩き出す彼女を追いかけつつ、「あなた」は通りの甘い匂いに足を止めた。

匂いの発生源の屋台で売られていたのは、琥珀色の水飴で艶やかにコーティングされた、お祭りの定番とも言える串菓子──夕暮れの実の糖葫芦(タンフールー)*1だった。

 

───サンドローネ、これ食べない?お礼に奢るよ

 

「……甘いもの?別に、子どもじゃあるまいし…」

 

気のない返事をしてそっぽ向きつつも、チラチラと「あなた」の持つ串を見る彼女。

そんな様子を見て従者として毒味が抜けていたと気づいた「あなた」は、まずカリッと一口齧り、程よい酸味と飴の甘さに安全性を確かめてから、串を彼女の元へと差し出した。

 

───うん、すごく美味しいよ。はい、毒味は終わったからどうぞ

 

「っ!?あ、あんたが口を付けた場所じゃないの!!……な、なんて破廉恥な…っ」

 

耳元まで真っ赤にして狼狽えるサンドローネ。

しかし、目の前に漂う果実と飴の芳醇な香りに抗えず、恐る恐る、小さな唇を寄せて──パリッ、と控えめに端を齧った。

 

「(こ、こんなの…か、かか間接キスじゃないの……!!味なんてわからないわよ…!!)」

 

───どうかな?口に合うといいんだけど…

 

「……わ、悪くは、ないわね。……ほら、私はいいから残りはあんたが食べなさいよ」

 

そう言ってから尚も赤くなる頬を隠すために手をあてながら歩き出した彼女を横目に、こんなに甘いのに…と呑気に思いつつ、残りを食べ進めながら足早な彼女の背中を引き続き追いかけるのであった。

 

 

 

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他にいくつか屋台を見て回って一通り堪能し、例の凧の調査も終えて今年の目玉──獣舞劇を見るために高台へ行こうとした──その時だった。

 

「おい旅人!あっちの屋台で美味そうな肉串売ってるぞ!早く食べに行こうぜ!」

 

「もう、パイモンったら…さっきお団子食べたばかりでしょ?」

 

人混みの喧騒を抜けて聞こえてきた、以前報告で聞き覚えのある甲高い非常食*2の声と、鈴を転がすような少女の呆れ声。

反射的に視線を向けた「あなた」の視界の端に、白いドレスを翻す金髪の少女──旅人と呼ばれている栄誉騎士・蛍の姿が飛び込んできた。

 

───(っ……!?あれは…噂の旅人とパイモン……!!)

 

姿を隠しているとはいえ、「あなた」とサンドローネはファデュイの人間。

しかも、それぞれ執行官とその付き人という立場だ。

更に言えば、魔神オセルの一件で旅人は璃月で英雄という立場なのに対し、ファデュイは騒ぎを起こした元凶として現在も璃月での立場が苦しくなっている。

他の国でも英雄的活躍を見せている相手に、そんな中で見つかってしまえばどうなるか。

快く思われていないのもあって警戒され、大騒ぎになるのが目に見えている。

最悪の場合、国際問題に発展するやもしれない…

 

咄嗟の判断で、「あなた」は隣にいたサンドローネの華奢な手首を掴むと、近くにあった民家と蔵の間の細い隙間──薄暗い路地裏へと引き込んだ。

 

「きゃっ……!?ちょっ、何を──」

 

───しーっ……!静かに、サンドローネ……!!

 

壁に背を預けさせられたサンドローネを、「あなた」が全身ですっぽりと包み隠すような体勢になる。

二人の距離は、吐息が触れ合いそうなほど完全なゼロ距離だった。

傍から見れば、完全に路地裏に隠れて逢瀬を重ねているカップルそのもののようだ。

 

「…っ……!!」

 

狭い路地裏の暗がりの中、耳元で響く「あなた」の低い囁き声と、胸元から伝わる生々しい体温。

サンドローネは目を見開いたままカァッと顔を赤くし、暴れそうになるのを必死に堪えて凍り付いている。

少し経つと、二人のすぐ目と鼻の先の通りを呑気に屋台へと小走りで向かうパイモンと、それを苦笑いしながら追いかける金髪の少女の影が通り過ぎていく。

その足音が完全に遠ざかるのを見届けてから、「あなた」は安堵の息を吐き出した。

 

───ふぅ……危なかった…。まさか、こんなところでかの旅人と鉢合わせそうになるとは…

 

「……いつまで、この体勢でいる気よ……っ、バカ「あなた」……!!」

 

胸元から聞こえた、消え入りそうな抗議の声。

ハッと遅れて気付いた「あなた」が腕を解くと、サンドローネは頭から湯気が出そうなほど真っ赤になりそれを隠すように外套のフードを深く被り直した。

 

「…ま、まあ?「あなた」にしては気が利くじゃない。……人混みはもういいわよ。……もっと、静かな場所へ行くわ」

 

暫くして落ち着いたサンドローネは、そう言って「あなた」の手を今度は自分からギュッと強く引き、二人は大通りの喧騒を避けるように、見晴らしの良い高台へと足を向けたのだった。

 

 

 

 

「…?旅人、どうしたんだ?どこを見てるんだ?」

 

「……ううん、なんでもないよパイモン。行こっか」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

港を一望できる高台の欄干。

人目を避けながら獣舞劇会場を見下ろせるそこに着いた二人の手元には、途中の露店で手に入れた小さな二つの「霄灯」が置かれている。

 

眼下の広場からは、ドンドンと腹に響くような勇壮な太鼓と銅鑼の音が璃月港中に響き渡っていた。

高く組まれた足場の上を、鮮やかな獣の頭を掲げた演者が軽やかに跳躍し、夜空へ火花を散らす。

観客から上がる地鳴りのような歓声。

二人はその華やかな祝祭の熱狂を、遠い特等席から静かに見下ろしていた。

 

「ふーん、話に聞いていたより派手に跳び回るものなのね…。舞台装置に重心の制御と足場の反動利用は見事なものだけど……あんなもの、機巧の補助があるなら誰だってできるわ」

 

相変わらず憎まれ口を叩きつつも、サンドローネの目はどこか満足そうにその光景を追っている。

そこには言葉とは裏腹に、今この時間を楽しんでいるように「あなた」には見えた。

ふと、手元の霄灯を見つめた「あなた」が口を開く。

 

───そういえば以前調べた時に知ったんだけど…海灯祭の霄灯は、英雄の魂を空へ導くためのものなんだって

 

「……英雄、ね」

 

遠くで獣舞劇がひときわ高い足場へと飛び移り、金色の火花がパチパチと夜空に散る。

その灯火に照らされたサンドローネの横顔が、ふっと物憂げに翳った。

 

「あいつ──ロザリンが英雄だったかなんて、私には分からないけれど。……あの吹雪の中の葬送の日、オデットがあんたの前でだけ、ま(・)る(・)で(・)普(・)通(・)の(・)子(・)ど(・)も(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)ボ(・)ロ(・)ボ(・)ロ(・)泣(・)き(・)じ(・)ゃ(・)く(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)のを思い出すわ」

 

思い返すは、ファデュイの稲妻での活動があった時のこと。

「召使」や「あなた」が間に入らなければ、永遠にすれ違いのまま憎しみすら抱えていたはずの二人。

それらが解消されまっすぐに悲しむことができたからこそ、オデットは救われ、そしてそのきっかけを作ってくれた「あなた」へと深く心を寄せるようになったのだと、サンドローネは静かに語る。

 

───……そう、だったね

 

「「あなた」…?」

 

獣舞劇の太鼓の音が一層大きく響いてから、手元の霄灯にそっと触れつつそう言葉を零す「あなた」。

その脳裏に浮かんだのは、あの時フォンテーヌで気高くも切ない姿を見せていたロザリン。

お互い忙しいこともあって、あれから殆ど会えていなかった。

 

あの姿を、もう見られない──。

葬送の時に強く実感して時間をかけて切り替えたはずなのだが…いざこうして思い返すと、当時の悲しさまで蘇ってくると、「あなた」は改めて痛感した。

 

───……ロザリン様も、きっと空から見守ってくれていたらいいね

 

「……!」

 

手元の霄灯をそっと撫でながら、少しだけ寂しそうにサンドローネの方を向いて、ふっと柔らかく微笑む「あなた」。

どこか遠くを見つめるような、切なくも温かいその笑顔──。

 

それを見たサンドローネの瞳が、かすかに揺れた。

 

獣舞劇が終幕に向かっているのか大きな太鼓の音が何度も響き渡る中、彼女はおずおずと、けれど迷いのない手つきで「あなた」の頬へ両手を添えた。

少し冷たい、けれど驚くほど繊細で柔らかな指先。

 

───サンドローネ……?

 

「……バカね」

 

いつもの嘲弄するような響きは、そこには微塵もなかった。

壊れ物に触れるような慈しみと、深い安らぎを宿した声。

そのまま、抵抗する隙も与えずに──サンドローネは「あなた」の頭を、己の胸元へと優しく抱き寄せた。

 

トクトクと刻まれる、彼女の静かな鼓動。

外套越しに伝わる柔らかな温もりが、「あなた」の冷えた頬をじんわりと包み込んでいく。

それは幼子をあやす母親のような、絶対的な庇護の温もりだった。

獣舞劇が終わり、明るさに反して音が静かになったこの璃月港で、主人の言葉が優しく響いた。

 

「……大丈夫よ、心配する事なんてないわ」

 

「あなた」の耳元で囁かれる、震えるほど真摯な言葉。

 

「……来年も、再来年も。ずっと私の隣にいなさい。……これは主人の命令よ」

 

慈愛の表情を浮かべて「あなた」の頭を優しい手つきで撫でながら、サンドローネはそう言葉を続けた。

暫くして落ち着いてから、二人は願いを込めて霄灯を打ち上げるのだった。

どのような願いを込めたかは、二人のみぞ知る──。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

満天の光の海を見送った後、遠くの埠頭から小さく響いたのは、深夜便の出港を告げる定期船の汽笛だった。

 

「ほら、船が出るわ。……さっさと戻るわよ、「あなた」」

 

フードの奥で小さく呟き、いつもの早足で歩き出すサンドローネ。

だが──宵闇に紛れて繋ぎ直された小さな手の温もりだけは、極寒のスネージナヤへと戻る船の甲板に立つまで、決して離されることはなかった。

 

*1:
中国での名称にしただけのリンゴ飴の事。

*2:
本人がそう言っていたんだ!by報告者




「傀儡」→母性爆発。なぜか毎回不憫な目に遭うのが似合いすぎているから、こういうのも似合うと知ってほしかったんだ…

「あなた」→少しセンチメンタルになった。ちなみに「あなた」はロザリンのやった事を細かくは知らされていません

旅人・パイモン→何気に本作で初登場。この世界では妹の方が旅をしている


9月中なら多めに書けると思ったのに、気づいたらもう過ぎてしまっていた件( ;∀;)
時間がいくらあっても足りないぜ…というか自分の分身が5人くらい欲しい…

それと、ちょっと今回設定甘いところあるかもしれません。
もしあったらごめんなさい…

今後の話(あるいは番外編みたいなもの)での指標として。「あなた」は本編ストーリー(魔神任務)に出てもいいのか?(あくまでも参考にするだけなので、票数次第ではあるものの実際に書くかどうかはまだ考えさせてください。)

  • イッテイイヨー!(作者好み展開かも)
  • シリアスなのはダメ!死刑!
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