あの中でサンドローネが昔遊んでたハノイの塔というゲーム、皆さんは何手でクリアしましたか?
自分は…散々やり直しといて55手もかかりましたw
31手が最短らしいですね。
それでも優しくフォローしつつ褒めてくれるサンドローネ好き…
テイワット大陸で今、若者を中心に爆発的な流行を見せている娯楽がある。
稲妻の「八重堂」という出版社から発行されている、一般的なそれとは一風変わった娯楽小説───通称、ライトノベル。
「落ちこぼれだった自分が○○で成り上がる」や「最強の能力で無双する」「転生したら○○になった」だの、奇想天外なタイトルと子どものロマンをこれでもかと詰め込んだ刺激的な内容は、一度読めば国境を越えて読者の心を掴んで離さない。
だが現在、稲妻は「鎖国令」の真っ最中。
雷神の雷によって海は閉ざされ、一般の商人が国から本の一冊を持ち出すことすら本来は不可能なはずだった。
そう、「本来なら」の話である。
───ふおおぉぉぉぉ……!!!
仕事がいつもより早く終わったある日、自室にて。
今「あなた」の目の前にあるのは、本来稲妻でしか入手が不可能なライトノベルの数々である。
「ハマヴァラーン戦記」、「亡国の美奈姫」、「お願いっ!私の仙狐宮司」、「逢魔降臨歴」などなど…
様々なタイトルの本が、「あなた」の自室の小さなテーブルから溢れそうなほどに置かれている。
そして、その中でも特に「あなた」の視線を釘付けにして離さない一冊の本が、「あなた」の手にあった。
───こ、これが…!かの有名な、「雷電将軍に転生したら、天下無敵になった」…!!
すっ、げぇ……
そう、それこそが現在八重堂で最も売れているという伝説の傑作であった。
ファデュイは各地に潜入をしている。
その隠密部隊が調査報告の為に報告書や添え物を本国スネージナヤに送る際、そのまま送るとすぐにバレてしまう。
しかしその本命を隠しつつ、カモフラージュとして多数の現地の物を上に見せるように入れて送ることはそう珍しいことではない。
そんなカモフラージュの緩衝材代わりとして報告書に紛れ込ませた小説が、気づけばこのスネージナヤにおいて少しながらブームとなっていたのだ。
「あなた」もそれに感化された一人であり、見事にも男のロマンというものを直撃されたのである。
───どれどれ……ほほう、これはこれは……。おぉ…か、かっこいい~!惚れちゃいそうだぜぇ!
生まれて初めて、技術書などの一般的な本とは別の本を読んだ「あなた」。
そんな「あなた」にとって、この小説はまさに電流が走るが如く全身に漲る何かを強く感じたのだ。
───ふぅ~…面白かった…!世の中にはこんな本もあるのか……
パタンと本を閉じ、大きな一息と共に満足感と余韻に浸る「あなた」。
余程面白かったというのが一目でわかるくらいに、「あなた」はどこか晴れ晴れとした爽やかな顔で自室の椅子に深く腰を下ろした。
主人のサンドローネに拾われてからは、彼女に恩を返すために必死に努力をしてついていこうと研鑽を続けていた毎日だった為、当然自身で作る以外のこのような娯楽とは殆ど無縁だった。
───……あの刀、それっぽいのなら再現できそうだなぁ…ハッ!?
思わず口を突いて出たその独り言に、「あなた」はハッと我に返った。
技術者、あるいは主人である人形師の助手としての性だろうか。
小説に登場する天下無敵の得物の構造を、脳内で勝手に設計・再現しようとしていたのだ。
普通なら「楽しかった」で終わる。
だが、「あなた」は執行官「傀儡」の唯一無二の助手。
それを実現できてしまう最高峰の技術と、研究室や自室に置いてある
一度湧き出た創作意欲と男のロマンの熱は、最早誰にも止められないのだ。
───よし…!どうせなら刀だけじゃなく、あの衣装や装飾も、全部本気で再現してやろう…!!
そうと決まった「あなた」の行動は迅速だった。
いつも主人に褒められる手際の良さを120%の無駄遣いで発揮し、寝食を忘れて自室に引き籠り、工作へと没頭し出したのだ。
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───完璧だ…!ふっふっふ…これならいける、いけるぞ…!僕は今、究極のパワーを手に入れたのだ!!
それから数日後。
段ボールなどの安っぽいものではなく、へたな市販品すら超え得るレベルで無駄に質の高い、なんなら光沢すら見えるほどにガチなフルセットの衣装と刀が、ついに完成してしまったのだ。
すっかり冷めるどころかなおも胸のロマンを熱く燃え滾らせ、そこに徹夜による深夜テンションも相まって限界突破した中二病の状態のまま、「あなた」はそのフル装備を身に纏い意気揚々とサンドローネの待つ研究室の扉を開けるのだった。
───おっはようございま~す!
「あら、今日は元気いいわね。何かあっ………、た、ようね…?」
「あなた」に振り向きながら挨拶を返したサンドローネが、ギョッとまるで変人を見るかのように表情が固まり、途切れ途切れに言葉を繋げる。
───フッ、驚くのも無理はありません。ですが驚くのはまだ早いですよ、サンドローネ!
刮目せよ、これこそが秘奥義、私の真の力───!
バシッと刀の柄に手をかけ、ハイテンションのまま完璧に「雷電将軍の夢想の一太刀」のポーズを決めて見せる「あなた」。
だが、サンドローネの反応は冷たいを通り越して、冷酷そのものだった。
意気揚々と倒しに向かい追い詰めたと思った相手が実はまだ変身を残していて、少し力を解放しただけであっさりボコボコにされるかのように……「あなた」の目の前に立つ主人の瞳からは一切の感情が消え失せていた。
「……何それ。気持ち悪いから早く着替えて、作業の邪魔よ」
ズバッ!!、と。
ただの一蹴どころか、この世の終わりのようなガチのゴミを見る目と容赦のない一言が、「あなた」の胸に深く突き刺さった。
───き、きもちわ……っ!!?
哀れなり、究極のパワーを手に入れたはずの「あなた」のプライドや先程までの熱は、一瞬にして消し飛んでいった。
全身に漲っていた全能感は霧散し、限界突破していた深夜テンションがまるで冷や水をぶっかけられたように、急速に氷点下へと冷え切っていく。
───ご、ごめんなさい…。すぐ着替えます……
ガーン、と特大の
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───冷静に考えてみれば当たり前だったな…。仕事場にコスプレして向かうとか、普通に正気の沙汰じゃないなそりゃ……深夜テンションって怖いな~
その後は切り替えて通常通りに仕事を終えて退勤中、ふと朝の所業を落ち着いて振り返る「あなた」。
コスプレをする事が仕事である場合はともかく、通常は痛い行動と取られても何も言う事ができない程のものだ。
それを「あなた」は冷えた頭で漸く理解したのだった。
───それに…今思えば努力家のサンドローネにとって、あーいう作品は好きじゃないだろうしな…。
彼女が日々どれほど真摯に技術と向き合っているかを知っているからこそ、安易な最強能力で無双するお話を仕事場に持ち込んだ自分が、余計に恥ずかしく思えてくる。
───……よし。この刀と衣装は、今日中に自室のクローゼットの奥深くに完全封印しよう!
「あなた」はそう心に誓い、着替え時にしまい忘れていたコスプレの刀を持って重い溜息をつきながらファデュイの宿舎の廊下を歩いていた、その時だった。
「ハッ!?そ、その手に持っているのは…まさかあの小説の将軍の武器「夢想の一太刀」……!?」
唐突に背後から驚愕に震える声で「あなた」は呼び止められた。
驚いて振り返ると、そこにいたのはファデュイの先遣隊員姿の兵の人だった。
彼は、「あなた」の手にある刀を血眼で見つめている。
───え?あ、はい。稲妻の八重堂の小説のですけど……
「ど、同志よ……!やはりそうか!実は私も、潜入部隊の報告書に紛れていたあの本を読んで以来、夜も眠れぬほど虜になってしまってな…!しかし、周りの奴らは誰もこの素晴らしさを理解してくれないのだ…!!」
───ええっ!あなたもですか!?
地獄にも仏とは、まさにこのことだろう。
朝一番に主人から致命傷を負わされ、誰にも言えず孤独に爆死していた「あなた」の中二病の魂が、まさかの同僚の登場によって奇跡の蘇生を果たした瞬間だった。
話を聞けば、彼は「少女」コロンビーナの部下らしい。
ここ最近は指示や任務がなくて暇を持て余していたらしく、「あなた」と同じく『雷電将軍に転生したら、天下無敵になった』に大ハマりしたという、筋金入りの同志だったのだ。
───実は僕、勢い余って衣装と刀までガチで作っちゃったんですよ……
「な、何だと……!?す、素晴らしい!頼む!もし時間があるのなら私にそれを見せてくれ!いや、なんなら私を君の『
こうして、仕事場ではラノベの「ラ」の字も出さなくなった「あなた」だったが。
仕事終わりの日の沈んだ夜の時間だけは、宿舎の裏庭や空き部屋である時には将軍に、またある時には自身が従者役になりきってコロンビーナの部下と共に楽しそうにごっこ遊びをするという、秘密の同好会をするようになっていくのだった。
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「(……不自然ね、「あなた」からの口数が少ない気がする…)」
それから暫く経ったある日の研究室。
いつもなら「ここの配列ってどんな風に考えて組んでますか?」とか「さすがサンドローネ!」などと、まるで犬のように尻尾を振って必要以上に話しかけてくるはずの「あなた」が、ここ最近はやけに静かだった。
仕事は完璧、こちらの指示への返事と手際の良さは変わらず一級品。
だが、必要最低限の業務連絡が終わるとサッと自分の作業に戻ってしまう。
なんなら、終わり際になるとどこかソワソワと落ち着かない雰囲気でいる様子も見られたのだ。
思い返すと、朝一番に変な格好をしていた次の日からそうだった。
「気持ち悪い」と言い放ってしまった手前、自分から「あの小説はどうしたの?」と聞くのはプライドが邪魔をする。
だが、普段とまるで似つかないこの余計な私情を挟まないサッパリとした「あなた」の態度は、サンドローネにとって恐怖以外の何物でもなかった。
「(…まさか、本当に嫌われた……?私が一蹴しちゃったから?私の癇癪に愛想を尽かして、どこかへ行っちゃうの……!?)」
「あなた」の事を全く信頼していないというわけではないが、それでも一度膨らんだ不安は止まらない。
ついに耐えかねたサンドローネはある日の仕事終わり、宿舎へと帰る「あなた」の背中を、プロンニアを伴ってこっそりと尾行することにしたのだ。
──そして、宿舎の裏手にある寂れた空き部屋の前。
漏れ聞こえてくる声に、サンドローネは物陰から顔をチラッと覗かせると、その光景にパッと目を見開いた。
───ええ、よくやりましたね。貴方の忠義、しかと受け取りました
「ははっ!!将軍様!この先遣隊、どこまでもお供いたしまする!」
部屋には、例の朝に披露していた自作のガチ衣装をバシッと着こなし、刀を携えてノリノリで将軍を演じている「あなた」と、その前に跪いて全力で家臣になりきっている先遣隊員の姿があった。
「な…………っ!!?」
「いた。それにサンドローネも」
「は…っ!コ、コロンビーナ…!?」
「シーッ…見つかっちゃうよ」
突然の登場に声が大きくなりそうなサンドローネの口元に指をあてながら、静かにするように促すコロンビーナ。
「は、離しなさい…!貴女、なんでここにいるのよ…」
「ん?お散歩してたら、私によく話しかけてくる人の声が聞こえたからだよ。…へえ、あれがサンドローネの助手くん?」
「っ……」
知られた。知られてしまった。
遅かれ早かれ紹介するつもりではあったものの、いつか自分が主導で「これが私の助手よ」と誇らしげに引き合わせるはずだった計画が、無残に打ち砕かれた瞬間だった。
「最近なんか嬉しそうだなと思ったら、あんなに仲良しで遊んでいたんだね。主従ごっこ、だっけ?楽しそうだね」
その瞳はアイマスクもあって塞いでいる事に変わりはないものの、コロンビーナは部屋の中を楽しそうに見つめている。
その際の言葉一つ一つが、サンドローネの独占欲にギリギリと突き刺さった。
「仲良しなんかじゃないわよ……!わ、私の助手が、なんであんたの部下なんかと……っ」
「じゃあ、私が代わりにあの子の『お付き役』になろうかな。そしたら助手くん、もっと可愛い笑顔を私に見せてくれるかも」
「は、はあああぁぁぁ!!?ななな何を言っているのよ馬鹿じゃないの!?ああ、あんたが助手の従者になれるわけないでしょ!!」
「じゃあ、サンドローネがやればいいのに。あの子、前の朝はサンドローネに見せたくてあの格好していたんでしょ?ふふ、可愛いのにね」
ふわふわとした口調で、核心をズバズバと突いてくる同僚。
自身の最悪なツンのせいで「あなた」を傷つけ、その結果「あなた」は自分の前では笑わなくなり、他の人の前で楽しそうにしている。
激しい後悔。そして、コロンビーナの言葉に対する強烈な対抗心。
「(違う、「あなた」は私の助手よ…!私の隣にいるべき存在よ……!!あんな下っ端やコロンビーナに従者をやらせるくらいなら──私が、私の総力を持って、完璧な従者になってやるわよ!!)」
それらが激しい元素反応を起こし、ついに天才技師としての意地と一人の少女としての独占欲と覚悟が、完全に間違った方向へと舵を切った瞬間であった。
「フン、もういいわ!帰るわよ、プロンニア!」
「あ、行っちゃった。………頑張ってね。助手くん、サンドローネ」
プイッと怒りのままに足早に立ち去るサンドローネの背中を、コロンビーナはどこか楽しげに見送るのだった。
「稲妻の着物って、他の布とこんなに違うのね……って、ああ!飾りの位置を間違えた!!ええっと、確かこのページでは……あーもう!!何をしているのよ私は~~!!」
───そして、その日の夜。
「あなた」がいない研究室には寝食を忘れて一心不乱にミシンを走らせ、あらゆるコネを使って取り寄せた最高級の布地を裁断し、稲妻の『将軍の側近』*1の衣装をミリ単位の狂いもなく徹夜で自作する、一人の執行官の猛烈な姿があった。
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───おはようございま~す……あれ、サンドローネ?いないのかな…
朝。
いつもなら既に座っているはずの主人の姿がなく、連絡用のマシナリーさえいないことに「あなた」が不思議そうに首を傾げたその時。
カツン、と研究室の奥から、いつもとは違う凛とした靴音が響いた。
「……うるさいわね。ここにいるわよ」
そう言いながらカーテンを割って現れたのは、あらゆる意味で「完全無欠」な衣装を身に纏った主人だった。
「雷電将軍に転生したら、天下無敵になった」に将軍の側近として登場した、赤いお面と背中から生えている烏天狗の黒翼が大きな特徴の装束をミリ単位の狂いもなく完璧に着こなし、しかしその顔は耳の裏まで真っ赤に染め上げている。
目の前の光景の美しさと、あまりの状況の理解できなさに、今度は「あなた」の思考モジュールがフリーズした。
───さ、サンドローネ……!?その格好は、一体……
「……っ、み、見れば分かるでしょ!?あんたが他の奴とあんな泥臭いごっこ遊びをするくらいなら、私が完璧に相手してあげるって言っているのよ!」
普段の衣装とはまるで違う形の服や装飾というのもあって、限界をとっくに超えている恥ずかしさとプライドの狭間で、涙目でそっぽを向きながら「あなた」の服の裾をギュッと掴むサンドローネ。
そして今にも消え入りそうな声で、しかし絶対に拒否を許さない強い眼差しを下から向けてきた。
「……ほら、何か命令しなさいよ…!」
徹夜明けの天才技師による、プライドを脱ぎ捨てた最高級の「ごっこ遊び」第二弾が、今ここに開幕するのだった。
この後どうしたかは、皆様の想像にお任せします────。