〇試合形式(BO3 / 2本先取・3ゲーム制)
1対1の格闘戦において、先に2ゲームを先取したアスリートライダーライダーが、そのマッチの最終勝者(MATCH SET)となる「BO3(Best of 3)」形式を採用。
―――――
《1ラウンド(Round)》(時間制限:90秒)
相手のHPをゼロにさせると「1本(Round Win)」
※HPがゼロになっても、装甲エネルギーが一時停止するだけで、変身は解除されない。
▼(2本先取)
『1ゲーム(Game)』⇒「1勝(Game Win)」
▼(BO3:2ゲーム先取)
『試合終了(MATCH SET)』
―――――
〇各ラウンド(Round)とゲーム(Game)の勝敗条件
1つのラウンドは、以下の条件を満たした時点で決着(Round Win)となる。
・ラウンド(Round)の勝利条件:相手ライダーのHPの完全消失
相手のHP(装甲耐久値)をゼロにする。HPがゼロになったライダーはそのラウンドを落とすが、変身は解除されない。インターバル(30秒)を経て、装甲エネルギーがリセットされた状態で次のラウンドへ移行する。
・ゲーム(Game)の勝敗条件:ラウンドを2本先取
先に2つのラウンドを制した(相手のHPを2回ゼロにした)ライダーが、その1ゲームを獲得する。
―――――
〇特殊勝利条件:TKO(テクニカルノックアウト)
本競技における最も過酷かつ逆転性の高い独自ルール。
どれだけゲーム数やラウンド数でリードされていようとも、以下の条件が満たされた場合、全てのスコアを無視して『TKOによるマッチ全体の即時勝利』が成立する。
・強制変身解除(System Crash):
オリンピアドライバーのコア、またはアスリート自身の肉体に、システムの許容上限を超える過度なクリティカルダメージを受けた場合、安全装置が強制起動しその場で変身が完全解除される。変身解除はアスリートの肉体が限界を迎えたサインであり、パブリック・ドローンは即座に試合をストップ。どれだけポイントや残HPで負けていても、変身解除に追い込んだ側のライダーが『TKO勝ち』として最終勝者に認定される。
―――――
〇特殊システム
・
画面上部、HPバーの直下に表示されるリアルタイム投資熱量ゲージ。
・インデックス・ドライブ:
観客を魅了する美しい足技や情熱的なエゴを示すことでゲージがMAXになり、一時的な超加速・攻撃力バフ状態が発動する。
・エリア・リバウンド
ドローンが展開するグリッドバリアの境界線。壁に接触すると電撃による追加ダメージが発生。ここへ相手を追い詰め、強烈な一撃を叩き込むことで、HPを削るだけでなく強制変身解除を狙うための布石となる。
―――――
〇反則とペナルティ
・イエローカード(WARNING):
過度なラフプレイや遅延行為に対して提示。該当ラウンド中、移動速度が20%低下するデバフが発生する。
・レッドカード(DISQUALIFICATION):
非人道的な反則行為。その場で『即時失格』となり、不戦敗扱いとなる。
――地鳴り。
あるいは、スタジアムそのものが巨大な生き物のように歓喜の咆哮を上げている。
そんな錯覚に陥るほどの圧倒的な大歓声が、雲一つない青空へと突き抜けていた。
『さあ、世界中のアスリートファンの皆様!大変長らくお待たせいたしました!IOF公式交流大会、記念すべき開幕第1戦――日本代表VSイタリア代表のマッチが、ここ、超満員のメガ・スタジアムでいよいよ開始されます!!』
スタジアムの全方位に設置された巨大スピーカーから、実況アナウンサーの興奮しきった声が響き渡る。
客席は、日本の日の丸を掲げた赤と白の波、そしてイタリアのナショナルカラーである赤と白と緑の旗によって完全に二分されていた。
上空でホバリングする数十機のIOF公式パブリック・ドローンが一斉にフラッシュを放ち、フィールドの空中へ、光り輝く巨大な青いホログラムスクリーンを展開した。
そこに表示されたのは、格闘ゲームの大会を彷彿とさせる、冷徹かつ洗練されたユーザーインターフェースだった。
―――――
【IOF OFFICIAL TOURNAMENT:MATCH 01】
試合形式:BO3(Best of 3 / 2ゲーム先取制)
勝利条件:1ダウン2本先取で1ゲーム獲得
獲得条件:HP完全消失で1ダウン
特殊勝利条件:過度なダメージによる強制変身解除は強制敗北(TKO)
―――――
『画面に表示されました通り、本日の公式戦は『BO3』形式!先に2ゲームを獲得したアスリートライダーが勝者となります!さらに、今大会から導入された戦慄の『TKOシステム』!いかなるポイント状況であろうとも、システムクラッシュによる強制変身解除に追い込まれたアスリートライダーは、その時点で即座にマッチ全体の敗北が決定します!』
実況の声に合わせて、観客席のボルテージがさらに跳ね上がる。
フィールドの中央、白線で引かれたセンターサークルを挟んで、二人の男が対峙していた。
日本代表のユニフォームに身を包み、緊張でわずかに肩を硬くしながらも、その瞳に泥臭くても一歩前へ進むという不屈の光を宿した速水駆。
対するは、オーダーメイドの高級スポーツウェアを完璧に着こなし、世界の富と名声を一身に背負ったイタリアの天才、マルコ・ロッシ。
「チャオ、ハヤミ」
マルコは詰めかけた数万人のファン、そしてドローンの向こうにいる数億人の視聴者に向けて、トレードマークである『完璧な聖人』の微笑みを振りまきながら、小さく手を振った。
だが、すれ違いざま、彼の美しい翠色の瞳――『神の瞳』が、駆の右足首を冷酷に見据えた。
「前乗りのレセプションでは、ずいぶんとオシャレじゃないアドリブを入れてくれたね。ボクの完璧なゲームメイクに泥を塗った罪は重いよ?ルーキーくん」
周囲の歓声に掻き消されるほどの極小の声。しかし、その声には、陽気なメロディの中に底知れない狂気的な支配欲がギラギラと脈打っていた。
「ボクが世界最高の
「……マルコさん」
駆はごくりと息を呑み、自身のオリンピアドライバーのグリップを強く握った。
(分かってる……。この人は、前のファールなんかより、ずっと恐ろしいプロの格闘アスリートだ。でも、僕には、織田さんと五代さんがついてる……!)
駆は視線をセコンド席へと向けた。そこには、タブレットを抱えて必死にデータをチェックしている輪と、腕を組んで微動だにせず、鋭い眼光でピッチを見つめる織田の姿があった。
織田が短く、しかし深く、駆に向けて頷く。
(耐えて、軸を意識して、隙を突く――よし!)
覚悟を決めた駆が、ポケットから眩い輝きを放つ、共通の金色のアスリートメダルを取り出した。同時に、マルコもまた、同じく金色に輝くアスリートメダルを指先で弄ぶ。
二人の手が、同時に腰のオリンピアドライバーの中央スロットへとメダルを滑り込ませた。
《On your marks》
《Kick off》
「変身……ッ!!」
「
二人の声が重なった。同時に、右側のレバーを力強く、一直線に引き絞る。
《START DASH!!!! Athlete Rider DAShhhh!!!!》
《KICK AND GO!!!! Athlete Rider REGISTaaaa!!!!》
光の中から現れたのは、真紅のラインが走る純白の装甲を纏った仮面ライダーダッシュ。そして白と緑を基調とし、胸元には黄金メダルが刻まれた仮面ライダーレジスタ。
両者の頭上に、ホログラムの『HPバー』と『インデックス・ゲージ』がパッと展開され、まるで格闘ゲームの対戦画面が現実のフィールドへと構築された。
上空のドローンから、試合開始を告げる鋭い電子ホイッスルがスタジアム中に鳴り響く。
『さあ! 運命の第1ゲーム、第1ラウンド――レディ・ゴー!!!』
試合開始の電子ホイッスルがスタジアムの空気を切り裂いた瞬間、ダッシュの脚部装甲が爆発的な火花を散らした。スプリンタースタイル。その最大の武器は、一瞬で
「ハァッ!!」
「ノンノン。格闘ゲームでもスポーツでも、初手のぶっぱなしは悪手だよ?」
レジスタは、迫り来るダッシュの超高速のベクトルをバイザーの奥の『神の瞳』で完璧に感知していた。
ダッシュの拳がその顔面に届くわずか数ミリ前。レジスタは自身の軸足をピタッとピッチの芝生に固定したまま、上半身を滑らかに背後へ反らせるスウェーバックだけでそれを完全に回避した。
「なっ――!?」
「はい、ボクの
空を切ったダッシュのパンチの硬直を見逃さず、レジスタの右脚が鞭のようにしなった。目にも留まらぬ速さのローキックが、ダッシュの軸足を正確に捉える。
「うわっ!?」
加速のバランスを完全に崩され、ダッシュの巨体が芝生の上を無様に転がった。それと同時に、ダッシュの頭上に浮かぶHPバーがカツンと削れ、画面上部のインデックス・ゲージが不穏に点滅する。
『レジスタ選手、完璧な見切り!ダッシュの超高速突撃を紙一重でかわし、流れるようなローキックでファーストダウンを奪いました!世界中の視聴者たちのインデックスが一気にレジスタへと傾いていくー!!』
スタジアムの巨大モニターに、レジスタの華麗なステップのストリーミング映像がリピート再生される。客席のレジスタのサポーターから割れんばかりの大歓声が湧き起こった。
「くそっ……!」
ダッシュはすぐに立ち上がり、今度はジグザグにステップを踏みながら翻弄を試みる。陸上のトラックとは違う、障害物のない、しかし横幅の決まった広大なフィールド。
だが、駆が右へステップを踏もうとした瞬間、レジスタの身体はすでにその先へ移動していた。
「そっちじゃないよ」
完璧なタイミングで置き去りにされた前蹴りが、ダッシュの腹部を正確に撃ち抜く。
「がはっ……!?」
「はい、次。今度は左に行きたいよね? わかるよ、視線と体幹の傾きで全部丸見えさ」
体勢を崩したダッシュの顔面へ、レジスタの鮮やかな回し蹴りが炸裂する。
それは、まさに完璧にコントロールされたハメ技だった。
ダッシュが次に取るべき行動、走るルート、回避の方向を、レジスタは自身の戦術眼ですべて先読みし、サッカーのインターセプトのように先回りして攻撃を置いているのだ。
殴ろうとしてもかわされ、走ろうとしても足を刈られる。ダッシュのHPは一方的に、しかし確実に削られていく。
*
「うそ……何これ……っ!速水くんの攻撃命中率、完全に0%……!」
輪が抱えたタブレットの画面には、無残な折れ線グラフが表示されていた。ダッシュのインデックス数値は右肩下がりに暴落し、逆にレジスタの数値は天井知らずに跳ね上がり続けている。
「相手の動きが完璧すぎるのよ!速水くんの初速の瞬間をミリ秒単位で予測して、全部潰されてる!これじゃ格闘ゲームの完璧なハメコンボよ……壁際に追い詰められたら本当に終わっちゃう……!」
青ざめる輪。
だが、その隣で腕を組んだままピッチを睨みつけている織田の眼光だけは、微塵も衰えていなかった。
「……焦るな、五代。速水のHPは削られているが、オリンピアドライバーへの直撃は避けられている。まだだ。速水の肉体には、この前の蓮見との特訓で『軸』が通っている。あいつの誠実なエゴは、これくらいじゃ折れん」
「さあハヤミ!
レジスタの陽気な声とともに、目にも留まらぬ速さの連続ローキックがダッシュの両脚を襲う。
「うわぁぁぁっ!?」
防戦一方のダッシュは、弾かれるように後退を余儀なくされる。しかし、背後に下がったその瞬間、ダッシュの背装甲にバチバチと激しい青い火花が爆ぜた。
「あぐっ……あぁぁぁっ!?」
全身を貫く激しい電撃。背後にあったのは、パブリック・ドローンが展開する電磁境界線――『エリア・リバウンド』だった。
「しまった、画面端に捕まった……!」
壁からの激しい反発電撃で硬直するダッシュ。その目の前で、レジスタはニカッと完璧な勝者の笑顔を浮かべ、自身の右脚を限界まで後ろに引き絞った。アズーリの莫大なエネルギーがその足先に収束し、スタジアムに大歓声のファンファーレが鳴り響く。
「これでゲームセットだ! 画面映えを意識した、最高のボレーをあげるよ!」
レジスタの身体が軽やかに宙を舞う。画面端に追い詰められ、電撃で身動きの取れないダッシュの脳天へ向けて、レジスタの必殺のオーバーヘッドキックが襲いかかった。
スタジアムを揺るがす大爆発。
ダッシュのHPバーは一瞬で完全にゼロになり、警告音とともに赤い『DOWN』の文字がホログラムで空中へ大きく叩きつけられた。
『決まったァァァー!!! 第1ゲーム・第1ラウンド!イタリア代表・仮面ライダーレジスタ、圧倒的な画面端の連続攻撃によるノックアウトで見事に1本先取!!日本代表のダッシュ、手も足も出ないまま最初のラウンドを落としました!!』
爆煙の中から、膝をつき、激しく肩で息をするダッシュの姿が現れる。
幸い、HPがゼロになっただけでは強制変身解除には至らない。インターバルのカウントダウンが始まる中、駆は変身を維持したまま、じりじりと焼けるような悔しさとレジスタの圧倒的な強さに、ただ圧倒されていた。
無情な電子ホイッスルが鳴り響き、インターバルは終了した。
システムによってダッシュのHPが100%へとリセットされる。しかし、一度刻まれた「手も足も出ずに倒された」という圧倒的な実力差の恐怖は、自動ではリセットされなかった。
「さあハヤミ、泣いても笑ってもこれが最後のゲームだよ。次でキミのその安物の心、
対峙するレジスタの言葉は、単なる脅しではなかった。
新規則である『TKOシステム』。どれだけHPをリセットしようとも、肉体やドライバーの限界を超える過度なクリティカルダメージを蓄積させられれば、その時点で変身は強制解除され、試合全体の敗北が決まる。マルコのバイザーの奥の『神の瞳』は、すでにダッシュの右足首の
『さあ! 運命の第1ゲーム、第2ラウンド――レディ・ゴー!!!』
実況の声と同時に、レジスタが爆発的なステップで肉薄する。
速い。第1ゲームを遥かに凌駕するトップスピード。レジスタは「早く終わらせて夜のパーティーに行きたいんだ」と言わんばかりの超陽気な鼻歌を交じえながら、鋭いミドルキックをダッシュの脇腹へ叩き込んできた。
「うぐっ……!?」
辛うじてガードしたダッシュの腕装甲が悲鳴を上げる。重い。ただの足技ではない。全世界からのインデックス投資を独占し、エネルギーが
「はい、右!次は左!ほらほら、反応が遅いよルーキーくん!」
「あぁっ……ガハッ……!」
再び始まった、完璧な先読みによる連撃。ダッシュが加速のステップを踏もうとする瞬間のわずかな予備動作を捉えられ、カウンターで全ての動きの起こりを潰される。瞬く間に第2ゲームの第1ラウンドもレジスタに奪われ、スコアはあと1ラウンドでレジスタのマッチ勝利というところまで追い詰められた。
(ダメだ……僕の走るルートも、攻撃するタイミングも、全部あの人の頭の中に『予定調和』として書き込まれてる。スピードで勝てないなら、僕は一体どうすれば――)
リバウンドウォールの電撃に背中を焼かれながら、視界がチカチカと赤く点滅する。
その時、インカムのノイズを割って、ガレージでの特訓の日々が、蓮見巧のあの地を這うような低い声が駆の脳内にフラッシュバックした。
『いいか速水。お前の直線加速は確かに強力だが、世界にはそれを初速で見切る化け物がゴロゴロいる。狭い空間で完全にスピードを殺された時、お前を救うのは泥臭いグラップの技術だ』
(グラップの……技術……!)
『相手の攻撃をただ避けるな。相手の放った最大火力のエネルギーを、お前の体幹の捻りと軸の制御で巻き取れ。相手の力が強ければ強いほど、それを巻き取って自分の有利な間合いに引きずり込む罠にしろ。軸さえブレなければ、どんな化け物の盤面だってハッキングできる』
――軸さえ、ブレなければ。
駆の目が、バイザーの奥でカッと見開かれた。
「五代さん! グラップのメダルをください!」
『えっ!? あ、うん、分かった!グラップメダル、転送します!!』
ピットの輪が叫ぶようにタブレットを叩く。
《HAJIME!!!! Athlete Rider DAShhhh!!!!》
ダッシュの白と紅の装甲が、グラップ特有の白と蒼へと瞬時にシフトした。
「おや、ジャポーネ伝統のジュード―スタイルに切り替え?でも無駄だよ。そこがボクの指定した、キミのゴールだ!!」
レジスタが完璧な連撃の終着点として、右脚に翠色のエネルギーを最大まで充填。
《STRIKER FINISH!!!》
ダッシュの右足首を完全に破壊するため、空間を切り裂くような超高速のキックを放った。
――誰もが、これで試合終了だと思った。
だが、ダッシュの肉体は、蓮見との地獄のような反復練習によって、ブレない『一本の軸』をすでに獲得していた。
「……ここだッ!!!」
ダッシュはあえてレジスタのキックから逃げず、その一撃を正面から迎え撃つように一歩踏み込んだ。
レジスタの必殺の蹴りが、ダッシュの左胸の装甲を捉える。しかし、衝撃の瞬間に体幹を鋭く捻った。
直撃させない。装甲の角度をミリ単位で傾け、レジスタのキックの凄まじい威力を、自身の肉体の軸の回転運動へとスライドさせて受け流したのだ。
「何……っ!?」
初めて、マルコの計算し尽くされたバイザーの奥の瞳が驚愕に揺れた。
完璧な手応えがあったはずのキックが、ダッシュの装甲の上を滑るように外され、逆にレジスタ自身の突進の慣性がダッシュの懐へと深く吸い込まれていく。
「捕まえた……これが俺の領域だ!!」
レジスタの体勢が完全に崩れ、攻撃の硬直が生まれる。格闘ゲームにおける確定反撃の瞬間。
ダッシュはブレない軸足を中心に泥臭く地を這うような超低空のスライディングステップを繰り出し、無防備になったレジスタの軸足を完璧に刈り取った
「あぐっ……!?」
絶対的な王者が、芝生の上へと激しく転倒する。
レジスタの予定調和の盤面を、ダッシュが軸の制御という泥臭いアドリブで完全にハッキングした瞬間だった。レジスタのHPバーが、一撃で一気に消滅していく。
『な、何が起きたァァー!? 完璧だったレジスタのレジスタ・ゾーン・ストライクを、ダッシュが信じられない体幹の捻りで止めた!ゼロ距離からの反撃で、レジスタから初のダウンを奪い返したー!!第2ゲーム第1セット、日本代表・仮面ライダーダッシュが執念でもぎ取りました!!』
スタジアムが一瞬の静寂の後、地を揺るがすような大歓声に包まれる。
芝生の上に膝をつき、変身を維持したまま、泥に汚れた顔を上げたレジスタ。完璧だった彼の聖人のような感情が完全に消え失せ、引き攣った表情で駆を睨みつけていた。
「ボクの計算にない……とんでもないノイズだ、キミは……!」
スタジアムの上空でホバリングするパブリック・ドローンから、次戦の幕開けを告げる電子ホイッスルが一段と高く鳴り響いた。
マッチスコアは1ゲーム1セット対0ゲーム1セット。
まだダッシュとレジスタの壁は大きく、逆転するには時間がかかる。
西日に照らされたピッチは、オレンジ色と長い影が交錯する、まるで決闘場のような厳かな空気を纏っていた。
『日本の意地か、イタリアの栄光か!第2ゲーム、第2ラウンド――レディ・ゴー!!!』
実況の声が響いた瞬間、レジスタの立ち振る舞いから陽気さが完全に消え失せていた。
レジスタは、もうファンに向けて手を振ることも、カメラを意識してウインクを飛ばすこともしない。バイザーの奥の『神の瞳』が、冷徹極まる翠色の光をギラギラと放ち、ダッシュの全身の駆動フレームをミリ単位でロックしていた。
「……認めよう、ハヤミ・カケル。キミはボクの完璧な美を脅かす、最高に不愉快で、最高に危険な
レジスタの右脚が爆発的な踏み込みを見せ、残像を残すほどの超高速ステップでダッシュの懐へと肉薄した。
そのスピードは、先ほどまでの比ではない。マルコ自身の絶対に負けられないというプライドとパッションが、ドライバーの出力を限界以上に引き上げていた。
「だからこそ……ここで完全に敗北を届けよう。ボクのゲームに、これ以上の不確定要素は必要ない!!」
凄まじい風切り音とともに、レジスタの無慈悲な格闘足技がダッシュを襲う。
鋭い前蹴り、軌道が途中で変化する変幻自在のブラジリアンキック、そして何より、ダッシュの右足首を執拗に狙う冷酷なローキックの連打。
「くっ……あぁぁぁっ!?」
ダッシュは腕の装甲を交差させて辛うじてガードを固めるが、レジスタのプロの重い一撃を受けるたびに、凄まじい衝撃波が体幹へと突き抜ける。先ほどのラウンドで覚醒させたグラップスタイルの軸の捻りで受け流そうとするが、レジスタはそれを完全に警戒していた。受け流される前に、蹴り足の軌道をミリ単位でズラし、あえてダッシュのガードの薄い部分を正確に撃ち抜いてくるのだ。
凄まじい火花がフィールドに飛び散り、ダッシュのHPバーがじりじりと、しかし確実に削られていく。
だが、本当に恐ろしいのはHPの減少ではなかった。
『警告:右脚駆動フレームに過度な蓄積ダメージ。次撃の直撃により、
『警告:強制変身解除の危険性・高』
ダッシュのドライバーから、絶望的な電子アラートが鳴り響く。
新規則『TKOシステム』。どれだけ残HPがあろうとも、肉体や装甲の限界を超えるクリティカルヒットをこれ以上喰らえば、その場で変身が強制解除され、スコアに関係なく試合全体の敗北が決定する。
「あはは!見えるよハヤミ、キミの右脚が悲鳴を上げているのが!あと一撃……あと一撃でボクの完全勝利だ!!」
マルコの笑顔が、歓喜と狂気に歪む。
レジスタは自身の美しいステップを極限まで加速させ、ダッシュをリバウンドウォールへと激しく追い詰めた。
背後にはバチバチと青い電撃を放つグリッドバリア。完全に退路は断たれた。
「これが本当の、ゲームセットだ!!!」
レジスタの身体が、夕陽を背に浴びて高く、高く跳躍した。
《STRIKER FINISH!!!》
「
全エネルギーをその右脚に集中させ、空間そのものを歪めるかのような超巨大な翠色の光球を纏った空中オーバーヘッドキック。レジスタの最大最強の必殺技が、画面端で身動きの取れないダッシュの脳天へ向けて、まっすぐに振り下ろされる。
「速水くん!!!逃げて、もう右脚がもたない……!!」
輪が悲鳴のような声を上げ、タブレットを抱きしめる。データ上、次の被弾による強制変身解除の確率は99.8%。
「……いや、逃げるな速水。踏み留まれ!」
織田が、フィールドへ向けて吼えた。その拳は、爪が肉に食い込むほど強く握りしめられていた。
「お前がこれまで泥に塗れながら培ってきたものを、そのエゴのすべてを、あの天才の鼻面に叩きつけてやれ!!」
死線。迫り来る翠色の光球が、ダッシュのバイザーを青く照らし出す。
あと一撃掠れば、変身が解除されて自分の負けが決まる。敗北者の、泥臭いアスリートの挑戦はここで終わる。
(――嫌だ。絶対に、ここで終わらせてたまるか……!!)
駆の胸の奥で、誠実な、しかし誰よりも強欲な「勝ちたい」というエゴが爆発した。
右足首の激痛を、限界を超えた精神力でねじ伏せる。駆は『グラップスタイル』の驚異的な体幹の捻りと、両腕の衝撃吸収フレームを最大まで駆動させた。
「おおおおおおおあああああっ!!!」
ダッシュはあえて、脳天から迫るレジスタの必殺の蹴り足に向けて、自ら両腕を突き出した。
スタジアム全体が白い光に包まれるほどの凄まじい衝撃。ダッシュの背中の装甲がリバウンドウォールに接触し、激しい電撃が全身を焼く。
だが、ダッシュの軸は、1ミリもブレなかった。
ダッシュはグラップのホールド技術を応用し、空中から放たれたレジスタの右脚の甲を、強靭な両腕のロックでがっしりとキャッチしてみせたのだ。
「なっ……何ィ!? ボクの必殺のキックを、力ずくで受け止めた……!?」
宙吊りの状態で、レジスタの動きが完全に完全に静止する。ダッシュの驚異的な泥臭いパッションが、王者の必殺技の威力を力ずくで殺し、至近距離でその身体を固定した。
「捕まえた……マルコさん……!!」
バチバチと火花を散らす装甲の奥から、駆の執念の声が響く。
「これが、俺の……俺たちの、
ダッシュは瞬時に腰のオリンピアドライバーのレバーを再び引き絞り、スプリンタースタイルへと再変身させた。
《START DASH!!!! Athlete Rider DAShhhh!!!!》
蒼の装甲から、真紅のラインが走る超軽量・超加速の装甲へと、光の粒子が瞬時に切り替わる。
至近距離。相手の脚を掴んで固定した、完全な無防備のゼロ距離。
ダッシュの右拳に、これまでに溜め込んだすべてのインデックスエネルギーと、背中のリバウンドウォールから吸い上げた電撃の反発力が、真っ赤な超高熱のエネルギーとなって収束していく。
《FINAL LAP》
《SPRINTER FINISH!!!》
それは、スピードがゼロの状態から、一瞬でマッハの領域へと到達する、爆発的なピストン加速を応用したゼロ距離のカウンターパンチだった。
ダッシュの魂を乗せた拳が、レジスタの胸に刻まれた黄金のメダルを真っ向から撃ち抜いた。
スタジアム全体に、ガラスが木っ端微塵に砕け散るような、あまりにも不吉な電子音が響き渡った。
レジスタのオリンピアドライバーの中央スロットが真っ赤にオーバーヒートし、激しい黒煙を吹き上げる。マルコのHPバーがゼロになるよりも早く、彼のシステムそのものが臨界点を迎えてクラッシュしたのだ。
「あ……が……っ」
レジスタのスタイリッシュな装甲が、バチバチと青い火花を散らしながら、一瞬で光の粒子となって剥ぎ取られていく。
変身を完全に解除され、仕立ての良いスポーツウェア姿に戻ったマルコ・ロッシの身体が、フィールドの芝生の上へと無様に、しかし激しく崩れ落ちた。
ピピッーー!! ピピッーー!!! ピピッーーーー!!!!!
上空のドローンが、試合の終わりを告げる特別なホイッスルを執拗に鳴らし続ける。
空中へと展開された巨大なホログラムスクリーンに、衝撃的なゴールドの文字がこれ以上ない大きさで刻み込まれた。
―――――
勝者:日本(仮面ライダーダッシュ)
勝利理由:強制変身解除(TKO)
日本・インデックス:爆発的上昇(MAX OVER)
イタリア・インデックス:爆発的下落
―――――
『決まったァァァァァァァッッッ!!!!!』
実況アナウンサーの声が、興奮のあまり完全に裏返った。
『TKO!!!なんとTKO決着です!!!日本代表・仮面ライダーダッシュ、絶体絶命の画面端からレジスタの必殺キックをグラップスタイルで捕らえ、スプリンタースタイルのゼロ距離カウンターで世界の絶対王者を完全粉砕!!!スコアをすべてひっくり返す、衝撃の
「うおおおおおおおおっ!!!」
「やったあぁぁぁ!!!速水くん、勝った、勝ったよおぉぉぉ!!!」
ピットから輪が飛び出し、涙をボロボロと流しながらフィールドへと駆け寄ってくる。織田もまた、小さく、しかし男らしく口元を釣り上げた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ダッシュの変身を解除し、元のユニフォーム姿に戻った駆は、その場にへたり込んだ。右足首の激痛と全身の疲労感で指一本動かせない。しかし、その顔には、かつて実業団時代には決して浮かべることができなかった、泥臭くも最高に誇らしげなエゴの笑顔が咲いていた。
「……ハヤミ」
芝生の上に仰向けに倒れていたマルコが、痛む胸を押さえながら、ゆっくりと上体を起こした。
完璧だった髪型はボサボサに乱れ、高級なスポーツウェアは泥にまみれている。世界のトップアスリートとして、カメラの前でこれ以上ない無様な敗北を晒したのだ。
怒り、屈辱、憎悪。どんな罵詈雑言が飛んでくるかと駆が身構えた、その瞬間。
「――アハハハハ! アハハハハハハハハッ!!!」
マルコは突然、自身の顔を手で覆いながら、お腹を抱えて大爆笑し始めた。
その笑顔は、これまでのビジネスライクな聖人の笑顔ではない。まるで、おもちゃ箱をひっくり返した子供のような、剥き出しの、狂気的なまでの情熱に満ちた本物の笑顔だった。
「最高だよハヤミ!キミ、最高にオシャレな戦術じゃないか!ああ、ボクの完璧なゲームメイクがこんな風に物理的にぶち壊されるなんて!ボクのハートは今、
マルコは立ち上がると、ふらつく足取りで駆の元へと歩み寄り、汚れも気にせず駆の手をガシッと握りしめて強引に立ち上がらせた。そして、ドローンカメラに向かって、駆の腕を高く掲げてみせた。
「認めよう、今日の勝者は日本のスプリンターだ!でも、次は負けないよ?
最後まで自分のペースを崩さない、圧倒的な陽気の狂気。駆はただただ、その世界の壁の別の意味での分厚さに、タジタジになるしかなかった。
*
メガ・スタジアムの熱狂から数時間後。夜の帳が下りた成田空港の滑走路に、一機のスマートなプライベートジェットが静かに接岸した。
プシュー、という風圧とともにハッチが開き、洗練された高級ブランドのロングコートを風にたなびかせた、一人の美しい青年が降り立ってくる。
青年は手元で、硬式テニスボールをリズミカルに弾ませていた。ポケットから取り出したスマートフォンの画面には、ニュース速報として『日本のダッシュ、イタリアのレジスタをTKOで破る劇的勝利』の文字が躍っている。
「ふん……青臭いステップだ。イタリアのマルコも、この程度のライダーに負けるとは……。神の瞳とやらも、地に落ちたな」
青年の通信端末が妖しく発光する。彼はフランス代表のルイ・シャルトリエ。コート上の気高き貴公子である。
「スプリンターのタイミングなんて、私のスマッシュの前では何の意味も持たない。僕の戦場に足を踏み入れたなら、その安物の脚の自由をすべて奪って、
彼は手元のテニスボールを、ラケットを模した拡張武装のフレームで軽やかにキャッチすると、冷徹な、しかし絶対的な自信に満ちた笑みを浮かべて夜の東京へと歩き出した。