観測者は青春の物語を見届ける   作:ユーザーA

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自己満ですが楽しんで頂けたら


エピソード1
探索委員会編 観測者と亡霊


 

砂漠の風が吹く。

 

かつて栄華を誇った学園都市。

 

アビドス。

 

今ではその大半が砂に埋もれ、残された生徒達はわずか五人。

 

借金を抱えながらも学園を守り続ける少女達。

 

それがアビドス高等学校対策委員会だった。

 

 

「先生、こっちです!」

 

奥空アヤネが手を振る。

 

その後ろでは黒見セリカが不機嫌そうに腕を組み、十六夜ノノミが微笑み、小鳥遊ホシノが欠伸をしていた。

 

そして砂狼シロコは静かに周囲を警戒している。

 

連邦捜査部SCHALE顧問。

 

通称、先生。

 

キヴォトスへ来て間もない彼は、今まさにアビドスの問題へ巻き込まれ始めていた。

 

 

その日の戦闘は終わったばかりだった。

 

ヘルメット団。

 

いつもの襲撃。

 

いつもの銃撃戦。

 

いつもの勝利。

 

だが。

 

今日だけは少し違った。

 

 

アビドス校舎へ戻る途中。

 

先生は一人の少女を見つける。

 

校門近く。

 

古びたフェンスに寄り掛かるように立っていた。

 

 

白。

 

そして黒。

 

その二色で統一された服装。

 

腰には巨大なリボルバー。

 

明らかに異質な存在感。

 

だが。

 

不思議と威圧感はない。

 

 

ただそこにいる。

 

それだけ。

 

 

「……誰だ?」

 

先生が呟く。

 

 

少女はゆっくり視線を向けた。

 

金色にも見える瞳。

 

その瞳には奇妙な静けさがあった。

 

 

「こんにちは、先生。」

 

 

初対面のはずだった。

 

しかし彼女は当然のように先生の名前を呼ぶ。

 

 

「俺を知っているのか?」

 

「知っている。」

 

「どこで?」

 

「色々と。」

 

 

答えになっていない。

 

だが不思議と嘘を言っているようにも見えなかった。

 

 

「君は?」

 

「彩禍マダラ。」

 

 

少女は言った。

 

 

「万事屋だ。」

 

 

それだけ。

 

所属も。

 

肩書きも。

 

経歴も。

 

何一つ語らない。

 

 

先生は少し困った顔になる。

 

 

「アビドスの生徒か?」

 

「違う。」

 

「他校?」

 

「違う。」

 

「じゃあ……」

 

「どこにも所属していない。」

 

 

本当に変な少女だった。

 

 

しかし。

 

先生は知らない。

 

 

彼女が。

 

 

この世界の始まりより前から存在していることを。

 

 

キヴォトス誕生以前。

 

神秘誕生以前。

 

色彩出現以前。

 

 

遥か昔から。

 

彼女は存在していた。

 

 

ただ見続けていた。

 

 

無数の世界。

 

無数の歴史。

 

無数の選択。

 

 

そして今も。

 

 

先生を見ている。

 

 

目の前の男が。

 

この世界にとってどれほど重要な存在か。

 

誰よりも知っている。

 

 

だが教えない。

 

 

なぜなら。

 

 

選択には価値がある。

 

 

それが彩禍マダラという存在の信念だった。

 

 

「依頼なら受ける。」

 

マダラが言う。

 

「ただ今は休業中だ。」

 

 

「休業中?」

 

「家族との時間だからな。」

 

 

家族。

 

その言葉だけ僅かに柔らかかった。

 

 

先生が違和感を覚えたその時。

 

 

校舎の方から足音が聞こえた。

 

 

ゆっくり。

 

ゆっくり。

 

 

誰かが歩いてくる。

 

 

マダラは振り返らない。

 

既に気付いているからだ。

 

 

「起きたのか。」

 

 

「うん。」

 

 

女性の声。

 

穏やかな声。

 

優しい声。

 

 

その瞬間だった。

 

 

欠伸をしていたホシノの身体が止まる。

 

 

まるで時間が止まったように。

 

 

呼吸すら忘れる。

 

 

その声を。

 

彼女は知っていた。

 

 

知りすぎるほど知っていた。

 

 

忘れられるはずがなかった。

 

 

ゆっくりと振り返る。

 

 

そこにいたのは。

 

 

一人の少女。

 

 

長い髪。

 

穏やかな笑顔。

 

 

見間違えるはずがない。

 

 

絶対に。

 

 

あり得ない。

 

 

死んだはずだから。

 

 

「……え?」

 

 

ホシノの口から声が漏れる。

 

 

世界が揺れる。

 

 

思考が止まる。

 

 

理解が追い付かない。

 

 

「ユ……メ……先輩……?」

 

 

少女はホシノを見る。

 

 

数秒。

 

 

ただ見つめる。

 

 

そして。

 

 

「あぁ。」

 

 

静かな声。

 

 

「ホシノちゃんか。」

 

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

ホシノの目から涙が溢れた。

 

 

会いたかった。

 

 

ずっと。

 

 

ずっと。

 

 

ずっと。

 

 

会いたかった。

 

 

救えなかった人。

 

失った人。

 

人生そのもの。

 

 

その相手が。

 

 

今。

 

 

目の前にいる。

 

 

「先輩……!」

 

 

ホシノは駆け出した。

 

 

だが。

 

 

ユメの反応は。

 

 

あまりにも。

 

 

あまりにも。

 

 

淡白だった。

 

 

「そう。」

 

 

一言。

 

 

「元気そうで良かったね。」

 

 

ホシノが止まる。

 

 

涙が止まる。

 

 

心臓が凍る。

 

 

想像していた再会ではなかった。

 

 

何年も何年も。

 

追い続けた。

 

悔やみ続けた。

 

泣き続けた。

 

 

その相手は。

 

 

まるで昔の同級生に会った程度の反応しか示さなかった。

 

 

「せ、先輩……?」

 

 

ユメは首を傾げる。

 

 

「どうしたの?」

 

 

本気で分からないように。

 

 

ホシノは理解してしまう。

 

 

ユメは。

 

 

もう。

 

 

アビドス生徒会長ではない。

 

 

自分の知るクチナシ・ユメではない。

 

 

彼女は既に。

 

 

前へ進んでいた。

 

 

ホシノだけを残して。

 

 

「……あぁ、そう。」

 

 

ユメは静かに呟く。

 

 

「そんな顔するんだ。」

 

 

悪意はない。

 

 

だからこそ残酷だった。

 

 

ホシノの人生を支配した喪失。

 

 

その中心にいた少女は。

 

 

既に整理を終えていた。

 

 

過去として。

 

 

思い出として。

 

 

終わった物語として。

 

 

そして。

 

 

ユメは自然な動作でマダラの隣へ立つ。

 

 

迷いなく。

 

 

当然のように。

 

 

マダラもまた自然に肩を寄せる。

 

 

二人の距離は近い。

 

 

近すぎるほど。

 

 

まるで。

 

 

世界で二人だけが完結しているように。

 

 

ホシノは理解した。

 

 

もう。

 

 

自分の居場所はない。

 

 

ユメの世界の中心は。

 

 

自分ではない。

 

 

アビドスでもない。

 

 

先生でもない。

 

 

目の前の少女。

 

 

彩禍マダラ。

 

 

ただ一人だった。

 

 

そしてマダラは静かに空を見上げる。

 

 

誰にも聞こえないほど小さく。

 

呟く。

 

 

「これもまた、一つの選択だ。」

 

 

その言葉の意味を。

 

この場で理解できる者は誰もいない。

 

 

ただ一人。

 

 

永遠を生きる観測者だけが。

 

 

知っていた。

 

 

これはまだ。

 

 

始まりに過ぎないことを。

 




どうも、自己満投稿ですが楽しんで頂けたのなら幸いです
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