観測者は青春の物語を見届ける   作:ユーザーA

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エデン条約編 第二章 理解できない二人

 

トリニティ総合学園。

 

 

キヴォトス最大級の学園。

 

 

整備された街並み。

 

 

美しい庭園。

 

 

荘厳な建築物。

 

 

平和と秩序の象徴。

 

 

少なくとも。

 

 

表面上は。

 

 

 

ティーパーティー本部棟。

 

 

その一室で。

 

 

桐藤ナギサは紅茶を飲んでいた。

 

 

書類の山。

 

 

エデン条約関連資料。

 

 

ゲヘナとの交渉。

 

 

補給計画。

 

 

治安維持。

 

 

問題は山積みだった。

 

 

「……疲れましたね。」

 

 

ため息。

 

 

珍しいことではない。

 

 

エデン条約が近づくほど。

 

 

彼女の仕事は増える。

 

 

 

そんな時だった。

 

 

窓の外。

 

 

校庭を歩く二人の姿が目に入る。

 

 

見慣れない顔。

 

 

トリニティ生ではない。

 

 

ナギサの目が細くなる。

 

 

 

白と黒を基調とした少女。

 

 

腰には巨大なリボルバー。

 

 

そして。

 

 

その隣を歩く少女。

 

 

柔らかな笑顔。

 

 

穏やかな雰囲気。

 

 

奇妙な組み合わせだった。

 

 

 

「誰でしょう。」

 

 

ナギサは資料を閉じる。

 

 

少しだけ興味を持った。

 

 

 

数十分後。

 

 

中庭。

 

 

ベンチ。

 

 

ユメはパンフレットを眺めていた。

 

 

「広いなぁ。」

 

 

「そうだな。」

 

 

「アビドスと全然違う。」

 

 

「比較対象が悪い。」

 

 

「それもそう。」

 

 

ユメが笑う。

 

 

マダラも僅かに笑う。

 

 

 

その時。

 

 

「失礼します。」

 

 

声が掛かった。

 

 

二人が振り返る。

 

 

そこには。

 

 

桐藤ナギサ。

 

 

ティーパーティーホスト。

 

 

トリニティの中心人物。

 

 

 

「観光でしょうか?」

 

 

丁寧な笑顔。

 

 

柔らかな声。

 

 

しかし。

 

 

観察している。

 

 

細かく。

 

 

徹底的に。

 

 

 

ユメは軽く手を振る。

 

 

「そんな感じ。」

 

 

「なるほど。」

 

 

ナギサは頷く。

 

 

そして。

 

 

マダラを見る。

 

 

 

違和感。

 

 

初対面のはず。

 

 

だが。

 

 

妙だった。

 

 

 

そこにいる。

 

 

確かにいる。

 

 

認識もできる。

 

 

会話も成立する。

 

 

それなのに。

 

 

頭の中で人物像が形成されない。

 

 

 

普通なら。

 

 

数秒会話すれば分かる。

 

 

性格。

 

 

思考傾向。

 

 

立場。

 

 

危険性。

 

 

 

だが。

 

 

目の前の少女だけは違った。

 

 

 

何も分からない。

 

 

 

ナギサは一瞬だけ驚く。

 

 

しかし表には出さない。

 

 

 

「私は桐藤ナギサと申します。」

 

 

「彩禍マダラ。」

 

 

「クチナシ・ユメ。」

 

 

 

握手はしない。

 

 

だが会話は成立する。

 

 

 

ナギサは微笑む。

 

 

「トリニティは初めてですか?」

 

 

「私はそう。」

 

 

ユメが答える。

 

 

「マダラは?」

 

 

ナギサが聞く。

 

 

 

マダラは少し考えた。

 

 

そして。

 

 

「数えたことがない。」

 

 

 

沈黙。

 

 

ユメが吹き出す。

 

 

ナギサは一瞬固まる。

 

 

 

冗談か。

 

 

本気か。

 

 

分からない。

 

 

 

しかし。

 

 

何故か。

 

 

嘘には聞こえなかった。

 

 

 

「そうですか。」

 

 

ナギサはそれ以上追及しない。

 

 

賢いからだ。

 

 

意味がないと理解した。

 

 

 

その代わり。

 

 

別の方向から探る。

 

 

 

「お二人は仲が良いのですね。」

 

 

ユメが笑う。

 

 

「うん。」

 

 

即答。

 

 

 

マダラも否定しない。

 

 

 

その瞬間。

 

 

ナギサは気付いた。

 

 

 

空気。

 

 

 

二人だけ違う。

 

 

 

説明できない。

 

 

 

恋人。

 

 

違う。

 

 

 

家族。

 

 

違う。

 

 

 

親友。

 

 

それも違う。

 

 

 

もっと深い。

 

 

もっと異質。

 

 

もっと完成している。

 

 

 

まるで。

 

 

二人だけで世界が完結しているような。

 

 

そんな感覚。

 

 

 

ナギサの背筋に薄く寒気が走る。

 

 

危険だからではない。

 

 

 

理解できないから。

 

 

 

そして。

 

 

ナギサは理解する。

 

 

 

この二人は。

 

 

トリニティの政治にも。

 

 

エデン条約にも。

 

 

勢力争いにも。

 

 

何も興味がない。

 

 

 

もっと別の場所に立っている。

 

 

 

特に。

 

 

彩禍マダラ。

 

 

 

この少女は。

 

 

おそらく。

 

 

ティーパーティーにも。

 

 

ゲヘナにも。

 

 

連邦生徒会にも。

 

 

興味がない。

 

 

 

ただ。

 

 

隣の少女だけを見ている。

 

 

 

その事実だけは。

 

 

何故かはっきり分かった。

 

 

 

「……」

 

 

ナギサは少しだけ目を細める。

 

 

そして。

 

 

結論を出した。

 

 

 

危険ではない。

 

 

 

しかし。

 

 

絶対に理解できない。

 

 

 

これ以上近付いても。

 

 

本質には辿り着けない。

 

 

 

だから。

 

 

そこで探るのをやめた。

 

 

 

「トリニティを楽しんでください。」

 

 

ナギサが言う。

 

 

「ありがとう。」

 

 

ユメが笑う。

 

 

 

マダラは小さく頷くだけだった。

 

 

 

ナギサは立ち去る。

 

 

優雅に。

 

 

自然に。

 

 

 

しかし。

 

 

曲がり角を抜けた瞬間。

 

 

小さく息を吐いた。

 

 

 

「本当に。」

 

 

誰にも聞こえない声。

 

 

 

「何だったのですか。」

 

 

 

理解できない。

 

 

 

だが。

 

 

妙な確信があった。

 

 

 

もし。

 

 

これからエデン条約で何が起ころうと。

 

 

 

あの二人は介入しない。

 

 

 

ただ見ている。

 

 

 

見届ける。

 

 

 

そんな気がした。

 

 

 

そして中庭では。

 

 

ユメが紅茶を飲みながら笑っていた。

 

 

 

「頭良い子だったね。」

 

 

 

「ああ。」

 

 

 

「私達のこと結構考えてた。」

 

 

 

「ああ。」

 

 

 

「気付いてた?」

 

 

 

「最初から。」

 

 

 

ユメは苦笑した。

 

 

 

「相変わらずだね。」

 

 

 

マダラは何も言わない。

 

 

 

ただ。

 

 

遠くを見ていた。

 

 

 

これから始まる。

 

 

エデン条約の物語を。

 

 

先生の選択を。

 

 

生徒達の未来を。

 

 

 

永遠の観測者は。

 

 

今日も静かに見つめていた。

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