観測者は青春の物語を見届ける   作:ユーザーA

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エデン条約編 第五章 唯一の例外

 

夜。

 

 

エデン条約編も終盤。

 

 

先生は戦っていた。

 

 

生徒達も戦っていた。

 

 

それぞれの信念を賭けて。

 

 

それぞれの選択を賭けて。

 

 

 

そして。

 

 

誰も知らない場所で。

 

 

また一つの対話が行われていた。

 

 

廃墟の屋上。

 

 

月明かり。

 

 

静かな夜。

 

 

 

黒服。

 

 

彩禍マダラ。

 

 

 

二人だけ。

 

 

 

「順調ですね。」

 

 

黒服が言う。

 

 

「そうか。」

 

 

「先生も。」

 

 

「生徒達も。」

 

 

「皆、自分で選んでいる。」

 

 

マダラは空を見る。

 

 

 

「そうだ。」

 

 

 

短い返事。

 

 

 

黒服は少し笑う。

 

 

 

「貴方の好きな展開ですね。」

 

 

 

「そうだな。」

 

 

 

選択。

 

 

 

それこそが。

 

 

マダラが最も価値を見出しているもの。

 

 

 

だから介入しない。

 

 

 

だから答えを与えない。

 

 

 

だから未来を教えない。

 

 

 

全ては。

 

 

選ぶため。

 

 

 

そのはずだった。

 

 

 

黒服は静かに言う。

 

 

 

「ですが。」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

「貴方には一つだけ例外がある。」

 

 

 

夜風が吹く。

 

 

 

マダラは何も言わない。

 

 

 

しかし否定もしない。

 

 

 

だから黒服は続ける。

 

 

 

「クチナシ・ユメ。」

 

 

 

その名前。

 

 

 

唯一の例外。

 

 

 

唯一の運命改変。

 

 

 

唯一の介入。

 

 

 

「そうだ。」

 

 

 

マダラは認める。

 

 

 

隠すつもりもない。

 

 

 

黒服は少しだけ楽しそうに笑う。

 

 

 

そして。

 

 

ずっと考えていた問いを投げる。

 

 

 

「もし。」

 

 

 

静かな声。

 

 

 

「もしユメではなく。」

 

 

 

「先生だったなら。」

 

 

 

マダラの瞳が僅かに動く。

 

 

 

「貴方は救ったのですか?」

 

 

 

静寂。

 

 

 

風が止まる。

 

 

 

月だけが見ている。

 

 

 

長い沈黙。

 

 

 

黒服は待つ。

 

 

 

急がない。

 

 

 

この問いには。

 

 

簡単な答えなど無い。

 

 

 

やがて。

 

 

マダラは答えた。

 

 

 

「救わない。」

 

 

 

即答だった。

 

 

 

黒服の目が細くなる。

 

 

 

予想していた。

 

 

 

だが。

 

 

実際に聞くと重い。

 

 

 

「何故です?」

 

 

 

「先生だからだ。」

 

 

 

短い答え。

 

 

 

だが。

 

 

黒服には理解できない。

 

 

 

「それは理由になりますか?」

 

 

 

「なる。」

 

 

 

マダラは空を見る。

 

 

 

遥か遠く。

 

 

誰にも見えない未来を見るように。

 

 

 

「先生は選ぶ者だ。」

 

 

 

「ええ。」

 

 

 

「救われる者ではない。」

 

 

 

黒服は黙る。

 

 

 

「先生は何度も失う。」

 

 

 

「何度も苦しむ。」

 

 

 

「何度も後悔する。」

 

 

 

「何度も間違える。」

 

 

 

静かな声。

 

 

 

未来を知る者の声。

 

 

 

「だが。」

 

 

 

「それでも進む。」

 

 

 

「だから先生なんだ。」

 

 

 

黒服は理解する。

 

 

 

マダラは先生を特別視している。

 

 

 

だが。

 

 

それは愛情ではない。

 

 

 

敬意だ。

 

 

 

観測者として。

 

 

 

選択し続ける者への敬意。

 

 

 

「なるほど。」

 

 

 

黒服は小さく頷く。

 

 

 

「では。」

 

 

 

「先生が死ぬ未来があったとしても?」

 

 

 

「介入しない。」

 

 

 

迷いがない。

 

 

 

一切。

 

 

 

「先生自身が選んだなら。」

 

 

 

「私は止めない。」

 

 

 

残酷なほど。

 

 

 

徹底している。

 

 

 

だからこそ。

 

 

 

ユメだけが異常だった。

 

 

 

黒服は静かに言う。

 

 

 

「ますます分からない。」

 

 

 

マダラは少し笑った。

 

 

 

「何がだ。」

 

 

 

「何故ユメだったのか。」

 

 

 

それこそ。

 

 

最大の謎。

 

 

 

先生ではない。

 

 

 

ミカでもない。

 

 

 

ホシノでもない。

 

 

 

セイアでもない。

 

 

 

ナギサでもない。

 

 

 

何千何万の人間がいたはずだ。

 

 

 

それなのに。

 

 

 

何故ユメだったのか。

 

 

 

黒服には分からない。

 

 

 

マダラはしばらく黙る。

 

 

 

そして。

 

 

珍しく。

 

 

本当に珍しく。

 

 

 

少し困ったように笑った。

 

 

 

「分からない。」

 

 

 

黒服が固まる。

 

 

 

「……は?」

 

 

 

「分からない。」

 

 

 

繰り返す。

 

 

 

「理由は無い。」

 

 

 

「理屈も無い。」

 

 

 

「説明もできない。」

 

 

 

「ただ。」

 

 

 

そこで言葉が止まる。

 

 

 

そして。

 

 

静かに続ける。

 

 

 

「救いたかった。」

 

 

 

その一言。

 

 

 

黒服は目を閉じる。

 

 

 

ああ。

 

 

 

やはりそうか。

 

 

 

結局。

 

 

 

それなのか。

 

 

 

色彩と同格の存在。

 

 

 

永遠の観測者。

 

 

 

世界の外側の存在。

 

 

 

そんなものですら。

 

 

 

最後に動かしたのは。

 

 

 

理論ではなく。

 

 

 

感情だった。

 

 

 

「愚かですね。」

 

 

 

黒服が笑う。

 

 

 

心から。

 

 

 

「そうかもしれない。」

 

 

 

マダラも否定しない。

 

 

 

「ですが。」

 

 

 

黒服は空を見る。

 

 

 

「少し安心しました。」

 

 

 

「何故だ。」

 

 

 

「貴方も同じだった。」

 

 

 

「同じ?」

 

 

 

「ええ。」

 

 

 

黒服は笑う。

 

 

 

「結局。」

 

 

 

「人を動かすのは感情だ。」

 

 

 

「神秘でも。」

 

 

 

「恐怖でも。」

 

 

 

「理論でもない。」

 

 

 

「感情だ。」

 

 

 

静かな夜。

 

 

 

誰もいない世界。

 

 

 

そこで。

 

 

観測者と探究者は。

 

 

同じ空を見上げる。

 

 

 

やがて。

 

 

黒服は立ち上がった。

 

 

 

「行くのか。」

 

 

 

「ええ。」

 

 

 

「忙しいので。」

 

 

 

「そうか。」

 

 

 

最後に。

 

 

黒服は振り返る。

 

 

 

そして。

 

 

小さく笑った。

 

 

 

「彩禍マダラ。」

 

 

 

「なんだ。」

 

 

 

「先生は救わない。」

 

 

 

「そうだ。」

 

 

 

「ユメは救った。」

 

 

 

「そうだ。」

 

 

 

「ならば。」

 

 

 

黒服の笑みが深くなる。

 

 

 

「次の例外は現れるのでしょうか。」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

マダラは少し考えた。

 

 

 

そして。

 

 

空を見上げる。

 

 

 

月。

 

 

 

星。

 

 

 

そして。

 

 

遥か遠く。

 

 

家で待つ少女。

 

 

 

「現れない。」

 

 

 

優しい声だった。

 

 

 

「私の例外は。」

 

 

 

「最初で最後だ。」

 

 

 

黒服は笑う。

 

 

 

本当に満足そうに。

 

 

 

そして去っていった。

 

 

 

一人残されたマダラは。

 

 

しばらく空を見上げる。

 

 

 

やがて。

 

 

小さく呟いた。

 

 

 

「……帰るか。」

 

 

 

観測者ではなく。

 

 

 

ただ。

 

 

帰る場所を持つ一人の少女として。

 

 

 

夜の中へ歩き出した。

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