観測者は青春の物語を見届ける   作:ユーザーA

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探索委員会編 置き去りにされた想い

 

静寂。

 

 

誰も言葉を発せなかった。

 

 

アヤネも。

 

セリカも。

 

ノノミも。

 

シロコも。

 

 

そして先生も。

 

 

目の前で起きている状況が理解できない。

 

 

なにせ。

 

ホシノが泣いている。

 

 

あの小鳥遊ホシノが。

 

 

普段は何が起きても飄々としている彼女が。

 

 

まるで子供のように。

 

 

ただ立ち尽くしていた。

 

 

「ホシノ先輩……?」

 

 

アヤネが声を掛ける。

 

 

しかし返事はない。

 

 

ホシノの視線はユメから離れない。

 

 

離せない。

 

 

夢を見ているようだった。

 

 

いや。

 

夢ならどれだけ良かっただろう。

 

 

何度も見た。

 

 

何度も願った。

 

 

もし。

 

 

もしあの日。

 

 

ユメを救えていたら。

 

 

もし自分がもっと強ければ。

 

 

もしもっと早く気付いていれば。

 

 

もし。

 

 

もし。

 

 

もし。

 

 

そんな後悔を何千回と繰り返してきた。

 

 

だから。

 

 

目の前にいるユメは。

 

 

本来なら。

 

 

奇跡だった。

 

 

涙を流して抱きしめるはずだった。

 

 

再会を喜び合うはずだった。

 

 

だが。

 

 

現実は違う。

 

 

あまりにも違った。

 

 

「……先輩。」

 

 

震える声。

 

 

「どうして……」

 

 

ユメは首を傾げる。

 

 

「何が?」

 

 

その反応に。

 

 

ホシノの胸が痛む。

 

 

あまりにも自然だった。

 

 

本当に分かっていない。

 

 

自分がどれほど想われていたか。

 

 

どれほど失われた存在だったか。

 

 

何も。

 

 

分かっていない。

 

 

いや。

 

 

違う。

 

 

理解した上で。

 

 

もう気にしていないのだ。

 

 

「私……」

 

 

ホシノの声が詰まる。

 

 

「ずっと……」

 

 

言葉にならない。

 

 

ユメは静かに見つめている。

 

 

その瞳に。

 

 

かつての熱はなかった。

 

 

かつての責任感も。

 

 

かつての使命感も。

 

 

何も。

 

 

ただ穏やかな少女がいるだけだった。

 

 

そして。

 

 

ユメは隣を見る。

 

 

マダラ。

 

 

その名を持つ少女を。

 

 

たったそれだけの仕草。

 

 

それだけで。

 

 

ホシノは理解してしまった。

 

 

ユメの世界の中心。

 

 

それが誰なのか。

 

 

「……」

 

 

胸が苦しい。

 

 

嫉妬ではない。

 

 

怒りでもない。

 

 

喪失だった。

 

 

今度こそ。

 

 

本当に失ったのだ。

 

 

ユメという存在を。

 

 

生きているのに。

 

 

目の前にいるのに。

 

 

届かない。

 

 

もう届かない。

 

 

「ホシノちゃん。」

 

 

ユメが言う。

 

 

「元気そうで良かった。」

 

 

本心だった。

 

 

嘘ではない。

 

 

だからこそ。

 

 

残酷だった。

 

 

まるで。

 

 

何年も会っていなかった知人への言葉。

 

 

それ以上でも。

 

 

それ以下でもない。

 

 

「……そうですか。」

 

 

ホシノは笑う。

 

 

笑おうとする。

 

 

しかし。

 

 

上手く笑えない。

 

 

「おじさんは……」

 

 

声が震える。

 

 

「全然良くなかったんだけどなぁ……」

 

 

ユメは少しだけ目を伏せた。

 

 

申し訳なさそうに。

 

 

だが。

 

 

後悔はない。

 

 

それが分かった。

 

 

「ごめんね。」

 

 

静かな声。

 

 

「でも私はもう大丈夫だから。」

 

 

ホシノの心が折れる音がした。

 

 

大丈夫。

 

 

その言葉。

 

 

その言葉を聞くために。

 

 

ずっと苦しんできたはずなのに。

 

 

どうしてこんなにも苦しいのだろう。

 

 

どうしてこんなにも。

 

 

空っぽになるのだろう。

 

 

「……そっか。」

 

 

それしか言えなかった。

 

 

マダラは黙って見ていた。

 

 

介入しない。

 

 

慰めない。

 

 

答えを与えない。

 

 

それはホシノ自身が越えるべきものだから。

 

 

選択には価値がある。

 

 

それがマダラの信念。

 

 

だから彼女は見届ける。

 

 

ホシノが何を選ぶのかを。

 

 

その時だった。

 

 

ふと。

 

 

先生が口を開く。

 

 

「マダラ。」

 

 

「なんだ。」

 

 

「君はユメさんを知っていたんだな。」

 

 

「知っている。」

 

 

「助けたのか?」

 

 

その問いに。

 

 

マダラは少しだけ空を見上げた。

 

 

夕焼け。

 

 

砂漠の空。

 

 

遥か遠く。

 

 

誰にも見えない場所まで視線を向ける。

 

 

そして。

 

 

珍しく。

 

 

少しだけ間を置いて答えた。

 

 

「そうだ。」

 

 

短い返答。

 

 

しかし。

 

 

その言葉に含まれる意味は重い。

 

 

先生は知らない。

 

 

彼女が。

 

 

永遠を生きる存在であることを。

 

 

未来すら知る存在であることを。

 

 

運命へ干渉しない存在であることを。

 

 

そして。

 

 

そんな彼女が。

 

 

たった一度だけ。

 

 

たった一人のために。

 

 

運命を書き換えたことを。

 

 

先生は知らない。

 

 

だが。

 

 

何故だろう。

 

 

その一言に。

 

 

異常な重みを感じた。

 

 

「……そうか。」

 

 

それ以上聞かなかった。

 

 

聞いてはいけない気がした。

 

 

マダラも説明しない。

 

 

ただ。

 

 

隣にいるユメを見た。

 

 

ユメもまた。

 

 

自然に微笑む。

 

 

その笑顔を見た瞬間。

 

 

マダラの表情が僅かに柔らかくなる。

 

 

本当に僅かに。

 

 

誰も気付かないほど。

 

 

だがユメだけは気付く。

 

 

だから笑う。

 

 

幸せそうに。

 

 

それを見たホシノは。

 

 

もう何も言えなかった。

 

 

自分が追い続けた人は。

 

 

もう既に。

 

 

幸せになっていた。

 

 

そしてその幸せに。

 

 

自分の居場所はない。

 

 

夕陽が沈む。

 

 

長い影が伸びる。

 

 

アビドスの校庭。

 

 

その片隅で。

 

 

小鳥遊ホシノは。

 

 

人生で二度目の喪失を経験していた。

 

 

一度目は。

 

 

ユメが死んだ日。

 

 

そして二度目は。

 

 

ユメが生きていると知った日だった。

 

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