観測者は青春の物語を見届ける   作:ユーザーA

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最終編 ― あまねく奇跡の始発点 第三章 選択する者

 

静かな場所だった。

 

 

世界のどこにも属さない場所。

 

 

記録されない場所。

 

 

観測されない場所。

 

 

マダラとユメだけの家。

 

 

 

朝。

 

 

窓から光が差し込む。

 

 

 

ユメはソファで眠っていた。

 

 

本を読みながら寝てしまったらしい。

 

 

 

マダラは窓際に座っている。

 

 

いつものように。

 

 

静かに。

 

 

 

その時だった。

 

 

空間が揺れる。

 

 

 

誰かが来た。

 

 

 

マダラは振り返らない。

 

 

既に知っているから。

 

 

 

現れたのは。

 

 

プラナ。

 

 

 

白い少女。

 

 

静かな瞳。

 

 

 

彼女は周囲を見回す。

 

 

 

理解不能。

 

 

 

座標取得不能。

 

 

 

空間定義不能。

 

 

 

存在証明不能。

 

 

 

やはり。

 

 

理解できない。

 

 

 

「来たか。」

 

 

 

マダラが言う。

 

 

 

プラナは頷く。

 

 

 

「質問がある。」

 

 

 

「そうだろうな。」

 

 

 

ユメはまだ寝ている。

 

 

 

二人とも起こさない。

 

 

 

自然だった。

 

 

 

プラナはしばらく黙る。

 

 

 

何から聞くべきか。

 

 

 

本当は山ほどある。

 

 

 

何者なのか。

 

 

 

何故存在するのか。

 

 

 

何故色彩を恐れないのか。

 

 

 

何故アロナも自分も解析できないのか。

 

 

 

聞きたいことはいくらでもある。

 

 

 

だが。

 

 

今。

 

 

一番重要なことは別だった。

 

 

 

「貴方は先生を信じているのですか。」

 

 

 

静かな問い。

 

 

 

風が吹く。

 

 

 

窓の外で。

 

 

 

マダラは少し考える。

 

 

 

そして。

 

 

首を横に振った。

 

 

 

「違う。」

 

 

 

プラナが目を細める。

 

 

 

予想外だった。

 

 

 

信じていると思っていた。

 

 

 

ずっと見ている。

 

 

 

ずっと観測している。

 

 

 

ずっと期待している。

 

 

 

そう見えた。

 

 

 

だが違う。

 

 

 

「信じていない。」

 

 

 

マダラは繰り返す。

 

 

 

「では何故。」

 

 

 

プラナは問う。

 

 

 

「何故任せるのですか。」

 

 

 

「何故介入しない。」

 

 

 

「何故見届ける。」

 

 

 

色彩が来る。

 

 

 

世界が終わる。

 

 

 

生徒達は苦しむ。

 

 

 

先生も苦しむ。

 

 

 

それを知っている。

 

 

 

それでも。

 

 

何もしない。

 

 

 

理解できなかった。

 

 

 

マダラは静かに答える。

 

 

 

「先生だからだ。」

 

 

 

「回答になっていない。」

 

 

 

「そうか。」

 

 

 

プラナは少しだけ苛立つ。

 

 

 

アロナが苦労する理由が分かった。

 

 

 

この存在は。

 

 

 

説明する気がない。

 

 

 

だが。

 

 

珍しく。

 

 

マダラは続けた。

 

 

 

「信じるというのは。」

 

 

 

「可能性を委ねることだ。」

 

 

 

プラナは黙る。

 

 

 

聞く。

 

 

 

「私は先生を信じていない。」

 

 

 

「先生が勝つとも思っていない。」

 

 

 

「先生が正しいとも思っていない。」

 

 

 

「先生が特別だとも思っていない。」

 

 

 

静かな声。

 

 

 

だが。

 

 

一言一言が重い。

 

 

 

「先生は失敗する。」

 

 

 

「間違える。」

 

 

 

「苦しむ。」

 

 

 

「後悔する。」

 

 

 

「選択を誤ることもある。」

 

 

 

プラナは理解する。

 

 

 

それは事実だ。

 

 

 

先生は万能ではない。

 

 

 

神でもない。

 

 

 

完璧でもない。

 

 

 

ただの人間。

 

 

 

「だから信じない。」

 

 

 

そこで。

 

 

マダラは少しだけ笑った。

 

 

 

本当に少しだけ。

 

 

 

「だが。」

 

 

 

窓の外を見る。

 

 

 

遠く。

 

 

遥か遠く。

 

 

 

先生がいる場所を。

 

 

 

「先生は選ぶ。」

 

 

 

静かな声。

 

 

 

「何度失敗しても。」

 

 

 

「何度間違えても。」

 

 

 

「何度絶望しても。」

 

 

 

「選ぶことをやめない。」

 

 

 

プラナの瞳が揺れる。

 

 

 

それは。

 

 

 

自分が見てきた先生そのものだった。

 

 

 

「だから。」

 

 

 

「私は見ている。」

 

 

 

「……」

 

 

 

「結果ではなく。」

 

 

 

「選択を。」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

長い沈黙。

 

 

 

そして。

 

 

プラナはようやく理解する。

 

 

 

信頼ではない。

 

 

 

期待でもない。

 

 

 

信仰でもない。

 

 

 

もっと単純だった。

 

 

 

彩禍マダラは。

 

 

 

先生という存在を。

 

 

 

選択し続ける者として評価している。

 

 

 

それだけ。

 

 

 

それだけだからこそ。

 

 

 

最後まで介入しない。

 

 

 

 

その時。

 

 

ソファから声がした。

 

 

 

「ん……」

 

 

 

ユメが目を覚ます。

 

 

 

眠そうな顔。

 

 

 

ぼんやりしている。

 

 

 

「おはよう。」

 

 

 

マダラが言う。

 

 

 

「おはよ。」

 

 

 

ユメは欠伸をする。

 

 

 

そして。

 

 

プラナに気付いた。

 

 

 

「来てたんだ。」

 

 

 

「うん。」

 

 

 

自然だった。

 

 

 

まるで友人みたいに。

 

 

 

プラナは少しだけ困惑する。

 

 

 

何故だろう。

 

 

 

この家に来ると。

 

 

 

警戒心が薄れる。

 

 

 

理解できない。

 

 

 

本当に。

 

 

 

理解できない。

 

 

 

ユメは笑う。

 

 

 

「難しい話してた?」

 

 

 

「少しな。」

 

 

 

「また先生の話?」

 

 

 

「そうだ。」

 

 

 

ユメは苦笑した。

 

 

 

「好きだね。」

 

 

 

「違う。」

 

 

 

即答。

 

 

 

プラナは初めて思った。

 

 

 

アロナがここにいたら。

 

 

 

きっと笑っている。

 

 

 

そんな気がした。

 

 

 

そして。

 

 

窓の外。

 

 

 

世界は静かに動いている。

 

 

 

色彩は近付いている。

 

 

 

終わりは近い。

 

 

 

だが。

 

 

まだ。

 

 

誰も諦めていない。

 

 

 

先生も。

 

 

 

生徒達も。

 

 

 

アロナも。

 

 

 

プラナも。

 

 

 

そして。

 

 

観測者も。

 

 

 

最後の選択の時は。

 

 

もうすぐそこまで来ていた。

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