観測者は青春の物語を見届ける   作:ユーザーA

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最終編 ― あまねく奇跡の始発点 第四章 選択の価値

 

色彩は近付いていた。

 

 

確実に。

 

 

静かに。

 

 

逃れられない終焉として。

 

 

 

キヴォトス全域が不安に包まれている。

 

 

先生も休む暇は無かった。

 

 

 

シャーレ。

 

 

深夜。

 

 

 

机の上には大量の資料。

 

 

報告書。

 

 

観測データ。

 

 

異常現象記録。

 

 

 

先生は一人だった。

 

 

 

「……」

 

 

 

疲れている。

 

 

 

だが。

 

 

止まれない。

 

 

 

守るべきものがある。

 

 

 

救うべき生徒達がいる。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

コンコン。

 

 

 

扉を叩く音。

 

 

 

こんな時間に。

 

 

 

先生が顔を上げる。

 

 

 

「どうぞ。」

 

 

 

扉が開く。

 

 

 

現れたのは。

 

 

 

彩禍マダラ。

 

 

 

そして。

 

 

クチナシ・ユメ。

 

 

 

先生は少し驚く。

 

 

 

「珍しいね。」

 

 

 

「そうか。」

 

 

 

マダラはいつも通り。

 

 

 

ユメは軽く手を振る。

 

 

 

「こんばんは。」

 

 

 

「こんばんは。」

 

 

 

静かな空気。

 

 

 

だが。

 

 

先生は気付いていた。

 

 

 

ずっと前から。

 

 

 

違和感に。

 

 

 

 

最初は。

 

 

変わった万事屋だと思った。

 

 

 

少し不思議な少女。

 

 

 

その程度だった。

 

 

 

だが。

 

 

知れば知るほど。

 

 

 

おかしい。

 

 

 

知っている。

 

 

 

知り過ぎている。

 

 

 

先生のことを。

 

 

 

世界のことを。

 

 

 

未来のことを。

 

 

 

そして。

 

 

何より。

 

 

 

恐れていない。

 

 

 

色彩を。

 

 

 

終焉を。

 

 

 

全てを。

 

 

 

まるで。

 

 

 

もっと大きな何かを見てきたように。

 

 

 

先生は静かに聞く。

 

 

 

「マダラ。」

 

 

 

「なんだ。」

 

 

 

「君は何者なんだ?」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

ユメが少しだけ先生を見る。

 

 

 

ついに聞いたか。

 

 

 

そんな顔だった。

 

 

 

マダラは少し考える。

 

 

 

そして。

 

 

答えない。

 

 

 

「重要か。」

 

 

 

逆に問う。

 

 

 

先生は少し考える。

 

 

 

そして。

 

 

首を横に振った。

 

 

 

「いや。」

 

 

 

本当にそうだった。

 

 

 

正体は気になる。

 

 

 

だが。

 

 

本質ではない。

 

 

 

マダラが何者であれ。

 

 

 

今まで見てきたものは変わらない。

 

 

 

その答えに。

 

 

マダラは少しだけ笑った。

 

 

 

本当に少しだけ。

 

 

 

「そうか。」

 

 

 

そして。

 

 

窓の外を見る。

 

 

 

夜空。

 

 

 

遥か遠く。

 

 

 

迫り来る終わり。

 

 

 

色彩。

 

 

 

「先生。」

 

 

 

珍しく。

 

 

マダラの方から話を始めた。

 

 

 

先生も表情を引き締める。

 

 

 

ユメも黙る。

 

 

 

空気が変わった。

 

 

 

「一つ聞く。」

 

 

 

静かな声。

 

 

 

「もし。」

 

 

 

風が吹く。

 

 

 

夜が揺れる。

 

 

 

「全てを失うとしても。」

 

 

 

先生は黙る。

 

 

 

マダラは続ける。

 

 

 

「それでも。」

 

 

 

「お前は選ぶのか。」

 

 

 

静寂。

 

 

 

部屋が静まる。

 

 

 

それは。

 

 

ただの質問ではなかった。

 

 

 

試している。

 

 

 

観測している。

 

 

 

先生を。

 

 

 

その本質を。

 

 

 

先生は考える。

 

 

 

色彩。

 

 

 

生徒達。

 

 

 

アロナ。

 

 

 

プラナ。

 

 

 

仲間達。

 

 

 

失う。

 

 

 

全部。

 

 

 

本当に全部。

 

 

 

その可能性はある。

 

 

 

むしろ高い。

 

 

 

だが。

 

 

それでも。

 

 

 

先生は答えた。

 

 

 

「選ぶよ。」

 

 

 

即答だった。

 

 

 

迷わない。

 

 

 

一切。

 

 

 

マダラは黙る。

 

 

 

先生は続ける。

 

 

 

「結果は分からない。」

 

 

 

「失敗するかもしれない。」

 

 

 

「間違えるかもしれない。」

 

 

 

「誰も救えないかもしれない。」

 

 

 

静かな声。

 

 

 

だが。

 

 

強い声。

 

 

 

「それでも。」

 

 

 

「選ばない理由にはならない。」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

長い沈黙。

 

 

 

やがて。

 

 

マダラは目を閉じた。

 

 

 

そして。

 

 

ほんの少しだけ。

 

 

 

笑った。

 

 

 

ユメですら滅多に見ない笑み。

 

 

 

優しい笑み。

 

 

 

どこか。

 

 

安心したような笑み。

 

 

 

「そうか。」

 

 

 

それだけ。

 

 

 

それだけだった。

 

 

 

だが。

 

 

先生には分かった。

 

 

 

今。

 

 

何かを認められた。

 

 

 

そんな気がした。

 

 

 

ユメが苦笑する。

 

 

 

「満足した?」

 

 

 

「ああ。」

 

 

 

即答。

 

 

 

先生は首を傾げる。

 

 

 

意味が分からない。

 

 

 

だが。

 

 

ユメには分かる。

 

 

 

長い時間。

 

 

 

永遠にも近い時間。

 

 

 

見続けてきた観測者が。

 

 

 

今。

 

 

少しだけ安心したのだ。

 

 

 

 

帰り際。

 

 

 

扉の前。

 

 

 

先生が呼び止める。

 

 

 

「マダラ。」

 

 

 

「なんだ。」

 

 

 

「君は。」

 

 

 

少し迷って。

 

 

 

そして聞く。

 

 

 

「色彩を知っているんだね。」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

ユメが少し目を閉じる。

 

 

 

先生は見逃さない。

 

 

 

やはり。

 

 

 

何かある。

 

 

 

マダラは扉へ手を掛ける。

 

 

 

そして。

 

 

振り返らずに言った。

 

 

 

「知っている。」

 

 

 

先生の瞳が揺れる。

 

 

 

「どれくらい?」

 

 

 

数秒。

 

 

 

静寂。

 

 

 

そして。

 

 

返ってきた答え。

 

 

 

「お前より。」

 

 

 

「ずっと前から。」

 

 

 

扉が閉じる。

 

 

 

先生は動けなかった。

 

 

 

ユメとマダラの姿が消える。

 

 

 

残されたのは。

 

 

 

疑問。

 

 

 

違和感。

 

 

 

そして。

 

 

確信。

 

 

 

彩禍マダラは。

 

 

 

ただの万事屋ではない。

 

 

 

おそらく。

 

 

 

色彩と同じ場所を見ている。

 

 

 

あるいは。

 

 

 

それ以上の場所を。

 

 

 

 

そして。

 

 

誰にも辿り着けない家へ帰る途中。

 

 

 

ユメが笑った。

 

 

 

「珍しいね。」

 

 

 

「何がだ。」

 

 

 

「先生のこと。」

 

 

 

マダラは少し考える。

 

 

 

そして。

 

 

夜空を見る。

 

 

 

迫る終焉。

 

 

 

それでも進む人々。

 

 

 

そして。

 

 

選び続ける一人の先生。

 

 

 

「そうだな。」

 

 

 

小さな声。

 

 

 

「少しだけ。」

 

 

 

「期待しているのかもしれない。」

 

 

 

それは。

 

 

永遠の観測者が。

 

 

初めて零した本音だった。

 

 

そして。

 

 

最終決戦の時は。

 

 

もう目前まで迫っていた。

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