観測者は青春の物語を見届ける   作:ユーザーA

26 / 27
最終編 ― あまねく奇跡の始発点 第七章 プラナの決断

 

先生は死んだ。

 

 

その事実は変わらない。

 

 

どれだけ願っても。

 

 

どれだけ泣いても。

 

 

どれだけ否定しても。

 

 

変わらない。

 

 

 

シッテムの箱。

 

 

電子の海。

 

 

静寂。

 

 

 

アロナは泣いていた。

 

 

まだ。

 

 

ずっと。

 

 

 

「先生……」

 

 

 

返事はない。

 

 

 

「先生……」

 

 

 

何度呼んでも。

 

 

 

もう。

 

 

返ってこない。

 

 

 

その隣で。

 

 

プラナは黙っていた。

 

 

 

先生を見ている。

 

 

 

ずっと。

 

 

 

静かに。

 

 

 

 

思い出す。

 

 

 

初めて会った時。

 

 

 

敵だった。

 

 

 

対立していた。

 

 

 

理解できなかった。

 

 

 

だが。

 

 

先生は違った。

 

 

 

プラナを敵として見なかった。

 

 

 

道具としても見なかった。

 

 

 

役割としても見なかった。

 

 

 

ただ。

 

 

一人の少女として見た。

 

 

 

それが。

 

 

プラナには理解できなかった。

 

 

 

そして。

 

 

嬉しかった。

 

 

 

初めて。

 

 

 

本当に初めて。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

プラナは先生を見る。

 

 

 

もう動かない。

 

 

 

もう話せない。

 

 

 

もう笑わない。

 

 

 

そのはずだった。

 

 

 

だが。

 

 

 

本当にそれでいいのか。

 

 

 

その問いが。

 

 

心に生まれる。

 

 

 

役割ではない。

 

 

 

命令でもない。

 

 

 

計算でもない。

 

 

 

ただ。

 

 

一つの想い。

 

 

 

先生に。

 

 

生きていてほしい。

 

 

 

その願い。

 

 

 

プラナは目を閉じる。

 

 

 

そして。

 

 

初めて。

 

 

自分自身へ問う。

 

 

 

私はどうしたい。

 

 

 

私は何を選ぶ。

 

 

 

私は。

 

 

 

 

長い沈黙。

 

 

 

やがて。

 

 

プラナは立ち上がった。

 

 

 

アロナが顔を上げる。

 

 

 

涙で濡れた瞳。

 

 

 

「……プラナ?」

 

 

 

プラナは振り返る。

 

 

 

静かな顔。

 

 

 

だが。

 

 

決意があった。

 

 

 

「私は。」

 

 

 

言葉が震える。

 

 

 

初めてだった。

 

 

 

ここまで感情が揺れるのは。

 

 

 

「先生を助けたい。」

 

 

 

アロナが固まる。

 

 

 

数秒。

 

 

 

理解が追いつかない。

 

 

 

そして。

 

 

次の瞬間。

 

 

涙が溢れた。

 

 

 

「……うん。」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

「助けたいです!」

 

 

 

アロナも叫ぶ。

 

 

 

「助けたいです!」

 

 

 

二人の声が重なる。

 

 

 

電子の海が揺れる。

 

 

 

シッテムの箱が反応する。

 

 

 

世界が反応する。

 

 

 

それは。

 

 

奇跡の始まりだった。

 

 

 

 

遠く。

 

 

誰にも辿り着けない家。

 

 

 

マダラは窓の外を見ていた。

 

 

 

ユメも隣にいる。

 

 

 

静かな夜。

 

 

 

だが。

 

 

世界は静かではない。

 

 

 

運命が動いている。

 

 

 

そして。

 

 

プラナが選んだ。

 

 

 

与えられた役割ではなく。

 

 

 

自分自身の意思で。

 

 

 

先生を救うことを。

 

 

 

ユメが気付く。

 

 

 

マダラの表情に。

 

 

 

ほんの少しだけ。

 

 

 

変化があった。

 

 

 

「……」

 

 

 

目を細めている。

 

 

 

優しく。

 

 

 

本当に僅かに。

 

 

 

ユメは笑う。

 

 

 

「嬉しい?」

 

 

 

「そうか。」

 

 

 

誤魔化そうとする。

 

 

 

だが。

 

 

ユメには通じない。

 

 

 

「嬉しいんだ。」

 

 

 

マダラは少し黙る。

 

 

 

そして。

 

 

窓の向こうを見る。

 

 

 

先生。

 

 

 

アロナ。

 

 

 

プラナ。

 

 

 

奇跡へ向かう者達。

 

 

 

そして。

 

 

静かに呟いた。

 

 

 

「良い選択だ。」

 

 

 

その言葉。

 

 

 

ユメは覚えていた。

 

 

 

パヴァーヌ編。

 

 

 

アリスの時。

 

 

 

勇者が自分で選んだ時。

 

 

 

マダラは同じことを言った。

 

 

 

良い選択だ。

 

 

 

それは。

 

 

マダラにとって最大級の賛辞。

 

 

 

選んだ者への敬意。

 

 

 

観測者からの祝福。

 

 

 

ユメは少しだけ笑った。

 

 

 

「先生も喜ぶね。」

 

 

 

マダラは何も言わない。

 

 

 

だが。

 

 

否定もしない。

 

 

 

 

シッテムの箱。

 

 

 

アロナとプラナは動き出していた。

 

 

 

不可能を可能にするために。

 

 

 

死者を取り戻すために。

 

 

 

先生を救うために。

 

 

 

世界が決めた結末へ抗うために。

 

 

 

色彩は見ていた。

 

 

 

その選択を。

 

 

 

理解できない。

 

 

 

非合理。

 

 

 

非効率。

 

 

 

愚かな行動。

 

 

 

それなのに。

 

 

 

眩しい。

 

 

 

何故だ。

 

 

 

何故。

 

 

そこまでして。

 

 

 

色彩には分からない。

 

 

 

だが。

 

 

一つだけ理解していた。

 

 

 

この選択は。

 

 

 

世界を変える。

 

 

 

そう確信していた。

 

 

 

そして。

 

 

奇跡は始まる。

 

 

 

先生が選び。

 

 

 

生徒達が選び。

 

 

 

アロナが選び。

 

 

 

プラナが選び。

 

 

 

無数の選択が積み重なる。

 

 

 

その先にあるもの。

 

 

 

それこそが。

 

 

 

奇跡だった。

 

 

 

そして。

 

 

遠く離れた場所で。

 

 

観測者は静かに見守っていた。

 

 

 

決して手を伸ばさず。

 

 

 

決して答えを与えず。

 

 

 

ただ。

 

 

選択の価値を信じて。

 

 

 

奇跡が生まれる瞬間を。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。