観測者は青春の物語を見届ける   作:ユーザーA

26 / 28
最終編 ― あまねく奇跡の始発点 第七章 プラナの決断

⸻

 

先生は死んだ。

 

⸻

 

その事実は変わらない。

 

⸻

 

どれだけ願っても。

 

⸻

 

どれだけ泣いても。

 

⸻

 

どれだけ否定しても。

 

⸻

 

変わらない。

 

⸻

 

⸻

 

シッテムの箱。

 

⸻

 

電子の海。

 

⸻

 

静寂。

 

⸻

 

⸻

 

アロナは泣いていた。

 

⸻

 

まだ。

 

⸻

 

ずっと。

 

⸻

 

⸻

 

「先生……」

 

⸻

 

⸻

 

返事はない。

 

⸻

 

⸻

 

「先生……」

 

⸻

 

⸻

 

何度呼んでも。

 

⸻

 

⸻

 

もう。

 

⸻

 

返ってこない。

 

⸻

 

⸻

 

その隣で。

 

⸻

 

プラナは黙っていた。

 

⸻

 

⸻

 

先生を見ている。

 

⸻

 

⸻

 

ずっと。

 

⸻

 

⸻

 

静かに。

 

⸻

 

⸻

 

⸻

 

思い出す。

 

⸻

 

⸻

 

初めて会った時。

 

⸻

 

⸻

 

敵だった。

 

⸻

 

⸻

 

対立していた。

 

⸻

 

⸻

 

理解できなかった。

 

⸻

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

先生は違った。

 

⸻

 

⸻

 

プラナを敵として見なかった。

 

⸻

 

⸻

 

道具としても見なかった。

 

⸻

 

⸻

 

役割としても見なかった。

 

⸻

 

⸻

 

ただ。

 

⸻

 

一人の少女として見た。

 

⸻

 

⸻

 

それが。

 

⸻

 

プラナには理解できなかった。

 

⸻

 

⸻

 

そして。

 

⸻

 

嬉しかった。

 

⸻

 

⸻

 

初めて。

 

⸻

 

⸻

 

本当に初めて。

 

⸻

 

⸻

 

⸻

 

「……」

 

⸻

 

⸻

 

プラナは先生を見る。

 

⸻

 

⸻

 

もう動かない。

 

⸻

 

⸻

 

もう話せない。

 

⸻

 

⸻

 

もう笑わない。

 

⸻

 

⸻

 

そのはずだった。

 

⸻

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

⸻

 

本当にそれでいいのか。

 

⸻

 

⸻

 

その問いが。

 

⸻

 

心に生まれる。

 

⸻

 

⸻

 

役割ではない。

 

⸻

 

⸻

 

命令でもない。

 

⸻

 

⸻

 

計算でもない。

 

⸻

 

⸻

 

ただ。

 

⸻

 

一つの想い。

 

⸻

 

⸻

 

先生に。

 

⸻

 

生きていてほしい。

 

⸻

 

⸻

 

その願い。

 

⸻

 

⸻

 

プラナは目を閉じる。

 

⸻

 

⸻

 

そして。

 

⸻

 

初めて。

 

⸻

 

自分自身へ問う。

 

⸻

 

⸻

 

私はどうしたい。

 

⸻

 

⸻

 

私は何を選ぶ。

 

⸻

 

⸻

 

私は。

 

⸻

 

⸻

 

⸻

 

長い沈黙。

 

⸻

 

⸻

 

やがて。

 

⸻

 

プラナは立ち上がった。

 

⸻

 

⸻

 

アロナが顔を上げる。

 

⸻

 

⸻

 

涙で濡れた瞳。

 

⸻

 

⸻

 

「……プラナ?」

 

⸻

 

⸻

 

プラナは振り返る。

 

⸻

 

⸻

 

静かな顔。

 

⸻

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

決意があった。

 

⸻

 

⸻

 

「私は。」

 

⸻

 

⸻

 

言葉が震える。

 

⸻

 

⸻

 

初めてだった。

 

⸻

 

⸻

 

ここまで感情が揺れるのは。

 

⸻

 

⸻

 

「先生を助けたい。」

 

⸻

 

⸻

 

アロナが固まる。

 

⸻

 

⸻

 

数秒。

 

⸻

 

⸻

 

理解が追いつかない。

 

⸻

 

⸻

 

そして。

 

⸻

 

次の瞬間。

 

⸻

 

涙が溢れた。

 

⸻

 

⸻

 

「……うん。」

 

⸻

 

⸻

 

「うん!」

 

⸻

 

⸻

 

「助けたいです!」

 

⸻

 

⸻

 

アロナも叫ぶ。

 

⸻

 

⸻

 

「助けたいです!」

 

⸻

 

⸻

 

二人の声が重なる。

 

⸻

 

⸻

 

電子の海が揺れる。

 

⸻

 

⸻

 

シッテムの箱が反応する。

 

⸻

 

⸻

 

世界が反応する。

 

⸻

 

⸻

 

それは。

 

⸻

 

奇跡の始まりだった。

 

⸻

 

⸻

 

⸻

 

遠く。

 

⸻

 

誰にも辿り着けない家。

 

⸻

 

⸻

 

マダラは窓の外を見ていた。

 

⸻

 

⸻

 

ユメも隣にいる。

 

⸻

 

⸻

 

静かな夜。

 

⸻

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

世界は静かではない。

 

⸻

 

⸻

 

運命が動いている。

 

⸻

 

⸻

 

そして。

 

⸻

 

プラナが選んだ。

 

⸻

 

⸻

 

与えられた役割ではなく。

 

⸻

 

⸻

 

自分自身の意思で。

 

⸻

 

⸻

 

先生を救うことを。

 

⸻

 

⸻

 

ユメが気付く。

 

⸻

 

⸻

 

マダラの表情に。

 

⸻

 

⸻

 

ほんの少しだけ。

 

⸻

 

⸻

 

変化があった。

 

⸻

 

⸻

 

「……」

 

⸻

 

⸻

 

目を細めている。

 

⸻

 

⸻

 

優しく。

 

⸻

 

⸻

 

本当に僅かに。

 

⸻

 

⸻

 

ユメは笑う。

 

⸻

 

⸻

 

「嬉しい?」

 

⸻

 

⸻

 

「そうか。」

 

⸻

 

⸻

 

誤魔化そうとする。

 

⸻

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

ユメには通じない。

 

⸻

 

⸻

 

「嬉しいんだ。」

 

⸻

 

⸻

 

マダラは少し黙る。

 

⸻

 

⸻

 

そして。

 

⸻

 

窓の向こうを見る。

 

⸻

 

⸻

 

先生。

 

⸻

 

⸻

 

アロナ。

 

⸻

 

⸻

 

プラナ。

 

⸻

 

⸻

 

奇跡へ向かう者達。

 

⸻

 

⸻

 

そして。

 

⸻

 

静かに呟いた。

 

⸻

 

⸻

 

「良い選択だ。」

 

⸻

 

⸻

 

その言葉。

 

⸻

 

⸻

 

ユメは覚えていた。

 

⸻

 

⸻

 

パヴァーヌ編。

 

⸻

 

⸻

 

アリスの時。

 

⸻

 

⸻

 

勇者が自分で選んだ時。

 

⸻

 

⸻

 

マダラは同じことを言った。

 

⸻

 

⸻

 

良い選択だ。

 

⸻

 

⸻

 

それは。

 

⸻

 

マダラにとって最大級の賛辞。

 

⸻

 

⸻

 

選んだ者への敬意。

 

⸻

 

⸻

 

観測者からの祝福。

 

⸻

 

⸻

 

ユメは少しだけ笑った。

 

⸻

 

⸻

 

「先生も喜ぶね。」

 

⸻

 

⸻

 

マダラは何も言わない。

 

⸻

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

否定もしない。

 

⸻

 

⸻

 

⸻

 

シッテムの箱。

 

⸻

 

⸻

 

アロナとプラナは動き出していた。

 

⸻

 

⸻

 

不可能を可能にするために。

 

⸻

 

⸻

 

死者を取り戻すために。

 

⸻

 

⸻

 

先生を救うために。

 

⸻

 

⸻

 

世界が決めた結末へ抗うために。

 

⸻

 

⸻

 

色彩は見ていた。

 

⸻

 

⸻

 

その選択を。

 

⸻

 

⸻

 

理解できない。

 

⸻

 

⸻

 

非合理。

 

⸻

 

⸻

 

非効率。

 

⸻

 

⸻

 

愚かな行動。

 

⸻

 

⸻

 

それなのに。

 

⸻

 

⸻

 

眩しい。

 

⸻

 

⸻

 

何故だ。

 

⸻

 

⸻

 

何故。

 

⸻

 

そこまでして。

 

⸻

 

⸻

 

色彩には分からない。

 

⸻

 

⸻

 

だが。

 

⸻

 

一つだけ理解していた。

 

⸻

 

⸻

 

この選択は。

 

⸻

 

⸻

 

世界を変える。

 

⸻

 

⸻

 

そう確信していた。

 

⸻

 

⸻

 

そして。

 

⸻

 

奇跡は始まる。

 

⸻

 

⸻

 

先生が選び。

 

⸻

 

⸻

 

生徒達が選び。

 

⸻

 

⸻

 

アロナが選び。

 

⸻

 

⸻

 

プラナが選び。

 

⸻

 

⸻

 

無数の選択が積み重なる。

 

⸻

 

⸻

 

その先にあるもの。

 

⸻

 

⸻

 

それこそが。

 

⸻

 

⸻

 

奇跡だった。

 

⸻

 

⸻

 

そして。

 

⸻

 

遠く離れた場所で。

 

⸻

 

観測者は静かに見守っていた。

 

⸻

 

⸻

 

決して手を伸ばさず。

 

⸻

 

⸻

 

決して答えを与えず。

 

⸻

 

⸻

 

ただ。

 

⸻

 

選択の価値を信じて。

 

⸻

 

⸻

 

奇跡が生まれる瞬間を。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。