観測者は青春の物語を見届ける   作:ユーザーA

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対策委員会編 追いかけた先にあったもの

 

夜。

 

 

アビドス高校。

 

 

誰もいない廊下を一人の少女が歩いていた。

 

 

小鳥遊ホシノ。

 

 

眠れなかった。

 

 

眠れるはずがなかった。

 

 

ユメが生きていた。

 

 

それだけでも十分だった。

 

 

だが。

 

 

問題はその後だった。

 

 

再会。

 

 

会話。

 

 

あの反応。

 

 

「あぁ。」

 

 

「ホシノちゃんか。」

 

 

「そう。」

 

 

「元気そうで良かった。」

 

 

何度も何度も脳内で再生される。

 

 

何度も。

 

 

何度も。

 

 

何度も。

 

 

まるで呪いのように。

 

 

「……先輩。」

 

 

小さく呟く。

 

 

返事はない。

 

 

当然だ。

 

 

ユメはここにいない。

 

 

今頃。

 

 

あの女の隣にいる。

 

 

彩禍マダラ。

 

 

ホシノは拳を握る。

 

 

別に嫌いではない。

 

 

恨んでもいない。

 

 

むしろ感謝するべきなのだろう。

 

 

ユメを救ったのだから。

 

 

それでも。

 

 

胸の奥が痛い。

 

 

どうしようもなく。

 

 

痛い。

 

 

だから。

 

 

気付けば。

 

 

足が動いていた。

 

 

校門を抜ける。

 

 

夜の砂漠を進む。

 

 

目的地はない。

 

 

ただ。

 

 

ユメを探す。

 

 

それだけ。

 

 

どこにいるのか。

 

 

どこで暮らしているのか。

 

 

何をしているのか。

 

 

知りたかった。

 

 

少しでも。

 

 

少しでもいい。

 

 

先輩と繋がっていたかった。

 

 

 

数時間後。

 

 

ホシノは見つけた。

 

 

遠く。

 

 

砂丘の向こう。

 

 

月明かりに照らされる二つの影。

 

 

マダラ。

 

 

そしてユメ。

 

 

二人は並んで歩いていた。

 

 

会話をしている。

 

 

笑っている。

 

 

楽しそうだった。

 

 

昔。

 

 

自分が隣にいた頃のように。

 

 

いや。

 

 

違う。

 

 

もっと近い。

 

 

もっと自然だ。

 

 

もっと深い。

 

 

ホシノは岩陰に隠れる。

 

 

情けないと思う。

 

 

でも止められない。

 

 

目を離したくない。

 

 

離したら。

 

 

本当に届かなくなる気がした。

 

 

だから追う。

 

 

必死に。

 

 

ただひたすら。

 

 

 

やがて。

 

 

二人は立ち止まった。

 

 

何もない場所。

 

 

砂しかない場所。

 

 

建物など存在しない。

 

 

だが。

 

 

ユメが微笑んだ。

 

 

マダラも小さく頷く。

 

 

そして。

 

 

前へ進む。

 

 

一歩。

 

 

二歩。

 

 

三歩。

 

 

その瞬間。

 

 

消えた。

 

 

「……え?」

 

 

ホシノが固まる。

 

 

見失った。

 

 

そんなはずはない。

 

 

遮蔽物もない。

 

 

隠れる場所もない。

 

 

なのに。

 

 

消えた。

 

 

完全に。

 

 

跡形もなく。

 

 

ホシノは慌てて走る。

 

 

砂を蹴る。

 

 

転びそうになりながら。

 

 

二人がいた場所へ辿り着く。

 

 

だが。

 

 

何もない。

 

 

本当に何も。

 

 

足跡すら。

 

 

残っていない。

 

 

「なんで……」

 

 

探す。

 

 

歩く。

 

 

走る。

 

 

周囲を確認する。

 

 

それでも。

 

 

見つからない。

 

 

見つかるはずがない。

 

 

そこは。

 

 

マダラとユメだけの場所。

 

 

世界のどこにも属さない場所。

 

 

許可されなければ辿り着けない場所。

 

 

ホシノには。

 

 

届かない場所だった。

 

 

 

数十分後。

 

 

ホシノは座り込んでいた。

 

 

砂の上。

 

 

一人。

 

 

月だけが見ている。

 

 

「……はは。」

 

 

乾いた笑い。

 

 

「何やってるんだろ。」

 

 

情けない。

 

 

本当に。

 

 

情けない。

 

 

追いかけて。

 

 

隠れて。

 

 

覗いて。

 

 

結局何も出来ない。

 

 

昔からそうだった。

 

 

守れなかった。

 

 

助けられなかった。

 

 

追いつけなかった。

 

 

そして今も。

 

 

届かない。

 

 

ユメはそこにいるのに。

 

 

生きているのに。

 

 

手を伸ばせば届きそうなのに。

 

 

どうしてこんなにも遠いのだろう。

 

 

「先輩……」

 

 

声が震える。

 

 

涙が零れる。

 

 

「おじさん……」

 

 

「ずっと……」

 

 

「ずっと会いたかったんだけどなぁ……」

 

 

返事はない。

 

 

月だけが輝いている。

 

 

そして。

 

 

その時だった。

 

 

不意に。

 

 

頭上から声が降ってきた。

 

 

「会っただろう。」

 

 

ホシノの身体が跳ねる。

 

 

振り向く。

 

 

そこにいた。

 

 

彩禍マダラ。

 

 

いつからいたのか分からない。

 

 

まるで最初からそこにいたように。

 

 

静かに立っていた。

 

 

「……」

 

 

ホシノは何も言えない。

 

 

マダラは怒っていない。

 

 

責めてもいない。

 

 

ただ見ている。

 

 

静かに。

 

 

「追いかけてきたのか。」

 

 

ホシノは答えない。

 

 

答えられない。

 

 

図星だった。

 

 

マダラはため息も吐かない。

 

 

ただ空を見る。

 

 

「ユメは幸せだ。」

 

 

その言葉。

 

 

ホシノの胸が痛む。

 

 

分かっている。

 

 

そんなこと。

 

 

見れば分かる。

 

 

だから苦しい。

 

 

「……うん。」

 

 

「知ってるよ。」

 

 

「知ってる。」

 

 

「知ってるけどさぁ……」

 

 

涙が落ちる。

 

 

「おじさんだけ置いていかれたみたいじゃん。」

 

 

初めてだった。

 

 

ホシノが本音を口にしたのは。

 

 

マダラは少しだけ目を細める。

 

 

そして。

 

 

静かに言った。

 

 

「置いていかれたわけじゃない。」

 

 

「?」

 

 

「ユメが進んだだけだ。」

 

 

短い言葉。

 

 

だが。

 

 

残酷なほど優しい言葉だった。

 

 

「お前も進める。」

 

 

「……」

 

 

「進むかどうかはお前が決めることだ。」

 

 

選択には価値がある。

 

 

だからマダラは手を引かない。

 

 

答えを与えない。

 

 

ホシノ自身に選ばせる。

 

 

それが。

 

 

ユメを救った存在なりの優しさだった。

 

 

長い沈黙。

 

 

やがて。

 

 

ホシノは立ち上がる。

 

 

まだ苦しい。

 

 

まだ辛い。

 

 

まだ泣きたい。

 

 

それでも。

 

 

少しだけ。

 

 

少しだけ前を向けた気がした。

 

 

「……帰るよ。」

 

 

「そうか。」

 

 

「うん。」

 

 

そしてホシノは歩き出す。

 

 

アビドスへ。

 

 

自分の居場所へ。

 

 

その背中を見送りながら。

 

 

マダラは何も言わない。

 

 

ただ静かに。

 

 

見届ける。

 

 

それが観測者の役目だから。

 

 

そして遠く。

 

 

誰にも辿り着けない家で。

 

 

ユメは窓の外を見ながら小さく呟く。

 

 

「ホシノちゃん。」

 

 

その声は。

 

 

夜風に消えていった。

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