観測者は青春の物語を見届ける   作:ユーザーA

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対策委員会編 生きていてほしかったのに

 

夕方。

 

 

アビドス高校。

 

 

校舎の屋上。

 

 

空は赤く染まり始めていた。

 

 

ユメとマダラが去ってから。

 

 

どれくらい経っただろう。

 

 

ホシノはまだそこにいた。

 

 

フェンスにもたれながら。

 

 

ただ空を見ていた。

 

 

何も考えたくなかった。

 

 

考えると苦しくなるから。

 

 

だが。

 

 

考えないことなど出来なかった。

 

 

「……」

 

 

静寂。

 

 

風の音だけが聞こえる。

 

 

その時。

 

 

屋上の扉が開いた。

 

 

振り返らなくても分かる。

 

 

先生だった。

 

 

「ここにいたのか。」

 

 

「いたよー。」

 

 

いつもの調子。

 

 

いつもの声。

 

 

いつものホシノ。

 

 

そう演じる。

 

 

だが。

 

 

先生は騙されなかった。

 

 

何も言わず。

 

 

ホシノの隣へ来る。

 

 

そして同じように空を見る。

 

 

沈黙。

 

 

数分。

 

 

誰も喋らない。

 

 

それでも不思議と居心地は悪くなかった。

 

 

先生は待ってくれる。

 

 

無理に聞かない。

 

 

だから。

 

 

ホシノは少しだけ安心してしまった。

 

 

そして。

 

 

ぽつりと呟く。

 

 

「先生。」

 

 

「なんだ?」

 

 

「おじさんさ。」

 

 

笑う。

 

 

自嘲気味に。

 

 

「最低かもしれない。」

 

 

先生は答えない。

 

 

続きを待つ。

 

 

ホシノは俯く。

 

 

「先輩が生きてた。」

 

 

「うん。」

 

 

「ずっと願ってたんだよ。」

 

 

震える声。

 

 

「生きててほしいって。」

 

 

「助かっててほしいって。」

 

 

「何回も。」

 

 

「何回も。」

 

 

「何回も。」

 

 

指が震える。

 

 

押さえようとしても止まらない。

 

 

「なのにさ。」

 

 

声が掠れる。

 

 

「生きてた方が辛いなんて思いたくなかった。」

 

 

先生は何も言わない。

 

 

ただ聞く。

 

 

ホシノが初めて吐き出す本音を。

 

 

「死んでた方が良かったなんて思ってない。」

 

 

「そんなこと思えるわけない。」

 

 

「先輩が生きてて嬉しい。」

 

 

「本当に嬉しい。」

 

 

涙が零れる。

 

 

止まらない。

 

 

「でも。」

 

 

「でもさ。」

 

 

「おじさんだけだったんだ。」

 

 

「ずっとあの日で止まってたの。」

 

 

唇を噛む。

 

 

痛い。

 

 

でも。

 

 

心の方が痛い。

 

 

ずっと。

 

 

ずっと。

 

 

置いていったのは自分だと思っていた。

 

 

守れなかったから。

 

 

助けられなかったから。

 

 

だから。

 

 

追い続けていた。

 

 

謝りたかった。

 

 

もう一度会いたかった。

 

 

もう一度笑ってほしかった。

 

 

でも。

 

 

現実は違った。

 

 

「先輩はもう終わってた。」

 

 

「整理してた。」

 

 

「前に進んでた。」

 

 

「幸せになってた。」

 

 

「おじさんだけ置いてかれてた。」

 

 

先生は静かに聞いている。

 

 

ホシノは涙を拭う。

 

 

拭っても。

 

 

また溢れる。

 

 

「おじさんね。」

 

 

笑う。

 

 

泣きながら。

 

 

「ちょっと期待してたんだ。」

 

 

「生きてたら。」

 

 

「また一緒にアビドスやれるかなって。」

 

 

「また先輩がいて。」

 

 

「みんなで。」

 

 

「昔みたいに。」

 

 

叶うはずのない夢。

 

 

でも。

 

 

願ってしまった。

 

 

少しだけ。

 

 

ほんの少しだけ。

 

 

「馬鹿だよねー。」

 

 

先生は首を振る。

 

 

「馬鹿じゃない。」

 

 

短い言葉。

 

 

ホシノが少し目を見開く。

 

 

「そうかな。」

 

 

「そうだ。」

 

 

即答だった。

 

 

迷いもなく。

 

 

「会いたかった相手がいる。」

 

 

「その人が生きていた。」

 

 

「昔みたいに戻りたいと思った。」

 

 

「それは普通のことだ。」

 

 

ホシノは黙る。

 

 

普通。

 

 

その言葉が少しだけ救いだった。

 

 

「でも戻れなかった。」

 

 

先生が続ける。

 

 

「うん。」

 

 

「それも普通だ。」

 

 

ホシノの目から涙が落ちる。

 

 

また。

 

 

ぽろりと。

 

 

静かに。

 

 

「人は変わる。」

 

 

先生は空を見る。

 

 

「前に進む。」

 

 

「止まったままではいられない。」

 

 

「ユメも。」

 

 

「ホシノも。」

 

 

「きっと同じだ。」

 

 

ホシノは聞いている。

 

 

何も言わず。

 

 

ただ聞いている。

 

 

「ホシノはまだ進んでないと思ってるかもしれない。」

 

 

「でも。」

 

 

先生は少し笑う。

 

 

「俺はそう思わない。」

 

 

「え?」

 

 

「ホシノはアビドスを守った。」

 

 

「対策委員会を守った。」

 

 

「みんなを支えた。」

 

 

「前に進んだから出来たことだ。」

 

 

ホシノは言葉を失う。

 

 

そんな風に考えたことはなかった。

 

 

ずっと。

 

 

自分は止まったままだと思っていたから。

 

 

「だから。」

 

 

先生は言う。

 

 

「ユメと違う道を歩いただけだ。」

 

 

「置いていかれたわけじゃない。」

 

 

その言葉。

 

 

どこかで聞いた気がした。

 

 

マダラが言った言葉。

 

 

『ユメが進んだだけだ』

 

 

少しだけ似ている。

 

 

不思議だった。

 

 

先生とマダラ。

 

 

全然違うのに。

 

 

同じ答えに辿り着いている。

 

 

「……そっか。」

 

 

小さく呟く。

 

 

まだ苦しい。

 

 

まだ辛い。

 

 

まだ諦めきれない。

 

 

でも。

 

 

少しだけ。

 

 

本当に少しだけ。

 

 

呼吸が楽になった。

 

 

「先生。」

 

 

「なんだ。」

 

 

「ありがと。」

 

 

先生は笑う。

 

 

「どういたしまして。」

 

 

それだけ。

 

 

特別なことは何もない。

 

 

だが。

 

 

ホシノにとっては十分だった。

 

 

夕陽が沈む。

 

 

長い一日が終わる。

 

 

ユメは戻らない。

 

 

きっとこれからも。

 

 

だが。

 

 

だからといって。

 

 

ホシノの物語が終わるわけではない。

 

 

ユメはユメの道を歩く。

 

 

マダラと共に。

 

 

そして。

 

 

ホシノもまた。

 

 

自分の道を歩いていく。

 

 

アビドスで。

 

 

仲間達と共に。

 

 

まだ少しだけ痛む胸を抱えながら。

 

 

それでも前を向いて。

 

 

歩き始めるために。

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