観測者は青春の物語を見届ける   作:ユーザーA

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対策委員会編 観測者と探究者

 

夜。

 

 

アビドス自治区外縁部。

 

 

ホシノ誘拐事件。

 

 

その裏側。

 

 

先生達がホシノ奪還のため奔走している頃。

 

 

別の場所で。

 

 

もう一つの会合が行われていた。

 

 

誰にも知られず。

 

 

誰にも気付かれず。

 

 

静かに。

 

 

 

廃墟となった高層ビル。

 

 

その屋上。

 

 

夜風が吹く。

 

 

月明かりだけが周囲を照らしていた。

 

 

そこに。

 

 

一人の男が立っている。

 

 

黒いスーツ。

 

 

白い仮面。

 

 

ゲマトリア。

 

 

黒服。

 

 

「お待ちしていました。」

 

 

誰もいない空間へ向かって語り掛ける。

 

 

すると。

 

 

背後から声がした。

 

 

「待たせたか。」

 

 

振り返る。

 

 

そこにいた。

 

 

彩禍マダラ。

 

 

白と黒の服。

 

 

巨大なリボルバー。

 

 

静かな瞳。

 

 

相変わらず。

 

 

何も分からない。

 

 

存在しているはずなのに。

 

 

存在そのものが理解できない。

 

 

黒服は思わず笑みを浮かべた。

 

 

「まさか本当に来ていただけるとは。」

 

 

「呼んだのはお前だろう。」

 

 

「ええ。」

 

 

「だから来た。」

 

 

当たり前のような返答。

 

 

それがまた異様だった。

 

 

警戒もない。

 

 

敵意もない。

 

 

緊張もない。

 

 

まるで。

 

 

散歩の途中に立ち寄ったような態度。

 

 

黒服は興味深そうにマダラを見る。

 

 

そして。

 

 

ずっと聞きたかったことを口にした。

 

 

「貴方は一体何なのです?」

 

 

沈黙。

 

 

夜風が吹く。

 

 

マダラは空を見る。

 

 

月を見る。

 

 

そして。

 

 

少し考える。

 

 

「何だと思う。」

 

 

質問で返された。

 

 

黒服は笑う。

 

 

「それが分かれば苦労しません。」

 

 

本心だった。

 

 

神秘ではない。

 

 

恐怖ではない。

 

 

色彩でもない。

 

 

人間でもない。

 

 

機械でもない。

 

 

概念でもない。

 

 

分類が存在しない。

 

 

理解が成立しない。

 

 

ゲマトリアの知識を総動員しても答えが出ない。

 

 

だからこそ。

 

 

知りたい。

 

 

理解したい。

 

 

観測したい。

 

 

「興味深いですね。」

 

 

黒服が言う。

 

 

「私は今まで数多くの神秘を観測してきました。」

 

 

「そうだろうな。」

 

 

「色彩さえも観測対象です。」

 

 

「そうだろう。」

 

 

「ですが。」

 

 

黒服の声が僅かに熱を帯びる。

 

 

「貴方だけは理解できない。」

 

 

「そうか。」

 

 

「悔しいほどに。」

 

 

マダラは小さく笑った。

 

 

本当に小さく。

 

 

「それは仕方ない。」

 

 

「何故です?」

 

 

「理解できるように存在していないからだ。」

 

 

黒服の目が細くなる。

 

 

興味。

 

 

探究心。

 

 

知的好奇心。

 

 

全てが刺激される。

 

 

「理解できるように存在していない。」

 

 

「そうだ。」

 

 

「世界の外から来たとでも?」

 

 

「違う。」

 

 

「では?」

 

 

マダラは答えない。

 

 

沈黙。

 

 

だが。

 

 

それだけで十分だった。

 

 

黒服は確信する。

 

 

この存在は。

 

 

色彩よりも古い。

 

 

あるいは。

 

 

世界そのものと同格。

 

 

そんな領域にいる。

 

 

 

「では質問を変えましょう。」

 

 

黒服が言う。

 

 

「何故ユメを救ったのです?」

 

 

初めて。

 

 

マダラの表情が変わる。

 

 

ほんの僅か。

 

 

本当に僅か。

 

 

だが変わった。

 

 

「……」

 

 

黒服は見逃さない。

 

 

興味がさらに深まる。

 

 

「貴方は介入しない存在でしょう。」

 

 

「そうだ。」

 

 

「未来を知っている。」

 

 

「知っている。」

 

 

「選択を尊重する。」

 

 

「そうだ。」

 

 

「ならば何故。」

 

 

黒服は問う。

 

 

「何故たった一人だけ救ったのです。」

 

 

静寂。

 

 

長い沈黙。

 

 

月だけが見ている。

 

 

やがて。

 

 

マダラは答えた。

 

 

「救いたかったからだ。」

 

 

短い。

 

 

あまりにも短い答え。

 

 

しかし。

 

 

黒服は理解してしまう。

 

 

理屈ではない。

 

 

計算ではない。

 

 

観測でもない。

 

 

ただ。

 

 

そうしたかった。

 

 

それだけ。

 

 

それだけで。

 

 

永遠の観測者は初めて運命を書き換えた。

 

 

「なるほど。」

 

 

黒服は笑った。

 

 

心底楽しそうに。

 

 

「素晴らしい。」

 

 

「そうか。」

 

 

「ええ。」

 

 

黒服は本当に嬉しそうだった。

 

 

「安心しました。」

 

 

「何をだ。」

 

 

「貴方にも理解不能なものがある。」

 

 

マダラは首を傾げる。

 

 

「理解不能?」

 

 

「感情ですよ。」

 

 

黒服が言う。

 

 

「貴方ほどの存在ですら。」

 

 

「愛したのですね。」

 

 

夜風が吹く。

 

 

マダラは何も答えない。

 

 

否定もしない。

 

 

肯定もしない。

 

 

それだけで十分だった。

 

 

黒服は満足そうに笑う。

 

 

そして。

 

 

最後の質問を投げる。

 

 

「彩禍マダラ。」

 

 

「なんだ。」

 

 

「もし色彩が再び現れたら。」

 

 

「どうするのです?」

 

 

マダラは即答した。

 

 

迷いなく。

 

 

一切の躊躇なく。

 

 

「何もしない。」

 

 

黒服は少し驚く。

 

 

「ほう?」

 

 

「先生がいる。」

 

 

「生徒達がいる。」

 

 

「彼らが選ぶ。」

 

 

静かな声。

 

 

それが信念。

 

 

それが在り方。

 

 

それが観測者。

 

 

だが。

 

 

次の瞬間。

 

 

マダラは続ける。

 

 

「ただし。」

 

 

黒服の目が細まる。

 

 

「ユメに手を出したら。」

 

 

初めてだった。

 

 

黒服が。

 

 

本能的な恐怖を覚えたのは。

 

 

マダラの声は変わらない。

 

 

穏やかだった。

 

 

静かだった。

 

 

だが。

 

 

その一言に込められたものだけは。

 

 

あまりにも重かった。

 

 

「その時は。」

 

 

「色彩だろうと。」

 

 

「神だろうと。」

 

 

「関係ない。」

 

 

黒服は理解する。

 

 

この存在は。

 

 

世界を愛していない。

 

 

キヴォトスを愛していない。

 

 

生徒達を愛していない。

 

 

ただ一人。

 

 

たった一人だけ。

 

 

クチナシ・ユメだけを愛している。

 

 

そして。

 

 

そのためなら。

 

 

本当に世界すら捨てる。

 

 

黒服は笑う。

 

 

震えながら。

 

 

恐怖と歓喜を同時に抱きながら。

 

 

「ますます興味深い。」

 

 

その日。

 

 

黒服は初めて彩禍マダラと会話した。

 

 

そして理解した。

 

 

最後まで理解できないことを。

 

 

それでも。

 

 

知りたいと思ってしまうことを。

 

 

それが。

 

 

観測者と探究者の。

 

 

最初の対話だった。

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