/*/ コーラス王朝 王宮前広場 /*/
王宮前広場は、人で埋まっていた。
騎士。
兵。
整備兵。
医療班。
工房職人。
王宮職員。
民衆。
そして、友邦から集まった者たち。
その背後には、MHが並んでいる。
ジュノーン。
白いベルリン。
黒騎士ロードス・ドラグーン侯の騎体。
さらに、A.K.D.のミラージュ騎士たちの機影。
城壁の上にも、王宮のバルコニーにも、人がいた。
誰もが、王を見るために集まっていた。
コーラス三世は、王宮正面の壇上へ立った。
負傷の影は残っている。
だが、顔は青くない。
背は真っ直ぐだった。
彼が一歩前へ出ると、広場のざわめきが波のように引いていった。
「コーラスの民よ」
声が響く。
「長らく待たせてしまったことを、申し訳なく思う!」
広場は静まり返っている。
「無益な戦いに終わりを告げよう! アトキへ向かえ! ハグーダを追い落とせ!」
その言葉に、兵たちの拳が握られた。
整備兵が顔を上げる。
騎士たちが姿勢を正す。
コーラス三世は続ける。
「我が王朝は、全軍をもって迎え撃とう! 全MHを、今より送り出す!」
背後のMH群が、まるで応えるように沈黙の圧を放った。
ジュノーンの白。
ベルリンの白。
黒騎士の重い影。
友邦騎たちの鋼の列。
戦場へ向かう力が、そこに揃っている。
コーラス三世は、右手を掲げた。
「コーラスに栄光を!」
一瞬の静寂。
そして、広場が爆発した。
「コーラスに栄光を!」
「コーラスに栄光を!」
「コーラスに栄光を!」
声は止まらなかった。
民が叫ぶ。
兵が叫ぶ。
騎士が叫ぶ。
整備兵が工具を掲げる。
医療班が涙をこらえる。
ウリクルの名を呼ぶ声もある。
ハグーダへの怒りもある。
だが、それらはすべて、ひとつの声へ束ねられていく。
コーラスに栄光を。
王宮前広場は、その声で震えていた。
/*/ 王宮裏側 出撃準備通路 /*/
演説を終えたコーラス三世は、裏側へ回るなり言った。
「私もジュノーンで出よう」
「は?」
トリオ騎士たちの声が揃った。
トローラも振り返った。
「今、なんて言いました?」
「私もジュノーンで出ようと言った」
「聞き間違いじゃなかった!」
コーラス三世は穏やかに笑う。
「心配するな。突っ立っているだけだよ。僕は飾りさ」
「飾りが戦場に出るなよ、王様」
「ロードス侯もいる。友邦の騎士たちもいる。彼らの戦いぶりも見ておきたい」
そう言って、コーラス三世はミラージュ騎士たちの方へ視線を向けた。
トローラは顔をしかめた。
「出るなら出るで、装備を増やせ」
「装備?」
「パイドル・スピアだけじゃ駄目だ」
コーラス三世が少し目を細める。
「槍では不足か」
「敵はミミバ族を使ってる。至近距離に飛び込まれたら、長物だけじゃ懐に入られた時に対応できねぇ」
トローラは、ジュノーンの方を指した。
「俺はベルリンで前線に出る。王様の近くに張り付いて、横から割り込むわけにはいかねぇ。だから、自分で一手残せ」
トリオ騎士たちの顔が変わる。
コーラス三世も、少しだけ真面目な顔になった。
「実剣を持てということか」
「ああ。腰にでも背中にでも、実剣を一本持っていけ。槍が折れた時、懐に入られた時、ファティマの制御が一瞬遅れた時、最後に使えるのは手に馴染む剣だ」
トローラは一拍置いて、わざと軽く言った。
「それに、飾りで立つなら実剣持ってる方が映えるだろ」
コーラス三世は一瞬黙り、それから小さく笑った。
「なるほど。飾りとしての見栄えか」
「そうだよ。王様が手ぶらで立ってるより、剣を佩いてる方が民も騎士も安心する」
「君は、見てきたように忠告してくれるね」
「見てきたように危ねぇから言ってんだよ」
トローラは鼻を鳴らした。
「俺は悪党騎士でゴロツキだが、戦場で“これ持ってくりゃよかった”って後悔する奴は山ほど見てる。王様にはその顔をしてほしくねぇ」
コーラス三世は頷いた。
「分かった。実剣も持とう」
トリオ騎士たちが、明らかに安堵した顔をした。
「陛下、必ずお持ちください」
「予備剣も準備します」
「ジュノーンへの搭載位置を確認します」
トローラは肩をすくめた。
「よし。俺の言うことを珍しく聞いたな」
「珍しく?」
「王様はだいたい澄んだ目で無茶を通す」
「そうかな」
「そうだよ」
シューシャが隣で静かに言った。
「マスター。ベルリンの出撃準備、整っています」
「分かった」
トローラは白いベルリンの方を見る。
王騎。
自分には似合わないほど綺麗な機体。
だが、今はそれで前線へ出る。
だから、王の横に残れない。
だからこそ、言うべきことは言っておく。
「王様」
「何だ」
「突っ立ってるだけなら、本当に突っ立ってろ。前に出るな。ミミバ族の気配がしたら、綺麗に受けるな。槍で間合いを取って、詰められたら剣で逃がせ。死ぬなよ」
コーラス三世は静かに頷いた。
「君もな、トローラ」
「俺は死に損ないだからな。しぶといんだよ」
トローラはそう言って、ベルリンの昇降機へ向かった。
背後では、ジュノーンに実剣を積むため、整備兵たちが慌ただしく動き始めていた。