トローラ・ロージン転生   作:ぶーく・ぶくぶく

12 / 13
万全のコーラス3世(負傷中)

/*/ コーラス王朝 王宮前広場 /*/

 

 

 

 王宮前広場は、人で埋まっていた。

 

 騎士。

 

 兵。

 

 整備兵。

 

 医療班。

 

 工房職人。

 

 王宮職員。

 

 民衆。

 

 そして、友邦から集まった者たち。

 

 その背後には、MHが並んでいる。

 

 ジュノーン。

 

 白いベルリン。

 

 黒騎士ロードス・ドラグーン侯の騎体。

 

 さらに、A.K.D.のミラージュ騎士たちの機影。

 

 城壁の上にも、王宮のバルコニーにも、人がいた。

 

 誰もが、王を見るために集まっていた。

 

 コーラス三世は、王宮正面の壇上へ立った。

 

 負傷の影は残っている。

 

 だが、顔は青くない。

 

 背は真っ直ぐだった。

 

 彼が一歩前へ出ると、広場のざわめきが波のように引いていった。

 

「コーラスの民よ」

 

 声が響く。

 

「長らく待たせてしまったことを、申し訳なく思う!」

 

 広場は静まり返っている。

 

「無益な戦いに終わりを告げよう! アトキへ向かえ! ハグーダを追い落とせ!」

 

 その言葉に、兵たちの拳が握られた。

 

 整備兵が顔を上げる。

 

 騎士たちが姿勢を正す。

 

 コーラス三世は続ける。

 

「我が王朝は、全軍をもって迎え撃とう! 全MHを、今より送り出す!」

 

 背後のMH群が、まるで応えるように沈黙の圧を放った。

 

 ジュノーンの白。

 

 ベルリンの白。

 

 黒騎士の重い影。

 

 友邦騎たちの鋼の列。

 

 戦場へ向かう力が、そこに揃っている。

 

 コーラス三世は、右手を掲げた。

 

「コーラスに栄光を!」

 

 一瞬の静寂。

 

 そして、広場が爆発した。

 

「コーラスに栄光を!」

 

「コーラスに栄光を!」

 

「コーラスに栄光を!」

 

 声は止まらなかった。

 

 民が叫ぶ。

 

 兵が叫ぶ。

 

 騎士が叫ぶ。

 

 整備兵が工具を掲げる。

 

 医療班が涙をこらえる。

 

 ウリクルの名を呼ぶ声もある。

 

 ハグーダへの怒りもある。

 

 だが、それらはすべて、ひとつの声へ束ねられていく。

 

 コーラスに栄光を。

 

 王宮前広場は、その声で震えていた。

 

 

 

/*/ 王宮裏側 出撃準備通路 /*/

 

 

 

 演説を終えたコーラス三世は、裏側へ回るなり言った。

 

「私もジュノーンで出よう」

 

「は?」

 

 トリオ騎士たちの声が揃った。

 

 トローラも振り返った。

 

「今、なんて言いました?」

 

「私もジュノーンで出ようと言った」

 

「聞き間違いじゃなかった!」

 

 コーラス三世は穏やかに笑う。

 

「心配するな。突っ立っているだけだよ。僕は飾りさ」

 

「飾りが戦場に出るなよ、王様」

 

「ロードス侯もいる。友邦の騎士たちもいる。彼らの戦いぶりも見ておきたい」

 

 そう言って、コーラス三世はミラージュ騎士たちの方へ視線を向けた。

 

 トローラは顔をしかめた。

 

「出るなら出るで、装備を増やせ」

 

「装備?」

 

「パイドル・スピアだけじゃ駄目だ」

 

 コーラス三世が少し目を細める。

 

「槍では不足か」

 

「敵はミミバ族を使ってる。至近距離に飛び込まれたら、長物だけじゃ懐に入られた時に対応できねぇ」

 

 トローラは、ジュノーンの方を指した。

 

「俺はベルリンで前線に出る。王様の近くに張り付いて、横から割り込むわけにはいかねぇ。だから、自分で一手残せ」

 

 トリオ騎士たちの顔が変わる。

 

 コーラス三世も、少しだけ真面目な顔になった。

 

「実剣を持てということか」

 

「ああ。腰にでも背中にでも、実剣を一本持っていけ。槍が折れた時、懐に入られた時、ファティマの制御が一瞬遅れた時、最後に使えるのは手に馴染む剣だ」

 

 トローラは一拍置いて、わざと軽く言った。

 

「それに、飾りで立つなら実剣持ってる方が映えるだろ」

 

 コーラス三世は一瞬黙り、それから小さく笑った。

 

「なるほど。飾りとしての見栄えか」

 

「そうだよ。王様が手ぶらで立ってるより、剣を佩いてる方が民も騎士も安心する」

 

「君は、見てきたように忠告してくれるね」

 

「見てきたように危ねぇから言ってんだよ」

 

 トローラは鼻を鳴らした。

 

「俺は悪党騎士でゴロツキだが、戦場で“これ持ってくりゃよかった”って後悔する奴は山ほど見てる。王様にはその顔をしてほしくねぇ」

 

 コーラス三世は頷いた。

 

「分かった。実剣も持とう」

 

 トリオ騎士たちが、明らかに安堵した顔をした。

 

「陛下、必ずお持ちください」

 

「予備剣も準備します」

 

「ジュノーンへの搭載位置を確認します」

 

 トローラは肩をすくめた。

 

「よし。俺の言うことを珍しく聞いたな」

 

「珍しく?」

 

「王様はだいたい澄んだ目で無茶を通す」

 

「そうかな」

 

「そうだよ」

 

 シューシャが隣で静かに言った。

 

「マスター。ベルリンの出撃準備、整っています」

 

「分かった」

 

 トローラは白いベルリンの方を見る。

 

 王騎。

 

 自分には似合わないほど綺麗な機体。

 

 だが、今はそれで前線へ出る。

 

 だから、王の横に残れない。

 

 だからこそ、言うべきことは言っておく。

 

「王様」

 

「何だ」

 

「突っ立ってるだけなら、本当に突っ立ってろ。前に出るな。ミミバ族の気配がしたら、綺麗に受けるな。槍で間合いを取って、詰められたら剣で逃がせ。死ぬなよ」

 

 コーラス三世は静かに頷いた。

 

「君もな、トローラ」

 

「俺は死に損ないだからな。しぶといんだよ」

 

 トローラはそう言って、ベルリンの昇降機へ向かった。

 

 背後では、ジュノーンに実剣を積むため、整備兵たちが慌ただしく動き始めていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。