/*/ ジュノー戦線 前線 白いベルリン交戦域 /*/
白いベルリンは、目立ちすぎた。
コーラス王家の楔文字。
白い外装。
王騎の威容。
しかも、前線のど真ん中で暴れている。
ハグーダ帝国側から見れば、どう見ても“大将首”だった。
だから群がる。
マグロウが、右から三騎。
左から二騎。
後方からさらに四騎。
砲撃で足を止め、槍で囲み、数で押し潰すつもりなのが見え見えだった。
トローラ・ロージンは、白いベルリンのコクピットで歯を剥いた。
「俺を囮にしやがったなぁッ!」
怒鳴りながら、ベルリンを踏み込ませる。
白い騎体が、石を蹴って前へ出た。
最初の一騎の槍が伸びる。
それを半身で外し、ベルリンの実剣が横薙ぎに閃いた。
胴。
両断。
返す刃で、二騎目の首関節。
金属音。
火花。
マグロウの頭部が跳ね飛ぶ。
「二騎!」
叫ぶ間もなく、三騎目が盾を構えて突っ込んでくる。
トローラは舌打ちした。
「雑だぞ!」
ベルリンの肩をぶつけ、相手の体勢を崩し、至近距離から剣をねじ込む。腹部装甲を割り、内部機関を貫いた。爆ぜるようにマグロウが止まる。
「三騎!」
だが数が多い。
右後方からの砲撃が、ベルリンの背面装甲を掠めた。
警報が鳴る。
シューシャの声が飛ぶ。
「マスター、左肩部装甲に損傷! 続けて敵機四騎接近!」
「見えてる!」
白いベルリンは、特別チューンの出力で本来の性能以上を引き出していた。
だが、それでも囲まれれば削られる。
前。
横。
背後。
マグロウが、まるで獲物に群がる獣みたいに押し寄せる。
トローラは笑った。
こういう時だ。
こういう時こそ、悪党騎士は笑う。
「来いよ! 王騎に見えるんだろ!? だったら、夢見せてやる!」
ベルリンが跳んだ。
白い機体が一瞬浮き、斜め上から四騎目の肩へ蹴りを叩き込む。姿勢を崩した相手の首を、落下の勢いそのままに断ち切る。
着地と同時に、五騎目の槍を剣で巻き取ってへし折る。
六騎目が背後から斬りかかる。
振り向きざまの逆袈裟。
火花。
装甲片。
「六!」
さらに七。
八。
九。
片っ端から切り捨てる。
ベルリンの白装甲が、敵の火花と爆煙に染まっていく。
/*/ 後方観戦線 黒騎士・友邦騎士観測位置 /*/
やや後方の高台では、友邦の騎士たちがその戦いぶりを見ていた。
2代目黒騎士ロードス・ドラグーン侯が、腕を組んだまま低く笑う。
「ほう。あの若者」
隣のミラージュ騎士、クリサリス公が目を細めた。
「悪党悪党と言っていた男ですかな」
「うむ」
ロードス侯は頷く。
「悪党を名乗る割に、良い腕をしている。目がいい。切るべき相手と捨てるべき動きの見落としがない。わしらと比べても、今の年であれなら上等だ」
クリサリス公が静かに感心する。
「若いのに、やりますな」
「派手さだけではない。囲まれた時の手数の捌き方を知っておる。ソープ殿に叩き潰されたと聞いたが、死に損なってなお折れておらんらしい」
「面白い若者です」
「うむ。実に面白い」
その視線の先で、白いベルリンがまた一騎、マグロウを斬り捨てた。
/*/ 前線 白いベルリン 交戦継続 /*/
「11騎め!」
トローラは怒鳴った。
「俺のとこばっかり敵が来てないか!?」
シューシャが即座に答える。
「その通りです、マスター! 囲まれています! 出力11.2%ダウン! 動力に6%もの損失! 装甲11%破損!」
「景気よく悪い数字ばっかり並べやがって!」
「事実です!」
ベルリンの右肩に、斬撃が走った。
装甲が裂け、警報音が甲高く鳴る。
トローラは舌打ちした。
王騎が下がれば、前線の士気に響く。
見せ物としての意味も、今はある。
だから下がれない。
「王騎が下がったら士気が下がるだろう!」
目の前で、さっき斬り倒したマグロウが転がっている。
その左腕には、まだ分厚い盾がついていた。
トローラはベルリンを踏み込ませ、その盾を強引に引き剥がした。
金属が軋む。
接続部が砕ける。
「装甲の代わりはこれだ!」
ベルリンが、敵機の盾を拾い上げた。
シューシャが一瞬だけ沈黙し、それからすぐ応じる。
「了解! 予備エネルギーを回します! 三分ください。再スタンバイをかけます!」
「よし!」
トローラは回線を開いた。
「――とのことなので、トリオの皆さん! 三分ください!」
すぐさま別回線から、勢いのいい返事が飛んだ。
「お任せを!」
「客人ばかりに良いところは与えません!」
「コーラスの騎士を舐めないでいただきたい!」
次の瞬間、側面からコーラス側の騎体が突っ込んできた。
長槍が唸る。
剣が火花を散らす。
ベルリンの左側へ回ろうとしていたマグロウ2騎が弾き飛ばされた。
トローラは笑った。
「助かるぜ!」
「三分だけです!」
「十分だ!」
だが、その三分が長い。
敵も王騎を逃がす気はない。
砲撃。
斬撃。
包囲。
白いベルリンは拾った盾を前に構え、敵弾を受けながら踏みとどまった。
盾が軋む。
腕が痺れる。
だが、まだ立てる。
「来い! 来るなら来い!」
トローラの目が燃える。
「ゴロツキ相手に群がって、大将首取った気になるなよ!」
突っ込んできた一騎の槍を盾で逸らし、返しの剣で膝関節を断つ。崩れたところへ追撃。腹を裂く。
さらにもう一騎。
盾ごと体当たりをかけ、よろけた敵の頭を叩き落とす。
「13!」
白いベルリンの駆動音が一瞬落ちる。
シューシャの声。
「マスター! 再スタンバイ進行中! あと2分!」
「長ぇ!」
「急いでいます!」
トローラは荒く息を吐いた。
K.O.G.に叩き落とされて、それでも生き残った。
ジュノーのジャングルを這いずり回って、ウリクルとシューシャを助けて、コーラス王に王騎を押しつけられた。
全部、めちゃくちゃだ。
だが、だからどうした。
めちゃくちゃだから、面白ぇ。
「シューシャ!」
「はい!」
「3分経ったら、こっちから行くぞ!」
「はい、マスター!」
「囲まれてる時に言う台詞じゃねぇけどな!」
トローラは笑い、白いベルリンは吠えるように前へ出た。
白い機体。
王家の楔文字。
敵を惹きつける囮。
だが、それだけでは終わらない。
囮なら囮らしく、噛みつく。
少年みたいに、無茶苦茶に。
戦場のど真ん中で、白いベルリンはなおもマグロウの群れを切り裂いていった。
/*/ 再起動直前 /*/
「マスター!」
シューシャの声が、少し明るくなる。
「再スタンバイ完了まで、あと30秒!」
「よし!」
トローラは、拾った盾の残骸を投げ捨てた。
剣を握り直す。
前にはまだ敵がいる。
後ろには味方がいる。
上では王国の旗が翻っている。
「30秒か。なら、十分だ」
敵機がまた一騎、突っ込んでくる。
トローラは牙を剥いた。
「第2ラウンドだ、雑魚ども!」
白いベルリンが、再び踏み込んだ。