/*/ ジュノー戦線 コーラス本陣 ジュノーン護衛陣 /*/
本陣は、静かではなかった。
前線からは、トローラの白いベルリンが派手に暴れている報告が入ってくる。
「ロージン卿、敵マグロウ複数を撃破!」
「敵、王騎と誤認して集中!」
「ロージン卿、なお交戦中!」
「マグロウ撃破数、増加!」
その報告を聞きながら、トリオ騎士の一人が歯を食いしばった。
「客人にばかり前を張らせるな!」
「だが、今は本陣を崩せん!」
ジュノーンは、中央に立っていた。
白いMH。
その騎体の中に、コーラス三世とウリクルがいる。
当初の予定通り、王は前へ出すぎない。
ジュノーンは本陣中央に立ち、旗印として戦場を見ている。
その手には、パイドル・スピア。
そして、トローラの助言通り、実剣も携えていた。
コーラス三世は、コクピットの中で静かに息を吐いた。
「トローラは無事か」
ウリクルが答える。
「白いベルリン、交戦継続中。損傷はありますが、シューシャが制御しています」
「彼らしいな」
その瞬間。
空間が歪んだ。
ジュノーンの前方、至近距離。
守備線の内側。
あり得ない位置に、敵の影が出現した。
「テレポート!」
「ブーレイだ!」
「ジュノーン前方! 防げ!」
ブーレイが飛び込んできた。
槍を構え、ジュノーンの懐へ向かう。
護衛のベルリンが即座に前へ出た。
白い盾のように、ジュノーンの前を固める。
トリオ騎士たちも動いた。
「陛下を守れ!」
「前を塞げ!」
「ジュノーンを下げろ!」
その判断は速かった。
正しい。
誰もが前方の奇襲に反応した。
だからこそ、二重目が通った。
ジュノーンの後方。
さらに内側。
空間が、もう一度裂けた。
サイレン。
ブーレイを囮にした、二重のテレポート奇襲。
コーラス三世の背後に、憎悪そのもののようなMHが出現する。
通信に、声が叩き込まれた。
『久しぶりだ! コーラス!』
その声には、戦術ではなく怨念があった。
『私のプライド。私の顔に剣を向けたことを思い知れ!』
サイレンが打ち込んでくる。
ジュノーンの背後。
長物では対応が遅れる位置。
パイドル・スピアでは間に合わない。
だが。
コーラス三世は、迷わなかった。
トローラの声が、脳裏に残っていた。
『パイドル・スピアだけじゃ懐に入られた時に対応できねぇ。実剣も持っていけ。飾りで立つなら実剣持ってる方が映えるだろ』
コーラス三世は、パイドル・スピアを捨てた。
槍が地面を打つ。
ウリクルが制御を合わせる。
ジュノーンの手が、腰の実剣へ走った。
居合。
白いMHの動きが、ほんの一瞬だけ静かになる。
次に見えた時、剣は抜かれていた。
サイレンの打ち込みが届くより早く。
ジュノーンの実剣が、斜めに走った。
白い閃き。
火花。
切断音。
サイレンの装甲が裂ける。
それは、華麗な決闘ではなかった。
長い応酬でもなかった。
至近距離に飛び込んできた敵を、携えていた一手で斬り捨てる。
ただそれだけの、あまりにも正しい一撃。
サイレンが崩れた。
通信が途切れる。
王は、生きていた。
ジュノーンは、立っていた。
/*/ 同時刻 本陣前面 ブーレイ奇襲線 /*/
前方に飛び込んだブーレイもまた、逃げ場を失っていた。
ジュノーンの前面を固めるベルリンを突破しようとした瞬間、戦場の色が変わる。
LEDミラージュが入った。
白い影が、無駄のない速度でブーレイの退路を切る。
黒騎士ロードス・ドラグーン侯が、重く踏み込む。
黒い騎体の一撃が、ブーレイの肩を砕く。
さらに、ボード・ヴィラードのクルマルス。
その刃が、姿勢を崩したブーレイの中心線を捉えた。
ブーレイは、王を討つために飛び込んだ。
だがそこにいたのは、王だけではない。
コーラスの護衛。
黒騎士。
ミラージュ。
そして、星団の怪物たち。
数瞬後。
ブーレイは沈黙した。
奇襲は、失敗した。
/*/ コーラス本陣 /*/
最初に声を上げたのは、名もない兵だった。
「陛下は……」
誰もがジュノーンを見た。
白いMHは、立っている。
パイドル・スピアは地に落ちている。
だが、実剣を抜いたジュノーンは、なお王の旗印としてそこにいた。
誰かが叫んだ。
「陛下は健在だ!」
その声が、一気に広がる。
「陛下は健在だ!」
「ジュノーン、健在!」
「奇襲失敗!」
「サイレン撃破!」
トリオ騎士の一人が、剣を掲げた。
「コーラスに栄光あれ!」
応える声が爆発した。
「コーラスに栄光あれ!」
「コーラスに栄光を!」
「陛下は生きておられる!」
士気が跳ね上がる。
さっきまで、敵が本陣へ飛び込んできた恐怖があった。
だが今、その恐怖は逆転した。
敵は王を討ちに来た。
討てなかった。
王は自ら実剣を抜き、サイレンを斬った。
その事実が、本陣の空気を変えた。
ロードス侯が低く言う。
「天はコーラスに味方した」
ボード・ヴィラードが続ける。
「行け」
その声は、大きくはなかった。
だが、伝わった。
騎士たちが動き出す。
ベルリンが前へ出る。
LEDミラージュが敵線を裂く。
黒騎士が重く踏み込む。
コーラスのMH隊が、歓声とともに押し出していく。
「天はコーラスに味方した!」
「行け!」
「ハグーダを追い落とせ!」
/*/ ジュノーン内部 /*/
コーラス三世は、実剣を握ったまま、しばらく息を吐かなかった。
ウリクルの声が、静かに響く。
「陛下」
「……助かったな」
「はい」
「トローラの言う通りだった」
落ちたパイドル・スピア。
抜かれた実剣。
斬り捨てられたサイレン。
もし剣を持っていなければ、間に合わなかった。
もし長物だけで立っていれば、懐に入られていた。
コーラス三世は、ほんの少しだけ笑った。
「飾りには、剣も必要らしい」
ウリクルが答える。
「はい。よくお似合いです」
「そうか」
その声には、戦場の中にある、わずかな安堵があった。
だが、戦いはまだ終わっていない。
コーラス三世は実剣を構え直す。
「ウリクル」
「はい」
「本陣を維持する。前線を押し上げろ」
「イエス、マスター」
ジュノーンが、再び立つ。
王は健在。
白いMHは健在。
コーラスの本陣は、折れていなかった。
/*/ 前線 白いベルリン /*/
その報は、前線でマグロウを相手にしていたトローラにも届いた。
「本陣奇襲失敗!」
「ジュノーン、実剣でサイレンを撃破!」
「陛下健在!」
トローラは、白いベルリンのコクピットで一瞬だけ目を見開いた。
それから、口の端を吊り上げる。
「ほら見ろ」
シューシャが言う。
「マスターの助言が生きました」
「だろ?」
トローラは剣を握り直す。
「言ったじゃねぇか。飾りで立つなら実剣持ってる方が映えるってな!」
正面からマグロウが一騎、突っ込んでくる。
トローラは白いベルリンを踏み込ませた。
「王様が生き残ったぞ!」
剣が走る。
マグロウが裂ける。
「こっちも負けてらんねぇだろ!」
シューシャが明るく応じる。
「はい、マスター!」
白いベルリンは、再び前へ出た。
王が本陣で立った。
ならば前線は走る。
コーラスに栄光を、という声が、戦場全体へ広がっていった。