トローラ・ロージン転生   作:ぶーく・ぶくぶく

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星団歴2989年~2990年 カステポー・ドラゴンロード
預かり屋


/*/ ボォス星 ナン大陸中央部 無国家地帯カステポー /*/

 

/*/ ナイトギルド管轄ガレージ /*/

 

 

 

 カステポーは、国ではない。

 

 ボォス星ナン大陸中央部。

 

 ドラゴンロードと呼ばれる縦断街道を中心に、五つの中立自治区が寄り集まった、空白の大地帯。

 

 自由都市。

 

 広大な自然。

 

 人類の侵攻を拒むような地形。

 

 そして、騎士とファティマとMHが、どこの旗にも縛られず流れてくる場所。

 

 トローラ・ロージンは、そのカステポーへ戻ってきた。

 

 ただし、前と違うものが二つある。

 

 ひとつは、隣に立つファティマ、シューシャ。

 

 もうひとつは、ドーリーに積まれた黒鉄色のMH。

 

 登録名、ワイマールSR2。

 

 中身は、コーラス王朝から預けられた王騎ベルリンの外装偽装機である。

 

 トローラはナイトギルドのガレージ前で、頭を掻いた。

 

「……やっぱ、カステポーに戻ると落ち着くな」

 

 シューシャが静かに周囲を見た。

 

「ここが、マスターの馴染みの場所ですか」

 

「馴染みっつうか、ゴロツキの溜まり場だな」

 

「マスターに似合っています」

 

「褒めてるのか、それ」

 

「はい」

 

「ならいいか」

 

 ガレージには、ドーリー、トレーラー、エアドーリーが雑然と並んでいた。

 

 ただし、雑に見えるだけで、配置は妙に整っている。

 

 どれも表向きは荷物扱い。

 

 中身は不明。

 

 だが、カステポーのナイトギルドへ来る騎士なら、誰でも分かる。

 

 半分以上はMHだ。

 

 いや、半分どころではない。

 

 トローラの見立てでは、六割以上。

 

 そんな場所の受付で、先客が揉めていた。

 

 若い男。

 

 顔立ちは整っているが、妙に目が鋭い。

 

 横にはファティマがいる。

 

 預かり屋の爺さんは、いつもの調子で両手を揉んでいた。

 

「本当に信用して良いのだな?」

 

 若い男が言う。

 

 爺さんは、何度も頷いた。

 

「何度も言わせないで下さいよ! この商売は信用が第一! 自慢じゃないが、トラブル皆無がこのギルドのしきたり! この中の預かり物には、指一本触れる奴はいませんよ!」

 

 そこまではよかった。

 

 爺さんは、いつもの悪い癖で余計なことを言った。

 

「たとえ……中身が……北の魔人サイレンや、最強の鉄人・破裂の人形でもね」

 

 若い男の空気が変わった。

 

「何」

 

 爺さんの顔色が変わる。

 

「ひええ! そんな目で、もう……誰も旦那が騎士だなんて言ってないじゃないですか! ……ファティマさんが一緒でもネ」

 

「貴様……」

 

 若い男の声が低くなる。

 

 横のファティマも、静かに目を細めた。

 

 トローラは、少し離れたところでそのやり取りを見て、顔をしかめた。

 

「あー……この流れ、見覚えあるな」

 

 シューシャが小声で問う。

 

「マスター?」

 

「しゃーない」

 

 トローラは肩を鳴らして、受付へ近づいた。

 

「親父さん」

 

 爺さんが振り返る。

 

「おお、トローラの兄さん! いいところに!」

 

「いいところに、じゃねえ。あんた、初めての客に冗談の温度を間違えたな」

 

「いやあ、つい」

 

「ついで命が飛ぶぞ」

 

 トローラは若い男を見る。

 

 そして、軽く片手を上げた。

 

「兄さん。この親父、悪い奴じゃねえ。ただし、口が滑る」

 

 若い男は、トローラを見た。

 

 鋭い目。

 

 騎士の目。

 

 トローラは内心で思った。

 

(やっぱりな。レイバック枢機卿と静だ、これ)

 

 だが、口には出さない。

 

 そういうところで余計なことを言うと、カステポーでは本当に面倒が起きる。

 

「親父さん。この人、冗談通じねぇから、はっきり言った方がいいぜ」

 

「へ、へい」

 

 トローラはガレージの奥を指した。

 

「兄さん、見てみろよ。ドーリー、トレーラー、エアドーリー。中身は荷物ってことになってる。でも実際は、六割以上はMHだ」

 

 若い男の視線が、わずかにガレージ奥へ動いた。

 

 トローラは続ける。

 

「何が入ってるかなんて、誰も知らない。知らないことになってる。知ってても言わない。触らない。覗かない。それがここの商売だ」

 

 爺さんも慌てて頷く。

 

「そうですよ! トラブルなんてあった日にゃ、あたしなんざ生きてませんよ!」

 

「そういうこと」

 

 トローラは肩をすくめた。

 

「預かり屋が中身を見たら、その時点で信用が死ぬ。信用が死んだら商売が死ぬ。商売が死んだら、親父さんも死ぬ。だから触らねぇ。怖いからじゃなくて、商売だからな」

 

 若い男は黙っていた。

 

 横のファティマが、静かにトローラを見ている。

 

 トローラはその視線から微妙に目を逸らした。

 

「で、兄さんは何のためにここへ来たんだ? 預けるためだろ。だったら預けろ。疑うなら最初からここへ来ない方がいい」

 

 爺さんが小声で言う。

 

「トローラの兄さん、言い方が強い」

 

「俺は悪党騎士だからな。丁寧な説得は向いてねぇ」

 

 若い男が、ようやく言った。

 

「お前も騎士か」

 

「さあな」

 

「隣にファティマがいる」

 

「いるな」

 

 シューシャが丁寧に礼をする。

 

「シューシャと申します」

 

 若い男のファティマも、かすかに礼を返した。

 

 場の空気が、少しだけ落ち着く。

 

 若い男は、預かり証を受け取った。

 

「よかろう。預ける」

 

 爺さんはほっと息を吐いた。

 

「へい、確かに。指一本触れませんとも!」

 

「余計なこと言うなよ、親父さん」

 

「へい……」

 

 若い男は、最後にトローラを見た。

 

「名前は」

 

「トローラ・ロージン」

 

「覚えておこう」

 

「できれば忘れてくれ。俺は目立ちたくない」

 

 若い男は答えず、ファティマとともにガレージを後にした。

 

 その背中を見送りながら、トローラは深く息を吐いた。

 

「怖ぇ客だな」

 

 シューシャが言う。

 

「マスターも、かなり踏み込んでいました」

 

「踏み込まねぇと親父さんが死ぬ空気だった」

 

 爺さんが両手を合わせる。

 

「いやあ、助かりましたよ、トローラの兄さん」

 

「助けたんだから、保管料まけろ」

 

「それとこれは別で」

 

「商売人め」

 

 爺さんは帳簿を取り出した。

 

「で、トローラの兄さん。ツケ、払ってくれるんですかい?」

 

 シューシャがぴくりと反応する。

 

「ツケ」

 

 トローラは平然と胸を張った。

 

「おう。金が入ったからな」

 

「本当に?」

 

「ハグーダ戦で稼いできたぜ」

 

 爺さんが目を丸くする。

 

「ハグーダ戦?」

 

「ついでにファティマとMHも拾ってきた」

 

 シューシャが静かに言う。

 

「マスター。拾われたわけではありません。私はマスターを選びました」

 

「分かってるよ。言い方だ」

 

「MHも拾ったわけではありません。コーラス王朝からの貸与です」

 

「分かってる。言い方だ」

 

 爺さんは、トローラとシューシャを交互に見た。

 

「……兄さん。まさかとは思いますが、そのドーリーの中身」

 

「荷物だよ」

 

 トローラは即答した。

 

「ここでは、そういう約束だろ」

 

 爺さんは、一瞬だけ目を細めた。

 

 それから、にやりと笑った。

 

「へい。荷物ですね」

 

「そう。大事な荷物だ」

 

 シューシャが少しだけ微笑む。

 

「はい。大事な荷物です」

 

 爺さんは帳簿へ書き込む。

 

「登録名は」

 

 トローラは少し嫌そうに答えた。

 

「ワイマールSR2」

 

「へぇ。洒落た名ですな」

 

「俺が付けたんじゃねぇ」

 

「中身は」

 

「荷物」

 

「所有者は」

 

「書類上はコーラス王朝。運用責任者が俺とシューシャ」

 

 爺さんの手が止まった。

 

 ゆっくり顔を上げる。

 

「……兄さん?」

 

「言うな」

 

「また面倒なものを背負ってきましたね」

 

「言うなって」

 

 爺さんは、今度こそ声を落とした。

 

「王朝絡みの荷物を、うちで預かれと」

 

「王家の旗は出さない。楔文字も隠してある。登録も変えてある。黒鉄色だ。遠目には怪しい改修機にしか見えねぇ」

 

「近くで見たら?」

 

「見ないのがこの商売だろ」

 

 爺さんは、しばらくトローラを見た。

 

 それから、苦笑した。

 

「そうでした。見ません。触りません。聞きません」

 

「それでいい」

 

「ただし、保管料は高いですぜ」

 

「今なら払える」

 

「ハグーダ戦で稼いだ、と」

 

「おう」

 

「悪党騎士が戦勝報酬でツケを払う日が来るとはねえ」

 

「うるせぇ」

 

 シューシャが穏やかに言う。

 

「マスターは、戦場でよく働きました」

 

「シューシャ、やめろ。褒めるな。ここの連中に聞かれると値段が上がる」

 

 爺さんは笑いながら、預かり札を差し出した。

 

「では、ワイマールSR2。ドーリーごとお預かりします。中身は荷物。触れず、覗かず、詮索せず。ナイトギルドのしきたりにかけて」

 

 トローラは札を受け取った。

 

「頼むぜ」

 

「へい。……それと兄さん」

 

「あ?」

 

「おかえりなさい」

 

 トローラは一瞬だけ黙った。

 

 カステポーの風が吹く。

 

 王宮の華やかさとは違う。

 

 砂と油と酒場の匂い。

 

 騎士の嘘と本音が混ざった場所。

 

 ゴロツキが帰ってくるには、ちょうどいい場所。

 

 トローラは、少しだけ顔を背けた。

 

「ただいまだなんて言わねぇぞ」

 

「言ってませんよ」

 

「言っただろ」

 

「へへ」

 

 シューシャが隣で微笑んだ。

 

「マスター。ここは良い場所ですね」

 

「良い場所かどうかは知らねぇが、まあ、俺には合ってる」

 

 トローラは預かり札を懐にしまった。

 

「行くぞ、シューシャ。まず飯だ。次に宿。あと、ツケを払って身軽になった記念に酒だ」

 

「飲みすぎは推奨しません」

 

「ファティマが初日から生活指導してくる」

 

「マスターのファティマですので」

 

「強いな、お前」

 

 シューシャは少し笑った。

 

 ガレージの奥では、ドーリーが静かに格納されていく。

 

 その中に眠る黒鉄色のワイマールSR2。

 

 コーラス王家の楔文字を胸の奥に隠した、王騎の影。

 

 カステポーのナイトギルドは、それをただの荷物として預かった。

 

 誰も触れない。

 

 誰も覗かない。

 

 何が入っているかなど、誰も知らない。

 

 それが、この無国家地帯の信用だった。

 

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