/*/ ヴァキ市 騎士対応病院 搬入口 /*/
病院の搬入口は、また慌ただしくなった。
ミロードが先に降ろされる。
続いて、頭部コックピットから救出されたファティマ。
医療スタッフが飛び出してくる。
「騎士一名、胸部衝撃外傷!」
「ファティマ一名、接続系負荷、頭部衝撃!」
「ガル側のログは?」
「後で持ってくる!」
トローラは怒鳴り返した。
「今は中身を診ろ! 機体は預かり屋へ回す!」
ミロードが運ばれていく。
ファティマも続く。
病院の扉が閉じた。
それを見届けて、トローラは短く息を吐いた。
「よし。一つ終わり」
シューシャが静かに答える。
「次はガルの収容です」
「分かってる。終わってねぇな」
/*/ 預かり屋ガレージ /*/
ガレージに着いた時、預かり屋の親父はいなかった。
帳場にいたのは、若い係員と作業員だけだ。
いつもなら奥から顔を出し、余計な冗談をひとつふたつ言う親父が、今日は姿を見せない。
「親父さんは?」
トローラが聞くと、若い係員が慌てて頭を下げた。
「親父は、ヒッター子爵たちと出ました。壊し屋の騒ぎで、現場確認に」
「ああ、そっちへ行ったか」
なら仕方ない。
ミューズ、ヒッター、静。
そして、先ほどすれ違った白いドーリー。
流れはもう次へ進んでいる。
トローラは舌打ちしたいのをこらえ、ガルを積んだドーリーを指差した。
「ガルをミロードのドーリーごと入れろ。中身は荷物だ」
「はい。荷物ですね」
「胸部と頭部はこじ開けてある。無理に閉じるな。整備屋が来るまで固定だけしろ」
「了解です」
作業員たちが動く。
ガルを積んだドーリーが、ゆっくりと格納区画へ押し込まれる。
歪んだ装甲。
割れた盾。
こじ開けられた胸部コックピットと頭部ファティマ・コックピット。
戦闘の跡が生々しい。
トローラはそれを確認し、ようやく少しだけ肩を落とした。
「ミロードのドーリー、固定確認」
若い係員が言った。
「ガルの収容も完了です。レスター卿のドーリーとは別区画に入れます」
「よし」
トローラは周囲を見る。
ミロードのドーリー。
ガル。
自分のドーリー。
ワイマールSR2。
全部、ひとまず収まっている。
なら、次だ。
「シューシャ」
「はい、マスター」
「確か、二一五MHzだったな」
シューシャが即座に顔を上げた。
「白いドーリーの発信周波数ですか」
「ああ。親父さんが前に漏らしてた。安全確認用だか所在確認用だか、物は言いようのやつだ」
若い係員が青ざめる。
「あの、兄さん、それは」
「聞かなかったことにしろ」
「でも」
「親父さんが戻ったら、俺が勝手に見当つけたって言っとけ」
「見当で周波数を当てるのは無理がありませんかね」
「悪党の勘は当たるんだよ」
「便利ですね、その勘」
「便利じゃなきゃ生きてねぇ」
トローラはドーリーへ向かう。
受信機などいらない。
この程度の発信なら、ドーリー側の通信・索敵機材で拾える。
まして周波数が分かっている。
そして、隣にはシューシャがいる。
ファティマのヘッドコンデンサなら、粗い受信機よりもはるかに鋭く、信号の向きと揺れを拾える。
「ドーリーの通信系を起こせ。二一五MHz帯を狭く拾う。発信が弱くても、移動してるなら追える」
「了解しました」
シューシャはドーリー内の操作席へ滑り込み、端末とヘッドコンデンサを同期させた。
彼女の瞳が、ほんの少しだけ遠くを見る。
耳で聞いているわけではない。
目で見ているわけでもない。
空間に張られた細い電波の糸を、頭部コンデンサで掬い上げている。
「二一五MHz帯、微弱発信を確認」
「方向は」
「北西郊外。信号強度は不安定ですが、移動しています。ドーリーの速度域です」
「やっぱり、さっきの白い奴だな」
「推定移動ベクトルを出します」
「頼む」
シューシャの指が動く。
ドーリーの古い索敵盤に、粗い方位線が浮かんだ。
北西。
街道を外れ、荒れ地へ向かう線。
トローラの顔が険しくなる。
白い騎士服の女。
単独の白いドーリー。
ミューズが見間違えかけた名。
そして、このタイミング。
その先に何があるかを、トローラは知っている。
だが、名前は出さない。
出せば、余計な線が繋がる。
今はただ、追うだけでいい。
「……急ぐぞ」
若い係員が小さく訊いた。
「兄さん、今度は何に首を突っ込むんです?」
「首じゃねぇ。手を突っ込む」
「余計悪いです」
「閉じ込められた中身を、引きずり出すかもしれねぇ」
「……聞かなかったことにします」
「上達が早いな」
シューシャが静かに言った。
「マスター。ワイマールSR2、再出撃準備に入ります」
「今度こそ戦闘じゃない」
「救助ですね」
「たぶんな」
「突入用プラスチック爆弾は」
「積んでおけ。使うかどうかは現場次第だ」
「爆破ボルト不良、またはハッチ閉塞への対応ですね」
「ああ。吹き飛ばすためじゃねぇ。開けるためだ」
「使用判断は慎重に」
「分かってる。中身ごと壊したら意味がねぇ」
シューシャは頷き、機材確認を進める。
ワイマールSR2の起動灯が、ドーリー内で静かに灯った。
若い係員は、帳場の前で固まっている。
「親父が戻ったら、何て言えば」
「こう言っとけ」
トローラは振り返らずに言った。
「悪党が、また荷物を取りに行ったってな」
「……絶対、怒られるやつだ」
「カステポーの商売だろ。慣れろ」
ドーリーの搬出口が開く。
夜の風が入り込む。
シューシャが信号を追い続ける。
「二一五MHz、追跡継続。北西方面。発信、まだ生きています」
「よし」
トローラは操縦席で息を吐いた。
ミロードは病院へ入れた。
ガルは預かり屋に押し込んだ。
親父はいない。
ミューズたちは先へ行った。
白いドーリーは北西へ走っている。
なら、遅れるわけにはいかない。
「行くぞ、シューシャ」
「イエス、マイ・マスター」
黒鉄色のワイマールSR2を載せたドーリーが、再びカステポーの夜へ出る。
受信機などいらない。
周波数は分かっている。
ファティマが糸を掴んでいる。
白いドーリーの残した、細い二一五MHzの電波を追って。
悪党で負け犬の騎士は、また走り出した。