トローラ・ロージン転生   作:ぶーく・ぶくぶく

27 / 27
215MHz

 

/*/ ヴァキ市 騎士対応病院 搬入口 /*/

 

 

 

 病院の搬入口は、また慌ただしくなった。

 

 ミロードが先に降ろされる。

 

 続いて、頭部コックピットから救出されたファティマ。

 

 医療スタッフが飛び出してくる。

 

「騎士一名、胸部衝撃外傷!」

 

「ファティマ一名、接続系負荷、頭部衝撃!」

 

「ガル側のログは?」

 

「後で持ってくる!」

 

 トローラは怒鳴り返した。

 

「今は中身を診ろ! 機体は預かり屋へ回す!」

 

 ミロードが運ばれていく。

 

 ファティマも続く。

 

 病院の扉が閉じた。

 

 それを見届けて、トローラは短く息を吐いた。

 

「よし。一つ終わり」

 

 シューシャが静かに答える。

 

「次はガルの収容です」

 

「分かってる。終わってねぇな」

 

 

/*/ 預かり屋ガレージ /*/

 

 

 

 ガレージに着いた時、預かり屋の親父はいなかった。

 

 帳場にいたのは、若い係員と作業員だけだ。

 

 いつもなら奥から顔を出し、余計な冗談をひとつふたつ言う親父が、今日は姿を見せない。

 

「親父さんは?」

 

 トローラが聞くと、若い係員が慌てて頭を下げた。

 

「親父は、ヒッター子爵たちと出ました。壊し屋の騒ぎで、現場確認に」

 

「ああ、そっちへ行ったか」

 

 なら仕方ない。

 

 ミューズ、ヒッター、静。

 

 そして、先ほどすれ違った白いドーリー。

 

 流れはもう次へ進んでいる。

 

 トローラは舌打ちしたいのをこらえ、ガルを積んだドーリーを指差した。

 

「ガルをミロードのドーリーごと入れろ。中身は荷物だ」

 

「はい。荷物ですね」

 

「胸部と頭部はこじ開けてある。無理に閉じるな。整備屋が来るまで固定だけしろ」

 

「了解です」

 

 作業員たちが動く。

 

 ガルを積んだドーリーが、ゆっくりと格納区画へ押し込まれる。

 

 歪んだ装甲。

 

 割れた盾。

 

 こじ開けられた胸部コックピットと頭部ファティマ・コックピット。

 

 戦闘の跡が生々しい。

 

 トローラはそれを確認し、ようやく少しだけ肩を落とした。

 

「ミロードのドーリー、固定確認」

 

 若い係員が言った。

 

「ガルの収容も完了です。レスター卿のドーリーとは別区画に入れます」

 

「よし」

 

 トローラは周囲を見る。

 

 ミロードのドーリー。

 

 ガル。

 

 自分のドーリー。

 

 ワイマールSR2。

 

 全部、ひとまず収まっている。

 

 なら、次だ。

 

「シューシャ」

 

「はい、マスター」

 

「確か、二一五MHzだったな」

 

 シューシャが即座に顔を上げた。

 

「白いドーリーの発信周波数ですか」

 

「ああ。親父さんが前に漏らしてた。安全確認用だか所在確認用だか、物は言いようのやつだ」

 

 若い係員が青ざめる。

 

「あの、兄さん、それは」

 

「聞かなかったことにしろ」

 

「でも」

 

「親父さんが戻ったら、俺が勝手に見当つけたって言っとけ」

 

「見当で周波数を当てるのは無理がありませんかね」

 

「悪党の勘は当たるんだよ」

 

「便利ですね、その勘」

 

「便利じゃなきゃ生きてねぇ」

 

 トローラはドーリーへ向かう。

 

 受信機などいらない。

 

 この程度の発信なら、ドーリー側の通信・索敵機材で拾える。

 

 まして周波数が分かっている。

 

 そして、隣にはシューシャがいる。

 

 ファティマのヘッドコンデンサなら、粗い受信機よりもはるかに鋭く、信号の向きと揺れを拾える。

 

「ドーリーの通信系を起こせ。二一五MHz帯を狭く拾う。発信が弱くても、移動してるなら追える」

 

「了解しました」

 

 シューシャはドーリー内の操作席へ滑り込み、端末とヘッドコンデンサを同期させた。

 

 彼女の瞳が、ほんの少しだけ遠くを見る。

 

 耳で聞いているわけではない。

 

 目で見ているわけでもない。

 

 空間に張られた細い電波の糸を、頭部コンデンサで掬い上げている。

 

「二一五MHz帯、微弱発信を確認」

 

「方向は」

 

「北西郊外。信号強度は不安定ですが、移動しています。ドーリーの速度域です」

 

「やっぱり、さっきの白い奴だな」

 

「推定移動ベクトルを出します」

 

「頼む」

 

 シューシャの指が動く。

 

 ドーリーの古い索敵盤に、粗い方位線が浮かんだ。

 

 北西。

 

 街道を外れ、荒れ地へ向かう線。

 

 トローラの顔が険しくなる。

 

 白い騎士服の女。

 

 単独の白いドーリー。

 

 ミューズが見間違えかけた名。

 

 そして、このタイミング。

 

 その先に何があるかを、トローラは知っている。

 

 だが、名前は出さない。

 

 出せば、余計な線が繋がる。

 

 今はただ、追うだけでいい。

 

「……急ぐぞ」

 

 若い係員が小さく訊いた。

 

「兄さん、今度は何に首を突っ込むんです?」

 

「首じゃねぇ。手を突っ込む」

 

「余計悪いです」

 

「閉じ込められた中身を、引きずり出すかもしれねぇ」

 

「……聞かなかったことにします」

 

「上達が早いな」

 

 シューシャが静かに言った。

 

「マスター。ワイマールSR2、再出撃準備に入ります」

 

「今度こそ戦闘じゃない」

 

「救助ですね」

 

「たぶんな」

 

「突入用プラスチック爆弾は」

 

「積んでおけ。使うかどうかは現場次第だ」

 

「爆破ボルト不良、またはハッチ閉塞への対応ですね」

 

「ああ。吹き飛ばすためじゃねぇ。開けるためだ」

 

「使用判断は慎重に」

 

「分かってる。中身ごと壊したら意味がねぇ」

 

 シューシャは頷き、機材確認を進める。

 

 ワイマールSR2の起動灯が、ドーリー内で静かに灯った。

 

 若い係員は、帳場の前で固まっている。

 

「親父が戻ったら、何て言えば」

 

「こう言っとけ」

 

 トローラは振り返らずに言った。

 

「悪党が、また荷物を取りに行ったってな」

 

「……絶対、怒られるやつだ」

 

「カステポーの商売だろ。慣れろ」

 

 ドーリーの搬出口が開く。

 

 夜の風が入り込む。

 

 シューシャが信号を追い続ける。

 

「二一五MHz、追跡継続。北西方面。発信、まだ生きています」

 

「よし」

 

 トローラは操縦席で息を吐いた。

 

 ミロードは病院へ入れた。

 

 ガルは預かり屋に押し込んだ。

 

 親父はいない。

 

 ミューズたちは先へ行った。

 

 白いドーリーは北西へ走っている。

 

 なら、遅れるわけにはいかない。

 

「行くぞ、シューシャ」

 

「イエス、マイ・マスター」

 

 黒鉄色のワイマールSR2を載せたドーリーが、再びカステポーの夜へ出る。

 

 受信機などいらない。

 

 周波数は分かっている。

 

 ファティマが糸を掴んでいる。

 

 白いドーリーの残した、細い二一五MHzの電波を追って。

 

 悪党で負け犬の騎士は、また走り出した。

 

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