救済   作:名無し01

1 / 7
1話

初めて見る光景だった。

声を荒げる男性のアナウンス、激しい衝突音、甲高い女性の叫び声。

俺は今、人が死ぬ瞬間を目撃した。

 

外から聞こえる鳥のさえずりで目が覚めた。

まだ開ききらない目を擦りながら重たい身体で歩き出し聞き慣れた挨拶に気だるく返事をして席に着いた。

目の前にある朝食をよそ目にテレビに目を向けると見慣れた女性がいつものスタジオでニュースを読んでいた。

【20代の男女が死亡 N県N市】

俺の地元だった。

テロップが出るのと同時に事件の詳細をそのアナウンサーが話している。

「関係者の供述によりますと加害者の女性と被害者の男性は交際関係にあり男性の浮気が発覚したために犯行に及びその後自殺したということです。

次のニュースです。米原総理がアメリカの...」

よくあるニュースだ。自分の地元で起こった事件なので妙に興味がそそられたが毎日どこかで事件・事故により人が死んでいる。それが今日はたまたま地元だっただけのことだ。テレビ画面左上の時刻に目を向け朝食を簡単に済ませ準備をして僕は家を出た。

一歩外に出ると朝日の眩しさで思わず片手を上げ顔を覆ってしまうほどだった。

ジリジリ焼ける肌と背中に張り付くシャツを感じつつ学校に向かった。

 

教室に入ると毎日見る顔がいていつもと同じ光景だったが今日はやけに騒がしかった。

皆が口にしている事はやはり今朝のニュース。

普段から大人しい女子が怯えそれを茶化すおっちゃらけ男子、それを叱る責任感強め女子などから様々な声が飛び交った。

席に着くと声が聞こえた。

「吉野∼!お前も今朝のニュース見たか?」

声の方に顔を向けるとクラスメイトの隆がこっちを見ていた。

頷くと隆は言う。

「物騒な事件だよな∼。でも浮気できるくらいモテるのは羨ましいけど∼。」

吉川隆とは入学式で隣同士の席で仲良くなった。いつもふざけているが他人を傷付けることは無くこういう奴を表現するときによく使う「悪いやつではない」といったところだ。平凡で何の取り柄もない僕にとってムードメーカー的存在の彼は羨ましい存在だ。

隆は片手に持っていたスマホで何かを探しその画面を僕に見せてきた。

「加害者は確かに悪いけどこれはやりすぎだよな?」

そこに映っていたのはSNSアプリで晒されている加害者の顔だった。  

どこにでもいそうな知的で清楚な女性だった。

「確かに。晒しは加害者以上に悪質だよな。」

そう言うと隆はニヤリと笑みを浮かべ

「ほんとだよな。俺達はどっちにもならないようにしないとな。」 

その言葉と同時に始業のチャイムが鳴り隆は自分の席に戻っていった。 

「ガラガラ」

という音ともに担任の清水が入ってきた。

清水は教壇の前に立つと俺達に言った。

「皆が知っている通り俺達が住むこの街で事件が起きた。各自トラブルは避けて身の安全を守るように。あと来週から定期試験が始まるな。3 年生のこのテストは大学入試に大きく影響するから今まで以上に勉強するように。」

「テスト」という言葉に不服そうな生徒達をよそに清水は点呼をとり始めいつも通りの授業が始まった。

何事もなく時間は過ぎ放課後には事件のことを口にする者はほとんどいない。

 

委員会に参加する隆と別れ学校を出た。朝と同じく眩しい日差しが全身を覆いどこからか吹く風に心地よさを感じながら歩いていると前から1人の男性が近づいてくる。

その男は僕の目の前に来ると微笑みながら言った。

「おめでとうございます。」

キョトンとしている僕をよそにその男は続けるを。

「メモリーメガネのモニターに当選いたしました。」

一瞬、何が起こったのか分からなかった。

当選?メモリーメガネ?モニター?全てが理解出来なかった。

混乱した脳内を必死に押さえつけようやく男に話しかけることができた。

「あなたは何者なんですか?」

男は被っていたハットを取った。白髪が夕日に照らされて輝いている。

「ただのしがない営業マンです。」 

「当選とは何ですか?その...ナントカメガネとは?」

焦る僕をよそにその老人は微笑みながら言った。

「これはこれは失礼いたしました。私が突然話しすぎましたね。一から説明させていただきます。」

老人はそういうと右手に持っていた黒いアタッシュケースから更に小さいケースを取り出し僕に差し出してきた。

「開けてみてください。」

老人への疑心感が拭えぬまま恐る恐るケースを開けるとそこにはメガネが入っている。

一見普通のメガネにしか見えない。近所のメガネ屋が商品を押し売りするために無理矢理僕に話かけてきたのだと思った。 

老人にメガネを返してとっとと帰ろう、そう思いメガネをケースに戻した瞬間老人は言った。

「他人の記憶を見てみたいと思いませんか?このメガネはそれが可能です。」

メガネ屋ではなく宗教か何かか?無視して逃げよう。そう思った瞬間、

「このメガネをかけると"ヒーロー"になれます。」

ヒーロー-

久々に聞いた気がする。小さい頃にテレビで見た悪党を蹴散らす正義の味方。当時は自分は何者にでもなれる気がしていた。でも色々な経験をして現実を知った。自分は平凡であり何事においても1番になることはできない。

「使い方を...教えて下さい。」

自分でも何でその言葉を口にしてしまったのか分からない。

老人は表情を一切変えず答える。

「使い方は簡単です。記憶を見たい相手をレンズで捉えてメガネを触りながらその方の名前を言ってください。

そうすればあなたの脳内に相手の1番印象に残っている記憶が流れ込んできます。」

これで自分はヒーローになれる...?

数秒間が何日にも感じられた。

ふと顔を上げると老人は消えており代わりに1枚の紙が落ちていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。