玄関を開けると仕事に行く準備をしていた母と目が合った。
「どうしたの?忘れ物?」
「やっぱり体調が悪いから今日は休む。学校に電話してほしい。薬飲んで寝る」
必要最低限のことだけ伝えて部屋に入った。
鞄を放り投げベッドに倒れ込んだ。
何も考えたくない。
昨夜は副作用のせいで何度も目が覚め寝不足気味だった。
気づいたら寝てしまっていた。
スマホの音で目が覚めた。
眩しい光に目を細めながら見てみると隆からメッセージが来ていた。
【ズル休み?笑】
心ない言葉にムッとして無視しようとすると続けてメッセージが送られてくる
【吉野も見ただろ?
今学校中は本郷の件で大騒ぎだよ。
恐らくあいつは謹慎してクビだろうね】
あいつよりも速水さんが気になりさり気なく聞いてみる。
【クラスの皆に変わりは無い?】
すぐに返信が来る。
【大森が体育のサッカーでハットトリックを決めたよ】
そんなことはどうでも良い。
【あと速水さんも休んでるよ。
体罰を受けてたのが彼女だったんじゃないかって言ってる生徒もいる。ほら彼女脚にたくさん傷がついてたじゃん?】
俺の考えが甘かった。彼女には風評被害がいかないよう動画を編集したつもりだったがバレるのも時間の問題かもしれない。
焦りながら隆に聞く。
【でもあの動画では誰か分からないじゃん。
そもそも叩かれてたのが生徒だとは限らないし。脚の傷だって練習でつけたものだろうし。速水さんが休んだのだって偶然だよ】
【妙に速水さんを庇うんだね?笑】
ドキッとする。
【別に決めつけはよくないと思っただけ。】
【へえ∼(・∀・)ニヤニヤ
速水さんを狙うなら今がチャンスかもね
彼女、本郷に惚れてたらしいんだ。
その本郷がいなくなれば吉野にも春が来るんじゃない?笑】
意味が分からない。いつもふざけている隆のことだ。俺をおちょくっているのだろう。
【隣のクラスに高山っているだろ?彼、速水さんと中学が同じで3年生のときに本郷がスカウトに来て彼女の方から好意を抱いてって言うんだ。それで高校に入学してからもアプローチし続けてたらしい。】
頭が真っ白になった。
【お∼い。吉野∼?】
どう返信すれば良いか分からずスマホを閉じる。
嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。
隆が語っていたのはあくまで噂。高山とかいうやつが嘘をついてるのかもしれない。
そうだ。そうに決まってる。
暑さを感じながらも布団にくるまり自問自答を続ける。
いつの間にか眠りに落ちていたらしい。
物音で目が覚めた。
窓からは夕日が差し込む。
しばらくすると部屋のドアがノックされる。
「遥人∼?具合は大丈夫?」
ドアを開けると左手に買い物、右手に鞄を抱える母の姿があった。
「うん、もう大丈夫。」
「そう。良かった。」
その表情は疲れ切っていた。
「これから学校で緊急集会が開かれるの。私も行かなくちゃだから夕飯、適当に食べといて。」
買い物袋を俺に差し出し母は薄暗い階段を下っていった。
緊急集会、間違いなく本郷の件だ。
昼ご飯を食べず空腹だったので袋の中から弁当とお茶のペットボトルを取り出し素早くたいらげる。
エネルギーが脳に補給されていくのを感じながら速水さんの件を考えてみる。いっそ本人に聞いてみるか...。メッセージアプリを開き親指でスクロールしながら彼女のアカウントを探す。確か、1回だけ会話したことがあったはず。テスト範囲が分からずアホの隆は当てにならないし速水さんに聞いたんだっけか。あった。アカウントをタッチしてメッセージ入力欄を開く。しかしどう聞けば良いか分からない。
"本郷のこと好きだったの?"
こんなストレートに聞くわけにも行かないしなにより
"許さない"
今朝言われたことが俺の手を硬直させる。
「駄目だ。」
きっと彼女も今はパニックになっていることだから少し時間を開けて聞くことにしよう、そう思いスマホを閉じる。
気分転換に漫画を読みながら時間を潰していると玄関が開く音がした。母が帰ってきたようだ。不思議と音の規則性で分かる。
「遥人∼ちょっと降りてきて∼」
「分かった」
めんどくさそうに返事をしてしまったが母に伝わってないだろうか。
リビングに入ると椅子に座る母がいた。
俺も席に着くと母は真剣な目で俺の顔を見てくる。
「遥人も知ってると思うけど本郷先生の件で学校から呼ばれたの。」
俺が頷くと母は続ける。
「本郷先生の処分は近いうちに確定するし生徒には影響がでないよう尽力するって言ってたわ。だからあなたは明日からいつも通りの学校生活を送りなさい。」
「分かったよ」
俺が部屋に戻ろうと席を立とうとすると母が下を向いてため息をついた。
「何でよりにもよって暴力なのよ。
あの男のことを思い出しちゃったじゃない。」
俺は上げかけた腰をもう一度下ろし母に聞く。
「あの男って?」
母はハットしたような顔でこっちを見る。
「ごめんね。私ったら思わず...。遥人には関係のない話よ。ほら明日から学校に行かないとなんだから早く寝なさい。」
母は気まずそうに席を立ちリビングを出ていった。
部屋に戻っても頭のモヤモヤが消えない。
速水さんの件も解決してないのになんなんだよクソ!!!
ベッドにうつ伏せになり枕を叩く。
寝れない。
朝から夕方まで熟睡してまったので全く眠くならない。
夜風でも当たろうと窓を開けると家の前に不気味な人影がある。
帽子から服まで全て真っ黒であり不審者日本代表があったら間違いなく選出されるだろう人間だった。
泥棒?闇バイト?それともただの酔っ払い?
しばらくするとその人影は歩き出し暗闇へ消えていった。
嫌なものを見てしまい余計に目が覚めてその晩は一睡もできなかった。
仕方ないので漫画の続きを読んで朝まで時間を潰しリビングに向かう。
身体が重い。
鳥の声がうるさい。
扉を開けると母と目が合った。
「ちょっと遥人!顔色悪いけど大丈夫!?」
「大丈夫。ちょっと疲れてるだけ。」
色々なことが重なり心に疲労が溜まっているのは事実だった。
心配する母をよそに朝ごはんを食べ学校に向かう。
朝日がいつも以上に眩しくその日差しで溶けてしまいそうだった。
教室に入ると俺の席に隆が座っていた
「おはよう。ズル休みくん笑」
休暇は満喫できたかい?笑」
反射で頭にチョップを食らわす
「いった∼笑、冗談だよ笑」
隆は頭を押さえ俺の顔をマジマジと見ながら口を開く。
「それより妙な噂を聞いたんだ。
君が恋してる彼女の件でね。」
隆の煽りにカチンときてしまう。
「あくまで噂だろ!本人からは聞いてないんだろ!なら嘘かもしれないじゃないか!」
思わず声が大きくなってしまい自分でもビックリする。
周りのクラスメイトの視線を感じつつ隆の方を見る
「ごめん。熱くなった。あとそこ俺の席だから、どけよ。」
隆は黙って席を立つと自分の席に戻っていった。
ただでさえ寝不足でイライラしているのに...!
始業のチャイムが鳴り清水が入ってくる。