蒼穹の遺伝子 -昴と彗星-   作:陽@曜花推し

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時計の針は、第1回MFG-F開幕前へ――。

上有本部長が持ち込んだ『第二の劇薬』を巡り、運営本部で男たちのプライドが激突する!


今回は時間を少し巻き戻し、スペシャルスピンオフの第一弾をお届けします。


番外編①:「上有の苦悩、新たな珍獣爆誕」


舞台は、第1回MFGフレッシュマンシリーズ(MFG-F)がまさに開幕せんとする直前の運営本部。

引退を控えた『初代珍獣』沢村まりえの後継者として、上有本部長が発掘してきた謎の天然少女・星野もか。彼女の採用を巡り、現場を預かる上原マネージャーが猛反発します。

実は、上原マネージャーとまりえの間には「誰にも言えない極秘の絆」が……?

MFGという巨大エンターテインメントの舞台裏で繰り広げられる、硬派(?)なお仕事ドラマをどうぞお楽しみください!


番外編
番外編①:上有の苦悩、新たな珍獣爆誕


MFG運営本部、会議室の空気が澱んでいる。

 

机の上に置かれたコーヒーは冷めきり、窓の外には、これから幕を開ける第一回MFGフレッシュマンシリーズ(MFG-F)の喧騒を予感させるような、重苦しい空が広がっていた。

 

「……本部長。本気ですか」

 

上原マネージャーの声には、隠しきれない疲労と苛立ちが混じっていた。

 

大型モニターに映し出されているのは、オーディションにエントリーしてきた、ある少女の映像だ。ショートボブ、どこか焦点の合わない瞳、そして自己紹介でカメラを見失い、おろおろと視線を彷徨わせる彼女――星野もか。

 

上原はポケットの中で振動するスマホを気にかけながら、眉間に深い皺を刻んだ。画面には、つい先ほど届いたばかりのメッセージ通知。

 

『今日のお弁当、すき焼きだったよ。半分残しておいたからね♡ まりえ』

 

この極秘の恋人からの甘い誘惑と、目の前の「第二の災厄」候補。上原の心の中では、二つの異なる意味での「爆弾」が時限装置を動かしていた。

 

「見ての通りだ、上原くん」

 

上有史浩は、メガネを外すとデスクに置き、無骨な指で資料を叩いた。

 

「MFG-Fは、初の試みだ。16歳免許改正によって集まった若き狼たちが、箱根という公道で牙を剥く。観客は、そのヒリヒリするような死闘を求めている。だが……それだけでは足りん」

 

「……」

 

「レースという極限状態は、時に視聴者の神経を麻痺させる。そこで必要なのは、計算された『空白』だ。緊張の糸を、一瞬で弛緩させる装置。それこそが、我がMFG運営が誇る『エンジェルズ』の真骨頂ではないか」

 

上有の言葉は、熱を帯びていた。

 

彼は窓の方へと歩き出し、これから公道に設置されるはずのゲートを見つめる。

 

「かつての沢村まりえは、まさにその体現者だった。彼女が画面に映るだけで、世界中のチャット欄は平和になった。……今の彼女(まりえ)が、引退を目前にしてどれほど私や上原くんを影で支えてくれているか。それは君が一番よく知っているはずだ」

 

上原は、思わず視線をそらした。

 

(まりえと付き合っているのは俺だ……。俺だけが、彼女の本当の苦労と、その裏にある努力を知っている。だからこそ、二度とあんな『現場が地獄を見る』ような枠は勘弁してくれというのに……)

 

「本部長。彼女は……星野もかは、違います」

 

上原は、あくまで冷静を装って切り出した。

 

「まりえは、計算してやっていた。計算して、あえて『馬鹿』を演じ、その場の空気を支配していた。だが、この星野もかという子は、正真正銘の天然だ。……これは、マネジメントの範疇を超えています。放送事故の連鎖です」

 

上有はふっと笑うと、デスクに戻り、再び星野もかの映像を再生した。

 

「だからいいんじゃないか。上原くん、君はまりえという『最高の教育』を受けたんだ。彼女をコントロールできた君なら、この星野もかという『原石』を、MFGの新しい星に育て上げられるはずだ」

 

「……論理の飛躍が過ぎます」

 

「これは涼介の思想だ。MFGは進化し続けなければならない。……頼む、上原。君にしか頼めん」

 

上有の目には、冗談ではない、本気の覚悟があった。

 

上原は、胸ポケットの中のスマホをぎゅっと握りしめた。

 

(まりえとの思い出を、この『珍獣』の教育にぶつける……?)

 

「……期間は」

 

「開幕戦から、最終戦までだ。もし彼女が、まりえのような爪痕を残せなかったら、私の責任で全権を君に譲る」

 

「……っ!!」

 

それは、運営本部長としての全権限を賭けた、上有なりの「無言の激励」だった。

上原は深いため息をつくと、冷めたコーヒーを一口飲み干した。

 

「分かりました。……ただし、これだけは言っておきます。現場のマネジメントは、俺のやり方でやらせてもらう。たとえ本部長の趣味……いえ、戦略とはいえ、俺の目が黒いうちは、生配信中にすき焼き弁当を広げさせたりはしませんからね」

 

「ははは! 期待しているぞ、上原くん!」

 

上有が豪快に笑い声を上げ、会議室のドアが開く。

 

上原は一人残されると、スマホを開き、まりえからのメッセージに返信を打ち込んだ。

 

『また、面倒なのが増えたよ。……帰ったら、すき焼きの残りを食べに行く』

 

窓の外には、刻一刻と迫るMFG-F開幕戦の足音が聞こえていた。

 

誰も知らない、運営の裏側で生まれた「第二の劇薬」

 

その採用が、数日後に訪れる芦ノ湖の死闘を、どれほどカオスなものに変えてしまうのか。上原マネージャーは、まだ知る由もなかったのである。

 

(番外編① 完)

 

 




番外編①をお読みいただきありがとうございました!

権限を賭けてまで星野もかを推した上有本部長。彼の熱いエンタメ論も、バッチリ決まりました(笑)。


次回はスペシャルスピンオフ第二弾、時系列を開幕戦・芦ノ湖GT直後に戻しまして、*番外編②:「エンジェルズの楽屋裏(仮)」をお送りします!

無事に上原マネージャーの過酷なシゴキ(?)のもとでデビューを果たした星野もかも合流。そして、本編で美織に強烈な「頬へのキス祝福」を敢行した里崎まりんが、楽屋でその時の美織のピュアすぎる反応を報告して大盛り上がりする、華やかなガールズコメディ回となります。エミリさんに憧れるアンナの動向にもご注目ください!

それでは、次回の更新もどうぞお楽しみに!評価や感想などもぜひお待ちしております!
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