美織に「頬へのキス」を敢行したまりんと、新世代エンジェルズの秘密の女子会が幕を開ける!
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番外編②:「エンジェルズの楽屋裏」をお送りします。
第1回MFG-F開幕戦の表彰式を終えて、楽屋に戻ってきた彼女たちの赤裸々な本音トークが炸裂します。
新入り珍獣・星野もかも無事に(?)デビューを果たし、ハーフ美女アンナの下町全開なエミリへの憧れ、そしてリーダー黒金冴子のクールなツッコミ。
>レースの緊張感から解放された、華やかなガールズコメディをどうぞお楽しみください!
第一回MFGフレッシュマンシリーズ(MFG-F)開幕戦・芦ノ湖GT。
マクシミリアンと一ノ瀬美織による、0.012秒差という歴史的な死闘で幕を閉じた表彰式の喧騒から、わずか数十分後。
小田原の特設パドック裏に用意された、MFGエンジェルズ専用の控室(楽屋)は、表彰台の上とはまた異なる熱気と香水の香りに包まれていた。
「――あははは! ねエ、みんな見た!? あの時の24号車の子の顔!!」
パイプ椅子にドカッと座り、衣装のタイトなボトムスのまま足を組んで大笑いしているのは、現役女子高生エンジェルズの里崎まりんである。
手にした冷たいペットボトルの炭酸水を喉に流し込みながら、彼女はまだ興奮が収まらないといった様子で身を乗り出した。
「上原マネージャーから『トップ3が全員10代でウブだから、ステージに上がってハプニングを作ってこい!』って急にインカムで指示された時はどうしようかと思ったけどさ。2位に入った一ノ瀬美織ちゃん……あの金髪ロングの可愛い子に、おめでとうー!って頬っぺたにチュッてした瞬間、マジで漫画みたいに顔が真っ赤になってフリーズしちゃったんだから!!」
まりんは自分の頬を人差し指で突きながら、ケラケラと笑い転げる。
「152cmでちっちゃくてさあ、あんなにウブでピュアなのに、レース中は時速200キロオーバーで『溝落とし』とかいう頭おかしい(褒め言葉)走りやってたなんて、信じられないよねー。ギャップ萌えってやつ? チャット欄も『美織ちゃんがゆでダコになったwww』って大爆発だったし、大成功じゃん!」
「まりん、はしゃぎすぎ。声が外に聞こえるわよ」
手際よく机の上のメイク道具を片付けながら、冷徹なトーンで窘めたのは、新エンジェルズのリーダー、黒金冴子である。
172cmの抜群のスタイルに、艶やかな黒髪ストレートロング。クールビューティーを絵に描いたような彼女は、まりんの奔放さに小さくため息をついた。
「上原マネージャーの独断の指示とはいえ、生配信の進行スケジュールを一分近く狂わせたのは事実よ。今回は演出として処理されたからいいものの、一歩間違えれば放送事故だったわ」
「えー、冴子お姉様は固いなあ。でも、その上原マネージャー、表彰式が終わった後に裏で『まりん、今回はグッジョブだ。……でも、あんまり派手なアドリブは連発するなよ。まりえの二の舞だけは、俺の胃が本当にもたないんだ……』って、なんかすごい遠い目をしてボソッと言ってきたんだよね。あれ何だったんだろ?」
まりんが不思議そうに首を傾げる。
その言葉に、楽屋の隅で衣装の片付けをしていたスタッフが一瞬だけビクリと肩を揺らしたが、エンジェルズの少女たちは誰も、上原マネージャーがプライベートでその『初代珍獣(まりえ)』の扱いにどれほど手を焼いているか(そして溺愛しているか)という極秘の理由に気づくことはなかった。
「そんなことよりさあ……!」
姿見の鏡の前で、175cmの圧倒的なプロポーションを誇る金髪ハーフの美女、アンナ・クレメンツが、胸元の衣装をパタパタと仰ぎながら割り込んできた。
ビジュアルだけを見れば、ヨーロッパの名門チームのグリッドガールそのものだが、口を開けば完全な東京の下町育ちである。
「アタシはさあ、表彰台のまりんのハプニングよりも、コントロールルームから冷徹なト静かな声で指示飛ばしてた、あの統括アドバイザーのエミリ・一ノ瀬さんよ! 遠くから双眼鏡でチラッと見えたんだけどさ、美織ちゃんがキスされてパニくってる時も、眉ひとつ動かさずに『進行を戻しなさい』って……。エミリさん、マジで超カッケー……。アタシ、完全に惚れちゃったかも」
アンナは、うっとりとした表情で両手を頬に当てた。
「元ラリードライバーでさあ、北欧の凍結路をドリフトでカッ飛んでたんでしょ? それでいてあの凛とした日本語。あんな大人のオンナに、アタシもなりてえわ……」
「アンナ、憧れるのは勝手だけど、一ノ瀬アドバイザーは美織選手の実のお母様よ。身内に対してあそこまで冷徹にジャッジできるのは、プロとしての覚悟が違うの。あんたみたいに『マジ超カッケー』なんて軽いノリで近づいたら、一瞬で凍りつかされるわよ」
冴子の鋭いツッコミに、アンナは「ちぇっ、分かってるよぅ」と唇を尖らせた。
「――あのぅ、みなさん……。もか、お着替えが終わったんですけど……これ、どうすればいいですかぁ……?」
その時、楽屋のフィッティングスペースのカーテンが、おずおずと開いた。
そこに立っていたのは、今回のMFG-Fで奇跡の「天然・癒やし枠」として滑り込みデビューを果たした、二代目珍獣こと星野もかであった。
153cmの小柄な体型。ショートボブの髪の下で、相変わらず目が泳いでいる。
彼女は、脱いだエンジェルズの衣装を、なぜか綺麗に畳むのではなく、風呂敷のように丸めて両手で大事そうに抱えていた。
「もかちゃん! お疲れ様ー! デビュー戦、どうだった?」
まりんが笑顔で駆け寄る。
もかは、まりんの顔を見ると、ホッとしたように「ふえぇ……」と情けない声を漏らした。
「すっごく怖かったですぅ……。クルマの音が、お腹の底までドンドン響いて……。それに、上原マネージャーが、レース中ずっともかの後ろにピッタリ張り付いてて、『星野、カメラはあっちだ』『星野、今すき焼きのこと考えただろ、顔に出てるぞ』って、ずっと怒るんですぅ……。もか、すき焼きじゃなくて、オムライスのこと考えてたのに……」
「ぶっ!!」
アンナが思わず吹き出した。
「何それ、上原マネージャーのシゴキ、的確すぎるんだけど! っていうか、本番中にオムライスのこと考えてたの!? もかちゃん、あんたやっぱり大物だわ!」
「違いますぅ、真面目にやってましたぁ……。でも、一ノ瀬美織ちゃんがゴールした瞬間、もかも感動して、がんばれーって手を振ったら、上原マネージャーに『よし、星野、今のタイミングの笑顔はいい。チャット欄が少し和らいだ』って、初めてちょっとだけ褒めてもらえました……。えへへ……」
もかは、丸めた衣装を抱えたまま、嬉しそうにキョトンとした笑顔を浮かべた。
その濁りのない天然の癒やしオーラに、クールな黒金冴子すらも、思わず毒気を抜かれたように表情を緩めてしまう。
「……ハァ。上原マネージャーが胃薬をがぶ飲みしながらあんたに張り付いていた理由はこれね。確かに、あのバチバチのドッグファイトの合間に、あんたのその緊張感のない顔が1秒映るだけで、観客の頭がリセットされるのは分かる気がするわ。上有本部長が言っていた『不確定要素の劇薬』って、こういうことなのね……」
冴子はぽつりと呟き、時計に目をやった。
「さあ、お喋りはそこまで。今日の撤収作業を終わらせるわよ。次戦はあの、トリッキーで舗装が荒いテクニカルコース、長尾チャレンジカップよ。今回以上の大混戦になるのは間違いないわ。私たちエンジェルズも、新世代の男たちの走りに負けないように、華やかに、完璧に現場をコントロールするわよ」
「はーい!」と元気よく答えるまりんとアンナ。
そして、「ながお……? 長い尾っぽの怪獣さんですかぁ……?」と、やっぱり一人だけ完全にピントのズレた質問をしてアンナにヘッドロックを極められている星野もか。
過酷な公道レースの裏側。
若き狼たちが0.012秒の火花を散らすそのすぐ傍らで、彼女たちMFGエンジェルズもまた、それぞれの情熱と、少しのハプニングを抱えながら、華やかに、そして泥臭く、次なる戦いの舞台へと向けて動き出しているのであった。
(番外編② 完)
番外編②をお読みいただきありがとうございました!
今回は、開幕戦・芦ノ湖GTの興奮冷めやらぬポディウム(表彰台)の裏側を描いた、エンジェルズたちのスペシャルスピンオフ第二弾をお届けしました。
本編のあの超緊張感あふれるレースの裏で、里崎まりんが「美織ちゃんがゆでダコみたいに真っ赤になってフリーズした!」と大はしゃぎしているギャップ、しげの作品の楽屋裏っぽさが出ていて楽しんでいただければ幸いです。
ハーフ美女アンナの下町全開なエミリさんへのガチ憧れや、星野もかの「上原マネージャーにオムライス脳を見抜かれる」という怒涛の天然っぷりなど、エンジェルズたちの華やかな空気感を楽しんでいただければ幸いです。