「エルフじゃん。超かわいいッ」
そう言ってガロは歩みを寄せた
「ねえねえ、お姉さん!俺の彼女になってくれる?」
エルフの前に立ちお願いのポーズをするガロは頰を赤らめた
銀髪に金眼のエルフ
なにより、好みにドンピシャだった
「...」
ガロには構わずそのエルフは歩みを進める
視線すらも送ることなく。
ガロは立ち止まってしまった
「ちぇ、無視かよ...」
ガロは足元の小石を蹴った
「ちぇ、無視かよ…」
ガロは足元の小石を蹴った。
コロコロと転がった小石は、石畳の上で跳ねる。
「まあ、あんだけ美人だしなぁ」
頭を掻きながら苦笑する。
いつもならもう少し食い下がるところだが、あのエルフの纏う空気は妙だった。
冷たいわけじゃない。
ただ、誰も寄せ付けない壁のようなものを感じた。
「ん?」
その時だった。
通りの先を歩いていたエルフが不意に立ち止まる。
同時にガロの鼻がひくりと動いた。
獣人の鋭い嗅覚。
風に乗って流れてきた臭いに、ガロの顔つきが変わる。
「血の臭い?」
次の瞬間。
建物の隙間から黒い影が飛び出した。
「ギャアアアアッ!」
獣とも人ともつかない異形。
鋭い牙を剥き出しにして、近くにいた商人へ襲いかかる。
「うわぁぁぁっ!?」
悲鳴が上がった。
人々が逃げ惑う。
だがガロは反射的に地面を蹴っていた。
「危ねぇ!」
商人を突き飛ばし、その前へ割り込む。
異形の爪が振り下ろされる。
ガキンッ!
ガロは腕で受けた。
袖が裂ける。
その下から覗いた腕には、灰色の獣毛が生えていた。
「ったく、昼飯前に面倒だな!」
牙を見せて笑う。
金色の瞳が獣のように細くなった。
異形が唸り声を上げる。
ガロも負けじと唸り返した。
まるで野獣同士の威嚇だった。
その様子を少し離れた場所から、エルフが静かに見ている。
「……狼族」
初めて彼女が呟く。
その声には警戒が混じっていた。
だが次の瞬間。
ガロは逃げ遅れた子供の姿に気付く。
「おい! そこ危ねぇぞ!」
異形ではなく、真っ先に子供の方へ駆け出した。
背中が無防備になる。
異形の爪が迫る。
普通なら避けるはずの一撃だった。
「馬鹿……!」
エルフの眉がわずかに動く。
だが。
ガロは子供を抱き上げると、そのまま振り向きもせず叫んだ。
「そこの美人エルフ! 助けてくれ!」
あまりにも遠慮のない声だった。
一瞬の沈黙。
そして。
エルフは小さくため息を吐いた。
「……見捨てるわけにいかない、か」
銀の剣が鞘から抜かれる。
月光のような刃が、静かに煌めいた
次の瞬間。
エルフの姿が掻き消える。
「――え?」
ガロが目を見開いた。
気付いた時には、異形の背後に立っている。
一閃。
音すら置き去りにした剣筋が走った。
異形の身体が硬直する。
そして、
ズルリ――
上半身と下半身が滑るようにずれ落ちた。
「ギャアア――」
断末魔すら最後まで続かない。
異形は黒い煙となって消滅した。
静寂。
逃げ惑っていた人々も、呆然とその光景を見つめている。
「すっげぇ……」
ガロは素直に感嘆した。
子供を抱えたまま。
ただただ目を輝かせる。
エルフは剣を振って血を払い、静かに鞘へ収めた。
「怪我は」
彼女が子供へ視線を向ける。
「へ?」
「怪我はないの?」
「あ、ねぇ!」
子供は慌てて首を振った。
それを確認すると、エルフは小さく息を吐く。
そして再び歩き出そうとして――
「結婚してくれ!」
「……」
ぴたりと足が止まった。
周囲の空気も止まった。
商人も。
子供も。
野次馬たちも。
全員がガロを見た。
「お前今なんて言った?」
商人が思わず聞き返す。
「だから結婚してくれって」
「助けられた直後に!?」
ガロは真顔だった。
むしろ何がおかしいのか分かっていない顔である。
エルフは額を押さえた。
長い人生の中でも、こんな男に会った記憶はない。
「断る」
「即答!?」
「当たり前でしょう」
「じゃあ彼女でいい!」
「よくない」
「友達!」
「嫌」
「飯だけでも!」
「嫌」
「名前だけ!」
「……」
ガロの目が期待に輝く。
エルフは数秒黙った。
本来なら無視して立ち去るところだ。
だが。
先程の光景が脳裏をよぎる。
危険を顧みず子供を助けた狼族。
あまりにも馬鹿で。
あまりにも真っ直ぐだった。
「……リシア」
「え?」
「私の名前」
ガロの耳がぴくりと立つ。
「マジ!?」
「それ以上は教えない」
「リシアか!」
ガロは満面の笑みを浮かべた。
「よろしくな、リシア!」
その笑顔を見て。
リシアは少しだけ後悔した。
――名前なんて教えるんじゃなかった。
そんな気がした。