「――やはりまったく見えないな」
ここは居間。
話し合いを終えた後の話だ。
父さんの目の前に、僕は魔力を集めた手を見せている。
ちなみに姉さんには経過を報告しているので、驚きはない。
「かなり光ってるから、これで見えないなら、どうやっても見えないかも」
「ふむ。マリーは見えるんだな?」
「ええ、見えるわ。右手に光が集まってる状態。
でも、シオンと見え方は違うかもしれないけれど。
ねえ、集魔状態の時の魔力に触ってみてもいい?」
僕は逡巡した。
ゴブリンを倒したのはこの魔力だ。
もしもマリーが触って、同じようなことになったら、大変だ。
しかし帯魔状態では温かい程度の熱しか考えないのならば、魔力放出量を抑えれば大丈夫かもしれない。
「ちょっと待って、もうちょっと魔力を抑えるから……はい、これなら大丈夫だと思う。
熱かったらすぐに手を放してよ?」
「わかってるわよ」
魔力量を抑えると、光量も少なくなる。
その状態で、マリーは僕の手を触った。
「ちょっと熱いけど、火傷するくらいじゃないわね。
このまま魔力が増えると、ゴブリンみたいになるのかしら」
「恐らくそうなるんじゃないかな。でもあれは、魔力反応がある対象にしか起きない現象だと思う。
だから父さんが触っても問題ないみたい。だけど相手に魔力があると、危険みたい」
「……あたしもああなっちゃうってことね」
「多分、だけどね。まだわからないことだらけだから、断言はできないけど」
「しかし、そういうことなら、魔物相手ならば効果があるということだな?」
「うーん、それも一概には言えないかも。ゴブリンが魔力を持っていただけかもしれないし。
あのゴブリンだけが持っていたものかも。
人間だって魔力を持っている人と持ってない人がいるわけだし」
「つまり誰にでも有効なわけではないんだな」
なるほどと、何度も頷く父さん。
僕とマリーは目線を合わせた。
互いに抱いた疑問を同じようだ。
「あ、あのさ、父さん、さっきの話の後なのに、順応するの早いよね」
「うん? 信じたからには、何かあるごとに疑ってはきりがないからな。
これからは手伝うこともあるだろうし、きちんと知っておきたい。
私には見えないし、感じられないが、その内、認識できるようになるかもしれないだろう?
それに子供が興味のあることに関心を持たない親などいない」
いや、それは違うと思うけれど。
あなたが子煩悩なだけだと思うよ?
言わないけど。
でも僕としては、ここまで興味を持ってくれるのは嬉しい。
僕、父さんのこういう考え方、好きだな。
「しかし、もし魔力の反応、だったか、それがあるのなら安易に放出すると危険だな」
「うん、もちろん、注意するよ。誰かを傷つけたいわけじゃないから」
「うむ。ならいい。それで今のところ、できるのはここまでなのか?」
「残念ながら、でもちょっと試したいことがあるんだ。
ちょっと火を起こしたいんだけど」
「ならば井戸の近くで火を起こすか。すぐに消せるからな」
父さんと二人して話し、外に向かう途中で、僕はマリーの様子に気づいた。
明らかに不服そうだ。
「どうかしたの、姉さん?」
「べっつにぃ。何でもないわよぉ。
今まであたしと二人でやってきたのに、父さんと話してることに怒ったりなんかしないんだから!
なんかあたしと話してる時よりもわかり合ってる気がして、腹が立ったりもしてないから!」
そうか、そういうことか。
でもしょうがない部分もあるかもしれない。
こういうのは、何というか浪漫を感じるものなのだ。
男同士でないとわからないこともあるのだ。
父さんは魔法を危険だと言っていた。
でもやっぱりそういう非現実的なことに思いを馳せることもあるのだろう。
それが男の子ってものだ。
差別ではなく区別。
女性にもわかるだろうけど、やっぱり同性だからこそわかる部分もあるだろう。
逆に、僕は女性のことがわからないし。
「シオン! 行かないのか?」
父さんが中庭から叫んだ。
なんであなたの方がちょっとウキウキしているんですかね。
まあ、僕も内心ではドキドキしているから、何も言えないけれど。
「い、今行くよ! ほら、姉さん、行こう?」
「むぅ、行くわよ。もう!」
外に出ると、すでに父さんが薪を組んでいた。
焚火の準備は万端のようだ。
中庭の隅に井戸がある。
そこに移動すると、父さんが言った。
「さあ、火をつけるぞ。いいのか?」
手に火打石を手にして、目を輝かせたりなんかしている。
なんか可愛いなこの人。
僕の父さんだけど。
「うん、お願い」
何度か火打石を叩くと、火花が散り、火が灯った。
そのまま、ふーふーと息を吹きかけると、煌々と火が上る。
さすがに手馴れている。
僕はこんな風にはできない。
「ありがと、父さん。じゃあ、ちょっと離れてて」
二人は離れて動向を見守る。
僕は、焚火の前で膝を曲げると、集魔する。
右手に集まった魔力をそのままに、火に光を触れさせた。
瞬間。
手に火が燃え移った。
一瞬の出来事だった。
手には触れていない。魔力にしか炎は触れていない。
なのに、ガソリンに触れたかのように一気に火が移ってきた。
手首から先には、青い焔が燃えていた。
熱い。熱いし、あまりのことにパニックになった。
「燃えてるぅううううううぅうーーっ!!!」
「シオン!」
「な、何してるのよ!?」
父さんが咄嗟に、桶に入っていた水を手にかけてくれた。
幸いにも一度で火は消え、残ったのは焦げ臭いニオイだけだった。
思ったよりは被害が少なかった。
自分の魔力に移った火だったからか、火傷は負っていなかった。
でもかなり熱かったけど。
「あ、危なかった……ありがとう、父さん」
「まったく、危ないだろう! 嫌な予感がしたから、桶に水を入れておいたが」
「い、いやほんと、面目ない。本当にありがとう」
仕方ない奴だとばかりに嘆息する父さんとマリー。
僕もさすがにこれには反省した。
でも、さすがにいきなり燃え移るとは思わなかったのだ。
「それで、今のはなんだったの? 突然、手に火が移ったように見えたけれど」
「それなんだけど、魔力って他者の魔力に反応するでしょ?
それは魔力だけなのかなって疑問はあったんだ。
それで二つ考えてたことがあって。
一つは魔力を持っている相手に対して、高魔力を接触させるとどうなるか。
これはゴブリン相手で結果は出た。
そしてもう一つ、何かしらの現象に触れさせるとどうなるか、これが見たかったんだ。
結果はさっきの通り。反応があった。赤い炎は青くなったし、明らかに魔力に燃え移った。
これは間違いなく、魔力に触れたから起きた現象だと思う」
「なるほど……魔力は火のような現象に触れさせると何かしらの反応を起こすということか。
もしかしたら他にも?」
「多分ね。だからこれから色々と試すことなると思う。ただ、あまり種類は多くないかな。
とりあえずは、火の研究をしたいと思う。予想とは違ったけど、間違いなく魔力に反応したしね」
「実際、目にしたからな。信じるしかあるまい。シオンの言葉は真実だったな」
父さんは嬉しそうにうなずいた。
僕も嬉しくなって、笑顔を浮かべる。
「やっぱり、二人してわかりあってる。あたし、全然わかんないのに……」
「ほ、ほら、姉さんには姉さんの得意なことがあるから!
それに今まですごい助けられたし、姉さんがいたから魔力の存在がわかったわけだから!」
「そ、そう? そうよね。うふふ、そう! あたしがいたからよね!?」
「そうだよ!」
すぐに機嫌を直した、チョロイ姉である。
そこが可愛いんだけど。
しかし火に触れた魔力の過剰な反応。
そして、その結果を考えると、僕は瞬間的に閃く。
あれ、これって魔法みたいじゃない?
何もない場所から生み出したわけじゃないけど、手のひらに放出した魔力に火が灯った。
それはつまり火属性の魔法みたいなものなのでは。
ファイアボールを出す未来も、遠くないのかも。
「うへ、うへへっ、ファイアボール撃てるぅ、うっへへへっへっへ」
「シ、シオンが気持ち悪い顔をしているぞ!? どういうことだマリー!?」
「あ、ああ、シオンって魔法で、何か進展があるとあの顔するのよ。
気にしたらダメよ、お父様」
「そ、そうか。息子の新たな一面を発見してしまったな。
喜ぶべきか、悲しむべきか、悩むなこれは……」
そんな二人のやり取りを気にすることなく、僕はただ魔法が使えるという未来に思いを馳せ続けた。
魔法。
それが現実味を帯びてきたのかもしれない。
嬉しくて嬉しくてしょうがなく、小躍りしそうなくらいだった。
本当に転生できてよかった。
大変なこともあるけれど、報われることもある。
僕は、そんな世界を好きになり始めていた。